黒の転生騎士

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第十二章

腕(かいな)の中のリリアーナ 31  ウッチーを抱き上げて、ほっぺたをぷーっと膨らまして

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「リリアーナ様、中に入りましょう」
こくんと頷くと、フランチェスカに抱っこされて大人しく部屋の中へと運ばれていく。
項垂うなだれて言葉もなく、ソファに下ろされると大きな瞳からぽろぽろと涙を零した。
四人の騎士はフランチェスカに任せるのが一番だと判断をし、静かに部屋を退室していく。

「リリアーナ様、大丈夫です。カイトがリリアーナ様以外の女性を好きになるなんてことは有り得ません。あれはきっと何か考えがあっての行動でしょう」
「そうなの……?」
「そうですとも」
「でも、キルスティンはとてもきれい……カイトと同じおとなで……」

リリアーナはしくしくと……と言いたいところだがそこは子供 。`うっ、うぇっ…うぇ~ん!!‘ と泣き出した。

「リリアーナ様のほうが何倍も綺麗ですし、お可愛らしいです。それに、あの真面目なカイトが職務に反するような事をするとは思えません」
「しょくむに反するって?」
「`やるべき仕事をしないで、その仕事に背くようなことをする ‘ という意味です」
「うん……」
「カイトが帰ってきたら、私がきちんと話を聞きますからご安心下さい」

フランチェスカは自信ありげで、彼女を信頼しているリリアーナは徐々に気持ちが落ち着いてきた。傍にあったうさぎのウッチーを抱きしめ、これまたうさぎ柄のブランケットも手でにぎにぎしている内にいつの間にか眠ってしまった。

「さて、カイトが帰ってきたら詳しく話を聞かないと。私の姫様を泣かせた責任は重いわよ……」
物騒なことを言いながらフランチェスカはリリアーナの身体を横たわらせ、そっと丁寧にブランケットをかけた。


こちらは廊下に出た四人の騎士――

「ねぇ、どう思う?」
「絶対カイトに何か思惑があるんだと思う」

ビアンカの問いにアビゲイルが答える。

「そうよね~、だってリリアーナ様いのち――のカイトが、いくら美人でも他の女性に靡くなんて信じられないもの」
「でも、そうしたら色仕掛けという事ですか?」

デニスの一言で波紋が広がった。
「確かにさっきの場面を見たらそうとしか思えない」
「いや、カイトに限ってそれはないと思うぞ?」 
「でも、そうしたらさっきの場面は……」

堂々巡りをしているうちに回廊の先にカイトの姿が見えた。そして、その隣には……

「マジかよ……」

キルスティンと談笑しながらこちらへ向かって歩いてくるところだった。皆で息を詰めて注視しているというのに、二人は顔に微笑さえ浮かべて優雅な足取りで近付いてくる。

「遅くなってすまない。スティーブ、ビアンカもまだいたのか? 休憩に入らなくていいのか?」
「休憩に入らなくていいのか? じゃないぞ。カイト」
「そうよ、一体これは……」

その言葉を遮るようにいつもは軋まない扉が、ギギギ……と音を響かせて開いた。

「カイト、お帰りなさい。是非二人きりで話したい事があるんだけ……何故このおん、お方がここにいるの!?」

 この女、と言い掛けたな、と他の者達は考える。

「こちらのお方はキルスティン様で……」
「そんな事は知っているわよ」

フランチェスカはカイトを少し離れた場所に連れていき、キルスティンや皆から背を向けると、声を落として質問をした。

「何故ここにいるかという事よ」
「何でそんなに怒っているんだ――?」
「怒るに決まっているじゃない。まさか色仕掛け? 色仕掛けなの!?」
「そんな風に見えていたのか――」

興味深そうな顔をしたカイトの胸倉をヒートアップしてしまったフランが掴み、フランの肩をアビゲイルがつつく。
「何よアビゲイル! 後にして!」
「でも、ほら、段々大きくなってきたその声で……」

二人して振り返ると、扉から顔を覗かせたリリアーナが二人を見ていた。次にその瞳はキルスティンを捉え、みるみる涙が盛り上がっていく。

「リ、リリアーナ様……」
フランが後悔の表情を見せる中、カイトが近付いて跪こうとすると、てててと走り去り、ソファからウッチーを抱き上げて窓辺まで行ってしまった。
カイトはすぐ傍まで駆け寄り、跪いて右側から声をかけた。

「リリアーナ様」

リリアーナは涙を流しながら、ほっぺたをぷーっと膨らまして身体ごと左を向く。左から覗き込むと右を向く。何回かそれを繰り返し、埒が明かないので説明を始めた。

「先程の光景は、キルスティン様は悪いお方には見えないので、上手く話を聞き出せないかと探りを入れていたものです」
「ゆ、ゆび……」
「あれは、キルスティン様が毒のある植物で指を傷つけたので、その毒を吸い出していました」
「えっ」

思わずカイトの顔を見ると、優しく微笑みを返された。リリアーナは`騙されない!‘ とばかりに首を振る。

「そのあとも手をずっと持って、カイトはずっと見てた! キルスティンは赤いお顔だった!」 
「彼女の手は貴族の手ではありませんでした。あの手は普段炊事や洗濯をしているもので、ましてや公爵令嬢の手でもありません。その疑問を直接ぶつけていたのです」
「でも! でも……!」
「はい」

カイトの真摯な受け答えに、真実だという事を理解したリリアーナは安心した途端、堰を切ったように泣き始めた。ウッチーごと抱き寄せられて、腕の中でうわんうわんと泣いている。

入り口から二人を傍観をしていた一行は事の経緯いきさつを知り、今度はキルスティンを振り返った。
キルスティンは微笑みながら説明をする。

「サー・カイトの仰る通りです。私はルイス王子に雇われた、ただの一国民です。でも正直なところ、指の毒を吸われたり、あの黒い瞳で見つめられたりした時はドキドキして赤くなってしまいましたが」

女性陣が`その気持ちは分かる ‘ とうんうん頷いた。

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