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7話
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数週間経ち、夏希もホストとして本格的に売れてきて、少し季節の変わり目を感じる、5月初め。
その日の午後の講義。教授がグループワークの指示を出した。教授が勝手に決めた5人グループで、指示に従いながら、移動し、集まった。
「うわ、この5人か……」
夏希は心の中で軽くため息をつく。
前にホストに来て以来、春奈との再会だった。
春奈の存在に、まだ気づかれずに済むかどうかの緊張が混じっていた。
隣には海斗。
いつも通り落ち着いた笑みで座る海斗の存在は、夏希にとって大きな安心材料だった。
「永谷くんと草壁さんね。よろしくお願いします!」
春奈が自然に声をかける。
その笑顔は昔と変わらず明るく、夏希は一瞬、胸がぎゅっとなった。
永谷くんは、昔の俺のような陰キャな男子。
草壁さんは物腰柔らかいが、きちんと発言する少し気が強めのタイプの女子だった。
「じゃあ、まずテーマ分けようか」
海斗がさっと話を切り出す。
自然に、夏希も自分の席に着き、資料を広げた。
春奈の視線が一瞬、夏希の顔に触れる。
夏希は必死に平静を装い、わざと海斗に少し身を寄せる。
(……気づかれるわけない)
夏希は内心で自分に言い聞かせる。
でも、胸の奥は何となくざわついていた。
春奈の笑顔を見ただけで、心が小さく揺れる。
「じゃあ、意見出していこうか」
草壁さんが手元のメモを開きながら言う。
永谷くんも頷く。
夏希は淡々と発言する。
内容は普通に大学生らしい、まじめな話。
でも春奈が見ている視線を感じるたび、胸の奥の違和感が少しずつ膨らんだ。
「海斗、これどう思う?」
夏希は意識的に視線を海斗に向ける。
海斗はいつも通り、軽くうなずきながら「いいんじゃない」と答える。
それだけで、夏希は落ち着いた。
授業は進み、笑い声も交わされる。
春奈は相変わらず明るく、無邪気に意見を言う。
夏希は黙って聞きながら、自分の心の動きを必死に抑えていた。
(……あいつ、全然気づかない。これでよかったんだ)
でも、その胸の奥の苦しさは、確かに存在していた。
愛叶としての顔をしていても、大学での夏希はやっぱり、春奈にとっては別人の存在だった。
その日の午後の講義。教授がグループワークの指示を出した。教授が勝手に決めた5人グループで、指示に従いながら、移動し、集まった。
「うわ、この5人か……」
夏希は心の中で軽くため息をつく。
前にホストに来て以来、春奈との再会だった。
春奈の存在に、まだ気づかれずに済むかどうかの緊張が混じっていた。
隣には海斗。
いつも通り落ち着いた笑みで座る海斗の存在は、夏希にとって大きな安心材料だった。
「永谷くんと草壁さんね。よろしくお願いします!」
春奈が自然に声をかける。
その笑顔は昔と変わらず明るく、夏希は一瞬、胸がぎゅっとなった。
永谷くんは、昔の俺のような陰キャな男子。
草壁さんは物腰柔らかいが、きちんと発言する少し気が強めのタイプの女子だった。
「じゃあ、まずテーマ分けようか」
海斗がさっと話を切り出す。
自然に、夏希も自分の席に着き、資料を広げた。
春奈の視線が一瞬、夏希の顔に触れる。
夏希は必死に平静を装い、わざと海斗に少し身を寄せる。
(……気づかれるわけない)
夏希は内心で自分に言い聞かせる。
でも、胸の奥は何となくざわついていた。
春奈の笑顔を見ただけで、心が小さく揺れる。
「じゃあ、意見出していこうか」
草壁さんが手元のメモを開きながら言う。
永谷くんも頷く。
夏希は淡々と発言する。
内容は普通に大学生らしい、まじめな話。
でも春奈が見ている視線を感じるたび、胸の奥の違和感が少しずつ膨らんだ。
「海斗、これどう思う?」
夏希は意識的に視線を海斗に向ける。
海斗はいつも通り、軽くうなずきながら「いいんじゃない」と答える。
それだけで、夏希は落ち着いた。
授業は進み、笑い声も交わされる。
春奈は相変わらず明るく、無邪気に意見を言う。
夏希は黙って聞きながら、自分の心の動きを必死に抑えていた。
(……あいつ、全然気づかない。これでよかったんだ)
でも、その胸の奥の苦しさは、確かに存在していた。
愛叶としての顔をしていても、大学での夏希はやっぱり、春奈にとっては別人の存在だった。
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