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第十一章
我儘姫と舞踏会 11 ユニコーン
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カイトは崖を目掛けて走り始めた。足に力を込め、ぎりぎりのところで勢いよく踏み切って――飛ぶ!!
最初は多少なりとも上に向かって飛んでいたが、やがて弧を描くように身体が下降し始めた。踏み切り時から詠唱していた呪文を唱え終わると共に、両手を谷底に向け術を放った。
凄まじい爆発音と共に、身体が崖の遥か上まで飛ばされる。そして崖っぷちから優に50mはある地点へと落下した。
頭から落ちていたのを、身体を反転させて足から無事に着地をする。
崖まで戻って谷底を覗き込むと、まるで隕石が落ちたような、大きく抉れた丸い穴が下方に空いていた。まだ所々煙が上がっていて威力の大きさを物語っている。
一番威力が大きい術を放った反動で渡るつもりではあったが、どうも爆風なども加味されて、思っていたより遠くまで飛ばされてしまったらしい。
崖を渡れたのは良かったけれど、この術を使う時はよくよく考えてからにしなければ、とカイトは胸に刻み込んだ。
その晩も結界を張って眠り、次の日の朝はさすがに疲れが出てきた。レアル国までも強行軍だったのだ。それが帰りも走りっぱなしで、このままいいペースで走れるだろうか? 舞踏会は明後日だ。
その日は少しペースを落として走り、やがて夜が訪れた。もう少しだけ走っておこうと星で方角を確認し、走り始めたところで微かに馬の嘶きが聞こえてきた。
こんな森の中で・・・それも魔の森に馬がいるのか・・・?
嘶きを辿って歩いていくと、闇の中に真っ白に光り輝く一角獣が、オークの大木に奥深くまで角を突き刺して、抜くことができないでいる。
(こんなグリム童話みたいな出来事があるんだな・・・){注・グリム童話`勇ましいちびの仕立て屋 ‘ ページの下に簡単にお話を紹介しています}
カイトが近付くと、鼻息を荒くさせた。耳を伏せて、目も吊り上っている。一角獣は男嫌いで、すぐにその角で突き殺してしまうという話を聞いた事がある。
「よく、この硬いオークの木木に角を突き刺すことができたね? 誰かにからかわれて突っ込んだのかい?」
言葉が通じるかどうかも分からないが、取り敢えずは話しかけながらも警戒しつつ距離を縮める。
「困っているんだろう? 大丈夫、何もしないから」
カイトは腰の剣や、肩にかけていた弓矢を下に置いて、攻撃する意志がない事を態度で示す。
「助けてあげるから――怖がらないで」
一角獣の瞳を見つめながら話し、注意して様子を伺うと、耳がピンと立っていた。角が刺さった状態で身動きを阻まれながらもその耳はこちらを向いている。カイトが敵ではない事を理解し、興味を持ってくれたようだ。斜め左側から近付き、首の辺りをぽんぽんとたたく。
大人しくされるがままになっているので、首筋を撫でながら角の突き刺し具合を調べた。
「これは、随分と深く突き刺さってるな・・・固い木でもあるし、ナイフで周りを削るのは時間が掛かる。角にも傷がつきそうだ。という事は――」
カイトは右手を突き刺さった部位に翳して、呪文を詠唱し始めた。角の周りの部分がもろもろと崩れ始める。
「これ位でいいかな・・・? 抜いてごらん」
一角獣は首を捻り上げるようにして木から離れた。スムーズに引き抜く事に成功をする。
「良かったね――」
カイトは穴が空いた木の幹に手をまた翳し詠唱する。今度は崩れたところがみるみると修復を始め、綺麗に穴が塞ぎ、元通りになった。
「さて、これで良し・・・と――っ!?」
背中に衝撃を感じて振り返ると、一角獣が顔をカイトに擦り付けている。
「お礼を言ってくれてるのかい?」
また首筋を撫でたり、軽く叩いてやった。気持ち良さ気に目を細める一角獣に向かって優しく語り掛ける。
「さあ、もうお行き。俺も行かないと」
カイトが剣と弓矢を身に付けて走り始めると、一角獣も一緒についてきた。止まるとぴたっと止まり、走るとまた付いてくる。クルッと振り返って、一角獣に歩み寄った。
「ごめん。俺はいま急いでいるから、相手をしてあげられないんだ」
分かっているのかいないのか、カイトをつぶらな瞳で見つめている。
(確か伝承によると、一角獣の足は馬や鹿より速かったな・・・)
カイトが一角獣と視線を合わせた。
「もし良かったら、君の背中に乗せてくれないか? リーフシュタイン城まで送ってくれると嬉しいのだけど――」
一角獣がいきなり頭を上げ、ダイナミックに嘶いた。どうやら了解してくれたらしい。
「ありがとう、乗せてもらうよ――!」
カイトは勢いよく一角獣の背中に飛び乗った。
勇ましいちびの仕立て屋(一角獣部分の話だけです)
王様は仕立て屋に言いました。「森に害をなす一角獣がうろついている。捕まえてくれ」仕立て屋は森へ出かけていくと、一角獣が角でくし刺しにしてやろうとまっすぐに突進してきました。
一角獣が傍まで来ると仕立て屋は木のかげにさっと隠れました。一角獣は幹に角を深く突き刺してしまったので、角を抜き取るだけの力がありません。こうして一角獣はつかまってしまいました。仕立て屋は木のかげから出てくると、一角獣の首に縄をかけ、斧で角を木から切り放し、一角獣を連れて王様のところに行きました。
投稿は来週の月曜日のお昼になります。土日は執筆でお休みさせて頂きますね m(__)m
最初は多少なりとも上に向かって飛んでいたが、やがて弧を描くように身体が下降し始めた。踏み切り時から詠唱していた呪文を唱え終わると共に、両手を谷底に向け術を放った。
凄まじい爆発音と共に、身体が崖の遥か上まで飛ばされる。そして崖っぷちから優に50mはある地点へと落下した。
頭から落ちていたのを、身体を反転させて足から無事に着地をする。
崖まで戻って谷底を覗き込むと、まるで隕石が落ちたような、大きく抉れた丸い穴が下方に空いていた。まだ所々煙が上がっていて威力の大きさを物語っている。
一番威力が大きい術を放った反動で渡るつもりではあったが、どうも爆風なども加味されて、思っていたより遠くまで飛ばされてしまったらしい。
崖を渡れたのは良かったけれど、この術を使う時はよくよく考えてからにしなければ、とカイトは胸に刻み込んだ。
その晩も結界を張って眠り、次の日の朝はさすがに疲れが出てきた。レアル国までも強行軍だったのだ。それが帰りも走りっぱなしで、このままいいペースで走れるだろうか? 舞踏会は明後日だ。
その日は少しペースを落として走り、やがて夜が訪れた。もう少しだけ走っておこうと星で方角を確認し、走り始めたところで微かに馬の嘶きが聞こえてきた。
こんな森の中で・・・それも魔の森に馬がいるのか・・・?
嘶きを辿って歩いていくと、闇の中に真っ白に光り輝く一角獣が、オークの大木に奥深くまで角を突き刺して、抜くことができないでいる。
(こんなグリム童話みたいな出来事があるんだな・・・){注・グリム童話`勇ましいちびの仕立て屋 ‘ ページの下に簡単にお話を紹介しています}
カイトが近付くと、鼻息を荒くさせた。耳を伏せて、目も吊り上っている。一角獣は男嫌いで、すぐにその角で突き殺してしまうという話を聞いた事がある。
「よく、この硬いオークの木木に角を突き刺すことができたね? 誰かにからかわれて突っ込んだのかい?」
言葉が通じるかどうかも分からないが、取り敢えずは話しかけながらも警戒しつつ距離を縮める。
「困っているんだろう? 大丈夫、何もしないから」
カイトは腰の剣や、肩にかけていた弓矢を下に置いて、攻撃する意志がない事を態度で示す。
「助けてあげるから――怖がらないで」
一角獣の瞳を見つめながら話し、注意して様子を伺うと、耳がピンと立っていた。角が刺さった状態で身動きを阻まれながらもその耳はこちらを向いている。カイトが敵ではない事を理解し、興味を持ってくれたようだ。斜め左側から近付き、首の辺りをぽんぽんとたたく。
大人しくされるがままになっているので、首筋を撫でながら角の突き刺し具合を調べた。
「これは、随分と深く突き刺さってるな・・・固い木でもあるし、ナイフで周りを削るのは時間が掛かる。角にも傷がつきそうだ。という事は――」
カイトは右手を突き刺さった部位に翳して、呪文を詠唱し始めた。角の周りの部分がもろもろと崩れ始める。
「これ位でいいかな・・・? 抜いてごらん」
一角獣は首を捻り上げるようにして木から離れた。スムーズに引き抜く事に成功をする。
「良かったね――」
カイトは穴が空いた木の幹に手をまた翳し詠唱する。今度は崩れたところがみるみると修復を始め、綺麗に穴が塞ぎ、元通りになった。
「さて、これで良し・・・と――っ!?」
背中に衝撃を感じて振り返ると、一角獣が顔をカイトに擦り付けている。
「お礼を言ってくれてるのかい?」
また首筋を撫でたり、軽く叩いてやった。気持ち良さ気に目を細める一角獣に向かって優しく語り掛ける。
「さあ、もうお行き。俺も行かないと」
カイトが剣と弓矢を身に付けて走り始めると、一角獣も一緒についてきた。止まるとぴたっと止まり、走るとまた付いてくる。クルッと振り返って、一角獣に歩み寄った。
「ごめん。俺はいま急いでいるから、相手をしてあげられないんだ」
分かっているのかいないのか、カイトをつぶらな瞳で見つめている。
(確か伝承によると、一角獣の足は馬や鹿より速かったな・・・)
カイトが一角獣と視線を合わせた。
「もし良かったら、君の背中に乗せてくれないか? リーフシュタイン城まで送ってくれると嬉しいのだけど――」
一角獣がいきなり頭を上げ、ダイナミックに嘶いた。どうやら了解してくれたらしい。
「ありがとう、乗せてもらうよ――!」
カイトは勢いよく一角獣の背中に飛び乗った。
勇ましいちびの仕立て屋(一角獣部分の話だけです)
王様は仕立て屋に言いました。「森に害をなす一角獣がうろついている。捕まえてくれ」仕立て屋は森へ出かけていくと、一角獣が角でくし刺しにしてやろうとまっすぐに突進してきました。
一角獣が傍まで来ると仕立て屋は木のかげにさっと隠れました。一角獣は幹に角を深く突き刺してしまったので、角を抜き取るだけの力がありません。こうして一角獣はつかまってしまいました。仕立て屋は木のかげから出てくると、一角獣の首に縄をかけ、斧で角を木から切り放し、一角獣を連れて王様のところに行きました。
投稿は来週の月曜日のお昼になります。土日は執筆でお休みさせて頂きますね m(__)m
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