黒の転生騎士

sierra

文字の大きさ
194 / 287
第十二章

腕(かいな)の中のリリアーナ 40  ルイス王子が死んでしまいます

しおりを挟む
こちらは少し時間を遡った馬車の中。

「やっ、やっ!」

リリアーナは迫ってきた手を払って逃げようとしたが、あっけなくルイスに捕まってしまった。ルイスが下卑た笑いを浮かべる。

「さぁ、天使になろうね。僕が着替えさせてあげるよ? こら、暴れるな……! オーガスタ、手伝ってくれ!」
「いやぁね、趣味が悪い、やめなさいよ」
「報酬をその分上乗せする」
「……まあ、似合いそうだしね……」

オーガスタが身体を押さえ、ルイスがドレスの後ろの紐を解いていく。
「いやっ!!」

懸命に暴れるが、大人二人には敵わない。背中の紐が全て解かれ、ドレスがはだけて肩が覗いた。
ルイスがうっとりと溜息をつく。
「きめが細かくて、透き通るような肌だ」
肩から背中にかけてくちづけようと顔を寄せてきた。

「いやっ! やだー! カイトー!!」
リリアーナが泣き叫んだ少し後に、ガガ――ッ! といきなり衝撃音が響いた。

「え……?」
ルイスとオーガスタの動きが止まる。続いて二回、三回と音はやまずに聞こえてくる。二人して恐る恐る窓から外を覗くと……

そこにはあろうことか、馬上から結界を破ろうとするカイトの姿があった。蹴り上げた場所は火花が散り、今にもひびが入りそうな勢いだ。

「なっ、なんであいつがここにいるんだ――!?」
「多分キルスティンが転移魔法で追ってきたのよ。悔しい! あの半人前に辿られるなんて!!」
「それどころじゃない!! 早くあいつを何とかしろ!!」
「大丈夫! すぐ結界を組みなおすから。それに見た目は破れそうだけどまだ持つわ。三重に張っているんですもの。あ――」
「どうした!?」
「破られたみたい……」

二人して固まっていると、次には御者を脅す声がして、馬車が止まってしまった。
「一体どうなっているんだ?」
「さ、さぁ……? でもまだ馬車自体に張ってある結界があるし…」
いきなり馬車の扉がすさまじい音と共にひしゃげた。今ので馬車の結界も破れてしまったのが分かる。

「ひぃいい!!」
オーガスタが思わず叫び声を上げた。

「お、お前! あいつをどうにかしろ!!」
「わ、分かりました! 魔法で…」

窓枠に外から手が掛かる。
「へ……」
成り行きについていけずに二人で傍観していると、いきなり扉がバキッ!! と外れてなくなってしまった。目の前の出来事が信じられず、ただただ呆然としている二人の前に黒髪の騎士が顔を覗かせる。

***

カイトは扉を地面に投げ捨てると、大きく開いた乗り口から中を覗いた。
肩がはだけたドレスを一生懸命に押さえ、涙を流しているリリアーナと目が合う。

「カ……カイ……」
リリアーナは顔をくしゃっとさせ、涙が滝のように零れ落ち始めた。
カイトの顔が見るに怒りで蒼白になる。

オーガスタが慌てて攻撃魔法を繰り出そうとしたが、いち早くカイトの裏拳(手の甲)がバンッと顔に入った。その動きは一瞬で、ルイスの目は捉える事ができなかったが、オーガスタの身体が背もたれに打ち付けられ、あっけなく気絶したことで、何が起こったかを知る。

カイトが次はルイスに顔を向けた。怒りに身を震わせているカイトに、圧倒されたルイスの背筋が凍りつき、顔からは血の気が引いていく。
「わ、悪かった! 本当に!! もう二度としないし! 反省してるから! か、金はいらないか? ほら、いくらでもあるぞ!」
「下衆が……!」

硬く握った拳が顔面に打ち込まれた。
「うげぇえええっ!!」 
ぽたぽたと落ちる鮮血。
「は……は……鼻が折れた――っ!!」

騒いでうずくまろうとするルイスの胸倉を掴むと、無理矢理外に引きずり出す。馬車から少し離れた場所までずるずると引きずっていき、いきなり地面に叩きつけた。
呻き声を上げながら、這って逃げようとするルイスの襟首を掴んで立たせ、容赦なく回し蹴りを入れる。
その後は何度倒れても、引き起こして攻撃を続けた。

キルスティンはハッとして、アレクセイの言葉を思い出す。あのとき二人に囲まれて言われたのは――

『普段カイトは冷静だが、リリアーナのことになると理性がふっ飛んで人が変わる。腐っても相手は王子だ。酷い事にならないよう、止めてくれ』

(って、これ……もう酷い事になってる……)

「カイト、駄目です!」
キルスティンはカイトの腕にすがりついた。
「放してくれ――」

ギロリとカイトが彼女を睨みつける。
(ひぃいいい! 目がこわいぃぃぃ! どうしよう、このままだと酷い事どころか殺してしまうーーー!!)
「駄目です! 死んでしまいます! 相手は王子なんですよ!?」
「まだ足りない」

(足りないって何が!? 殴り足りないってこと!?)
「駄目です! 気持ちは私も一緒ですが、もうやめて下さい!!」

カイトがキルスティンの手を外そうとした。
「カイト、だめぇ――!」
その声に二人して振り返ると、馬車の乗り口に立っているリリアーナが、わんわん泣きながらこちらを見ている。
「リリアーナ様――」

彼は正気に返ったように左腕で掴んでいたルイスを放し、リリアーナの元へと駆け寄った。リリアーナはドレスが落ちないように片手で押さえ、懸命にもう片手をカイトに伸ばす。彼は自分の上着を脱ぎ、リリアーナの肩に着せ掛けるとその腕に抱き上げた。
キルスティンはその光景を眺めながら大きく安堵の息を吐き、涙を流す。
「リリアーナ様、ありがとう~~~!」
しおりを挟む
感想 479

あなたにおすすめの小説

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

処理中です...