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第七章
じーちゃんとドラゴンと 8 残るか、戻るか
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「ドラゴン! カエレス! いるんだろう!? 出てきてくれ!」
「お前は・・・神を呼び捨てにするのか・・・」
カエレスが平原の中に現れた。カイトは近付くと、怒りに任せて口を開いた。
「何故リリアーナ様に今回の事を話した! 必要なかっただろう!?」
「わしがわざわざ伝えた訳じゃないぞ。あの娘は勘が鋭くてな、あの娘の意識が形になってわしの所に現れたんだ」
「リリアーナ様の意識だけ・・・」
「そうだ。最初は人間の娘がいるから驚いたがな。美しいし、生贄かと思ったわ・・・昔はよく供物として供えられたもんだ。もちろん食べはしなかったが・・・」
「それで、リリアーナ様は!?」
「神の話は最後まで聞け! お前、今回成長したと思ったのに・・・まあ、いいわ。リリアーナはお前が今どこにいるか聞いてきたから、隠す事もないし、隠したら益々心配しそうだし、ありのままを話したのだ。お前が七日後にどちらかを選ばなければいけない事もな」
「俺はこちらに戻ると、異界での・・・リリアーナ様の記憶はなくなってしまうのか?」
「当然だ。経験してない事になるからな。あの娘がその事に気付きおって、質問してきたからその通りだと答えておいた。異界に戻ったら今までの記憶は全て残る事もその時に伝えた」
「余計な事を・・・」
「今、思いっきり聞こえたぞ」
「7日を待たずに今すぐ戻りたいんだ」
「それは無理だ。7日で呪文は発動しているし、こちらの世界にはこちらの神がいて、その神との兼ね合いもある。それに今日も含めてあと3日、あの娘の言った事を考えてみるのも悪くないぞ。こちらに残れば異界の記憶は残らないのだ。全然苦しまなくて済むぞ。両親も悲しまないし、お前が前に望んでいた事だろう?」
カイトは握っていた手のひらを開いた。その上にはあの指輪がのっている。
「おお、その指輪か。あの娘に聞かれたから、それ位の質量なら、わしの力でこの世界に残せると答えたんだ」
「『私の覚悟』と言っていた・・・指輪を返されたという事は、婚約破棄と、ルドルフとの結婚も本気だと思う」
「それだけではないと思うぞ」
「え・・・?」
「お前、普段は冴えてるのに、この娘の事になると本当に駄目だな。例えお前が自分の事を忘れても、持っていて欲しかったんだろう。いじらしい女心じゃないか」
カイトは指輪を握り締めた。
「・・・あと3日。そういえば・・・リリアアーナ様は4日と言っていた気がするが・・・」
「まあ、3日も4日もそう変わらないわ。よく考えて答えを出せ。今日は土曜日・・・次に会うのは月曜日の夜の七時だ。お前があの事故にあって丁度一週間後になる」
「上杉君! 水を持ってきたわ!」
鈴浦教授が水を持って入ってきた。いつの間にかあの控え室のソファに座っている。救急車を呼ぶのは取り止めてくれたようだ。水を飲んで、もう大丈夫な事を告げ最後の、あのリリアーナ様の絵のある場所に戻ってみた。不思議な事に絵はそのままだった。哀しみのリリアーナ、説明文も訳して仕事が終わった。
リリアーナ様は俺が思い出す為に作った幻だと言っていたが、これは違うのか? でも、この絵に自分が関わっているのは見ていて分かる。思い出す為に俺が引き寄せたという事か? 異界で描かれたであろうこの絵が、何故この世界に現れたのだろう?
「上杉君、この絵が気に入ったみたいね」
「はい、美しい少女ですね・・・哀しそうなのが気になります」
「そうね、恋人は亡くなってしまったのかしら? この哀しげな瞳・・・きっと心の底から愛していたのね・・・ああ、これを渡しにきたのよ! 今日のバイト代、本当にありがとう。助かったわ」
鈴浦教授がバイト代をはずんでくれたお陰で、上野のアメ横で美味しそうな肉と食材を大量に買えた。日頃鍛えている俺でも、全部持って帰るのに苦労した。
次の日は庭でバーベキューをした。勝也や、翔君、他にも親しくて気の置けないやつを呼んでのパーティーだ。心から楽しいと思う。戻らなければ、こいつらとも付き合っていけるし、両親とも一緒にいられる。生命の危険もない平和な世界だ。
そして次の日、最終日。大学に行き、講義を受ける。空手道部は休ませて貰った。コーチに身体の調子が悪い旨を伝えると、普段休まない俺の事を本気で心配してくれて、申し訳なく思う。急いで家に帰ると、母親が夕飯の支度をしていた。父親も帰っている。
夕食の席に着いた――
「父さん、母さん、俺を今まで育ててくれてありがとう。本当に二人の子供に生まれて良かった。いつまでも、健康で元気で・・・長生きしてくれ・・・」
父と母が顔を見合わせている。
「どうした甲斐人、今生の別れでもあるまいし、改まって」
「いや、ちょっと・・・食べようか?」
「今日は腕に寄りをかけたのよ・・・」
食べ始めて、暫くたつと七時を知らせる時報が鳴った――
いつの間にか真っ暗な闇の中に立っている。ドラゴンが問いかけてきた。
「さあ、どうする? 残るか? 戻るか?」
「一つだけ聞きたい事があります。両親や、周りの記憶はどうなるんですか?」
「それなら大丈夫だ。以前の時間軸に戻るから、この一週間の記憶はなくなる。お前、この前と違って口調が丁寧だな」
カイトが赤くなった。
「申し訳ありません、この間は頭に血が昇っていたもので。今後改めます・・・でも良かった。周りに記憶が残らないなら、これで安心して行ける・・・俺は元の世界、異界に戻ります」
「お前は・・・神を呼び捨てにするのか・・・」
カエレスが平原の中に現れた。カイトは近付くと、怒りに任せて口を開いた。
「何故リリアーナ様に今回の事を話した! 必要なかっただろう!?」
「わしがわざわざ伝えた訳じゃないぞ。あの娘は勘が鋭くてな、あの娘の意識が形になってわしの所に現れたんだ」
「リリアーナ様の意識だけ・・・」
「そうだ。最初は人間の娘がいるから驚いたがな。美しいし、生贄かと思ったわ・・・昔はよく供物として供えられたもんだ。もちろん食べはしなかったが・・・」
「それで、リリアーナ様は!?」
「神の話は最後まで聞け! お前、今回成長したと思ったのに・・・まあ、いいわ。リリアーナはお前が今どこにいるか聞いてきたから、隠す事もないし、隠したら益々心配しそうだし、ありのままを話したのだ。お前が七日後にどちらかを選ばなければいけない事もな」
「俺はこちらに戻ると、異界での・・・リリアーナ様の記憶はなくなってしまうのか?」
「当然だ。経験してない事になるからな。あの娘がその事に気付きおって、質問してきたからその通りだと答えておいた。異界に戻ったら今までの記憶は全て残る事もその時に伝えた」
「余計な事を・・・」
「今、思いっきり聞こえたぞ」
「7日を待たずに今すぐ戻りたいんだ」
「それは無理だ。7日で呪文は発動しているし、こちらの世界にはこちらの神がいて、その神との兼ね合いもある。それに今日も含めてあと3日、あの娘の言った事を考えてみるのも悪くないぞ。こちらに残れば異界の記憶は残らないのだ。全然苦しまなくて済むぞ。両親も悲しまないし、お前が前に望んでいた事だろう?」
カイトは握っていた手のひらを開いた。その上にはあの指輪がのっている。
「おお、その指輪か。あの娘に聞かれたから、それ位の質量なら、わしの力でこの世界に残せると答えたんだ」
「『私の覚悟』と言っていた・・・指輪を返されたという事は、婚約破棄と、ルドルフとの結婚も本気だと思う」
「それだけではないと思うぞ」
「え・・・?」
「お前、普段は冴えてるのに、この娘の事になると本当に駄目だな。例えお前が自分の事を忘れても、持っていて欲しかったんだろう。いじらしい女心じゃないか」
カイトは指輪を握り締めた。
「・・・あと3日。そういえば・・・リリアアーナ様は4日と言っていた気がするが・・・」
「まあ、3日も4日もそう変わらないわ。よく考えて答えを出せ。今日は土曜日・・・次に会うのは月曜日の夜の七時だ。お前があの事故にあって丁度一週間後になる」
「上杉君! 水を持ってきたわ!」
鈴浦教授が水を持って入ってきた。いつの間にかあの控え室のソファに座っている。救急車を呼ぶのは取り止めてくれたようだ。水を飲んで、もう大丈夫な事を告げ最後の、あのリリアーナ様の絵のある場所に戻ってみた。不思議な事に絵はそのままだった。哀しみのリリアーナ、説明文も訳して仕事が終わった。
リリアーナ様は俺が思い出す為に作った幻だと言っていたが、これは違うのか? でも、この絵に自分が関わっているのは見ていて分かる。思い出す為に俺が引き寄せたという事か? 異界で描かれたであろうこの絵が、何故この世界に現れたのだろう?
「上杉君、この絵が気に入ったみたいね」
「はい、美しい少女ですね・・・哀しそうなのが気になります」
「そうね、恋人は亡くなってしまったのかしら? この哀しげな瞳・・・きっと心の底から愛していたのね・・・ああ、これを渡しにきたのよ! 今日のバイト代、本当にありがとう。助かったわ」
鈴浦教授がバイト代をはずんでくれたお陰で、上野のアメ横で美味しそうな肉と食材を大量に買えた。日頃鍛えている俺でも、全部持って帰るのに苦労した。
次の日は庭でバーベキューをした。勝也や、翔君、他にも親しくて気の置けないやつを呼んでのパーティーだ。心から楽しいと思う。戻らなければ、こいつらとも付き合っていけるし、両親とも一緒にいられる。生命の危険もない平和な世界だ。
そして次の日、最終日。大学に行き、講義を受ける。空手道部は休ませて貰った。コーチに身体の調子が悪い旨を伝えると、普段休まない俺の事を本気で心配してくれて、申し訳なく思う。急いで家に帰ると、母親が夕飯の支度をしていた。父親も帰っている。
夕食の席に着いた――
「父さん、母さん、俺を今まで育ててくれてありがとう。本当に二人の子供に生まれて良かった。いつまでも、健康で元気で・・・長生きしてくれ・・・」
父と母が顔を見合わせている。
「どうした甲斐人、今生の別れでもあるまいし、改まって」
「いや、ちょっと・・・食べようか?」
「今日は腕に寄りをかけたのよ・・・」
食べ始めて、暫くたつと七時を知らせる時報が鳴った――
いつの間にか真っ暗な闇の中に立っている。ドラゴンが問いかけてきた。
「さあ、どうする? 残るか? 戻るか?」
「一つだけ聞きたい事があります。両親や、周りの記憶はどうなるんですか?」
「それなら大丈夫だ。以前の時間軸に戻るから、この一週間の記憶はなくなる。お前、この前と違って口調が丁寧だな」
カイトが赤くなった。
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