整形しなきゃよかった

mugi

文字の大きさ
6 / 8

6話

しおりを挟む
大学終わり、夏希は海斗とカフェに行った。
夕方のキャンパスを抜けてすぐのカフェは、放課後の学生がまばらにいるだけで静かだった。
窓際の席に座った夏希は、アイスコーヒーのストローを指で転がしながら、言い出せずにいる。

海斗がその様子に気づき、先に促した。

「で? 昨日なんかあったんだろ。」

夏希は短く息を吐き、ようやく口を開いた。

「……春奈、来たんだよ。店に。」

海斗の手が止まる。

「は? マジで? 春奈?松岡春奈?」

「うん。友達に連れて来られたっぽい。向こうは俺のこと、普通にホストとしてしか見てなかったけど。」

言葉にすると胸の奥が少しざわつく。
夏希は視線を落とし、氷の溶けた水滴を見つめた。

「それで、相談って?」

海斗がゆっくり尋ねると、夏希は。

「海斗……もし2人でいる時、春奈にどっかで会ったりしても、俺のこと最近できた、大学からの友達ってことにして欲しい。」

海斗は一瞬、言葉を失った。

「……店のことを隠したいんじゃなくて?」

「違う。」

夏希は首を振る。

「ホストやってるってバレてもいい。そこはもう大丈夫。ただ……“夏希として”昔の俺を知られたくない。」

海斗は目を細める。

「春奈の前で、“いじめられっ子の同級生だった夏希”には戻りたくないってことか。」

夏希は黙って頷いた。

「なんか……変に思われたくないんだよ。
昔の俺と、今の俺を比べられたくないし……それに、あいつにだけは、店の俺のままでいたい。」

最後の言葉は、少しだけ震えていた。

海斗はしばらく夏希を見つめ、深く息を吐いた。

「……わかったよ。春奈に会って何言われても、俺らは最近仲良くなった友達で押し通す。
昔からの親友ってことは言わない。」

夏希はほっとしたように肩の力を抜いた。

「助かる。」

海斗は少しだけ意地悪そうに笑う。

「でもさ……それってつまり、まだ春奈のこと気にしてるってことでしょ。」

夏希はコーヒーを一口飲んで、誤魔化すように言った。

「そんな大層なもんじゃないよ。」

「はい出た。図星のときのやつ。」

「うるせぇ。」

そんな軽い言い合いでも、夏希の胸の奥の苦しさは消えなかった。
春奈が全く気づいていなかった顔を、ふいに思い出してしまう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

お久しぶりです旦那様。そろそろ離婚ですか?

奏千歌
恋愛
[イヌネコ] 「奥様、旦那様がお見えです」 「はい?」 ベッドの上でゴロゴロしながら猫と戯れていると、侍女が部屋を訪れて告げたことだった。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

離婚すると夫に告げる

tartan321
恋愛
タイトル通りです

奪った代償は大きい

みりぐらむ
恋愛
サーシャは、生まれつき魔力を吸収する能力が低かった。 そんなサーシャに王宮魔法使いの婚約者ができて……? 小説家になろうに投稿していたものです

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...