黒の転生騎士

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第十二章

腕(かいな)の中のリリアーナ 30  許可します

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以下カイトの回想――

「如何ですか? リリアーナ様」
「カイト! これすごーく面白い! サンドバックよりずっといい!」
「お気に召して頂けて良かったです」

羊の胃を洗って干した物に空気を入れボールを作り、そのままだと`胃 ‘ そのものなので、羊さん柄の生地で巻いてみた。
天井の梁からロープで吊り下げられたそれは、役目としてはサンドバックというより、部屋を縦横無尽にくるくると飛び回る遊具となった。

「カイト! ボールを手で止めないで! もっと大きくブンブンと振るから!」
「壊れたらいけないので貴重品を片付けましょう」
「フランチェスカに向けて、いきなり振ったらびっくりする!?」
「フランチェスカだとぶつかって危険だと思います。騎士ならば…今日の警護兵のスティーブならいきなりでも避けると、思いますが」

リリアーナの顔が期待で光り輝く。
「よけるとこ見てみたい! きっとかっこいい!」

「――と、いう訳だ」
「やらせてくれ!! もう一度!」
「お前、往復二回ぶつかっただろう……顔も腫れてるし、やめたほうがいいぞ……」

ビアンカがリリアーナに近付いて一礼をした。
「リリアーナ様、カイトと少し話をしてもよろしいでしょうか?」
「許可します」

クリスティアナやサファイアの真似をして、おすましして物を言うリリアーナが可愛く、ビアンカは思わず笑いを堪えた。
「あ、ありがとうございます――」
「何だい? ビアンカ」
「女子の訓練場にもサンドバックを作ってくれないかしら?」
「構わないが、第二訓練場のは男女兼用で作った筈だけど、何か不都合でも?」
「だって……あそこ男性騎士が多くて、練習を始めるとすぐ声を掛けてくるから落ち着かないのよ」
「ああ、確かに」

独身の男性騎士が、お近づきになるチャーンス! とばかりに女性騎士に声を掛ける姿がよく見受けられる。

「イフリート団長や、サイラス副団長……あと私達が困った顔をした時は、カイトも男共を散らしてくれるけど、普段は本当に邪魔なの」
「分かる~」

警護の交替でやってきたアビゲイルが話しに入ってきた。後ろにはやはり交替のデニスがいる。
「ほんっと厄介なのよねぇ」
「話しかけてくるのって、例えば誰がいるの?」

フランチェスカの問いに、二人の女性騎士はスティーブの顔をじっと見た。彼の顔は限りなく青に近い。
「ふーん……よく分かったわ……リリアーナ様、私も少しスティーブと話しをしてきてよろしいでしょうか……?」
「許可します」
「り、リリアーナ様。俺は早退させて頂きたいのですが…」
「そんなの許可しないわよ! さっさといらっしゃい!」
「俺はやり方を教えようとしただけで~~~!」

引きずるようにフランチェスカに連れて行かれるのを、皆で静かに見送った。

「じゃあ、私達は警護につくわね」
「私は休憩に入らせて頂くわ」
アビゲイルとデニスとビアンカが、リリアーナに一礼をしている時にカイトが声を上げた。

「申し訳ない! ビアンカ、リリアーナ様についていてもらえないか? スティーブが帰ってきたら、彼と代わって休憩に入ってくれ」
「いいけど、どうし……」

みなまで聞かず、カイトは飛び出していった。リリアーナがきょとんとした顔でいる。

「カイト……どうしたの……?」
「そうですよね。確かガラス戸の外を見た途端に飛んで行きましたが……」

騎士三人で、バルコニーに通じるガラス戸の外に視線を向ける。一瞬の間のあと……。

「リリアーナ様、ボールで遊びましょう!」
「私達は警備に戻りますね!」

その少し慌てた様子にリリアーナは`おかしい!‘ と考える。
三人は背が高い為に、部屋の中からでも外の景色を見渡せるが、リリアーナだとバルコニーの床や手摺りが邪魔をして見渡せない。ガラス戸から出ようとすると、三人に止められた。

「リリアーナ様、バルコニーは……その…危険です!」

立ちはだかるビアンカにリリアーナの顔が `ますます怪しい ‘ と曇っていく。

リリアーナ(今まで危険なんて言われたことはなかったのに!)
ビアンカ (うわぁ~これ、めちゃくちゃ疑っている~~~!) 

子供だけにストレートに表情に出て、ビアンカ+他二名も冷や汗を掻き始めた。
そこに少しボロけたスティーブとフランが戻ってくる。

「うん……どうしたんだ。カイトは?」
リリアーナがすかさず駆け寄って両手を伸ばす。
「リリアーナ様、俺に抱っこを強請るなんて珍しいですね」

「スティーブ! だめ!」
「え……?」

三人が注意しようとした時には、もう腕に抱き上げていた。その高さからリリアーナとスティーブの目に映ったものは、カイトとキルスティンが仲睦まじく連れ立って庭園を散策する姿。

これは……!
スティーブが固まり、慌ててリリアーナを下ろそうとすると、命令を下された。

「おろすことはゆるしません!」
「はい……!」

さすが5歳児でもプリンセス! 威厳と迫力半端ない……!(周りの心の声) 

「バルコニーに出ます!」
リリアーナの声に何故か全員でバルコニーへ背を低くして出ると、二人を観察し始めた。
リリアーナも今では下ろしてもらい、手摺りの間から二人を見ている。スティーブが振り返って注意をした。

「何でお前達まで出てくるんだよ」
「だってリリアーナ様の警護ですもの」
「ビアンカはもう、休憩だろう?」
「申し送りがまだですもの」
「しずかにしてください!」
「……はい」

バルコニーは静まり返ったが、さすがに距離がありすぎて何を話しているかまでは分からない。ただひたすら観察するのみである。
当の二人は和やかな雰囲気の中で話しながら、笑ったり驚いたり微笑みあったり、その光景はまるで恋人同士だ。
見ていて全員気付いたが、何故かカイトが人目につかないほうへと、さりげなくキルスティンを誘導している。
バルコニー内の緊張がどんどん高まる中、キルスティンがふと引っ込めた手を、カイトが掴んで引き寄せて、その細くて美しい指を口に含んだ。

キルスティンが頬を赤く染めたのが遠目でも分かる。カイトはその後も引っ込めようとする彼女の手を引き戻し、指先から顔まで視線をゆっくりと移していった。
今ではキルスティンの耳まで赤くなっている。

皆がごくりと唾を飲み込み、リリアーナをそっと伺う。
リリアーナは顔をくしゃくしゃにさせて、瞳からは大粒の涙が溢れ出ていた。

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