黒の転生騎士

sierra

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第十二章

腕(かいな)の中のリリアーナ 35  賢者の石がついた魔法の杖が欲しくはありませんか?

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「今後の計画を知らされました――」

***

キルスティンはルイスから誘拐計画の詳細を聞いた後、オーガスタを伴いリリアーナの部屋を訪れた。
最近では毎日午後に訪れるのが日課になっているので、ルイスに疑わずに済む。
それはそれで有難い事ではあるのだが『魔法の杖を疑いを持たずにすぐ欲しがってくれるよう、せいぜいリリアーナ姫と仲良くなってくれ』
などと神経を逆撫でする下衆な言い方をされ、愛想笑いが引きつりそうになった。

回廊を急ぎ足で進むと、カイトが部屋の前の警護に当たっているのが見えた。姿が見える前からキルスティン達に気付いていたようで、こちらに視線を向けている。
`相変わらず勘がいい ‘ とキルスティンは感心をする。

彼女は彼の目の前で足を止め、思い詰めた表情で頷いた。
カイトはすぐに察して部屋の扉をノックすると、返事を待たずにキルスティンとオーガスタを先に入れ、自分も後から部屋に入った。

こういった時にすぐ対処ができるよう、イフリートかサイラスがキルスティンが訪れる時間だけ、部屋で待機をするようにしている。
今日はサイラスの日であり、カイトが共に入ってきたのを見て、重要な用向きであろうとフランチェスカに指示を出した。

「フランチェスカ、話し合いの間だけ、リリアーナ様を寝室にお連れしてくれ」
リリアーナにとって不快な話も出てくるかもしれない、聞かせないよう、サイラスはフランチェスカに命じる。
部屋に入ってきたカイトを見た途端、傍に飛んでいったリリアーナは、抱き上げてもらったところで`さよなら ‘ をせねばならず、不満そうな表情を一瞬浮かべた。
しかし口を引き結んで我慢をする。自分の為の話し合いである事は分かっているからだ。
カイトはリリアーナのころころ変わる百面相から、考えが手に取るように分かったので笑いを零しそうになった。

ほっぺたをムッ、と少し膨らましたまま彼女は言う。
「リリィにチュッとして」
僅かに微笑んで、カイトが頬にチュッとキスをした。
「ほっぺじゃないのに……」
最近では二人の間でこれが恒例のやり取りになっている。リリアーナは大人しくフランチェスカに抱っこされて、寝室へと消えていった。

「ルイス王子から、今後の計画を知らされました――」
テーブルを囲んで三人でソファに腰を下ろし、オーガスタは話の邪魔にならぬよう、少し離れた場所に立つ。

「一週間後の昼寝時にルイス王子と私で夢の中に忍び込みます。リリアーナ様と魔法の杖について話し合い、どこで落ち合って渡すかを伝え、後日、落ち合った場所から私の転移魔法で、街道沿いに用意してある馬車まで飛びます」
「リリアーナ様が杖を受け取らないかもしれないと、ルイス王子は考えていないのか?」
「私がリリアーナ様と仲良くなって魔法の杖を欲しがるよう、上手く事を進めていると考えています」
「どこで落ち合う予定だ?」
「それが、教えてくれないのです……『一週間後に教えるから』と」
「そうか……まあ、いいさ。夢の中では攫う事もできないし、一週間後、場所が分かってからでも対処できるだろう。カイト――」
「はい」

それまで聞き役に回っていたカイトにサイラスが顔を向けた。

「一週間後はリリアーナ様が昼寝している横で待機だ。何かあるかもしれない」
「分かりました」
「アレクセイ様や、イフリートとも話しをして、また変更があったら追って伝える」

ルイス王子は下衆ではあるが、国ではそれを押し隠し優秀な王子で通っていた。側近達が王子の嗜好や趣味をひた隠しにしてきたのと、本人も悪知恵が働くので普段は上手く立ち回っている。

悪知恵が働くのはアレクセイも重々承知していたので、始めは緊張の内に過ぎていった。キルスティンにわざと偽の情報を掴ませている可能性もあるからだ。
しかし当のルイス王子がのほほんとして、リーフシュタインでの滞在を楽しんでいるため、他に企てはなさそうだと緊張も少しずつ和らいでいった。

そして5日めの穏やかな昼下がりにそれは起こる。

西の外れの庭園で大きな爆発が起こった。リリアーナの部屋にはキルスティンとオーガスタにフランチェスカ、扉の前や付近には6人の騎士。カイトが宿舎で仮眠を取っている時は、騎士が多めに配置されるのだ。

「今のは一体何!? 凄い音だったけど!」

驚くフランチェスカにキルスティンが立ち上がった。
「魔力を……感じます! ルイス王子が私以外の魔道士を使って、何かを仕掛けたのかもしれません。様子を見てくるので、部屋を出ないようにして下さい!」
「分かったわ!」

キルスティンが部屋を走り出て、扉が重く締まる。遠くでまた爆発音がした。
部屋の隅でお人形遊びをしていたリリアーナを、フランチェスカが抱き上げてソファに運ぶ。

「サイラス副団長がいるはずです。部屋に入ってもらいましょう」
フランチェスカが扉へと走り、オーガスタがすぐにリリアーナの傍らに立つ。ノックの音がしてサイラスが入ってきた。
「丁度お呼びしようと思っていたところです」
「リリアーナ様に変わりはないか?」
「はい、いまのところ大丈夫ですが……先ほどの爆発音は何だったのでしょう?」
「まだ分からないが、すぐに調べるよう指示は出し……」

二人のやり取りを見ていたオーガスタがリリアーナに視線を向ける。

「リリアーナ様、賢者の石がついた魔法の杖が欲しくはありませんか?」
「え……?」

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