整形しなきゃよかった

mugi

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5話

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朝のキャンパスは、都会らしく人も建物も光も多くて、全部が新しかった。

「なつきーーー!」

また遠くからやたら元気な声が飛んでくる。

振り返る前に背中をドンッと叩かれた。

「痛っ……海斗、お前さ……」

「いやだって、お前今日もカッコよすぎだろ。
通りすがりの女子、全員二度見してたぞ?」

「……整形のこと褒めるな、なんか恥ずいから」

「褒めるに決まってんじゃん。
俺の500万が生きてる証拠だし?」

「うるさいわ」

適当な会話を交わしながら講義室へ向かう。
海斗は昔から、まるで“ここが俺の場所だろ”みたいな顔で隣を歩く。

夏希が整形した理由も、ホストとして働く理由も、全部知っている唯一の人間だった。




授業中、席に座ってプリントを出すけど、内容は全然頭に入らない。

「夏希、寝るなよ?一限で寝ると一日終わるぞ」

「寝てねぇし」

「嘘つけ。目が死んでる。はい、ミンティア」

海斗が堂々と差し出してくる。
雑なのに優しい。昔からこうだ。

「ホスト疲れ残ってんだろ?最近忙しそうだったし」

「まぁ、指名そこそこ増えてっから」

「売れっ子になってきたじゃん。よかったな」

海斗は知ってる。
夏希が“愛叶”として夜に生きてることも、その裏の弱さも。

だから取り繕わなくてよかった。

お昼の学食は大騒ぎみたいに混んでいる。

座る場所も大して残ってなければ、食い終わってるのにどかない嫌な奴もおおい。

なんだかんだで
2人は端の席に落ち着いた。

「でさ、返済計画どうなってんの?」

「返済って言うなよ。別に急げって言ってなかっただろ」

「そりゃそうだけど、夏希が気にしてるから言ってんだよ」

海斗は唐揚げをつまみながら平然と話す。

「でもなんか安心したわ。
お前、東京めっちゃ馴染んでるな」

「そっちが変なんじゃない?」

「いや普通さ、地元出て2週間でこんな自然に溶け込む?
俺はお前が倒れてないだけで安心してるわ」

「誰が虚弱だよ」

「はは、昔の話だよ。
……でもさ、ホストの夜と大学の昼、ちゃんと区切れてるっぽくて安心した」

海斗は本気で心配している。
からかいながらも、夏希が無理してないか常に見てる。

昼食が終わり
午後の講義に向かう途中、

「なぁ夏希、大学って意外といいよな」

「まぁ……悪くはない」

「お前さ、広島の頃より顔が明るいぞ?」

「整形したからだろ」

「違うよ。
お前、前向いてる。昔よりずっと」

急に真面目なこと言うから、夏希はちょっと戸惑う。

ただ、その言葉が胸の奥に確かに残った。

海斗と歩くこの瞬間だけは、
整形した顔でも、ホストでもなく、
“夏希”としていられる。
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