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第十章
私を呼んで 21 愛している――
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「リリアーナ様! カイト先輩! 面会の方がお見えですーーー!!」
「デニス、何で寝室の扉の前まで行かないのよ?」
ジャネットに背中を突かれる。
「自分がじゃんけんに勝ったからって・・・」
恨めしそうにジャネットを見返すデニス。
「でも、確かに廊下から声を張り上げなくてもいいんじゃない・・・?」
ビアンカも同意する。
「分かりました・・・」
デニスは居間に足を踏み入れ、2mほど進んだ。ビアンカ達は`2m ‘ がツボに入ったようで、笑いを堪えるのに必死だ。
「カイト先ぱ・・・!!」
その時、寝室の扉が開いて、カイトが顔を出す。
「大丈夫。聞こえてるから」
カイトはデニスに近付いてきた。
「面会人の名前は――?」
「あ、はい! ベイジル様と、ヴァイクス男爵の御令嬢です!」
「もう、大声じゃなくても平気だよ」
カイトはくすりと笑うと、デニスから面会人の名前が書いてある用紙を受け取り、目を通した。
「これは・・・是非お会いしないと――リリアーナ様と一緒に伺うから、応接室にお通ししてくれ」
踵を返して寝室に戻るカイトにデニスが返事をする。
「はい、分かりました」
寝室の扉を閉めると、リリアーナに開口一番、その内容を伝えた。
「リリアーナ、ベイジルとグリセルダが面会にきたよ」
「本当に!?」
カウチに座っていたリリアーナは嬉しそうな表情を浮かべた。と、その直後、真面目な顔でカイトに聞く。
「私・・・顔が紅くない・・・?」
「少し・・・いや・・・かなり・・・かな・・・」
「カイトのせいよ! やめてと言ったのに・・・。これじゃあフラン達に顔を見せられないわ・・・」
リリアーナの慌てようは、カイトにはそれはそれで微笑ましくもあったのだが・・・
笑いを堪えながら、
「そうか。じゃあ・・・」
廊下側の扉が開いて、カイトがリリアーナを横に抱いて出てきた。リリアーナの顔はカイトの胸に伏せられていて、具合が悪そうに見える。
「リリアーナ様!」
フランチェスカが慌てて近寄ってきた。
「少し気分が悪くなったようで、じいやのところに寄ってから、応接室に回るよ」
心配そうな様子のフランチェスカは、カイトを見上げて切々と訴える。
「カイト、よろしくね・・・最近殆ど眠れてなかったの・・・食も細かったし、貴方の傍につきっきりで・・・毎日がお辛そうだったから――」
フランチェスカの目尻からは、涙が滲み出てきている。
「――分かった」
カイトはリリアーナを運びながら哀しい事実を、確認するように問いかける。
「やはり眠れてなかったんだね」
「・・・今日から眠れるし」
「食べてもいなかったんだ」
「今日から食べられるわ」
カイトは立ち止まると、腕の中にいるリリアーナをじっと見つめて、顔を強張らせた。
「俺のせいだ・・・」
リリアーナはカイトの頬に手を伸ばす。
「貴方は約束通り帰ってきてくれた・・・それで充分」
リリアーナの瞳はその気持ちを物語っていた。カイトは頬に当てられた手のひらにくちづける。
「愛している――」
顔を寄せ合って、二人はそっとくちづけを交わす。
「さあ、ベイジル達のところに急ごう」
「ベイジル、やっぱりリリアーナ様よね? ポーレットじゃなくて・・・それともリリアーナ王女殿下?」
「どんな呼び方でもあの方は気になさらないと思うがね、リリアーナ様でいいんじゃないか?」
「旦那様って、フィアンセのサー・カイトだったのね。何で気付かなかったのかしら!? 私、サー・カイトの銅版画も`接吻 ‘ の銅版画も持っているのに!」
「夢の中だし、奥様にある程度の記憶操作を受けていたから仕方がないさ」
「ベイジルったら、クール・・・姫君と騎士なのよ!? 興奮しないの!?」
「君と違って大人だからね」
「ふ~ん・・・私、知っているのよ? さっきリリアーナ様の銅版画を買っていたでしょう?」
「見てたのか・・・」
「実は私も――ほら、自分のを持ってきたの! サインしてもらえないかしら!?」
グリセルダは嬉しそうに、私物の銅版画を披露する。
「何か目的が違わないか?」
「だって・・・姫様だもの・・・会うのもこれが最初で最後かもしれないでしょう・・・?」
「・・・確かにな」
淋しそうに視線を落とすグリセルダに、ベイジルが同調する。
その時ノックの音がして、先程案内してくれた若い騎士が扉を開けた。
「リリアーナ様とサー・カイトがお見えです」
「ベイジル!」
入ってくるなり、リリアーナがベイジルに駆け寄って抱きついた。ベイジルは一度見た事はあるが、やはり姫様だし、いきなり抱き疲れて緊張して棒立ちになる。グリセルダはポーレットとは異なる容姿と、やはり姫君であるという事実を前にこれまた固まっている。
「リリアーナ、二人共困っているよ」
後から入って来たカイトの声に二人共顔を向けると・・・
(え・・・旦那様だけど――)
夢の中より・・・何かが違う・・・何か若い? ベイジルとグリセルダはついついカイトを見つめてしまった。
「デニス、何で寝室の扉の前まで行かないのよ?」
ジャネットに背中を突かれる。
「自分がじゃんけんに勝ったからって・・・」
恨めしそうにジャネットを見返すデニス。
「でも、確かに廊下から声を張り上げなくてもいいんじゃない・・・?」
ビアンカも同意する。
「分かりました・・・」
デニスは居間に足を踏み入れ、2mほど進んだ。ビアンカ達は`2m ‘ がツボに入ったようで、笑いを堪えるのに必死だ。
「カイト先ぱ・・・!!」
その時、寝室の扉が開いて、カイトが顔を出す。
「大丈夫。聞こえてるから」
カイトはデニスに近付いてきた。
「面会人の名前は――?」
「あ、はい! ベイジル様と、ヴァイクス男爵の御令嬢です!」
「もう、大声じゃなくても平気だよ」
カイトはくすりと笑うと、デニスから面会人の名前が書いてある用紙を受け取り、目を通した。
「これは・・・是非お会いしないと――リリアーナ様と一緒に伺うから、応接室にお通ししてくれ」
踵を返して寝室に戻るカイトにデニスが返事をする。
「はい、分かりました」
寝室の扉を閉めると、リリアーナに開口一番、その内容を伝えた。
「リリアーナ、ベイジルとグリセルダが面会にきたよ」
「本当に!?」
カウチに座っていたリリアーナは嬉しそうな表情を浮かべた。と、その直後、真面目な顔でカイトに聞く。
「私・・・顔が紅くない・・・?」
「少し・・・いや・・・かなり・・・かな・・・」
「カイトのせいよ! やめてと言ったのに・・・。これじゃあフラン達に顔を見せられないわ・・・」
リリアーナの慌てようは、カイトにはそれはそれで微笑ましくもあったのだが・・・
笑いを堪えながら、
「そうか。じゃあ・・・」
廊下側の扉が開いて、カイトがリリアーナを横に抱いて出てきた。リリアーナの顔はカイトの胸に伏せられていて、具合が悪そうに見える。
「リリアーナ様!」
フランチェスカが慌てて近寄ってきた。
「少し気分が悪くなったようで、じいやのところに寄ってから、応接室に回るよ」
心配そうな様子のフランチェスカは、カイトを見上げて切々と訴える。
「カイト、よろしくね・・・最近殆ど眠れてなかったの・・・食も細かったし、貴方の傍につきっきりで・・・毎日がお辛そうだったから――」
フランチェスカの目尻からは、涙が滲み出てきている。
「――分かった」
カイトはリリアーナを運びながら哀しい事実を、確認するように問いかける。
「やはり眠れてなかったんだね」
「・・・今日から眠れるし」
「食べてもいなかったんだ」
「今日から食べられるわ」
カイトは立ち止まると、腕の中にいるリリアーナをじっと見つめて、顔を強張らせた。
「俺のせいだ・・・」
リリアーナはカイトの頬に手を伸ばす。
「貴方は約束通り帰ってきてくれた・・・それで充分」
リリアーナの瞳はその気持ちを物語っていた。カイトは頬に当てられた手のひらにくちづける。
「愛している――」
顔を寄せ合って、二人はそっとくちづけを交わす。
「さあ、ベイジル達のところに急ごう」
「ベイジル、やっぱりリリアーナ様よね? ポーレットじゃなくて・・・それともリリアーナ王女殿下?」
「どんな呼び方でもあの方は気になさらないと思うがね、リリアーナ様でいいんじゃないか?」
「旦那様って、フィアンセのサー・カイトだったのね。何で気付かなかったのかしら!? 私、サー・カイトの銅版画も`接吻 ‘ の銅版画も持っているのに!」
「夢の中だし、奥様にある程度の記憶操作を受けていたから仕方がないさ」
「ベイジルったら、クール・・・姫君と騎士なのよ!? 興奮しないの!?」
「君と違って大人だからね」
「ふ~ん・・・私、知っているのよ? さっきリリアーナ様の銅版画を買っていたでしょう?」
「見てたのか・・・」
「実は私も――ほら、自分のを持ってきたの! サインしてもらえないかしら!?」
グリセルダは嬉しそうに、私物の銅版画を披露する。
「何か目的が違わないか?」
「だって・・・姫様だもの・・・会うのもこれが最初で最後かもしれないでしょう・・・?」
「・・・確かにな」
淋しそうに視線を落とすグリセルダに、ベイジルが同調する。
その時ノックの音がして、先程案内してくれた若い騎士が扉を開けた。
「リリアーナ様とサー・カイトがお見えです」
「ベイジル!」
入ってくるなり、リリアーナがベイジルに駆け寄って抱きついた。ベイジルは一度見た事はあるが、やはり姫様だし、いきなり抱き疲れて緊張して棒立ちになる。グリセルダはポーレットとは異なる容姿と、やはり姫君であるという事実を前にこれまた固まっている。
「リリアーナ、二人共困っているよ」
後から入って来たカイトの声に二人共顔を向けると・・・
(え・・・旦那様だけど――)
夢の中より・・・何かが違う・・・何か若い? ベイジルとグリセルダはついついカイトを見つめてしまった。
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