146 / 287
第十一章
我儘姫と舞踏会 15 分かった。我慢する――
しおりを挟む
フランチェスカは出直す事にした。よく眠っているし、幸せそうな二人の時間を壊す気になれなかったのである。
朝食をトレーに載せたまま、また廊下に出ると女性騎士達が ` あれ? ‘ という顔をした。
「早かったわね、どうしたの?」
「まだお二人とも寝ていらっしゃったから」
「もしかして、カイトの腕の中・・・?」
昼間のうたた寝でも、カイトはすぐリリアーナを腕の中に囲い込む。他にも色々とどこから情報は洩れるのか、その辺の事情をほぼ全員が知っていた。
「シークレットです」
フランチェスカが左手でトレーを持ち、右手の人差し指を口の前に立てた。
「やっぱり、そうなんでしょう?」
ビアンカとアビゲイルはきゃっきゃと顔を見合わせる。
「お二人の為にも断っておくけど、下品なものではないわよ」
「ちゃんと分かっているわよ。でもそうしたら、どんな雰囲気なの?」
フランチェスカが夢見るような表情を見せた。
「鑑賞に値する一枚の絵画のようだった・・・」
彼女が溜息を零すと、二人が色めき立つ。
「見たい~~~!」
「ふふっ・・・これはリリアーナ様付き侍女の特権よ・・・」
そこまで話したところで急に黙り込んだフランチェスカに、二人は顔を見合わせる。
「どうしたの・・・心配事?」
「うん・・・スティーブはどうして帰ってこないのかな、と思って――でも大丈夫。カイトが起きたら聞いてみるから」
『あっ――!』と女性騎士達が声を出した。アビゲイルが口を開く。
「昨夜、カイトが帰って来た時に『スティーブはまだ帰っていないのか』って言ってたわ、あと『アクシデントで別々だ』とも・・・」
「え・・・?」
肩を落とすフランチェスカに、ビアンカが慰めの声をかけた。
「大丈夫よ! カイトが帰ってきたんだし。きっとスティーブも今日帰ってくるわよ」
「でも・・・スティーブって肝心な時に何かをしでかしそう。それで今回も間に合わなそうじゃない・・・?」
当たっているだけに、最初二人は何も言えず、アビゲイルが慌てて言い添える。
「でも! ほら、おっちょこちょいだけど実力はあるし、性格がいいし、人には愛されるし、何かやらかしても周りがきっと助けてくれるわよ!」
口にしながら ` あれ、これってフォローになっている? ‘ と考えるアビゲイル。
「二人共ありがとう」
立ち去るフランチェスカの背中を、心配そうに二人で見送った。
フランが出直してきた時は、代わりにジャネットと見習い騎士のデニスがいた。
「おはようフラン」
「おはよう。そうか・・・交替なのね」
「二人共、悔しがっていたわよ。珍しく『もう少し立ち番をやりたい』とも言っていたし・・・まあ、絵画のような光景だったら、見たい気持ちも分かるけど」
「あなた達も見れないわよ」
ビアンカもアビゲイルもスティーブの事を黙っていてくれた事に感謝をする。ただでさえ帰ってこなくて、周りに気を使われたり同情されたりしているのだ。できればそっと――と言うよりは、もう放っておいてほしい。
「残念・・・! でも、フランチェスカが入る時に、ちょびっと見えちゃうかも――」
「それはどうかしら――?」
フランチェスカがノックをし扉を開けたところで、後ろから二人が覗き込む。微笑みながら二人の前で、フランはゆっくりと扉を閉めた。
「見えた!?」
「いいえ・・・ここからだと、ソファの背が邪魔をしますね」
「あ~悔しい~~~! 見られないと思うと益々見たくなる。見えないと知っていたから、ゆっくり扉を閉めたのね」
「残念でしたね」
デニスが笑顔で返すと、ジャネットが真顔で言った。
「ねえ、今度こっそりソファの位置を変えちゃわない?」
「そこまでしますか――?」
部屋に入ると、二人はまだ眠っている。トレーをサイドテーブルに置き、傍まで行って覗き込むとリリアーナがパチリと目を開けた。
「フラン・・・?」
「おはようございます。リリアーナ様」
「おはよう・・・カイトが夕べ帰ってきたの」
「そのようですね」
フランチェスカが笑顔で答える。
「今何時かしら?」
「8時30分くらいかと」
「え・・・? もう、そんな時間? 急がなきゃ」
リリアーナがカイトに声を掛ける。
「カイト、お願い起きて――」
しかしカイトは熟睡したままだ。
「え・・・いつもはこれで起きるのに。カイト、ねえカイト・・・!」
一向に目覚める気配を見せず、回した腕に力がこもり、更に引き寄せられてしまった。リリアーナが顔を赤らめる。
「の、野宿をしたと言っていたから、きっと疲れているのね――」
恥かしげにフランをじっと見つめた。
「フラン、ちょっとあちらを見ていてくれる?」
「かしこまりました」
リリアーナが動く気配がし、チュッとリップ音がした。
「ん・・・? リリアーナ・・・?」
「おはよう、カイト。目が覚めた?」
「ん・・・でも、もう一度――」
「え、だめ! フランがいるから――!」
フランチェスカは後ろを向いたまま、やはり赤い顔で思いっきり右手を上げる。
「はい! ここに居ます!!」
カイトの溜息が聞こえてきた。
「分かった。我慢する――」
「フラン、もうこちらを向いても大丈夫よ」
振り返ると、カイトがカウチの上で片膝を立てて座っており、起き上がろうとしているリリアーナの背に手を添えていた。
「おはよう、カイト」
「おはよう、フラン」
フランが朝食の用意をし始める。カイトは膝の上に手と顎を乗せフランの動作を目で追いながら、静かに考えていた。
朝食をトレーに載せたまま、また廊下に出ると女性騎士達が ` あれ? ‘ という顔をした。
「早かったわね、どうしたの?」
「まだお二人とも寝ていらっしゃったから」
「もしかして、カイトの腕の中・・・?」
昼間のうたた寝でも、カイトはすぐリリアーナを腕の中に囲い込む。他にも色々とどこから情報は洩れるのか、その辺の事情をほぼ全員が知っていた。
「シークレットです」
フランチェスカが左手でトレーを持ち、右手の人差し指を口の前に立てた。
「やっぱり、そうなんでしょう?」
ビアンカとアビゲイルはきゃっきゃと顔を見合わせる。
「お二人の為にも断っておくけど、下品なものではないわよ」
「ちゃんと分かっているわよ。でもそうしたら、どんな雰囲気なの?」
フランチェスカが夢見るような表情を見せた。
「鑑賞に値する一枚の絵画のようだった・・・」
彼女が溜息を零すと、二人が色めき立つ。
「見たい~~~!」
「ふふっ・・・これはリリアーナ様付き侍女の特権よ・・・」
そこまで話したところで急に黙り込んだフランチェスカに、二人は顔を見合わせる。
「どうしたの・・・心配事?」
「うん・・・スティーブはどうして帰ってこないのかな、と思って――でも大丈夫。カイトが起きたら聞いてみるから」
『あっ――!』と女性騎士達が声を出した。アビゲイルが口を開く。
「昨夜、カイトが帰って来た時に『スティーブはまだ帰っていないのか』って言ってたわ、あと『アクシデントで別々だ』とも・・・」
「え・・・?」
肩を落とすフランチェスカに、ビアンカが慰めの声をかけた。
「大丈夫よ! カイトが帰ってきたんだし。きっとスティーブも今日帰ってくるわよ」
「でも・・・スティーブって肝心な時に何かをしでかしそう。それで今回も間に合わなそうじゃない・・・?」
当たっているだけに、最初二人は何も言えず、アビゲイルが慌てて言い添える。
「でも! ほら、おっちょこちょいだけど実力はあるし、性格がいいし、人には愛されるし、何かやらかしても周りがきっと助けてくれるわよ!」
口にしながら ` あれ、これってフォローになっている? ‘ と考えるアビゲイル。
「二人共ありがとう」
立ち去るフランチェスカの背中を、心配そうに二人で見送った。
フランが出直してきた時は、代わりにジャネットと見習い騎士のデニスがいた。
「おはようフラン」
「おはよう。そうか・・・交替なのね」
「二人共、悔しがっていたわよ。珍しく『もう少し立ち番をやりたい』とも言っていたし・・・まあ、絵画のような光景だったら、見たい気持ちも分かるけど」
「あなた達も見れないわよ」
ビアンカもアビゲイルもスティーブの事を黙っていてくれた事に感謝をする。ただでさえ帰ってこなくて、周りに気を使われたり同情されたりしているのだ。できればそっと――と言うよりは、もう放っておいてほしい。
「残念・・・! でも、フランチェスカが入る時に、ちょびっと見えちゃうかも――」
「それはどうかしら――?」
フランチェスカがノックをし扉を開けたところで、後ろから二人が覗き込む。微笑みながら二人の前で、フランはゆっくりと扉を閉めた。
「見えた!?」
「いいえ・・・ここからだと、ソファの背が邪魔をしますね」
「あ~悔しい~~~! 見られないと思うと益々見たくなる。見えないと知っていたから、ゆっくり扉を閉めたのね」
「残念でしたね」
デニスが笑顔で返すと、ジャネットが真顔で言った。
「ねえ、今度こっそりソファの位置を変えちゃわない?」
「そこまでしますか――?」
部屋に入ると、二人はまだ眠っている。トレーをサイドテーブルに置き、傍まで行って覗き込むとリリアーナがパチリと目を開けた。
「フラン・・・?」
「おはようございます。リリアーナ様」
「おはよう・・・カイトが夕べ帰ってきたの」
「そのようですね」
フランチェスカが笑顔で答える。
「今何時かしら?」
「8時30分くらいかと」
「え・・・? もう、そんな時間? 急がなきゃ」
リリアーナがカイトに声を掛ける。
「カイト、お願い起きて――」
しかしカイトは熟睡したままだ。
「え・・・いつもはこれで起きるのに。カイト、ねえカイト・・・!」
一向に目覚める気配を見せず、回した腕に力がこもり、更に引き寄せられてしまった。リリアーナが顔を赤らめる。
「の、野宿をしたと言っていたから、きっと疲れているのね――」
恥かしげにフランをじっと見つめた。
「フラン、ちょっとあちらを見ていてくれる?」
「かしこまりました」
リリアーナが動く気配がし、チュッとリップ音がした。
「ん・・・? リリアーナ・・・?」
「おはよう、カイト。目が覚めた?」
「ん・・・でも、もう一度――」
「え、だめ! フランがいるから――!」
フランチェスカは後ろを向いたまま、やはり赤い顔で思いっきり右手を上げる。
「はい! ここに居ます!!」
カイトの溜息が聞こえてきた。
「分かった。我慢する――」
「フラン、もうこちらを向いても大丈夫よ」
振り返ると、カイトがカウチの上で片膝を立てて座っており、起き上がろうとしているリリアーナの背に手を添えていた。
「おはよう、カイト」
「おはよう、フラン」
フランが朝食の用意をし始める。カイトは膝の上に手と顎を乗せフランの動作を目で追いながら、静かに考えていた。
10
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる