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第十二章
腕(かいな)の中のリリアーナ 15 ロリコンのルイス王子
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「アレクセイ兄様、どうなさったの?」
クリスティアナの問いかけに対して、苦虫を噛み潰したような顔で呟いた。
「ラトヴィッジの神殿から、リリアーナを巫女として差し出せと言ってきた」
「何の話? 他所の国の神殿なんてリーフシュタインとは関係ないじゃない。それにあそこの神殿はもう殆ど力を失っているわよね?」
サファイアが訝しげな顔をする。
「確かにそうなんだが……まだ神殿に対する信仰が厚かった頃は、望まれたら近隣の国から巫女を差し出さないと、いけないことになっていたらしい」
「そんな話聞いた事もないわ」
「ああ、俺も父上から聞いた話で、何でも百年以上も前の話だそうだ」
二人の姫君が絶句する。サファイアが馬鹿馬鹿しいとばかりに口を開いた。
「そんなの、今の時代に意味がないわ。無視しましょうよ」
「そうしたいところだが契約書が残っている。執務室の古いファイルの中だ」
「でも百年以上前の契約書なのでしょう?」
「ああ、ただ商売や事業と違って神殿に巫女を差し出すという性質上、この契約には期限がない。当時はうちを含めた近隣諸国がラトヴィッジの神殿の世話になっていた。今のように衰退してしまうとは思ってもいなかったんだろう」
「それじゃあ黙ってリリアーナを差し出さないといけないの!? 」
二人の姉姫が同時に叫ぶ。
「いや……この話しには裏があるんだ」
「裏って……?」
クリスティアナが目を瞬いた。
「実はこの間ラトヴィッジのルイス王子からリリアーナに求婚の申し入れがあった」
「さっきからラトヴィッジで何か思い出しそうだったんだけど、あのルイス王子よね!?」
サファイアが目を剥いた。
「そうだ。俺の大学時代の同級生、思い出したくもない`ロリコンのルイス ‘ だ! あいつ~~~、当時もリリアーナを狙ってはいたんだ。俺達が18歳の時に、12歳のリリアーナに熱を上げていたからな。ここにきて、まさかの幼児化で自分の趣味に限りなく合致したから……!」
「うげぇ……気持ち悪い。堂々と5歳児に結婚を申し込む神経が分からないわ」
クリスティナが目を細める。
「もしかして、巫女の話は口実?」
「ああ、俺が電光石火で求婚の申し入れを蹴ったから、古い契約書を探し出してきたんだろう」
「巫女の話しが口実なら彼は何を望んでいるの?」
アレクセイは持っていた書簡を声に出して読み始めた。
「`もし、巫女の話を受け入れ難い場合は、元学友のよしみで神殿に口を利いてもいい。但し、その引き替えとしてリーフシュタイン城への招待を願う ‘ あとは……カイトの空手の技や、模範試合も見たいと書いてきている」
サファイアが顔を顰めた。
「カイトの空手の技まで……一体何を企んでいるのかしら?」
「まだ分からないが、よからぬ事を考えているのだけは確かだな。それにこの申し入れの厄介なところは、ルイスが口実にしている神殿の話しが、本物かもしれないという点だ」
「百年も言ってこなかったのに、今更?」
「ああ。呪い説の他にリリアーナが幼児化したのは`不思議な神の力のせいだ ‘ という説もある。まあ、これはある意味正しいのだが……神殿の力が衰退した今、手に入れたリリアーナを神格化して信者を増やそうと、復興を企てていても何らおかしくはない」
「アデレードお祖母様のもとに身を寄せるのは? 前にもお付きの騎士に攫われそうになった後に、しばらく療養していた事があるじゃない?」
「ダメよクリスティアナ姉様。カイトは馬鹿ルイスに空手を披露しないといけないから、警護についていけないのよ?」
クリスティアナが溜め息をつく。
「確かにそうね。カイトが警護につかないのは心配だわ」
「まだ返事を出していないし、時間はある。何か手立てを考えよう」
「そうね。アレクセイ兄様」
二人の姉姫も頷いた。
嫌々ながらもアレクセイが招待状を出した。できうる限り時間を掛けてラトヴィッジ王国へ届くようにと、遠回りの郵送経路を選んだにも拘らず、速攻で返事が返ってきた。
「何でこんなに早いんだ……?」
「城門辺りで待ち構えていたんじゃない?」
「サファイア、お前は何だって執務室にいる?」
「だって、気になるんだもの。ベイジルに返事が届いたらすぐ教えるよう頼んでおいたの」
「我が城では秘密が持てないな」
苦笑しながらペーパーナイフで封を切り、手紙を取り出して目を通した。
「あいつ……本当に城門前で張っていたのかも……」
「どうしたの?」
「月曜日に到着って、日にちを指定してきた!」
「月曜日って……」
ここで二人の声が重なる。
「4日後……」
「何それっ!? 手紙が着いたと同時に出発したとしか思えない!? なんてど厚かましい!」
「もう時間稼ぎもできないな。至急、対策会議を開かなければ……しかしサファイア、姫君なんだから言葉遣いに気をつけて」
「ごめんなさい。アレクセイ兄様」
「まあ、お前の気持ちも分かるがな」
本当に腹立たしい事この上ない……! 多分こちらが時間稼ぎをすると踏んで、日にちを指定してきたのだろう。サファイアの言う通り、もう出発をしているだろうし、日にち変更もできやしない。
唯一の救いは、行事も王族の公務の予定も何にも入っていないという事だ。主だった騎士は殆ど城にいるし、全員で結束すればリリアーナに害を及ぼすのを防げるだろう。
緊急会議を開かなければ――
クリスティアナの問いかけに対して、苦虫を噛み潰したような顔で呟いた。
「ラトヴィッジの神殿から、リリアーナを巫女として差し出せと言ってきた」
「何の話? 他所の国の神殿なんてリーフシュタインとは関係ないじゃない。それにあそこの神殿はもう殆ど力を失っているわよね?」
サファイアが訝しげな顔をする。
「確かにそうなんだが……まだ神殿に対する信仰が厚かった頃は、望まれたら近隣の国から巫女を差し出さないと、いけないことになっていたらしい」
「そんな話聞いた事もないわ」
「ああ、俺も父上から聞いた話で、何でも百年以上も前の話だそうだ」
二人の姫君が絶句する。サファイアが馬鹿馬鹿しいとばかりに口を開いた。
「そんなの、今の時代に意味がないわ。無視しましょうよ」
「そうしたいところだが契約書が残っている。執務室の古いファイルの中だ」
「でも百年以上前の契約書なのでしょう?」
「ああ、ただ商売や事業と違って神殿に巫女を差し出すという性質上、この契約には期限がない。当時はうちを含めた近隣諸国がラトヴィッジの神殿の世話になっていた。今のように衰退してしまうとは思ってもいなかったんだろう」
「それじゃあ黙ってリリアーナを差し出さないといけないの!? 」
二人の姉姫が同時に叫ぶ。
「いや……この話しには裏があるんだ」
「裏って……?」
クリスティアナが目を瞬いた。
「実はこの間ラトヴィッジのルイス王子からリリアーナに求婚の申し入れがあった」
「さっきからラトヴィッジで何か思い出しそうだったんだけど、あのルイス王子よね!?」
サファイアが目を剥いた。
「そうだ。俺の大学時代の同級生、思い出したくもない`ロリコンのルイス ‘ だ! あいつ~~~、当時もリリアーナを狙ってはいたんだ。俺達が18歳の時に、12歳のリリアーナに熱を上げていたからな。ここにきて、まさかの幼児化で自分の趣味に限りなく合致したから……!」
「うげぇ……気持ち悪い。堂々と5歳児に結婚を申し込む神経が分からないわ」
クリスティナが目を細める。
「もしかして、巫女の話は口実?」
「ああ、俺が電光石火で求婚の申し入れを蹴ったから、古い契約書を探し出してきたんだろう」
「巫女の話しが口実なら彼は何を望んでいるの?」
アレクセイは持っていた書簡を声に出して読み始めた。
「`もし、巫女の話を受け入れ難い場合は、元学友のよしみで神殿に口を利いてもいい。但し、その引き替えとしてリーフシュタイン城への招待を願う ‘ あとは……カイトの空手の技や、模範試合も見たいと書いてきている」
サファイアが顔を顰めた。
「カイトの空手の技まで……一体何を企んでいるのかしら?」
「まだ分からないが、よからぬ事を考えているのだけは確かだな。それにこの申し入れの厄介なところは、ルイスが口実にしている神殿の話しが、本物かもしれないという点だ」
「百年も言ってこなかったのに、今更?」
「ああ。呪い説の他にリリアーナが幼児化したのは`不思議な神の力のせいだ ‘ という説もある。まあ、これはある意味正しいのだが……神殿の力が衰退した今、手に入れたリリアーナを神格化して信者を増やそうと、復興を企てていても何らおかしくはない」
「アデレードお祖母様のもとに身を寄せるのは? 前にもお付きの騎士に攫われそうになった後に、しばらく療養していた事があるじゃない?」
「ダメよクリスティアナ姉様。カイトは馬鹿ルイスに空手を披露しないといけないから、警護についていけないのよ?」
クリスティアナが溜め息をつく。
「確かにそうね。カイトが警護につかないのは心配だわ」
「まだ返事を出していないし、時間はある。何か手立てを考えよう」
「そうね。アレクセイ兄様」
二人の姉姫も頷いた。
嫌々ながらもアレクセイが招待状を出した。できうる限り時間を掛けてラトヴィッジ王国へ届くようにと、遠回りの郵送経路を選んだにも拘らず、速攻で返事が返ってきた。
「何でこんなに早いんだ……?」
「城門辺りで待ち構えていたんじゃない?」
「サファイア、お前は何だって執務室にいる?」
「だって、気になるんだもの。ベイジルに返事が届いたらすぐ教えるよう頼んでおいたの」
「我が城では秘密が持てないな」
苦笑しながらペーパーナイフで封を切り、手紙を取り出して目を通した。
「あいつ……本当に城門前で張っていたのかも……」
「どうしたの?」
「月曜日に到着って、日にちを指定してきた!」
「月曜日って……」
ここで二人の声が重なる。
「4日後……」
「何それっ!? 手紙が着いたと同時に出発したとしか思えない!? なんてど厚かましい!」
「もう時間稼ぎもできないな。至急、対策会議を開かなければ……しかしサファイア、姫君なんだから言葉遣いに気をつけて」
「ごめんなさい。アレクセイ兄様」
「まあ、お前の気持ちも分かるがな」
本当に腹立たしい事この上ない……! 多分こちらが時間稼ぎをすると踏んで、日にちを指定してきたのだろう。サファイアの言う通り、もう出発をしているだろうし、日にち変更もできやしない。
唯一の救いは、行事も王族の公務の予定も何にも入っていないという事だ。主だった騎士は殆ど城にいるし、全員で結束すればリリアーナに害を及ぼすのを防げるだろう。
緊急会議を開かなければ――
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