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第十二章
腕(かいな)の中のリリアーナ 16 ジャネットの意見
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一番大きい会議室は召集された人々で溢れ返り、要職に就いている者達は中央にある長いテーブルにつく事ができたが、それ以外は立席での参加となった。
「カイトの立ち番は全部夜に回そう」
アレクセイの言葉に全員で頷く。
「そうですね。昼間は騎士も使用人達も数多く立ち働いているし、連れ去ったり手を出すのは難しいでしょう。夜間はカイトを部屋の警護に立てて、警備の騎士も増やして……昼間もカイトの就寝中は増強する事にしましょう」
イフリートの言葉の後にサイラスが続く。
「城門の警備の騎士も増員をし、出入りのチェックも厳しくして、城の巡回数も増やします」
二人の言葉にアレクセイが頷く。
「頼む。それから、ルイスがいる間は絶対にリリアーナを、部屋から出さないように」
「かしこまりました」
フランチェスカと女性騎士達が揃って返事をした。
「普段、私達女性陣は会議の時に蚊帳の外なのに、なぜ今回は入れたのかしら? それに騎士見習いまでいるわよね?」
ジャネットの言葉にフランチェスカが答える。
「急を要するから、決定事項を全員に伝達する時間を省きたいのと、私達の意見も取り入れたいのですって」
「え!? 私達の意見も採用されるの!?」
リーフシュタインでの女性の地位は他国に比べると高いが、公の場での意見などは王族以外まだ許されていない。
「そこ、会議中に私語は慎め。それとも何か意見でもあるのか?」
イフリートに注意を受け、ジャネットが赤くなりながらも勇気を振り絞って口を開いた。
「い、意見を出してもよろしいのでしょうか?」
「もちろんだ。君の意見を聞かせてくれ」
今度はアレクセイから直接求められて、緊張に声を震わせながらジャネットは意見を述べ始めた。何せこういった場所での発言は初めてなのだ。
「ちょっ、直接の警護の件ですが、女性騎士を中心にはしないで、男性騎士も組み込んではどうでしょうか? 今のリリアーナ様は男性恐怖症ではありませんし、我が国の女性騎士は優秀ではありますが、力技ではやはり男性には及びません」
「ふっ、自分達を指して優秀などと……`無能で自信が無いから ‘ と、素直に口にすればいいものを……」
席についている貴族の一人が口髭を弄りながら、馬鹿にしたように鼻で笑う。細身で身だしなみに気を使っているその男は、そこはかとなく意地悪な性格が滲み出ていた。
ジャネットは真っ赤になる。
「私は、リリアーナ様の為に万全を期したいだけで!」
「おお、怖い……下品な騎士はすぐ怒鳴る。`弱い犬ほどよく吠える ‘ という諺をご存知か?」
確かに`優秀 ‘ という言葉を使わずに謙るべきだったかもしれない。しかし、極度に緊張しているのと、自分達は力では敵わなくても、それを補って戦う術を持っている。そう、優秀であると自負しているからこそ、胸を張ってリリアーナ様付きの騎士でいられるのだ。その思いがそのまま口から出てしまったのである。
警護で万全を期する為にと、自分が出した意見がそう取られてしまうとは……。
悔しさと、他の女性騎士達も同様に見られたのかと思うと、申し訳なさも込み上げてきて、ぎゅっと拳を握り締めた。
「オルブライト公、出て行ってくれたまえ――」
全員の視線がアレクセイに集中をする中、彼はにこやかに微笑んで出口を指し示した。
「ここに君の席はない。とっとと退席してくれ」
「ア、アレクセイ様、一体何を……!」
「彼女に意見を求めたのは私だ。なぜ君がその意見を馬鹿にする? 遠回しに彼女に意見を求めた私を馬鹿にしているのか……?」
「い、いえ、滅相もございません!」
「君は私の気分を害した。彼女に詫びを入れて退室したまえ」
「し、しかし……この程度で女に頭を下げて退室など……」
アレクセイのこめかみがピクリと引きつる。それまでとは笑顔の質が変わり、底に憤怒を湛えたものになった。その迫力たるや、見るものを心底震わせる。
「オルブライト……女性騎士を選出したのは国王陛下だ。君は陛下が自らの手で選んだ女性騎士にケチをつけたんだぞ? 父上は私以上に容赦が無いのを知っているだろう? 今回の件を知ったら一体どうなるか……」
真っ青になったオルブライトの狼狽えぶりは見ものだった。
「も、申し訳ありませんでした!!」
「私ではなく、ジャネットに謝ってくれたまえ」
「ジャネット、大変申し訳ないことを言った。愚かな私を許してくれるだろうか……?」
オルブライトはジャネットに阿るような視線を向ける。
「あ、は、はい。許します」
「ありがとう! 恩に着るよ……!」
彼は逃げるように退室をした。
「ジャネット、申し訳なかった。嫌な思いをさせてしまったね」
「い、いいえ……! 勿体無いお言葉です。ありがとうございます!」
この瞬間から女性騎士の間で、結婚したい男性NO1はアレクセイとなる。
「まだアイデアがあるのではないかい? 聞かせてくれるかな」
「はい! 喜んで……!」
サイラスが小声でアレクセイに告げる。
「国王陛下を前面に押し出して、上手に事を収めたましたね」
「ただの虎の威を借る狐さ」
「いえ、もしアレクセイ様が怒りに任せて叱責をし謝らせていたら、オルブライトは恥をかかせたと逆恨みをして、ジャネットは酷い嫌がらせを受けていたに違いありません。お見事な手腕でした」
「お前に褒められるとは光栄だ」
二人で顔を見合わせて思わず笑いを零した。
「さあ、ジャネットの話を聞かなければ」
「先程の話しの続きになりますが、男性騎士に女性騎士を混ぜる形にするのがいいかと思います。リリアーナ様は女性は平気ですが極少数の男性以外の抱っこは甚だしく嫌がるので、カイトがいない場合も考慮して、逃げる時に抱き上げて逃げる役が必要かと」
「それなら逃げる時に支障をきたさないな」
アレクセイは頷いてから、最後にカイトと視線を合わせた。
「カイトの立ち番は全部夜に回そう」
アレクセイの言葉に全員で頷く。
「そうですね。昼間は騎士も使用人達も数多く立ち働いているし、連れ去ったり手を出すのは難しいでしょう。夜間はカイトを部屋の警護に立てて、警備の騎士も増やして……昼間もカイトの就寝中は増強する事にしましょう」
イフリートの言葉の後にサイラスが続く。
「城門の警備の騎士も増員をし、出入りのチェックも厳しくして、城の巡回数も増やします」
二人の言葉にアレクセイが頷く。
「頼む。それから、ルイスがいる間は絶対にリリアーナを、部屋から出さないように」
「かしこまりました」
フランチェスカと女性騎士達が揃って返事をした。
「普段、私達女性陣は会議の時に蚊帳の外なのに、なぜ今回は入れたのかしら? それに騎士見習いまでいるわよね?」
ジャネットの言葉にフランチェスカが答える。
「急を要するから、決定事項を全員に伝達する時間を省きたいのと、私達の意見も取り入れたいのですって」
「え!? 私達の意見も採用されるの!?」
リーフシュタインでの女性の地位は他国に比べると高いが、公の場での意見などは王族以外まだ許されていない。
「そこ、会議中に私語は慎め。それとも何か意見でもあるのか?」
イフリートに注意を受け、ジャネットが赤くなりながらも勇気を振り絞って口を開いた。
「い、意見を出してもよろしいのでしょうか?」
「もちろんだ。君の意見を聞かせてくれ」
今度はアレクセイから直接求められて、緊張に声を震わせながらジャネットは意見を述べ始めた。何せこういった場所での発言は初めてなのだ。
「ちょっ、直接の警護の件ですが、女性騎士を中心にはしないで、男性騎士も組み込んではどうでしょうか? 今のリリアーナ様は男性恐怖症ではありませんし、我が国の女性騎士は優秀ではありますが、力技ではやはり男性には及びません」
「ふっ、自分達を指して優秀などと……`無能で自信が無いから ‘ と、素直に口にすればいいものを……」
席についている貴族の一人が口髭を弄りながら、馬鹿にしたように鼻で笑う。細身で身だしなみに気を使っているその男は、そこはかとなく意地悪な性格が滲み出ていた。
ジャネットは真っ赤になる。
「私は、リリアーナ様の為に万全を期したいだけで!」
「おお、怖い……下品な騎士はすぐ怒鳴る。`弱い犬ほどよく吠える ‘ という諺をご存知か?」
確かに`優秀 ‘ という言葉を使わずに謙るべきだったかもしれない。しかし、極度に緊張しているのと、自分達は力では敵わなくても、それを補って戦う術を持っている。そう、優秀であると自負しているからこそ、胸を張ってリリアーナ様付きの騎士でいられるのだ。その思いがそのまま口から出てしまったのである。
警護で万全を期する為にと、自分が出した意見がそう取られてしまうとは……。
悔しさと、他の女性騎士達も同様に見られたのかと思うと、申し訳なさも込み上げてきて、ぎゅっと拳を握り締めた。
「オルブライト公、出て行ってくれたまえ――」
全員の視線がアレクセイに集中をする中、彼はにこやかに微笑んで出口を指し示した。
「ここに君の席はない。とっとと退席してくれ」
「ア、アレクセイ様、一体何を……!」
「彼女に意見を求めたのは私だ。なぜ君がその意見を馬鹿にする? 遠回しに彼女に意見を求めた私を馬鹿にしているのか……?」
「い、いえ、滅相もございません!」
「君は私の気分を害した。彼女に詫びを入れて退室したまえ」
「し、しかし……この程度で女に頭を下げて退室など……」
アレクセイのこめかみがピクリと引きつる。それまでとは笑顔の質が変わり、底に憤怒を湛えたものになった。その迫力たるや、見るものを心底震わせる。
「オルブライト……女性騎士を選出したのは国王陛下だ。君は陛下が自らの手で選んだ女性騎士にケチをつけたんだぞ? 父上は私以上に容赦が無いのを知っているだろう? 今回の件を知ったら一体どうなるか……」
真っ青になったオルブライトの狼狽えぶりは見ものだった。
「も、申し訳ありませんでした!!」
「私ではなく、ジャネットに謝ってくれたまえ」
「ジャネット、大変申し訳ないことを言った。愚かな私を許してくれるだろうか……?」
オルブライトはジャネットに阿るような視線を向ける。
「あ、は、はい。許します」
「ありがとう! 恩に着るよ……!」
彼は逃げるように退室をした。
「ジャネット、申し訳なかった。嫌な思いをさせてしまったね」
「い、いいえ……! 勿体無いお言葉です。ありがとうございます!」
この瞬間から女性騎士の間で、結婚したい男性NO1はアレクセイとなる。
「まだアイデアがあるのではないかい? 聞かせてくれるかな」
「はい! 喜んで……!」
サイラスが小声でアレクセイに告げる。
「国王陛下を前面に押し出して、上手に事を収めたましたね」
「ただの虎の威を借る狐さ」
「いえ、もしアレクセイ様が怒りに任せて叱責をし謝らせていたら、オルブライトは恥をかかせたと逆恨みをして、ジャネットは酷い嫌がらせを受けていたに違いありません。お見事な手腕でした」
「お前に褒められるとは光栄だ」
二人で顔を見合わせて思わず笑いを零した。
「さあ、ジャネットの話を聞かなければ」
「先程の話しの続きになりますが、男性騎士に女性騎士を混ぜる形にするのがいいかと思います。リリアーナ様は女性は平気ですが極少数の男性以外の抱っこは甚だしく嫌がるので、カイトがいない場合も考慮して、逃げる時に抱き上げて逃げる役が必要かと」
「それなら逃げる時に支障をきたさないな」
アレクセイは頷いてから、最後にカイトと視線を合わせた。
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