黒の転生騎士

sierra

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第十二章

腕(かいな)の中のリリアーナ 4  これはこれで悪くない

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「リリアーナ様がいらっしゃらないーーー!!!」

フランチェスカの叫び声に女性騎士達が飛び込んできた。

「どうしたの!?」
「リリアーナ様がいらっしゃらないの!! どこにも! ねぇ、貴方達はちゃんと警護をしていたの!? リリアーナ様は一体どこ!?」

半ば攻めるような言い方をされたが、フランチェスカの心配する気持ちは痛いほど分かる。アビゲイルはグッと堪えて冷静に答えた。

「フランチェスカ落ち着いて。扉からは出てこなかったわ」

カタン、と音がして3人でバルコニーに目を向けると、ガラス戸がわずかに開いていた。

「まさかバルコニーから――!!」

3人で飛び出して、下を見下ろしほっとする。

「ここから落ちてはいないようね。でも何故ガラス戸が開いていたのかしら?」
フランチェスカがもう一度、辺りを見渡した。

「自分ではここから抜けだせないわ。もしかして以前のあのユニコーンの仕業かも……」
「私達だけでは埒が明かない。応援を頼みましょう!!」
ジャネットは騎士団の本部へと走った。アビゲイルは城の使用人達へ連絡をしに、フランチェスカはカイトを探して東屋へと向かう。
今ではみんな大騒ぎで探し回る中、フランチェスカは庭園の小道を走り東屋に駆け込んだ。

「カイ――っ!」

大声で名前を呼ぶのをすんでのところで止める。そこで目にしたものは仰向けで寝ているカイトの上で、腹ばいになって眠るリリアーナの姿だった。頭をカイトの胸に乗せ、すやすやと幸せそうな顔で眠っている。

「何か、恋人同士というよりは、歳の離れた兄妹みたい――」

リリアーナがいた事にほっとして、身体から力が抜け暫くの間眺めていると

「ん……? 何だフランか……」

フランの気配に気付いたのか、カイトが目を覚ました。寝惚けまなこでフランを見上げている。

「カイト、お腹に誰を乗っけているか分かる?」
「え……? うわっ、リリアーナ様。どうりで暖かいと……いや、それより何でここに?」
「私が聞きたいぐらいよ、いきなり部屋からいなくなっちゃったの。いまは城中大騒ぎよ」
「まずいな――リリアーナ様を抱っこしてくれないか? 俺がひとっ走りして連絡してくる」
「私が行くから貴方が抱っこして部屋まで連れて帰ってちょうだい」
「それは……泣いてしまうだろう?」
「泣かないかもよ?」

そうこうしている内に、リリアーナが目を覚ました。カイトは顎を引き締め大泣きされる覚悟をしたが、視線が合い……ゆっくりと、まるで蕾がほころぶように笑顔を浮かべた。
カイトがぽかんとすると、フランチェスカが機嫌良く手を振りながら東屋から出て行く。

「私が連絡しておくから、後はよろしくね~」
「え? 後はよろしくって――おい!」

大きな声を上げ、しまったと慌ててリリアーナに視線を戻すと、じっとカイトを観察している。

「リリアーナ様、起き上がりますよ?」

起きた拍子に落とさないよう、小さな身体に両手を添えて、ゆっくりとベンチの上で上体を起こした。眠気覚ましに頭を振ると、リリアーナも真似をして頭を振る。
その仕草が何とも可愛らしくクスリと笑いを零すと、彼女もクスクスと笑い出す。膝の上に乗っている愛らしい、天使のようなリリアーナ。
カイトは口を片手で覆って顔を顰めた。

やばい……俺はロリコンではないはずだが……

「リリアーナ様、お部屋に戻りましょう」

怖がらないように、そっとリリアーナを両手で抱き上げると、カイトは東屋を出て城への道を辿った。
フランチェスカがしっかりと連絡をしてくれたようで、周りの騒ぎは収まっていた。しかしカイトを見ては大泣きしていたリリアーナが、素直に抱かれている姿は見る者達を驚かせ、行き交う人々の視線を集めた。

じろじろ見られるのが怖いのか、リリアーナがカイトにピッタリと身を寄せてくる。

「リリアーナ様。皆の視線が怖かったら目をお瞑りになって下さい」

リリアーナはコクンと頷くと、カイトの首に両手を回してぎゅっと目を瞑った。カイトが先を急いでリリアーナの私室前までくると、アビゲイルとジャネットがほっとした様子を見せた後に、やはり驚きの表情を浮かべた。
部屋に入り、リリアーナに声を掛ける。

「着きましたよ、リリアーナ様」

リリアーナが目を開けて、首から手を離したところで静かに床へ下ろした。

「それではこれで失礼いたします――」
一礼をして退室しようとすると、まだ何かを言いたげにこちらをじっと見上げている。跪いて問いかけた。

「何か仰りたい事があるのですか?」

リリアーナは手を後ろに組んで、もじもじしながら上目遣いで打ち明ける。

「カイトはあずやまにもどっちゃうの……?」
「はい、そのつもりですが、リリアーナ様。あずやまではなくあずまやです」
「あずまや?」
「はい、そうです」

カイトが微笑むと、リリアーナは少し恥かしそうに笑顔を見せた。そしてまたもじもじとする。
彼がふと顔を上げると、フランチェスカがリリアーナの後ろでティーカップを指差して何かサインを送ってきている。

これは……
「その……もし、よろしかったら……お茶をご一緒させて頂いてもよろしいでしょうか?」
 
雲の間から陽が差したように、リリアーナの顔がぱあっと明るくなった。
カイトは笑みを返して立ち上がる。

「そのままにはしておけないので、東屋に置いてきた本を取って参ります」
「早くもどってきてね!」
「はい――」

廊下に出たところで、女性騎士達から好奇心に満ち溢れた目を向けられる。
事の顛末を聞きたいが任務中であるし……! とジレンマに陥いっているようであった。カイトは若干目線を外して、足早に前を通り過ぎる。

帰りもその視線に晒され、本を片手に部屋に戻るとリリアーナが駆け寄ってきた。カイトの手を取って待ちきれない、とばかりにソファの自分の席の横に引っ張っていく。
その後は話をしながらお茶と菓子を頂き、ままごとに付き合い、カイトが読書をするとリリアーナは傍で絵本を読んだ。

視線を感じて顔を上げると、リリアーナが絵本を読む振りをしながら、カイトをじっと見ている。
目が合うとほっぺを赤くし、本で顔を隠した。カイトが口元をほころばせる。

「おおかみがとっとこ、やってきました。うさぎさんは、穴からしっぽだけを……」

穏やかな時間が過ぎていき、これはこれで悪くないと目を和ませた。

 
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