黒の転生騎士

sierra

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第十一章

我儘姫と舞踏会 15  分かった。我慢する――

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 フランチェスカは出直す事にした。よく眠っているし、幸せそうな二人の時間を壊す気になれなかったのである。

 朝食をトレーに載せたまま、また廊下に出ると女性騎士達が ` あれ? ‘ という顔をした。
「早かったわね、どうしたの?」
「まだお二人とも寝ていらっしゃったから」
「もしかして、カイトの腕の中・・・?」

 昼間のうたた寝でも、カイトはすぐリリアーナを腕の中に囲い込む。他にも色々とどこから情報は洩れるのか、その辺の事情をほぼ全員が知っていた。
「シークレットです」
 フランチェスカが左手でトレーを持ち、右手の人差し指を口の前に立てた。

「やっぱり、そうなんでしょう?」
 ビアンカとアビゲイルはきゃっきゃと顔を見合わせる。
「お二人の為にも断っておくけど、下品なものではないわよ」
「ちゃんと分かっているわよ。でもそうしたら、どんな雰囲気なの?」

 フランチェスカが夢見るような表情を見せた。
「鑑賞に値する一枚の絵画のようだった・・・」
 彼女が溜息を零すと、二人が色めき立つ。
「見たい~~~!」
「ふふっ・・・これはリリアーナ様付き侍女の特権よ・・・」

 そこまで話したところで急に黙り込んだフランチェスカに、二人は顔を見合わせる。
「どうしたの・・・心配事?」
「うん・・・スティーブはどうして帰ってこないのかな、と思って――でも大丈夫。カイトが起きたら聞いてみるから」

『あっ――!』と女性騎士達が声を出した。アビゲイルが口を開く。
「昨夜、カイトが帰って来た時に『スティーブはまだ帰っていないのか』って言ってたわ、あと『アクシデントで別々だ』とも・・・」

「え・・・?」
 肩を落とすフランチェスカに、ビアンカが慰めの声をかけた。

「大丈夫よ! カイトが帰ってきたんだし。きっとスティーブも今日帰ってくるわよ」
「でも・・・スティーブって肝心な時に何かをしでかしそう。それで今回も間に合わなそうじゃない・・・?」

 当たっているだけに、最初二人は何も言えず、アビゲイルが慌てて言い添える。
「でも! ほら、おっちょこちょいだけど実力はあるし、性格がいいし、人には愛されるし、何かやらかしても周りがきっと助けてくれるわよ!」
 口にしながら ` あれ、これってフォローになっている? ‘ と考えるアビゲイル。

「二人共ありがとう」
 立ち去るフランチェスカの背中を、心配そうに二人で見送った。

 フランが出直してきた時は、代わりにジャネットと見習い騎士のデニスがいた。

「おはようフラン」
「おはよう。そうか・・・交替なのね」
「二人共、悔しがっていたわよ。珍しく『もう少し立ち番をやりたい』とも言っていたし・・・まあ、絵画のような光景だったら、見たい気持ちも分かるけど」
「あなた達も見れないわよ」

 ビアンカもアビゲイルもスティーブの事を黙っていてくれた事に感謝をする。ただでさえ帰ってこなくて、周りに気を使われたり同情されたりしているのだ。できればそっと――と言うよりは、もう放っておいてほしい。

「残念・・・! でも、フランチェスカが入る時に、ちょびっと見えちゃうかも――」
「それはどうかしら――?」

 フランチェスカがノックをし扉を開けたところで、後ろから二人が覗き込む。微笑みながら二人の前で、フランはゆっくりと扉を閉めた。

「見えた!?」
「いいえ・・・ここからだと、ソファの背が邪魔をしますね」
「あ~悔しい~~~! 見られないと思うと益々見たくなる。見えないと知っていたから、ゆっくり扉を閉めたのね」
「残念でしたね」

 デニスが笑顔で返すと、ジャネットが真顔で言った。

「ねえ、今度こっそりソファの位置を変えちゃわない?」
「そこまでしますか――?」

 部屋に入ると、二人はまだ眠っている。トレーをサイドテーブルに置き、傍まで行って覗き込むとリリアーナがパチリと目を開けた。

「フラン・・・?」
「おはようございます。リリアーナ様」
「おはよう・・・カイトが夕べ帰ってきたの」
「そのようですね」

 フランチェスカが笑顔で答える。

「今何時かしら?」
「8時30分くらいかと」
「え・・・? もう、そんな時間? 急がなきゃ」

 リリアーナがカイトに声を掛ける。
「カイト、お願い起きて――」

 しかしカイトは熟睡したままだ。
「え・・・いつもはこれで起きるのに。カイト、ねえカイト・・・!」

 一向に目覚める気配を見せず、回した腕に力がこもり、更に引き寄せられてしまった。リリアーナが顔を赤らめる。
「の、野宿をしたと言っていたから、きっと疲れているのね――」

 恥かしげにフランをじっと見つめた。
「フラン、ちょっとあちらを見ていてくれる?」
「かしこまりました」

 リリアーナが動く気配がし、チュッとリップ音がした。
「ん・・・? リリアーナ・・・?」
「おはよう、カイト。目が覚めた?」
「ん・・・でも、もう一度――」  
「え、だめ! フランがいるから――!」

 フランチェスカは後ろを向いたまま、やはり赤い顔で思いっきり右手を上げる。
「はい! ここに居ます!!」

 カイトの溜息が聞こえてきた。
「分かった。我慢する――」

「フラン、もうこちらを向いても大丈夫よ」
 振り返ると、カイトがカウチの上で片膝を立てて座っており、起き上がろうとしているリリアーナの背に手を添えていた。

「おはよう、カイト」
「おはよう、フラン」
 フランが朝食の用意をし始める。カイトは膝の上に手と顎を乗せフランの動作を目で追いながら、静かに考えていた。 

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