黒の転生騎士

sierra

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第十二章

腕(かいな)の中のリリアーナ 28  ぷっくりしたほっぺも真っ赤

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「カイト――」

リリアーナが両腕を伸ばしてきたので、カイトはベッドの上からすぐに抱き上げた。

「大丈夫ですか?」
彼女はコクンと頷いて、彼の肩に顔を伏せる。

ルイスは本当に魔法の杖をくれるのかな……? 彼が魔法使いなのは本当みたいだけど、杖を使ってわたしを捕まえようとしているのかもしれない……でも、魔法の杖はすごく、すごぉく欲しい――

思い悩んでいる彼女の様子を気にしながらも、カイトが声を掛けた。

「居間に参りましょう」

リリアーナがまた頷いて移動する間、いつもと違うカイトの姿が目に入る。5歳の彼女は騎士服以外の彼を目にするのは初めてだ。
丸首で胸の辺りまでボタンがついている麻のシャツはそのボタンが外れて前がはだけ、ラフな感じのカイトも素敵だ……と子供ながらにリリアーナは赤くなった。

「リリアーナ様、顔が赤いですね……熱があるかもしれません、失礼いたします」

カイトはそう言うとリリアーナのおでこに自分のそれをこつんと当てた。

「熱は……ないようです。わっ、リリアーナ様!?」

リリアーナは益々顔を赤く染め、ぷっくりしたほっぺも真っ赤になった。

「じいやに診てもらいましょう」
「え、じいや――?」

カイトが医務室に行く為に、廊下に出ようと歩き始めたのを、リリアーナがカイトの肩をポンポン叩き慌てて止める。

「だいじょうぶ! とっても元気!」

彼が足を止めてリリアーナの顔をじっと見る。

「ただ……じいやの煎じ薬を飲むのが嫌なだけではないですか? 気持ちは分かりますが `良薬は口に苦し ‘  という言葉もありますし……」

リリアーナがきょとんする。
「それ分からない」

カイトが苦笑した。
「……申し訳ありません、難しい話しですね……いえ、それ以前にこの世界の言葉ではありませんでした。16歳のリリアーナ様には話したことがあるのですが……`良い薬ほど苦くて飲みづらいが、病気を直すには優れた効き目がある ‘ という意味です」
「この世界……?」

カイトはリリアーナの頭を撫でて、目を和ませた。
「もう少し大きくなったらお話させて頂きます」
「………」

リリアーナは16歳の自分に少し嫉妬をする。
カイトは時々部屋に飾ってある16歳のリリアーナの絵をじっと見ている事があった。
その絵`恋人を待つリリアーナ ‘ は、一人掛け用の椅子に座り柔らかい光の中、恋人を待っている。
頬を薔薇色に染めて、碧い瞳は喜びと期待に輝き、愛し愛される乙女の美しさと心情が見事に描き表されていた。
とても綺麗だとは思うし、自分が将来こんな風に成長するのは嬉しくもあるが、カイトが絵眺めながら時折見せる切なげな瞳は、幼いリリアーナの胸をちくりと刺した。

カイトがまたじいやのところに行こうとして、リリアーナが激しく抵抗を始めたところで、折りよくフランチェスカが帰ってきた。
勘の良いフランチェスカは二人のやり取りを見てピンとくる。`リリアーナ様は大丈夫だから ‘ とカイトを寝室で着替えさせた。
カイトは心配をしながらも`信頼するフランチェスカの言うことだし、本人も元気な様子だ ‘ とそれ以上は無理強いをせずにその後を一緒に過ごした。

ただ、騎士宿舎で感じたあの感覚――
最初はリリアーナの恐怖を察知して目覚めたが、すぐに何かの気を――あれは、ドラゴンのカエレスが力を使うときに受けるものとよく似ていた……
言いよどんだリリアーナも気になる。現に彼女は昼寝から起きた後、カイトから片時も離れないし様子がおかしい。

胸騒ぎがする――
守りに徹しないで、こちらからも行動を起こしたほうがいいかもしれない。


「もうそろそろお国が恋しくなりませんこと――?」

サファイアが作り笑いを浮かべながら朝食の席でルイスに話しかけた。ルイスも余裕の笑みを浮かべ返答をする。

「いいえ、全然。自然は豊かだし、食事は美味しいし、女性は美しい――いつまでいても飽きないほどです」
「まぁ、お上手。そしてお顔の皮がとても厚くていらっしゃるのね。`空気を読む ‘ っていう言葉をご存知?」
「私ほど空気を読むのにけた人間はおりません」
「リーフシュタインの宮廷侍医は大変優秀ですのよ。ぜひ一回頭を診てもらうことをお奨めしますわ」
「ご親切にありがとうございます。ではご一緒にいかがですか? サファイア様は口の利きかたを診てもらうといいと思います。そのままだと嫁ぎ先が決まらないでしょうから」
「こちらこそありがとうございます。でも私の心配よりご自分の心配をなさったほうがいいのではないかしら? 神の教えに背くような性癖をお持ちですものね」

ここで二人は視線を合わせてにっこりと微笑みを交わした。

「怖い……異常に険悪なのに表向きだけ和やかって、とても怖い……アレクセイ兄様、わたし居たたまれないんだけど」
「そうか? 慣れると結構面白いぞ、この二人のやり取り。確か昨日は`跡取りの第一王子が長期間、国を空けるなんてとても信じられないわぁ。とっとと帰れ ‘ を遠まわしに言ったところから始まったよな」

アレクセイは朝食をたいらげていく。
クリスティアナは兄のその様子に感心をした。

さすが、次代のリーフシュタインを背負っていく人物だけある……この一触即発な空気の中`面白い‘ と観察をしながら、平気で食事ができるなんて。

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