ダークエルフは洞窟の果てに幸せを掴む

みやぢ

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晩餐会にて

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晩餐会の参加者が帰って行ったあとのがらんとした会場の隅で僕は着替えに行ったエイラート中佐を待っていた。
しばらくして中佐の部下が呼びにきてくれ、王宮の通用門まで案内してくれた。
「お待たせしました」
私服に着替えた中佐が戻ってきた。

制服姿とガラリと雰囲気が違って見えた。
「制服姿も凛々しくていいけど普段着の中佐も魅力的ですね…」
思わず口から本音がこぼれ出てしまった。
「いやですわ…異世界の殿方にそんなこと言われるなんて…」
中佐は照れた表情を見せた。
「それに、『中佐』と呼ばれるのは…」
「?」
「私たちエイラートの氏族で軍務に就いているもので数百人はおりますし、わたしと同じ『中佐』だけで十数人おります、さきほど申し上げたように『エミリア』とお呼びいただいて結構ですよ」
そう言うとエミリアはにっこり微笑んだ。

よく聞くとダークエルフは「神樹」と呼ばれる大木の洞から生まれてくるそうで、その「神樹」のある土地の名がそのまま氏族名となるらしい。
つまりエミリアは「エイラート村のエミリア」と言うことになる。

門を出てしばらく歩いた交差点に何台か馬車が止まっていた。
いわゆる辻馬車という奴だ。
エミリアはその中の一台の御者に声をかけた。
「こんばんはフロウ、お願いね」
「どうも中佐殿、今日はお客人とご一緒ですかい」
「そうなの、大事なお客様だから丁重にお願いね」
「へい!」
そう言われたドワーフ族の御者は恭しく頭を下げ、馬車の扉を開けた。
そして馬車は勢いよく走り始めた。
石畳の大通りをしばらく走ったあと、少し細い路地で馬車を降りた。
見覚えのある場所だった…
「ここなら落ち着いてお話しできますわ」
陽気な店主が迎えてくれた。
「よおっ!エミリアちゃん…ってシンタロウも一緒なのかい?」
二人が連れ立ってやってきたので店主は不思議そうな顔をしていた。
「えっ?」
そう言われてエミリアは僕の方を向いた。
「実は何度か来てるんだ…」
「そうだったのね…」
「二人が知り合いだとは知らなかったぜ、まぁいいやいつもので良いかい?」
そう言われて二人同時に頷いていた。


「まさかシンタロウがこのお店を知ってるなんて思いもしなかったですわ…」
「退屈しのぎに探検してて偶然見つけたんですよ、まさか中佐…エミリアが常連だったとはね…」
「ふふっ、なにかと気が合いそうですねわたしたち」
そう言ってエミリアは笑った。

僕たち二人は例の王室御用達の酒を酌み交わし、大いに話し大いに笑った…そして夜が更けていった。

翌朝、僕は見知らぬ部屋で目が覚めた。

「ここはどこだ…?」

貫頭衣のような服に着替えていて、着ていた服は綺麗に畳まれ、ベッドサイドの卓に置かれている。

エミリアと例のお店で飲んでたのは覚えているけどそれ以降の記憶がない。

ベッドの上で記憶をたぐっているとエミリアがやってきた。
「お目覚めですか?昨夜は楽しかったですね」
彼女は笑顔でそういった。
「朝食の用意できていますからご一緒しましょう」
僕は促されるままに寝室から出た。
「ここは?」
「わたしが個人的に借りているお部屋なのです、士官なのでいちおう官舎もあてがわれてはいるのですが、どうも窮屈なので…」
「そうなんですね…」
エミリアが用意してくれた朝食は豪華なものだった。
「これは…」
「お口に合えば良いですが…」
一口食べてみる…
「美味い!」
思わず声が出てしまった。
エミリアは嬉しそうに僕を見つめていた。



晩餐会の夜に<了>
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