黒の転生騎士

sierra

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第十二章

腕(かいな)の中のリリアーナ 36  ダークエルフ

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「ほら、これです」
オーガスタが背中から目の前に手を出した時には、一本の杖が握られていた。それは黒檀の木でできていて、持ち手の上に緑色の宝石が埋め込まれており、そこから杖の先まで螺旋に細く、緑色の光が発光をしていた。

「綺麗でしょう? これは魔法石からだけでなく、自然からもエネルギーを得て発光をし、杖に力が籠もるのです。今のこの危険からも自分を守ることができますよ。さあ、どうぞお持ちください」

オーガスタがリリアーナの目の前に杖を差し出す。

「オーガスタ、一体何を言っている――?」
サイラスが気付いて二人に注意を向けた。

「リリアーナ様を落ち着かせようと思って」
オーガスタは肩越しに返事をするとくるくると杖を手の中で回し、ピタッと止めての方をリリアーナに差し出した。
「さあ、どうぞ? ああ、最初に必ずこう言ってください、言わないと只の杖ですから。『リリアーナがいにしえより力を持つ賢者の石に命じる』と」

とてもそれらしく聞こえるが、リリアーナがまだ手に取るのを躊躇ためらっていると、少し焦れたように杖を押し付けてきた。
「さっ、早く!」

バチッ――!!

「きゃっ!!」
目の前で閃光が走り、リリアーナは咄嗟に目を瞑る。

「ちっ、やっぱりもう発動していたか――」

サイラスは腰に佩いた剣を抜き、瞬時の内にオーガスタに近付いた。
「リリアーナ様から離れろ!! どうせ発動した結界で手が出せないぞ」
「リリアーナ様、この杖が本物であることを証明してみせます。オーガスタがいにしえより力を持つ賢者の石に命じる――!」

彼女は微笑むと、杖を一振りする。バンッ! 勢い良くサイラスの身体が吹っ飛び、壁に打ち付けられて落ちた。痛みに耐えながら彼が叫ぶ。
「フ、フランチェスカ……! カイトを呼んでくるんだ!!」
「はい!」
「それは困るのよねぇ……」

急ぎ、扉に向かうフランチェスカの身体がふわっと宙に浮いた。扉を外からバンバンと騎士達が叩き『どうしたんですか!?』と声が響いてくる。

「いやっ!! 何これ!? 下ろして!!」

フランチェスカが空中でもがいて、リリアーナは呆然とする。
「さっ、杖を――」

リリアーナは差し出された杖を見ながら、いやいやと首を振った。

「ふん、しようがないわね。中から手でもいいから出してくれないと、結界は破れないのよね」

オーガスタは杖の先をくるくると回した。するとフランチェスカも、くるくると回る。

「やめてぇ……!」
フランチェスカが苦しそうに喘ぐとぴたりと杖を止め、フランの身体もぴたりと止まった。

「あなた……だれ……?」
リリアーナが震えながら声を漏らす。

「リリアーナ様、知っているじゃない? 私はオーガスタ。ただ人間ではなくてダークエルフよ。あの半人前のエルフなんかと違って、優秀なの」

オーガスタは身体を`う~ん ‘ と伸ばす。
「はぁ~~~、ずっと野暮ったい田舎娘の振りをしているのは楽じゃなかったわ。でも、それも今日でおしまい」

彼女がウインクをすると、褐色の肌に白い髪と紅い瞳、肉感的な身体はぴっちりした黒のドレスで覆われたダークエルフに変化へんげした。

「さあ、早くその結界から出てきて……って言って出てくるわけないわよね~」
オーガスタは振り返って宙に浮いているフランチェスカを見上げると、意地悪く口角を上げる。
「ここって三階よね? 私達は三階から落ちても死なないけど、人間はどうかしら?」

パチンッと指を鳴らすと、バルコニーに通じるガラス戸が開いた。

「あっ……」

リリアーナが驚きで目を見開くとオーガスタが杖の先を、バルコニーに向けて大きく振る。フランの身体がバルコニーへと運ばれていった。
息を殺して床を這い、オーガスタの背後に迫っていたサイラスが立ち上がりざまに掴みかかる。

「こりないわねぇ……」
後ろに目でもついているように、杖を一振りしてまたサイラスを壁に叩きつけた。

「うぐっ――!」
「やめて!!」
「じゃあ、そこから出てくる?」
「姫様、だめです!」

今ではバルコニーで宙に浮かびもがいているフランチェスカが叫んだ。

「うるさい小娘。リリアーナ様どうします? そこから出ますか? それともフランチェスカを……」
「私は三階から落ちても死にません!! 出てきてはだめです!!」

オーガスタがくすくすと笑う。
「貴方だったら本当に死なないかもね? じゃあ、確かめてみましょうか?」

「おねがいやめて! 出るから!!」
「姫様、出てはいけません!!」

今では涙声のフランチェスカに、庭園にいる者達が騒動に気付いてバルコニーを見上げ始めた。

リリアーナはソファから立ち上がり目を瞑ると思いっきり息を吸う。両の拳を握り締め決心を固めると目を開き、一歩ずつ前へ進み出た。結界は透明で見えていないが、ふと身体に何かが当たる感触がして、次の瞬間にはガラスが割れるように粉々に砕け散った。

「はい、いい子ちゃんね~」

途端にドサッと、フランの身体がバルコニーに落ちる。痛さを堪えてすぐに立ち上がり外に向かって力の限り叫んだ。
「カイトを呼んで!! 誰か、すぐに呼んで来てーーー!!」




書きなおした時に`このほうがいい ‘ と細部を変更したところ、残っていた後の部分と話しが繋がらなくなりました……orz (普通そうなる) まだ書きなおし部分も書きあがっていなくて――

もし、明日投稿ができなかったら`sierraさん、また間に合わなかったのね ‘ とお考え頂くよう、お願いいたします。m(__)m  (´;ω;`)すびばしぇん……
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