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第十二章
腕(かいな)の中のリリアーナ 34 危険が迫ったら結界は発動をする
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ノックの音がしてカイトが顔を覗かせ、扉の前の警護についた旨を知らせてきた。
「女の子達と何を話していたのですか?」
「申し訳ありませんが……」
キルスティンの問いにカイトが姿勢を正し、否定の言葉を口にしかけたので、勤務中を理由に断るであろう事が伺えた。
「許可します」
断る前にリリアーナが許可を与え、早すぎる許しにカイトはちらりとリリアーナに視線を寄こす。表情は変わっていないが、不思議に思っていることは窺えた。
キルスティンがちょうど聞きたい事を聞いてくれたのだ。リリアーナはそ知らぬ顔を決め込んだ。
「銅版画にサインをしてほしいと言われました。初めは断ったのですが、幼い弟達の分だけでもと言われまして」
カイトがぽりっと人差し指で頬を掻く。
「その割にはたくさんサインしてましたね」
「弟達の分を書き終わった後に、期待を込めた目で見つめられたので。数枚書いて、他の分は駄目だなんて酷な話しだと思いましたから」
「でもそんな事をしたら`サインが欲しい ‘ と、他の者達も殺到するのではないですか?」
「その時は仕事に支障が出ない範囲に収めるつもりです」
カイトはリリアーナに向き直り、一礼をする。
「それでは仕事に戻ります」
リリアーナは頷き、カイトは部屋の外に出て扉を閉めた。
女性から人気があるカイトにリリアーナは改めて決意をする。
今度は賢者の杖を探そう! また情報を集めなくては!
次の日、いざという時のため、リリアーナの回りに結界が発動するよう、キルスティンが魔法を掛けてくれた。遠く離れたところにいるキルスティンの師匠も転移魔法で来てくれて、二人掛かりで施してくれる。
見かけは三十代のその師匠はエルフ族であり、真っ直ぐな銀の髪や端正な顔立ちが麗しく、女性騎士はみな溜息を漏らした。
その師匠はリリアーナに説明をする。
「君に危険が迫ったらこの結界は発動をする。しかし絶対にそこから出てはいけないよ。外からは強いけど中からは脆いんだ。自分の意思で少しでも外に出たら、結界は壊れてしまう」
師匠はその後キルスティンと別れを交わすと片手の平で床に触れ、魔法陣を展開させて去っていった。
「転移魔法って初めて見ました。あれ、移動に便利ですね」
「あれは師匠だからできるんです。私は魔法陣を地面や床にきっちり手描きしないとまだ移動はできません。それも短距離だし、描き間違えると発動しないし……」
「色々と大変なんですね」
何人かが同情の色を示した。
「お師匠様、素敵な方でしたけど何歳ですか? エルフ族は長寿で、若い時期が長いと聞きました」
他の女性騎士の問いにキルスティンが答える。年齢を聞いて、女性騎士達は愕然とした。
平穏な日々が過ぎ、このままルイス王子は帰国してくれるのではないかと皆が思い始めた頃……
「ルイス王子から、今後の計画を知らされました」
キルスティンの一言でその思いも破られた。
「女の子達と何を話していたのですか?」
「申し訳ありませんが……」
キルスティンの問いにカイトが姿勢を正し、否定の言葉を口にしかけたので、勤務中を理由に断るであろう事が伺えた。
「許可します」
断る前にリリアーナが許可を与え、早すぎる許しにカイトはちらりとリリアーナに視線を寄こす。表情は変わっていないが、不思議に思っていることは窺えた。
キルスティンがちょうど聞きたい事を聞いてくれたのだ。リリアーナはそ知らぬ顔を決め込んだ。
「銅版画にサインをしてほしいと言われました。初めは断ったのですが、幼い弟達の分だけでもと言われまして」
カイトがぽりっと人差し指で頬を掻く。
「その割にはたくさんサインしてましたね」
「弟達の分を書き終わった後に、期待を込めた目で見つめられたので。数枚書いて、他の分は駄目だなんて酷な話しだと思いましたから」
「でもそんな事をしたら`サインが欲しい ‘ と、他の者達も殺到するのではないですか?」
「その時は仕事に支障が出ない範囲に収めるつもりです」
カイトはリリアーナに向き直り、一礼をする。
「それでは仕事に戻ります」
リリアーナは頷き、カイトは部屋の外に出て扉を閉めた。
女性から人気があるカイトにリリアーナは改めて決意をする。
今度は賢者の杖を探そう! また情報を集めなくては!
次の日、いざという時のため、リリアーナの回りに結界が発動するよう、キルスティンが魔法を掛けてくれた。遠く離れたところにいるキルスティンの師匠も転移魔法で来てくれて、二人掛かりで施してくれる。
見かけは三十代のその師匠はエルフ族であり、真っ直ぐな銀の髪や端正な顔立ちが麗しく、女性騎士はみな溜息を漏らした。
その師匠はリリアーナに説明をする。
「君に危険が迫ったらこの結界は発動をする。しかし絶対にそこから出てはいけないよ。外からは強いけど中からは脆いんだ。自分の意思で少しでも外に出たら、結界は壊れてしまう」
師匠はその後キルスティンと別れを交わすと片手の平で床に触れ、魔法陣を展開させて去っていった。
「転移魔法って初めて見ました。あれ、移動に便利ですね」
「あれは師匠だからできるんです。私は魔法陣を地面や床にきっちり手描きしないとまだ移動はできません。それも短距離だし、描き間違えると発動しないし……」
「色々と大変なんですね」
何人かが同情の色を示した。
「お師匠様、素敵な方でしたけど何歳ですか? エルフ族は長寿で、若い時期が長いと聞きました」
他の女性騎士の問いにキルスティンが答える。年齢を聞いて、女性騎士達は愕然とした。
平穏な日々が過ぎ、このままルイス王子は帰国してくれるのではないかと皆が思い始めた頃……
「ルイス王子から、今後の計画を知らされました」
キルスティンの一言でその思いも破られた。
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