183 / 287
第十二章
腕(かいな)の中のリリアーナ 29 `サンドバッグ ‘ って言うんですって
しおりを挟む
「クリスティアナ、早く食べなくていいのか?」
「え?」
「あの二人の食事が終わったみたいだぞ。サファイアの鬱憤晴らしに付き合わされるんだろう?」
「あ……」
そのサファイアが凄い勢いでやってきて、二人の間に割って入った。
「姉様、すぐ私の部屋に行きましょう!」
「サファイア、私はまだ食べているのよ? 急いで済ませるから待ってちょうだい」
アレクセイは苦笑交じりに退席をし、ルイス王子の後から食堂を出ていった。結局食後のお茶もそこそこに、クリスティアナはサファイアに連れていかれる。
「これは一体なぁに? サファイア」
サファイアの部屋には天井から吊り下げられた丸くて細長い物体があった。
「カイトが作ってくれたの。壁を何度か拳で叩いて、手を傷めたところを見られてしまって」
その時の事を思い出し恥かしく思ったのか、珍しく顔を赤くしてサファイアが話を続ける。
「`サンドバッグ ‘ って言うんですって。これは砂でなくて綿が入っているんだけど」
「よくできているわね」
「そうなのよ! このサンドバッグもそうだけど、天井の梁に吊り下げるなんて考えもつかなかったわ。それにこれ、手を傷めないよう打つ時はこの布を手に巻くようにって`バンテージ ‘ っていうそうよ」
「彼は若いのに本当に体術のことを……ううん、体術以外にも色々なことを知っているのね」
「そうなの。じいやと似ているわよね? 物知りで」
サファイアはバンテージを巻いて、サンドバッグに向けて打ち込んだ。
「カイトはもう、リーフシュタインになくてはならない人物なのだから、リリアーナと結婚をして、ずっといてもらわないと!」
そしてもう一発思いっきりヘビーなパンチを叩き込む。
「その為にもあの腹の立つルイス王子をギタギタにして追い出してやる! `嫁ぎ先が決まらない ‘ なんて大きなお世話よ!! 明日は完膚なきまでに言い負かしてやるんだから!」
`あら、意外と気にしていたのね ‘ とサファイアを見ると、サンドバッグをタコ殴りにしていた。
部屋の中から楽しそうな子供の笑い声が聞こえてきた。
「カイト、カイト! 止めないで! もっと大きくゆらすから!」
「分かりました。では、周りの貴重品を片付けますのでお待ち下さい」
今日の警護のスティーブとビアンカが、扉に耳をつけて中の様子を伺っている。
「あんた達、立ち番だって自覚ある……?」
「フ、フランチェスカ! いや、だって気になるだろう? リリアーナ様のあのはしゃぎよう」
「ここのところ外出できなくて塞ぎがちだったから、益々中で何をやっているのか気になっちゃって」
「しようがないわねぇ」
慌てるスティーブとビアンカにフランチェスカは溜息をつくと、扉をノックしようとした。中からカイトの声がする。
「フランチェスカ、先にスティーブを入れてくれないか?」
「カイト、ノックの前によく気付いたわね」
「俺が入ればいいんだな」
フランチェスカと入れ替わり、ノブを回して扉を開け…
「あ、そうだ。スティーブ気をつけて――」
「え……?」
フランの声に振り返ると、後頭部を何かが直撃して火花が目から飛び散った。
「いでぇええ!!!…」
「スティーブしゃがめ!」
カイトの声と同時に今度は顔面を直撃した。
「な、何すんだよカイト!」
「ごめん……なさい……」
見るとリリアーナがカイトの足にしがみついて、すまなそうにこちらを伺っている。
(と、いうことは今のは……)
スティーブはすっと姿勢を正す。
「大変いい当たり具合でした――」
フランとアビゲイルがぷっと吹き出す。
「スティーブ悪い。お前なら避けられると思ったから、俺がやらせたんだ」
続いてフランが謝る。
「私が悪いの。それが飛んでくるかと思ったから変なタイミングで声を掛けちゃって、ごめんなさい」
スティーブが部屋に入りながら構わない、と手を振る。
「もういいさ。一体これは何だ?」
居間の真ん中に、梁からロープで吊るされたボールのような物が、低い位置でぶらぶらしている。
「リリアーナ様にサンドバッグを作ってくれと言われたんだが、あれは5歳児にはまだ扱えないから代わりにこれを――」
「ああ、あのサファイア様の部屋にあるやつか。お前、第二訓練場にも作っただろう?」
カイトが頷いた。
「イフリート団長がサファイア様の部屋にあるのをご覧になって`これは訓練に使える ‘ と第二訓練場にも作るよう言われたんだ」
「それで……何で俺にぶつけさせた?」
「もういいんじゃなかったのか? 実はさっき……」
「え?」
「あの二人の食事が終わったみたいだぞ。サファイアの鬱憤晴らしに付き合わされるんだろう?」
「あ……」
そのサファイアが凄い勢いでやってきて、二人の間に割って入った。
「姉様、すぐ私の部屋に行きましょう!」
「サファイア、私はまだ食べているのよ? 急いで済ませるから待ってちょうだい」
アレクセイは苦笑交じりに退席をし、ルイス王子の後から食堂を出ていった。結局食後のお茶もそこそこに、クリスティアナはサファイアに連れていかれる。
「これは一体なぁに? サファイア」
サファイアの部屋には天井から吊り下げられた丸くて細長い物体があった。
「カイトが作ってくれたの。壁を何度か拳で叩いて、手を傷めたところを見られてしまって」
その時の事を思い出し恥かしく思ったのか、珍しく顔を赤くしてサファイアが話を続ける。
「`サンドバッグ ‘ って言うんですって。これは砂でなくて綿が入っているんだけど」
「よくできているわね」
「そうなのよ! このサンドバッグもそうだけど、天井の梁に吊り下げるなんて考えもつかなかったわ。それにこれ、手を傷めないよう打つ時はこの布を手に巻くようにって`バンテージ ‘ っていうそうよ」
「彼は若いのに本当に体術のことを……ううん、体術以外にも色々なことを知っているのね」
「そうなの。じいやと似ているわよね? 物知りで」
サファイアはバンテージを巻いて、サンドバッグに向けて打ち込んだ。
「カイトはもう、リーフシュタインになくてはならない人物なのだから、リリアーナと結婚をして、ずっといてもらわないと!」
そしてもう一発思いっきりヘビーなパンチを叩き込む。
「その為にもあの腹の立つルイス王子をギタギタにして追い出してやる! `嫁ぎ先が決まらない ‘ なんて大きなお世話よ!! 明日は完膚なきまでに言い負かしてやるんだから!」
`あら、意外と気にしていたのね ‘ とサファイアを見ると、サンドバッグをタコ殴りにしていた。
部屋の中から楽しそうな子供の笑い声が聞こえてきた。
「カイト、カイト! 止めないで! もっと大きくゆらすから!」
「分かりました。では、周りの貴重品を片付けますのでお待ち下さい」
今日の警護のスティーブとビアンカが、扉に耳をつけて中の様子を伺っている。
「あんた達、立ち番だって自覚ある……?」
「フ、フランチェスカ! いや、だって気になるだろう? リリアーナ様のあのはしゃぎよう」
「ここのところ外出できなくて塞ぎがちだったから、益々中で何をやっているのか気になっちゃって」
「しようがないわねぇ」
慌てるスティーブとビアンカにフランチェスカは溜息をつくと、扉をノックしようとした。中からカイトの声がする。
「フランチェスカ、先にスティーブを入れてくれないか?」
「カイト、ノックの前によく気付いたわね」
「俺が入ればいいんだな」
フランチェスカと入れ替わり、ノブを回して扉を開け…
「あ、そうだ。スティーブ気をつけて――」
「え……?」
フランの声に振り返ると、後頭部を何かが直撃して火花が目から飛び散った。
「いでぇええ!!!…」
「スティーブしゃがめ!」
カイトの声と同時に今度は顔面を直撃した。
「な、何すんだよカイト!」
「ごめん……なさい……」
見るとリリアーナがカイトの足にしがみついて、すまなそうにこちらを伺っている。
(と、いうことは今のは……)
スティーブはすっと姿勢を正す。
「大変いい当たり具合でした――」
フランとアビゲイルがぷっと吹き出す。
「スティーブ悪い。お前なら避けられると思ったから、俺がやらせたんだ」
続いてフランが謝る。
「私が悪いの。それが飛んでくるかと思ったから変なタイミングで声を掛けちゃって、ごめんなさい」
スティーブが部屋に入りながら構わない、と手を振る。
「もういいさ。一体これは何だ?」
居間の真ん中に、梁からロープで吊るされたボールのような物が、低い位置でぶらぶらしている。
「リリアーナ様にサンドバッグを作ってくれと言われたんだが、あれは5歳児にはまだ扱えないから代わりにこれを――」
「ああ、あのサファイア様の部屋にあるやつか。お前、第二訓練場にも作っただろう?」
カイトが頷いた。
「イフリート団長がサファイア様の部屋にあるのをご覧になって`これは訓練に使える ‘ と第二訓練場にも作るよう言われたんだ」
「それで……何で俺にぶつけさせた?」
「もういいんじゃなかったのか? 実はさっき……」
0
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる