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6話
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大学終わり、夏希は海斗とカフェに行った。
夕方のキャンパスを抜けてすぐのカフェは、放課後の学生がまばらにいるだけで静かだった。
窓際の席に座った夏希は、アイスコーヒーのストローを指で転がしながら、言い出せずにいる。
海斗がその様子に気づき、先に促した。
「で? 昨日なんかあったんだろ。」
夏希は短く息を吐き、ようやく口を開いた。
「……春奈、来たんだよ。店に。」
海斗の手が止まる。
「は? マジで? 春奈?松岡春奈?」
「うん。友達に連れて来られたっぽい。向こうは俺のこと、普通にホストとしてしか見てなかったけど。」
言葉にすると胸の奥が少しざわつく。
夏希は視線を落とし、氷の溶けた水滴を見つめた。
「それで、相談って?」
海斗がゆっくり尋ねると、夏希は。
「海斗……もし2人でいる時、春奈にどっかで会ったりしても、俺のこと最近できた、大学からの友達ってことにして欲しい。」
海斗は一瞬、言葉を失った。
「……店のことを隠したいんじゃなくて?」
「違う。」
夏希は首を振る。
「ホストやってるってバレてもいい。そこはもう大丈夫。ただ……“夏希として”昔の俺を知られたくない。」
海斗は目を細める。
「春奈の前で、“いじめられっ子の同級生だった夏希”には戻りたくないってことか。」
夏希は黙って頷いた。
「なんか……変に思われたくないんだよ。
昔の俺と、今の俺を比べられたくないし……それに、あいつにだけは、店の俺のままでいたい。」
最後の言葉は、少しだけ震えていた。
海斗はしばらく夏希を見つめ、深く息を吐いた。
「……わかったよ。春奈に会って何言われても、俺らは最近仲良くなった友達で押し通す。
昔からの親友ってことは言わない。」
夏希はほっとしたように肩の力を抜いた。
「助かる。」
海斗は少しだけ意地悪そうに笑う。
「でもさ……それってつまり、まだ春奈のこと気にしてるってことでしょ。」
夏希はコーヒーを一口飲んで、誤魔化すように言った。
「そんな大層なもんじゃないよ。」
「はい出た。図星のときのやつ。」
「うるせぇ。」
そんな軽い言い合いでも、夏希の胸の奥の苦しさは消えなかった。
春奈が全く気づいていなかった顔を、ふいに思い出してしまう。
夕方のキャンパスを抜けてすぐのカフェは、放課後の学生がまばらにいるだけで静かだった。
窓際の席に座った夏希は、アイスコーヒーのストローを指で転がしながら、言い出せずにいる。
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「で? 昨日なんかあったんだろ。」
夏希は短く息を吐き、ようやく口を開いた。
「……春奈、来たんだよ。店に。」
海斗の手が止まる。
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言葉にすると胸の奥が少しざわつく。
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「それで、相談って?」
海斗がゆっくり尋ねると、夏希は。
「海斗……もし2人でいる時、春奈にどっかで会ったりしても、俺のこと最近できた、大学からの友達ってことにして欲しい。」
海斗は一瞬、言葉を失った。
「……店のことを隠したいんじゃなくて?」
「違う。」
夏希は首を振る。
「ホストやってるってバレてもいい。そこはもう大丈夫。ただ……“夏希として”昔の俺を知られたくない。」
海斗は目を細める。
「春奈の前で、“いじめられっ子の同級生だった夏希”には戻りたくないってことか。」
夏希は黙って頷いた。
「なんか……変に思われたくないんだよ。
昔の俺と、今の俺を比べられたくないし……それに、あいつにだけは、店の俺のままでいたい。」
最後の言葉は、少しだけ震えていた。
海斗はしばらく夏希を見つめ、深く息を吐いた。
「……わかったよ。春奈に会って何言われても、俺らは最近仲良くなった友達で押し通す。
昔からの親友ってことは言わない。」
夏希はほっとしたように肩の力を抜いた。
「助かる。」
海斗は少しだけ意地悪そうに笑う。
「でもさ……それってつまり、まだ春奈のこと気にしてるってことでしょ。」
夏希はコーヒーを一口飲んで、誤魔化すように言った。
「そんな大層なもんじゃないよ。」
「はい出た。図星のときのやつ。」
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