182 / 287
第十二章
腕(かいな)の中のリリアーナ 28 ぷっくりしたほっぺも真っ赤
しおりを挟む
「カイト――」
リリアーナが両腕を伸ばしてきたので、カイトはベッドの上からすぐに抱き上げた。
「大丈夫ですか?」
彼女はコクンと頷いて、彼の肩に顔を伏せる。
ルイスは本当に魔法の杖をくれるのかな……? 彼が魔法使いなのは本当みたいだけど、杖を使ってわたしを捕まえようとしているのかもしれない……でも、魔法の杖はすごく、すごぉく欲しい――
思い悩んでいる彼女の様子を気にしながらも、カイトが声を掛けた。
「居間に参りましょう」
リリアーナがまた頷いて移動する間、いつもと違うカイトの姿が目に入る。5歳の彼女は騎士服以外の彼を目にするのは初めてだ。
丸首で胸の辺りまでボタンがついている麻のシャツはそのボタンが外れて前がはだけ、ラフな感じのカイトも素敵だ……と子供ながらにリリアーナは赤くなった。
「リリアーナ様、顔が赤いですね……熱があるかもしれません、失礼いたします」
カイトはそう言うとリリアーナのおでこに自分のそれをこつんと当てた。
「熱は……ないようです。わっ、リリアーナ様!?」
リリアーナは益々顔を赤く染め、ぷっくりしたほっぺも真っ赤になった。
「じいやに診てもらいましょう」
「え、じいや――?」
カイトが医務室に行く為に、廊下に出ようと歩き始めたのを、リリアーナがカイトの肩をポンポン叩き慌てて止める。
「だいじょうぶ! とっても元気!」
彼が足を止めてリリアーナの顔をじっと見る。
「ただ……じいやの煎じ薬を飲むのが嫌なだけではないですか? 気持ちは分かりますが `良薬は口に苦し ‘ という言葉もありますし……」
リリアーナがきょとんする。
「それ分からない」
カイトが苦笑した。
「……申し訳ありません、難しい話しですね……いえ、それ以前にこの世界の言葉ではありませんでした。16歳のリリアーナ様には話したことがあるのですが……`良い薬ほど苦くて飲みづらいが、病気を直すには優れた効き目がある ‘ という意味です」
「この世界……?」
カイトはリリアーナの頭を撫でて、目を和ませた。
「もう少し大きくなったらお話させて頂きます」
「………」
リリアーナは16歳の自分に少し嫉妬をする。
カイトは時々部屋に飾ってある16歳のリリアーナの絵をじっと見ている事があった。
その絵`恋人を待つリリアーナ ‘ は、一人掛け用の椅子に座り柔らかい光の中、恋人を待っている。
頬を薔薇色に染めて、碧い瞳は喜びと期待に輝き、愛し愛される乙女の美しさと心情が見事に描き表されていた。
とても綺麗だとは思うし、自分が将来こんな風に成長するのは嬉しくもあるが、カイトが絵眺めながら時折見せる切なげな瞳は、幼いリリアーナの胸をちくりと刺した。
カイトがまたじいやのところに行こうとして、リリアーナが激しく抵抗を始めたところで、折りよくフランチェスカが帰ってきた。
勘の良いフランチェスカは二人のやり取りを見てピンとくる。`リリアーナ様は大丈夫だから ‘ とカイトを寝室で着替えさせた。
カイトは心配をしながらも`信頼するフランチェスカの言うことだし、本人も元気な様子だ ‘ とそれ以上は無理強いをせずにその後を一緒に過ごした。
ただ、騎士宿舎で感じたあの感覚――
最初はリリアーナの恐怖を察知して目覚めたが、すぐに何かの気を――あれは、ドラゴンのカエレスが力を使うときに受けるものとよく似ていた……
言いよどんだリリアーナも気になる。現に彼女は昼寝から起きた後、カイトから片時も離れないし様子がおかしい。
胸騒ぎがする――
守りに徹しないで、こちらからも行動を起こしたほうがいいかもしれない。
「もうそろそろお国が恋しくなりませんこと――?」
サファイアが作り笑いを浮かべながら朝食の席でルイスに話しかけた。ルイスも余裕の笑みを浮かべ返答をする。
「いいえ、全然。自然は豊かだし、食事は美味しいし、女性は美しい――いつまでいても飽きないほどです」
「まぁ、お上手。そしてお顔の皮がとても厚くていらっしゃるのね。`空気を読む ‘ っていう言葉をご存知?」
「私ほど空気を読むのに長けた人間はおりません」
「リーフシュタインの宮廷侍医は大変優秀ですのよ。ぜひ一回頭を診てもらうことをお奨めしますわ」
「ご親切にありがとうございます。ではご一緒にいかがですか? サファイア様は口の利きかたを診てもらうといいと思います。そのままだと嫁ぎ先が決まらないでしょうから」
「こちらこそありがとうございます。でも私の心配よりご自分の心配をなさったほうがいいのではないかしら? 神の教えに背くような性癖をお持ちですものね」
ここで二人は視線を合わせてにっこりと微笑みを交わした。
「怖い……異常に険悪なのに表向きだけ和やかって、とても怖い……アレクセイ兄様、わたし居た堪れないんだけど」
「そうか? 慣れると結構面白いぞ、この二人のやり取り。確か昨日は`跡取りの第一王子が長期間、国を空けるなんてとても信じられないわぁ。とっとと帰れ ‘ を遠まわしに言ったところから始まったよな」
アレクセイは朝食をたいらげていく。
クリスティアナは兄のその様子に感心をした。
さすが、次代のリーフシュタインを背負っていく人物だけある……この一触即発な空気の中`面白い‘ と観察をしながら、平気で食事ができるなんて。
リリアーナが両腕を伸ばしてきたので、カイトはベッドの上からすぐに抱き上げた。
「大丈夫ですか?」
彼女はコクンと頷いて、彼の肩に顔を伏せる。
ルイスは本当に魔法の杖をくれるのかな……? 彼が魔法使いなのは本当みたいだけど、杖を使ってわたしを捕まえようとしているのかもしれない……でも、魔法の杖はすごく、すごぉく欲しい――
思い悩んでいる彼女の様子を気にしながらも、カイトが声を掛けた。
「居間に参りましょう」
リリアーナがまた頷いて移動する間、いつもと違うカイトの姿が目に入る。5歳の彼女は騎士服以外の彼を目にするのは初めてだ。
丸首で胸の辺りまでボタンがついている麻のシャツはそのボタンが外れて前がはだけ、ラフな感じのカイトも素敵だ……と子供ながらにリリアーナは赤くなった。
「リリアーナ様、顔が赤いですね……熱があるかもしれません、失礼いたします」
カイトはそう言うとリリアーナのおでこに自分のそれをこつんと当てた。
「熱は……ないようです。わっ、リリアーナ様!?」
リリアーナは益々顔を赤く染め、ぷっくりしたほっぺも真っ赤になった。
「じいやに診てもらいましょう」
「え、じいや――?」
カイトが医務室に行く為に、廊下に出ようと歩き始めたのを、リリアーナがカイトの肩をポンポン叩き慌てて止める。
「だいじょうぶ! とっても元気!」
彼が足を止めてリリアーナの顔をじっと見る。
「ただ……じいやの煎じ薬を飲むのが嫌なだけではないですか? 気持ちは分かりますが `良薬は口に苦し ‘ という言葉もありますし……」
リリアーナがきょとんする。
「それ分からない」
カイトが苦笑した。
「……申し訳ありません、難しい話しですね……いえ、それ以前にこの世界の言葉ではありませんでした。16歳のリリアーナ様には話したことがあるのですが……`良い薬ほど苦くて飲みづらいが、病気を直すには優れた効き目がある ‘ という意味です」
「この世界……?」
カイトはリリアーナの頭を撫でて、目を和ませた。
「もう少し大きくなったらお話させて頂きます」
「………」
リリアーナは16歳の自分に少し嫉妬をする。
カイトは時々部屋に飾ってある16歳のリリアーナの絵をじっと見ている事があった。
その絵`恋人を待つリリアーナ ‘ は、一人掛け用の椅子に座り柔らかい光の中、恋人を待っている。
頬を薔薇色に染めて、碧い瞳は喜びと期待に輝き、愛し愛される乙女の美しさと心情が見事に描き表されていた。
とても綺麗だとは思うし、自分が将来こんな風に成長するのは嬉しくもあるが、カイトが絵眺めながら時折見せる切なげな瞳は、幼いリリアーナの胸をちくりと刺した。
カイトがまたじいやのところに行こうとして、リリアーナが激しく抵抗を始めたところで、折りよくフランチェスカが帰ってきた。
勘の良いフランチェスカは二人のやり取りを見てピンとくる。`リリアーナ様は大丈夫だから ‘ とカイトを寝室で着替えさせた。
カイトは心配をしながらも`信頼するフランチェスカの言うことだし、本人も元気な様子だ ‘ とそれ以上は無理強いをせずにその後を一緒に過ごした。
ただ、騎士宿舎で感じたあの感覚――
最初はリリアーナの恐怖を察知して目覚めたが、すぐに何かの気を――あれは、ドラゴンのカエレスが力を使うときに受けるものとよく似ていた……
言いよどんだリリアーナも気になる。現に彼女は昼寝から起きた後、カイトから片時も離れないし様子がおかしい。
胸騒ぎがする――
守りに徹しないで、こちらからも行動を起こしたほうがいいかもしれない。
「もうそろそろお国が恋しくなりませんこと――?」
サファイアが作り笑いを浮かべながら朝食の席でルイスに話しかけた。ルイスも余裕の笑みを浮かべ返答をする。
「いいえ、全然。自然は豊かだし、食事は美味しいし、女性は美しい――いつまでいても飽きないほどです」
「まぁ、お上手。そしてお顔の皮がとても厚くていらっしゃるのね。`空気を読む ‘ っていう言葉をご存知?」
「私ほど空気を読むのに長けた人間はおりません」
「リーフシュタインの宮廷侍医は大変優秀ですのよ。ぜひ一回頭を診てもらうことをお奨めしますわ」
「ご親切にありがとうございます。ではご一緒にいかがですか? サファイア様は口の利きかたを診てもらうといいと思います。そのままだと嫁ぎ先が決まらないでしょうから」
「こちらこそありがとうございます。でも私の心配よりご自分の心配をなさったほうがいいのではないかしら? 神の教えに背くような性癖をお持ちですものね」
ここで二人は視線を合わせてにっこりと微笑みを交わした。
「怖い……異常に険悪なのに表向きだけ和やかって、とても怖い……アレクセイ兄様、わたし居た堪れないんだけど」
「そうか? 慣れると結構面白いぞ、この二人のやり取り。確か昨日は`跡取りの第一王子が長期間、国を空けるなんてとても信じられないわぁ。とっとと帰れ ‘ を遠まわしに言ったところから始まったよな」
アレクセイは朝食をたいらげていく。
クリスティアナは兄のその様子に感心をした。
さすが、次代のリーフシュタインを背負っていく人物だけある……この一触即発な空気の中`面白い‘ と観察をしながら、平気で食事ができるなんて。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います
こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。
※「小説家になろう」にも投稿しています
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる