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第十一章
我儘姫と舞踏会 14 一緒に寝たくはないの?
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`信頼―― ‘ それは未だかつて、人間から受けた事がない言葉・・・
いきなりユニコーンがカイトに迫ってきた。
「わっ――! いきなりどうした?」
一生懸命カイトに鼻や顔を擦り付けて、その目にも何か訴えるものがある。
「いや、リリアーナに何もしなければ、俺も酷いことはしないから」
ユニコーンがブンブンと首を横に振る。
「え・・・違うのか? 仲直りがしたい?」
ユニコーンが軽く首を縦に振る。
「近いけど微妙に違う・・・?」
また縦にブンブンと降る。
「ごめん、分からない――」
ユニコーンがまた`ガーン ‘ とショックを受けているのが分かった。わざわざ部屋の端まで行き、身体は背を向けてそれは悲しそうに、首だけをこちらに返してじっと見ている。
カイトが困り果てていると、リリアーナが何かを思い付いたように口を開いた。
「もしかすると、カイトに信じてほしいんじゃないかしら? 最初はカイト『とてもいい子』って言ってたでしょう? それを裏切る形になってしまった訳だし・・・『信頼していたのに』って言った後にショック受けている様子だったわ」
ユニコーンがそれを聞きつけて、スキップするように近付いてきた。
(なんか、ユニコーンって人間臭い・・・それともこのユニコーンだけ・・・?)
ビアンカらは自分達が持っていた孤高のユニコーン像が、がらがらと音を立てて崩れていくのを感じた。
「そうだったのか・・・分かった、信じる。だから、もうこの君に対する思いを、裏切るような事はしないでくれ」
また顔をブンブンと縦に振る。カイトは手を伸ばして、鼻面を撫でながら言い聞かせるように話した。
「じゃあ、もうねぐらにお帰り。時間も遅いし、俺達も睡眠を取っておきたいから」
ユニコーンはもう一度リリアーナに首を撫でてもらうと、尻尾を振りながら満足そうに帰っていく。カイトは振り返ると軽く咳払いをし、少し言いにくそうに切り出した。
「リリアーナ、ユニコーンがいなくなったから君はここで寝て――俺は宿舎に帰るよ」
「え・・・だって、カウチはもう寝れる状態なのよ? 私がベッドで寝て、カイトが居間のカウチで寝ればいいと思うの――」
「いや、それは――」
「失礼いたします」
二人の女性騎士はお邪魔だと考えたようで、廊下へと出て行った。カイトはリリアーナと視線を合わせつつ悩んでいるようであったが、覚悟を決めたように口を開けた。
「分かった。俺はカウチで寝るよ」
嬉しそうなリリアーナの頬を両手で挟み、額にキスを落とす。
「野宿で疲れているし、すぐ寝入ってしまうだろうから、リリアーナも早く眠るんだ」
「ええ、分かったわ――」
リリアーナがベッドに横たわるのを見届けてから、カイトは居間へと移動をする。カウチの背もたれに寄り掛かり、暫くの間は起きていると寝室の扉がそっと開いた。
カイトが 溜息を吐いた。
「リリアーナ――」
「え、何で起きているの? もう寝たかと思ったのに・・・」
「起きていた。絶対に来ると思ったから」
「――意地悪・・・! カイトは一緒に寝たくはないの?」
「そうでない事は知っているだろう? それにその言葉、気を付けないと他では誤解を受けるぞ」
リリアーナが顔を紅くさせ、カイトが軽く微笑んだ。
「掛布は持ってきている?」
リリアーナが後ろ手に隠していた掛布を前に出して見せる。
「おいで――」
途端にリリアーナは笑顔になり、嬉しそうに駆け寄るとカウチの上によじ登った。カイトの身体は掛布の下、リリアーナは掛布の上に横になり、持って来た自分の掛布をカイトが身体に掛けてくれた。するといきなり彼の腕の中に引き寄せられる。
「え――っ?」
「ん・・・?」
「あの、少し離れてくれたほうが寝やすい・・・」
「俺はいつも寝てしまって分からないけど、すぐにこうなるんだろう?」
「でも、今はカイトが起きているから緊張する」
「大丈夫。すぐ寝てしまうから・・・」
「え、待って・・・すぐは無理でしょう・・・?」
「もうちょっ・・・と・・・」
リリアーナはカイトの身体から完全に力が抜けきるまで、緊張し続ける事となった。
次の日の朝。フランチェスカがリリアーナの朝食を持ってやってきた。
「おはよう、フランチェスカ」
「アビゲイル、ビアンカ、おはよう」
「今日は朝食二人分必要よ」
「え、何で? こんな早くに誰か来てるの?」
「カイトが真夜中に帰ってきたの。それでね、ユニコーンが・・・」
「え、本当に!?」
フランチェスカが慌ててノックをする。残念ながらユニコーンの話は耳に入ってこなかった。まだスティーブが帰って来ていないので、カイトなら理由を知っている筈と、期待をして直ぐ部屋に入る。
「あ・・・」
カウチでカイトとリリアーナが眠っていた。いつもならフランチェスカが来るまでに、リリアーナを寝室に運んでおいてくれるのだがやはり旅の疲れだろうか? 熟睡しきっている様子だ。
見慣れた光景ではあるが、リリアーナをその腕にして眠っているカイトは、とても満ち足りて見える。リリアーナも安心した様子ですやすやと眠っていた。
朝日がガラス戸から差し込み、秋も終わりの柔らかな光に包まれている二人を見ると、スティーブの件が頭から飛んでしまった。
(ベルナールがこれを見たら、絶対に描きたがるわね・・・)
溜息を吐いて、朝のひと時をお気に入りの絵画を鑑賞するように、フランチェスカはただずっと眺めていた。
いきなりユニコーンがカイトに迫ってきた。
「わっ――! いきなりどうした?」
一生懸命カイトに鼻や顔を擦り付けて、その目にも何か訴えるものがある。
「いや、リリアーナに何もしなければ、俺も酷いことはしないから」
ユニコーンがブンブンと首を横に振る。
「え・・・違うのか? 仲直りがしたい?」
ユニコーンが軽く首を縦に振る。
「近いけど微妙に違う・・・?」
また縦にブンブンと降る。
「ごめん、分からない――」
ユニコーンがまた`ガーン ‘ とショックを受けているのが分かった。わざわざ部屋の端まで行き、身体は背を向けてそれは悲しそうに、首だけをこちらに返してじっと見ている。
カイトが困り果てていると、リリアーナが何かを思い付いたように口を開いた。
「もしかすると、カイトに信じてほしいんじゃないかしら? 最初はカイト『とてもいい子』って言ってたでしょう? それを裏切る形になってしまった訳だし・・・『信頼していたのに』って言った後にショック受けている様子だったわ」
ユニコーンがそれを聞きつけて、スキップするように近付いてきた。
(なんか、ユニコーンって人間臭い・・・それともこのユニコーンだけ・・・?)
ビアンカらは自分達が持っていた孤高のユニコーン像が、がらがらと音を立てて崩れていくのを感じた。
「そうだったのか・・・分かった、信じる。だから、もうこの君に対する思いを、裏切るような事はしないでくれ」
また顔をブンブンと縦に振る。カイトは手を伸ばして、鼻面を撫でながら言い聞かせるように話した。
「じゃあ、もうねぐらにお帰り。時間も遅いし、俺達も睡眠を取っておきたいから」
ユニコーンはもう一度リリアーナに首を撫でてもらうと、尻尾を振りながら満足そうに帰っていく。カイトは振り返ると軽く咳払いをし、少し言いにくそうに切り出した。
「リリアーナ、ユニコーンがいなくなったから君はここで寝て――俺は宿舎に帰るよ」
「え・・・だって、カウチはもう寝れる状態なのよ? 私がベッドで寝て、カイトが居間のカウチで寝ればいいと思うの――」
「いや、それは――」
「失礼いたします」
二人の女性騎士はお邪魔だと考えたようで、廊下へと出て行った。カイトはリリアーナと視線を合わせつつ悩んでいるようであったが、覚悟を決めたように口を開けた。
「分かった。俺はカウチで寝るよ」
嬉しそうなリリアーナの頬を両手で挟み、額にキスを落とす。
「野宿で疲れているし、すぐ寝入ってしまうだろうから、リリアーナも早く眠るんだ」
「ええ、分かったわ――」
リリアーナがベッドに横たわるのを見届けてから、カイトは居間へと移動をする。カウチの背もたれに寄り掛かり、暫くの間は起きていると寝室の扉がそっと開いた。
カイトが 溜息を吐いた。
「リリアーナ――」
「え、何で起きているの? もう寝たかと思ったのに・・・」
「起きていた。絶対に来ると思ったから」
「――意地悪・・・! カイトは一緒に寝たくはないの?」
「そうでない事は知っているだろう? それにその言葉、気を付けないと他では誤解を受けるぞ」
リリアーナが顔を紅くさせ、カイトが軽く微笑んだ。
「掛布は持ってきている?」
リリアーナが後ろ手に隠していた掛布を前に出して見せる。
「おいで――」
途端にリリアーナは笑顔になり、嬉しそうに駆け寄るとカウチの上によじ登った。カイトの身体は掛布の下、リリアーナは掛布の上に横になり、持って来た自分の掛布をカイトが身体に掛けてくれた。するといきなり彼の腕の中に引き寄せられる。
「え――っ?」
「ん・・・?」
「あの、少し離れてくれたほうが寝やすい・・・」
「俺はいつも寝てしまって分からないけど、すぐにこうなるんだろう?」
「でも、今はカイトが起きているから緊張する」
「大丈夫。すぐ寝てしまうから・・・」
「え、待って・・・すぐは無理でしょう・・・?」
「もうちょっ・・・と・・・」
リリアーナはカイトの身体から完全に力が抜けきるまで、緊張し続ける事となった。
次の日の朝。フランチェスカがリリアーナの朝食を持ってやってきた。
「おはよう、フランチェスカ」
「アビゲイル、ビアンカ、おはよう」
「今日は朝食二人分必要よ」
「え、何で? こんな早くに誰か来てるの?」
「カイトが真夜中に帰ってきたの。それでね、ユニコーンが・・・」
「え、本当に!?」
フランチェスカが慌ててノックをする。残念ながらユニコーンの話は耳に入ってこなかった。まだスティーブが帰って来ていないので、カイトなら理由を知っている筈と、期待をして直ぐ部屋に入る。
「あ・・・」
カウチでカイトとリリアーナが眠っていた。いつもならフランチェスカが来るまでに、リリアーナを寝室に運んでおいてくれるのだがやはり旅の疲れだろうか? 熟睡しきっている様子だ。
見慣れた光景ではあるが、リリアーナをその腕にして眠っているカイトは、とても満ち足りて見える。リリアーナも安心した様子ですやすやと眠っていた。
朝日がガラス戸から差し込み、秋も終わりの柔らかな光に包まれている二人を見ると、スティーブの件が頭から飛んでしまった。
(ベルナールがこれを見たら、絶対に描きたがるわね・・・)
溜息を吐いて、朝のひと時をお気に入りの絵画を鑑賞するように、フランチェスカはただずっと眺めていた。
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