黒の転生騎士

sierra

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第十一章

我儘姫と舞踏会 22

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 すいません!! コメントの返事に`次回で11章の最終話です ‘ と書いたのに、コメントを上げた後に、話しがどんどん長くなってしまい書き終わりませんでした(汗)。
 次回が(23話が)11章の最終話に・・・いや、明言はやめさせて頂きます。伸びた時に、申し訳ないので(>_<)

 お騒がせして申し訳ありませんでした。m(__)m



「カイト、ここへ――」

 後ろに女性騎士を控えさせているリリアーナが、威厳を持ってカイトに命じた。カイトはリリアーナの前に進み出ると、すぐに跪く。

「部屋に帰るので警護をお願いします。今日一日の警護は貴方一人にお願いするわ」
「かしこまりました」

 リリアーナが踵を返し、女性騎士達に今日はもう下がるよう命じていると、スティーブが近付いてきて、カイトのすぐ隣に跪いた。

「恐れながらリリアーナ様!」

 リリアーナが振り返ってスティーブを見下ろす。

「何かしら、スティーブ?」
「カイトはわたくしを救い出す為にやった事なのです――! それにさっきのセリフ、正しくは『その姫君は俺のものだ!!』ではなく『その姫君は俺の獲物だ!!』であります。騎士仲間ではよく悪ふざけで、話を大きくしてしまうものなのです!」

 スティーブの必死の訴えに、リリアーナがちらっと跪いている二人の間で視線を泳がせた。

「その言葉、心に留めておきましょう。カイト、参ります」
「かしこまりました」

 カイトは、小声でスティーブに声を掛ける。
「スティーブ、ありがとう」
「カイトォ・・・」

 そこに居る者達は、普段は小動物のような印象と、愛らしさを持つリリアーナの変容振りに驚いた。
 リリアーナの後ろについていたカイトは、部屋への道順を進んでいない事に気が付いた。廊下から庭園へと出て、また歩き続ける。

「リリアーナ様、どちらに行かれるのですか?」
「黙って私の後についてきて」
「はい――」

 心なしか、彼女の肩が震えて見える。

(泣かせて――、哀しませてしまったか・・・)

 カイトは自分の至らなさを後悔する。リリアーナは南東に位置する塔の階段を上り始めた。カイトも黙って付き従う。
 その塔は、昔は見張りに使われていたが、今は他の塔で事足りているために、殆ど使われていない。ただ崖のすぐ傍に建っているため、眼下の景色は素晴らしい。町とエルナウ川が見渡せるのだ。

 塔のてっぺんでリリアーナは足を止めた。肩の震えが益々大きくなる。

「リリアーナ様、いや、リリアーナ。ごめん、君を哀しませて。でも誤解なんだ、説明させてくれ・・・!」
「あ、もうだめ――」
「え?」

 リリアーナは振り返ると彼女にしては珍しく、お腹を押さえて笑い始めた。

「リリアーナ・・・?」

 カイトが戸惑っていると彼女が苦しそうに、笑いを無理に堪えて話し始める。
「ごめんなさい、カイトが皆に取り囲まれて困っていそうだったから、助け出そうとしただけなの」
「じゃあ、浮気を疑ったりは――」
「もちろん、全然してないわ」

 リリアーナはカイトに抱きついた。

「近付いてみたら、そんなに困ってはいなそうだったけど、引っ込みがつかなくなってしまって、そのまま貴方を連れ出したの」
「そうだったのか・・・でも、何故ここに?」
「特に意味はないけど。いい景色が見たかったし、私の部屋だと心配した人達が押し寄せてきそうだったから・・・」

 カイトがホッとして溜息を吐き、自分に抱きついているリリアーナを見下ろす。リリアーナもカイトを見上げていた。

「それとも、本当にベルタ姫が良かった? 彼女は私よりも若いのだもの」
「リリアーナ、あれは若いというレベルじゃない。11歳はまだ子供だ」
「じゃあ、もう少し歳が近かったら・・・?」

 カイトが ` あれ? ‘ という顔でリリアーナと視線を合わせる。

「ひょっとして、妬いている?」
「すこ・・・し・・」
「まあ、確かに話してみると、素直で可愛らしい姫君だったな」
 
 リリアーナがプイッと顔を逸らし、背を向けて離れようとした。カイトがすかさずそれを捕まえ、背後から抱き締める。

「放して! ベルタ姫が可愛いんでしょう!?」
 手足をジタバタと動かして、一生懸命離れようとする。
「ごめん・・・! リリアーナが可愛かったから、ついからかいたくなったんだ」

 カイトはリリアーナをギュッと抱きすくめると、彼女の肩越しに後ろから頬にキスをした。唇に涙が触れ、ハッとして直ぐに謝る。

「・・・悪ふざけが過ぎた。ごめん――」
 リリアーナは黙ったままだ。
「好きな子ってからかいたくなるから」

 彼女が、顔だけ振り返った。涙に濡れたその顔は驚きに満ちている。
「カイトが――?」
「大人げなかったかな?」
「というか、カイトがそんな事するなんて思ってもみなかった。いつも落ち着いているし、大人だから」
「大人というか我ながら冷めてはいるけど、君の事は特別なんだ」

 リリアーナを見つめると、振り返っているその顎に右手を添えて顔を近づけ、涙にくちづけていく。唇を重ね合わせる寸前に、カイトの口から言葉が漏れ出た。

「それに世界一愛しい女性ひとが婚約者なのに、他に目がいくわけがない」

 紅くなったリリアーナが首が痛いと根を上げるまで、カイトはキスをやめてはくれなかった。

 実はこの塔が見張り塔として使われなくなったのは、もう一つ理由がある。
 建っている地形のせいか、はたまた塔の造りのせいか、かなり広範囲の地上にいる者達に、塔の上にいる者達の会話が聞こえてしまうのだ。
 
 忍び込もうとしている敵に見張りをしている者達の、情報が知れてしまっては意味がないので、見張り塔として使われなくなったのである。

 当然、カイト達の会話も筒抜けで、ホールでの出来事を目撃した者達は、真実を知って胸を撫で下ろした。
 しかし広範囲に聞こえてしまった事もあり、二人は――、特にカイトは暫く冷やかされる事となる。

 
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