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第六章
執 着 9 リリアーナ、また攫われる?
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朝起きると、日差しが少し柔らかくなっているのに気付いた。秋が近付いているようだ。ベッドの上で朝食を取り、ドレスに着替え、先生に付いてリュートの練習をする。
午後からは時間が空いているので、城の敷地内を散策する事にする。本当は毎日でも公務に出向きたいのだが、倒れた後にアレクセイ兄様によって削られてしまった。公務に出ている間だけ、カイトの事を忘れられるし、罪が清められてる感じがするのに。
今日は敷地の端の南東のほうへ行ってみよう。そこだけ切り立った崖になっているのだが、リーフシュタインの町と、エルナウ川が見渡せてとても美しいのだ。途中、何人かの男性騎士に出会う。皆、感じ良く挨拶をしてくれた。以前に比べたら随分慣れたと思う。
今日はエヴァンとアビゲイルが一緒についてきてくれている。崖の辺りは城からも遠いので、警備も薄く万が一何かあった時のためだ。最近は男性騎士にも慣れるために、男女で警備してもらっている。近くでついてもらうのは難しいので、エヴァンは少し離れている。
まだ夏草が生い茂った小道を行くと、崖に近付くにつれ雄大な景色が広がった。
「いつきても素敵――」
崖のすぐ下から町までは、ブドウ畑と野原と森が混在する。町の向こうは日に煌 (きら) めくエルナウ川。心を奪われる光景だ。
「そこで止まれ!!」
エヴァンの大きい声がした。リリアーナが振り返ると、洒落た格好をした男性が、大型の犬を二匹連れてやってきた。犬はリード (引き紐) をつけていない。
エヴァンとビアンカが剣を抜いて構える。犬が唸るような低めの声を出してきた。
「待て」
男が言うと、犬達がおとなしくなった。
「ビアンカ!! すぐに誰か呼んできてくれ! この犬は多分人を襲うように訓練されている。俺達二人では敵わないかもしれない」
「よく、見抜いたね」
「最近、犬を警護に使うのが流行っているからな。不法侵入してまで連れてくる犬は、そうだとしか思えない」
ビアンカが走り始めた。
犬が、一瞬その方向を見たが、飼い主が命令を下さないのでそのままでいる。
「放っておけ。帰ってくる前に事は済む。さあリリアーナ様、一緒に参りましょう」
「貴方は誰?」
全然見た事の無い顔だ。
「ああ、私としたことが自己紹介が遅れました。名前をバスティアンと申します。依然貴方を攫うようにダムットに依頼しました(第一章4話 攫われた姫様)」
リリアーナが顔色を変えた。
「その男は自殺したはずじゃ・・・」
「似た男に身代わりになってもらいました。屋敷を探しても金が見つからなかったでしょう? 私が持って逃げたからです。身代わりが死んでいるお陰で借金からも逃れられて、今も優雅に暮らせております。だからこうして貴方様を迎えにこれた。さあ、すぐ参りましょう。他の騎士が駆けつける前に・・・まあ、駆けつけても、私の可愛い犬達に勝てる者はいないでしょう。黒い騎士だけが心配でしたが、今はもうお辞めになったそうで」
情報が錯綜 (さくそう) しているようだ。リリアーナ付きの騎士は辞めたが、まだ騎士として城にいるのに。
エヴァンはリリアーナの前に立ちふさがった。小声でリリアーナに言う。
「リリアーナ様、私が食い止めている間にお逃げください。あいつはリリアーナ様には危害を加えない筈です。犬に噛まれる事もないでしょう」
「聞こえてますよ。確かに私はリリアーナ様には犬をけしかけない。でもね・・・行け!!」
エヴァンを指差して号令を出す。
二匹の犬が同時にエヴァンに襲い掛かる。エヴァンが犬を目掛けて剣を振り下ろした。それを易々と避け、右腕に噛み付かれた。
「くそ!!」エヴァンが犬を引き剥がそうとするが、牙が食い込んで離れない。もう一匹は足に噛み付いている。
「やめて!!」
「待て!」
二匹とも、おとなしく離れた。
「私が行けば、これ以上犬をけしかけませんか?」
「リリアーナ様!! 駄目です!」
エヴァンが痛みに呻きながら叫んでいる。
「もちろん、貴方が来てくれるなら」
「一緒に参ります・・・」
「いて! もっと優しくしてくれよ」
「お前さんにはこれ位して当然じゃ! 馬鹿者めが!」
じいやが両手に包帯をぐるぐる巻き始めた。
「そんなに巻いたら、何もできないよ・・・」
「イフリートに言われておるわ。今日は休みで、空手も禁止されているお前さんが、もし傷の手当てを受けに来たら動けないようにしてくれ、と」
「ちょっと練習しただけじゃないか」
「この傷がちょっとの練習か? そうは思えんがの」
手首から先は出ているが、腕の辺りがぐるぐる巻きである。
「会いたい時には会えないものじゃ」
「え・・・?」
「大事な人がいつまでも元気で、会うことができるとは限らん`後悔先に立たず ‘ と言うじゃろう」
「俺が傍にいないほうがリリアーナ様の為にはいいんだ」
じいやがカイトの頭を殴った
「この馬鹿もんが!」
「じいや! すぐに来て!! 怪我人が出そうなの!」
ビアンカが血相を変えて入ってきた。
「カイト!! 貴方もここにいたの!? お願い来て! 途中で会った人達には声を掛けたんだけど!」
ビアンカの説明でカイトがすぐに立ち上がった。
「待て、カイト」
「まさか止める気か!?」
「いや、左の包帯をもっと厚く巻く。それから・・・」
じいやの説明に頷いた。
午後からは時間が空いているので、城の敷地内を散策する事にする。本当は毎日でも公務に出向きたいのだが、倒れた後にアレクセイ兄様によって削られてしまった。公務に出ている間だけ、カイトの事を忘れられるし、罪が清められてる感じがするのに。
今日は敷地の端の南東のほうへ行ってみよう。そこだけ切り立った崖になっているのだが、リーフシュタインの町と、エルナウ川が見渡せてとても美しいのだ。途中、何人かの男性騎士に出会う。皆、感じ良く挨拶をしてくれた。以前に比べたら随分慣れたと思う。
今日はエヴァンとアビゲイルが一緒についてきてくれている。崖の辺りは城からも遠いので、警備も薄く万が一何かあった時のためだ。最近は男性騎士にも慣れるために、男女で警備してもらっている。近くでついてもらうのは難しいので、エヴァンは少し離れている。
まだ夏草が生い茂った小道を行くと、崖に近付くにつれ雄大な景色が広がった。
「いつきても素敵――」
崖のすぐ下から町までは、ブドウ畑と野原と森が混在する。町の向こうは日に煌 (きら) めくエルナウ川。心を奪われる光景だ。
「そこで止まれ!!」
エヴァンの大きい声がした。リリアーナが振り返ると、洒落た格好をした男性が、大型の犬を二匹連れてやってきた。犬はリード (引き紐) をつけていない。
エヴァンとビアンカが剣を抜いて構える。犬が唸るような低めの声を出してきた。
「待て」
男が言うと、犬達がおとなしくなった。
「ビアンカ!! すぐに誰か呼んできてくれ! この犬は多分人を襲うように訓練されている。俺達二人では敵わないかもしれない」
「よく、見抜いたね」
「最近、犬を警護に使うのが流行っているからな。不法侵入してまで連れてくる犬は、そうだとしか思えない」
ビアンカが走り始めた。
犬が、一瞬その方向を見たが、飼い主が命令を下さないのでそのままでいる。
「放っておけ。帰ってくる前に事は済む。さあリリアーナ様、一緒に参りましょう」
「貴方は誰?」
全然見た事の無い顔だ。
「ああ、私としたことが自己紹介が遅れました。名前をバスティアンと申します。依然貴方を攫うようにダムットに依頼しました(第一章4話 攫われた姫様)」
リリアーナが顔色を変えた。
「その男は自殺したはずじゃ・・・」
「似た男に身代わりになってもらいました。屋敷を探しても金が見つからなかったでしょう? 私が持って逃げたからです。身代わりが死んでいるお陰で借金からも逃れられて、今も優雅に暮らせております。だからこうして貴方様を迎えにこれた。さあ、すぐ参りましょう。他の騎士が駆けつける前に・・・まあ、駆けつけても、私の可愛い犬達に勝てる者はいないでしょう。黒い騎士だけが心配でしたが、今はもうお辞めになったそうで」
情報が錯綜 (さくそう) しているようだ。リリアーナ付きの騎士は辞めたが、まだ騎士として城にいるのに。
エヴァンはリリアーナの前に立ちふさがった。小声でリリアーナに言う。
「リリアーナ様、私が食い止めている間にお逃げください。あいつはリリアーナ様には危害を加えない筈です。犬に噛まれる事もないでしょう」
「聞こえてますよ。確かに私はリリアーナ様には犬をけしかけない。でもね・・・行け!!」
エヴァンを指差して号令を出す。
二匹の犬が同時にエヴァンに襲い掛かる。エヴァンが犬を目掛けて剣を振り下ろした。それを易々と避け、右腕に噛み付かれた。
「くそ!!」エヴァンが犬を引き剥がそうとするが、牙が食い込んで離れない。もう一匹は足に噛み付いている。
「やめて!!」
「待て!」
二匹とも、おとなしく離れた。
「私が行けば、これ以上犬をけしかけませんか?」
「リリアーナ様!! 駄目です!」
エヴァンが痛みに呻きながら叫んでいる。
「もちろん、貴方が来てくれるなら」
「一緒に参ります・・・」
「いて! もっと優しくしてくれよ」
「お前さんにはこれ位して当然じゃ! 馬鹿者めが!」
じいやが両手に包帯をぐるぐる巻き始めた。
「そんなに巻いたら、何もできないよ・・・」
「イフリートに言われておるわ。今日は休みで、空手も禁止されているお前さんが、もし傷の手当てを受けに来たら動けないようにしてくれ、と」
「ちょっと練習しただけじゃないか」
「この傷がちょっとの練習か? そうは思えんがの」
手首から先は出ているが、腕の辺りがぐるぐる巻きである。
「会いたい時には会えないものじゃ」
「え・・・?」
「大事な人がいつまでも元気で、会うことができるとは限らん`後悔先に立たず ‘ と言うじゃろう」
「俺が傍にいないほうがリリアーナ様の為にはいいんだ」
じいやがカイトの頭を殴った
「この馬鹿もんが!」
「じいや! すぐに来て!! 怪我人が出そうなの!」
ビアンカが血相を変えて入ってきた。
「カイト!! 貴方もここにいたの!? お願い来て! 途中で会った人達には声を掛けたんだけど!」
ビアンカの説明でカイトがすぐに立ち上がった。
「待て、カイト」
「まさか止める気か!?」
「いや、左の包帯をもっと厚く巻く。それから・・・」
じいやの説明に頷いた。
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