158 / 287
第十二章
腕(かいな)の中のリリアーナ 4 これはこれで悪くない
しおりを挟む
「リリアーナ様がいらっしゃらないーーー!!!」
フランチェスカの叫び声に女性騎士達が飛び込んできた。
「どうしたの!?」
「リリアーナ様がいらっしゃらないの!! どこにも! ねぇ、貴方達はちゃんと警護をしていたの!? リリアーナ様は一体どこ!?」
半ば攻めるような言い方をされたが、フランチェスカの心配する気持ちは痛いほど分かる。アビゲイルはグッと堪えて冷静に答えた。
「フランチェスカ落ち着いて。扉からは出てこなかったわ」
カタン、と音がして3人でバルコニーに目を向けると、ガラス戸がわずかに開いていた。
「まさかバルコニーから――!!」
3人で飛び出して、下を見下ろしほっとする。
「ここから落ちてはいないようね。でも何故ガラス戸が開いていたのかしら?」
フランチェスカがもう一度、辺りを見渡した。
「自分ではここから抜けだせないわ。もしかして以前のあのユニコーンの仕業かも……」
「私達だけでは埒が明かない。応援を頼みましょう!!」
ジャネットは騎士団の本部へと走った。アビゲイルは城の使用人達へ連絡をしに、フランチェスカはカイトを探して東屋へと向かう。
今ではみんな大騒ぎで探し回る中、フランチェスカは庭園の小道を走り東屋に駆け込んだ。
「カイ――っ!」
大声で名前を呼ぶのをすんでのところで止める。そこで目にしたものは仰向けで寝ているカイトの上で、腹ばいになって眠るリリアーナの姿だった。頭をカイトの胸に乗せ、すやすやと幸せそうな顔で眠っている。
「何か、恋人同士というよりは、歳の離れた兄妹みたい――」
リリアーナがいた事にほっとして、身体から力が抜け暫くの間眺めていると
「ん……? 何だフランか……」
フランの気配に気付いたのか、カイトが目を覚ました。寝惚け眼でフランを見上げている。
「カイト、お腹に誰を乗っけているか分かる?」
「え……? うわっ、リリアーナ様。どうりで暖かいと……いや、それより何でここに?」
「私が聞きたいぐらいよ、いきなり部屋からいなくなっちゃったの。いまは城中大騒ぎよ」
「まずいな――リリアーナ様を抱っこしてくれないか? 俺がひとっ走りして連絡してくる」
「私が行くから貴方が抱っこして部屋まで連れて帰ってちょうだい」
「それは……泣いてしまうだろう?」
「泣かないかもよ?」
そうこうしている内に、リリアーナが目を覚ました。カイトは顎を引き締め大泣きされる覚悟をしたが、視線が合い……ゆっくりと、まるで蕾がほころぶように笑顔を浮かべた。
カイトがぽかんとすると、フランチェスカが機嫌良く手を振りながら東屋から出て行く。
「私が連絡しておくから、後はよろしくね~」
「え? 後はよろしくって――おい!」
大きな声を上げ、しまったと慌ててリリアーナに視線を戻すと、じっとカイトを観察している。
「リリアーナ様、起き上がりますよ?」
起きた拍子に落とさないよう、小さな身体に両手を添えて、ゆっくりとベンチの上で上体を起こした。眠気覚ましに頭を振ると、リリアーナも真似をして頭を振る。
その仕草が何とも可愛らしくクスリと笑いを零すと、彼女もクスクスと笑い出す。膝の上に乗っている愛らしい、天使のようなリリアーナ。
カイトは口を片手で覆って顔を顰めた。
やばい……俺はロリコンではないはずだが……
「リリアーナ様、お部屋に戻りましょう」
怖がらないように、そっとリリアーナを両手で抱き上げると、カイトは東屋を出て城への道を辿った。
フランチェスカがしっかりと連絡をしてくれたようで、周りの騒ぎは収まっていた。しかしカイトを見ては大泣きしていたリリアーナが、素直に抱かれている姿は見る者達を驚かせ、行き交う人々の視線を集めた。
じろじろ見られるのが怖いのか、リリアーナがカイトにピッタリと身を寄せてくる。
「リリアーナ様。皆の視線が怖かったら目をお瞑りになって下さい」
リリアーナはコクンと頷くと、カイトの首に両手を回してぎゅっと目を瞑った。カイトが先を急いでリリアーナの私室前までくると、アビゲイルとジャネットがほっとした様子を見せた後に、やはり驚きの表情を浮かべた。
部屋に入り、リリアーナに声を掛ける。
「着きましたよ、リリアーナ様」
リリアーナが目を開けて、首から手を離したところで静かに床へ下ろした。
「それではこれで失礼いたします――」
一礼をして退室しようとすると、まだ何かを言いたげにこちらをじっと見上げている。跪いて問いかけた。
「何か仰りたい事があるのですか?」
リリアーナは手を後ろに組んで、もじもじしながら上目遣いで打ち明ける。
「カイトはあずやまにもどっちゃうの……?」
「はい、そのつもりですが、リリアーナ様。あずやまではなくあずまやです」
「あずまや?」
「はい、そうです」
カイトが微笑むと、リリアーナは少し恥かしそうに笑顔を見せた。そしてまたもじもじとする。
彼がふと顔を上げると、フランチェスカがリリアーナの後ろでティーカップを指差して何かサインを送ってきている。
これは……
「その……もし、よろしかったら……お茶をご一緒させて頂いてもよろしいでしょうか?」
雲の間から陽が差したように、リリアーナの顔がぱあっと明るくなった。
カイトは笑みを返して立ち上がる。
「そのままにはしておけないので、東屋に置いてきた本を取って参ります」
「早くもどってきてね!」
「はい――」
廊下に出たところで、女性騎士達から好奇心に満ち溢れた目を向けられる。
事の顛末を聞きたいが任務中であるし……! とジレンマに陥いっているようであった。カイトは若干目線を外して、足早に前を通り過ぎる。
帰りもその視線に晒され、本を片手に部屋に戻るとリリアーナが駆け寄ってきた。カイトの手を取って待ちきれない、とばかりにソファの自分の席の横に引っ張っていく。
その後は話をしながらお茶と菓子を頂き、ままごとに付き合い、カイトが読書をするとリリアーナは傍で絵本を読んだ。
視線を感じて顔を上げると、リリアーナが絵本を読む振りをしながら、カイトをじっと見ている。
目が合うとほっぺを赤くし、本で顔を隠した。カイトが口元をほころばせる。
「おおかみがとっとこ、やってきました。うさぎさんは、穴からしっぽだけを……」
穏やかな時間が過ぎていき、これはこれで悪くないと目を和ませた。
フランチェスカの叫び声に女性騎士達が飛び込んできた。
「どうしたの!?」
「リリアーナ様がいらっしゃらないの!! どこにも! ねぇ、貴方達はちゃんと警護をしていたの!? リリアーナ様は一体どこ!?」
半ば攻めるような言い方をされたが、フランチェスカの心配する気持ちは痛いほど分かる。アビゲイルはグッと堪えて冷静に答えた。
「フランチェスカ落ち着いて。扉からは出てこなかったわ」
カタン、と音がして3人でバルコニーに目を向けると、ガラス戸がわずかに開いていた。
「まさかバルコニーから――!!」
3人で飛び出して、下を見下ろしほっとする。
「ここから落ちてはいないようね。でも何故ガラス戸が開いていたのかしら?」
フランチェスカがもう一度、辺りを見渡した。
「自分ではここから抜けだせないわ。もしかして以前のあのユニコーンの仕業かも……」
「私達だけでは埒が明かない。応援を頼みましょう!!」
ジャネットは騎士団の本部へと走った。アビゲイルは城の使用人達へ連絡をしに、フランチェスカはカイトを探して東屋へと向かう。
今ではみんな大騒ぎで探し回る中、フランチェスカは庭園の小道を走り東屋に駆け込んだ。
「カイ――っ!」
大声で名前を呼ぶのをすんでのところで止める。そこで目にしたものは仰向けで寝ているカイトの上で、腹ばいになって眠るリリアーナの姿だった。頭をカイトの胸に乗せ、すやすやと幸せそうな顔で眠っている。
「何か、恋人同士というよりは、歳の離れた兄妹みたい――」
リリアーナがいた事にほっとして、身体から力が抜け暫くの間眺めていると
「ん……? 何だフランか……」
フランの気配に気付いたのか、カイトが目を覚ました。寝惚け眼でフランを見上げている。
「カイト、お腹に誰を乗っけているか分かる?」
「え……? うわっ、リリアーナ様。どうりで暖かいと……いや、それより何でここに?」
「私が聞きたいぐらいよ、いきなり部屋からいなくなっちゃったの。いまは城中大騒ぎよ」
「まずいな――リリアーナ様を抱っこしてくれないか? 俺がひとっ走りして連絡してくる」
「私が行くから貴方が抱っこして部屋まで連れて帰ってちょうだい」
「それは……泣いてしまうだろう?」
「泣かないかもよ?」
そうこうしている内に、リリアーナが目を覚ました。カイトは顎を引き締め大泣きされる覚悟をしたが、視線が合い……ゆっくりと、まるで蕾がほころぶように笑顔を浮かべた。
カイトがぽかんとすると、フランチェスカが機嫌良く手を振りながら東屋から出て行く。
「私が連絡しておくから、後はよろしくね~」
「え? 後はよろしくって――おい!」
大きな声を上げ、しまったと慌ててリリアーナに視線を戻すと、じっとカイトを観察している。
「リリアーナ様、起き上がりますよ?」
起きた拍子に落とさないよう、小さな身体に両手を添えて、ゆっくりとベンチの上で上体を起こした。眠気覚ましに頭を振ると、リリアーナも真似をして頭を振る。
その仕草が何とも可愛らしくクスリと笑いを零すと、彼女もクスクスと笑い出す。膝の上に乗っている愛らしい、天使のようなリリアーナ。
カイトは口を片手で覆って顔を顰めた。
やばい……俺はロリコンではないはずだが……
「リリアーナ様、お部屋に戻りましょう」
怖がらないように、そっとリリアーナを両手で抱き上げると、カイトは東屋を出て城への道を辿った。
フランチェスカがしっかりと連絡をしてくれたようで、周りの騒ぎは収まっていた。しかしカイトを見ては大泣きしていたリリアーナが、素直に抱かれている姿は見る者達を驚かせ、行き交う人々の視線を集めた。
じろじろ見られるのが怖いのか、リリアーナがカイトにピッタリと身を寄せてくる。
「リリアーナ様。皆の視線が怖かったら目をお瞑りになって下さい」
リリアーナはコクンと頷くと、カイトの首に両手を回してぎゅっと目を瞑った。カイトが先を急いでリリアーナの私室前までくると、アビゲイルとジャネットがほっとした様子を見せた後に、やはり驚きの表情を浮かべた。
部屋に入り、リリアーナに声を掛ける。
「着きましたよ、リリアーナ様」
リリアーナが目を開けて、首から手を離したところで静かに床へ下ろした。
「それではこれで失礼いたします――」
一礼をして退室しようとすると、まだ何かを言いたげにこちらをじっと見上げている。跪いて問いかけた。
「何か仰りたい事があるのですか?」
リリアーナは手を後ろに組んで、もじもじしながら上目遣いで打ち明ける。
「カイトはあずやまにもどっちゃうの……?」
「はい、そのつもりですが、リリアーナ様。あずやまではなくあずまやです」
「あずまや?」
「はい、そうです」
カイトが微笑むと、リリアーナは少し恥かしそうに笑顔を見せた。そしてまたもじもじとする。
彼がふと顔を上げると、フランチェスカがリリアーナの後ろでティーカップを指差して何かサインを送ってきている。
これは……
「その……もし、よろしかったら……お茶をご一緒させて頂いてもよろしいでしょうか?」
雲の間から陽が差したように、リリアーナの顔がぱあっと明るくなった。
カイトは笑みを返して立ち上がる。
「そのままにはしておけないので、東屋に置いてきた本を取って参ります」
「早くもどってきてね!」
「はい――」
廊下に出たところで、女性騎士達から好奇心に満ち溢れた目を向けられる。
事の顛末を聞きたいが任務中であるし……! とジレンマに陥いっているようであった。カイトは若干目線を外して、足早に前を通り過ぎる。
帰りもその視線に晒され、本を片手に部屋に戻るとリリアーナが駆け寄ってきた。カイトの手を取って待ちきれない、とばかりにソファの自分の席の横に引っ張っていく。
その後は話をしながらお茶と菓子を頂き、ままごとに付き合い、カイトが読書をするとリリアーナは傍で絵本を読んだ。
視線を感じて顔を上げると、リリアーナが絵本を読む振りをしながら、カイトをじっと見ている。
目が合うとほっぺを赤くし、本で顔を隠した。カイトが口元をほころばせる。
「おおかみがとっとこ、やってきました。うさぎさんは、穴からしっぽだけを……」
穏やかな時間が過ぎていき、これはこれで悪くないと目を和ませた。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います
こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。
※「小説家になろう」にも投稿しています
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる