37 / 70
37「辺境伯を返り討ち(殺害)する」
しおりを挟む昨日、ラフィがコヨチの町へ逃げ帰り、家に籠り始めた頃、日当たりの良い立地に建てられた屋敷にて、屋敷の主にしてこの土地の領主であるデイモンド・カルタ辺境伯が悠々と過ごしていたところ、王宮アルノーチェスから突然の通話がかかった。
辺境のこの地を治めているこの地に連絡を寄越すなど滅多にない事にデイモンドは不審に思いつつも慌てて通話に応じる。通話をかけてきたのは王国の宰相であり、要約すると自分が治めている領地にある田舎の町で暮らしている傭兵が、フリューゲン公爵家に対し重罪を犯したことにより、その討伐に騎士や傭兵パーティを寄越すとのこと。
それを聞いたデイモンドはこれは自分の出世に繋がるまたとない機会だと閃き、その傭兵…ラフィの討伐を是非任せていただきたいと、宰相に申し出た。
領主の責任とてだのこちらには十分な兵力を揃えているだの王族や上級貴族のお手を煩わせるまでもないだのと色々申し立てた末、ラフィの討伐は自分に一任してみると便宜を図ってもらえた。
自分が治めている領地から重罪人を出すだけでもこちらの失態につながりかねない、ましてやその罪人を野放しにしておいたら、下手すれば自分にその責任追及までされる恐れがある。
速やかにその脅威の種を取り除かんと、デイモンドは早急にラフィの討伐に動き、領地にいる兵を出来る限り集めるのだった。
そして当日、辺境伯は50に及ぶ兵士を率いて、ラフィが住む家を訪れた。
(二等騎士である王国騎士団の副団長を殺害する程の戦力を有している可能性が高いと聞いたが、騎士団の一個隊と並ぶ戦力である私の兵団を以てすれば、たかがⅮ級傭兵の少年一人の首をとることなど、容易だろう。
今回の手柄で、王宮から莫大な褒美をいただいてみせるぞ…!)
デイモンドの頭の中は、王宮からの報酬でこの地をさらに自分好みのものにしてやろうと、自分本位の理想と計画を巡らせていた。
***
「さあ罪人ラフィ!公爵家の領地で悪逆の限りを尽くしたうえ、私が治めているこの地の人々の暮らしをも脅かそうとしている、とんでもない悪党め!今のうちに自らの手でその家から出てくるがいい。そうすれば少なくとも貴様がやってきたような手段までのことはしないと、誓ってやる」
紺色の長髪の男が何か言うごとに、ドアの前に立っている男が乱暴にノックしてくる。この地の領主であるデイモンド・カルタ……顔を見るのは一年前、税の徴収を兼ねた領地の視察に来た時以来だ。本人による視察は年に二回なので、普通の生活を送っていればそういった年中行事くらいでしか見る機会はない。
「聞いているのか!?居留守を決め込んでも無駄だぞ!私が連れて来た兵の中には、感知スキル持ちの者がいる。その家の中に人の気配があるのは間違いないんだ!そうだな?」
「はい、間違いありません。確かにこの家の中に人が一人います」
「そういうことだ。分かったらとっとと出てくるがいい!」
そんな命令の後またドアが激しくノックされる。そうか、感知スキルで完全にバレてしまってるのか。そういうことならここでの引き籠り作戦はもう破綻だな。仕方ない。半日以上ぶりの外出といきますか。
ゆっくりとドアを開けるとまず目に入ったのが、さっきまでドアを乱暴に叩いていたとされる武装したいかつい兵士が二人。続いてその後ろに立っているデイモンド辺境伯。さらに彼を護るように取り囲んでいる男たち…ドアの前にいる二人同じように武装している。
そして、ぐるりと見渡して分かったのが、僕の家が同じように武装した人たちに取り囲まれているということ。いわゆる完全包囲というやつだ。
「ふん、やっと出て来たか、ラフィとやら。
一応尋ねておこうか―――昨日王宮にいらっしゃる宰相様から、貴様がフリューゲン公爵邸を襲撃し、その次期当主で王国騎士団副団長でもあるマストール氏を殺害したそうだな。私が今述べたこと、事実と相違はあるか?」
いきなり兵士を襲わせることはなく、律儀にも僕に発言する余地を与えてくれた。とはいえあくまで形式上…義務としてやってるに過ぎないことっぽい。否定してもきっと糾弾されるに違いない。
「あー、はい。辺境伯様が言ったことに、間違いはございません。僕は公爵家の屋敷を襲撃し、人を殺しました」
「そうか、潔く罪を認めるのは良いことだ。しかしながらラフィよ、それで貴様の処罰が軽くなるかと言えば、残念だがそうはいかない。
王宮からのお達しでは、貴様を討伐せよとのことだ」
*実際は可能なら捕縛して王都まで連行せよ…と命じられていたのだが、デイモンドは手柄を独り占めすべくラフィを殺すことしか考えていない
辺境伯の言葉からして、僕はもう既にこの国のお尋ね者というか、ミグ村を襲った盗賊と同じ懸賞首をかけられた指名手配犯に仕立て上げられてるみたいだ。騎士団に捕まれば良くて投獄、悪けりゃ即刻死罪になりそう。
ところで気になるのが、辺境伯が連れて来た武装集団なんだけど。彼らは王国騎士団所属の兵ではないとみる。
「えー、辺境伯様は騎士団を連れて、僕のところに?」
「うん、何故今そんな質問を?まあいい、彼らは王国騎士ではない。全員この私が集めた忠実で強力な兵士たちさ!この数だけでも騎士団一個隊と同等かそれ以上の戦力を持っていると思え」
両手を広げて自慢げにそう語るデイモンド。もう一度周りをパっと見た感じ、兵士の数は50前後か?公爵家護衛団の3倍くらいの数だ。
ただ……この中にはゼラニンやマストールといったレベルの気配を放つ奴が、一人もいない。隠れてるのか、本当にいないのか……。
「では問おうか、コヨチの町に暮らす愚かな少年のラフィ。私の兵士たちに大人しくその首を差し出す気はあるか?もしあるのなら特別に貴様の命を助ける道を用意してやろう」
「………?」
「戦闘奴隷として私の屋敷に一生仕えさせてやる!真実かどうか不明だが貴様にはあのフリューゲン・マストールを殺害してみせた経歴がある。さらに傭兵協会が公開した情報によれば、元B級傭兵だった盗賊の頭・ドルゴンを討伐したとも聞いたぞ?
それだけの事をやってのけた貴様をただ殺すのは、私としては惜しいと思ってね」
完全に信用してはなさそうだが、デイモンドは僕の戦闘力を買っているそう。王宮に僕が死んだと偽りの報告をする代わりに、僕の力をわが物にしようとしている。奴隷として僕を飼うつもりだ。
「どうだ、私に一生服従することを誓えば、王宮には貴様を討伐したと上手く言ってやるぞ?我が領地の町に暮らす民をこの手にかけるのは、私としては本当は心苦しいのでな。出来ることなら私の慈悲に是非応えてもらうと―――」
「せっかくのお誘いですけど、断ります!僕は自由な人生を望んでるんで!」
向こうが僕が実力で盗賊や貴族の私兵、二等騎士を殺害したことを信じ切ってないように、僕も辺境伯のことを全く信用していない。いつどこで手のひら返しして僕を処分するか分かったものじゃない。
誰かに隷属させられ自由無く生きていくなんて、生きているとは言えないよ。ましてや僕は不死者……死にたくても死ねない生き地獄なんて絶対ご免だ!
「そうか、残念だ………愚か者め。者ども、そいつの首を討ち取って参れ」
デイモンドは表情を消した顔になると、すぐさま自分の兵士たちにそう命令した。すると魔術が使える兵士たちが前に出てきて、僕目がけて一斉に民家もろとも魔術を放ってきた。
火の球、岩、直線状の光、風の砲弾……色んな魔術が飛来してきて、目の前がぐちゃぐちゃとなってしまった。
「ぐ……ううう、痛いぃ………」
回避行動を一切とらなかった僕は、火傷や打撲を負った状態で地面に横たわっていた。冗談抜きで体を動かせない。かなりのダメージを負ってしまった。
「まだ息があるぞ、誰かあいつの首をとってこい!」
デイモンドが叫ぶと数人がこちらに駆け寄り、僕を仰向けにさせて首に刃を当ててきた。
そしてザクッ!僕の首はあっけなく刈り取られてしまうのだった。
「はははははは!これで手柄は私が独り占めだ!褒賞金で私の屋敷を理想のリゾート地に―――――」
………などと子どもみたいにはしゃいでいるデイモンドを、胴体から離れたところで半目で見つめる僕は、ため息を吐いた。
さて、受け身態勢はもういいだろう。いい気分になってるところ悪いけど、次にこうなるのは、あんたらだからな?
誰もが僕から目を離してる隙に、いつものように「身体修復」を発動。地面に転がる僕の頭部は消え、同時に切断された僕の首から頭部が生えて、見事な復活を遂げるのだった。
「じゃあ、今度はあんたらが殺される番ね」
「「「「「「………え?」」」」」」
28
あなたにおすすめの小説
娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る
ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。
異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。
一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。
娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。
そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。
異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。
娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。
そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。
3人と1匹の冒険が、今始まる。
※小説家になろうでも投稿しています
※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!
よろしくお願いします!
ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中
あ、まん。
ファンタジー
仕事一筋40年。
結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。
定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。
だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。
唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。
化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。
彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。
現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。
これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う
yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。
これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。
転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚
熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。
しかし職業は最強!?
自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!?
ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる