2 / 3
2.お父さんのお気に入りはおいくらですか?
しおりを挟む
市場に向かって走る。
急いでいるのもあるけれど、本当は何も考えたくないから。
一度でも足を止めてしまうと、恐怖に呑み込まれてしまいそうで、ひたすら走り続けた。
「おじさん!」
お目当ての店にたどり着き、勢い良く飛び込む。
「おお、フェリシアじゃないか。そんなに急いでどうしたんだ」
厳つい顔だが、本当は優しい店主が声をかけてくれる。
「王都に行きたいの。この髪、いくらで買ってくれる?」
本当はきれいに洗って香油でも付けたほうがよかったのだろうけど、時間がないし、香油なんてそもそも持っていない。でも、金髪は高く売れると聞いたことがあるわ。
「待て待て待て! 本気で言っているのか⁉」
「本気よ。このままだとのたれ死ぬか、一生両親に搾取されて生きることになる」
そんな人生を変えるためなら、髪くらい安いものだ。
「……髪は女性にとって大切なものだろうが」
「生きていればまた伸びるわ!」
「そんなに生活が苦しいのか」
「うん。また、赤ちゃんが産まれるんですって」
私の言葉に、店主が大きく溜息を吐いた。
それから私の髪を一房すくい、手触りを確かめた。
「……うん。きれいな色だ」
「でしょ? お父さんのお気に入りよ」
でも、ちょっとパサついていると文句を言われた。だから少し値が下がるのですって。
だけど、王都に行くには十分な金額になるようでほっとした。
それから店主が無言で鋏を持ってきた。
「本当にいいんだな?」
「……はい。お願いします」
──シャキ。
一度確認したあとは、戸惑うことなく髪が切られていく。
思わず息を詰めてしまったが、あっという間に切り終わり、パサリと頬に髪が触れた。
「……短い」
「そうだな」
自分で決めたことなのに、何だか鼻の奥がツンとしてしまう。
「サービスだ。これに着替えていけ」
そう言って差し出されたのは、男の子用の服だ。
「女のひとり旅は危険だ。まだ、小僧のほうが安全だろう」
「……ありがとうございます」
生成りのシャツに焦げ茶色のベストと長ズボン。靴はもともとヒールのないブーツだからそのままで。
「ほら、帽子を深くかぶって顔も隠せ」
もともと痩せぎすで貧相な体つきだったから、たぶん、ちゃんと男の子に見えるだろう。
「……また、返しに来ますね」
「どうせ息子のお古だ。たいしたものじゃないから気にすんな」
そう言って頭をグリグリと撫でられた。
「気を付けて行けよ」
「はい、ありがとうございます!」
……赤の他人である店主はこんなに優しいのに。
なんとなく卑屈になりそうな気持ちを振り払うように、また走り出した。
髪を切った分だけ、早く走れるようになった気がした。
急いでいるのもあるけれど、本当は何も考えたくないから。
一度でも足を止めてしまうと、恐怖に呑み込まれてしまいそうで、ひたすら走り続けた。
「おじさん!」
お目当ての店にたどり着き、勢い良く飛び込む。
「おお、フェリシアじゃないか。そんなに急いでどうしたんだ」
厳つい顔だが、本当は優しい店主が声をかけてくれる。
「王都に行きたいの。この髪、いくらで買ってくれる?」
本当はきれいに洗って香油でも付けたほうがよかったのだろうけど、時間がないし、香油なんてそもそも持っていない。でも、金髪は高く売れると聞いたことがあるわ。
「待て待て待て! 本気で言っているのか⁉」
「本気よ。このままだとのたれ死ぬか、一生両親に搾取されて生きることになる」
そんな人生を変えるためなら、髪くらい安いものだ。
「……髪は女性にとって大切なものだろうが」
「生きていればまた伸びるわ!」
「そんなに生活が苦しいのか」
「うん。また、赤ちゃんが産まれるんですって」
私の言葉に、店主が大きく溜息を吐いた。
それから私の髪を一房すくい、手触りを確かめた。
「……うん。きれいな色だ」
「でしょ? お父さんのお気に入りよ」
でも、ちょっとパサついていると文句を言われた。だから少し値が下がるのですって。
だけど、王都に行くには十分な金額になるようでほっとした。
それから店主が無言で鋏を持ってきた。
「本当にいいんだな?」
「……はい。お願いします」
──シャキ。
一度確認したあとは、戸惑うことなく髪が切られていく。
思わず息を詰めてしまったが、あっという間に切り終わり、パサリと頬に髪が触れた。
「……短い」
「そうだな」
自分で決めたことなのに、何だか鼻の奥がツンとしてしまう。
「サービスだ。これに着替えていけ」
そう言って差し出されたのは、男の子用の服だ。
「女のひとり旅は危険だ。まだ、小僧のほうが安全だろう」
「……ありがとうございます」
生成りのシャツに焦げ茶色のベストと長ズボン。靴はもともとヒールのないブーツだからそのままで。
「ほら、帽子を深くかぶって顔も隠せ」
もともと痩せぎすで貧相な体つきだったから、たぶん、ちゃんと男の子に見えるだろう。
「……また、返しに来ますね」
「どうせ息子のお古だ。たいしたものじゃないから気にすんな」
そう言って頭をグリグリと撫でられた。
「気を付けて行けよ」
「はい、ありがとうございます!」
……赤の他人である店主はこんなに優しいのに。
なんとなく卑屈になりそうな気持ちを振り払うように、また走り出した。
髪を切った分だけ、早く走れるようになった気がした。
230
あなたにおすすめの小説
──いいえ。わたしがあなたとの婚約を破棄したいのは、あなたに愛する人がいるからではありません。
ふまさ
恋愛
伯爵令息のパットは、婚約者であるオーレリアからの突然の別れ話に、困惑していた。
「確かにぼくには、きみの他に愛する人がいる。でもその人は平民で、ぼくはその人と結婚はできない。だから、きみと──こんな言い方は卑怯かもしれないが、きみの家にお金を援助することと引き換えに、きみはそれを受け入れたうえで、ぼくと婚約してくれたんじゃなかったのか?!」
正面に座るオーレリアは、膝のうえに置いたこぶしを強く握った。
「……あなたの言う通りです。元より貴族の結婚など、政略的なものの方が多い。そんな中、没落寸前の我がヴェッター伯爵家に援助してくれたうえ、あなたのような優しいお方が我が家に婿養子としてきてくれるなど、まるで夢のようなお話でした」
「──なら、どうして? ぼくがきみを一番に愛せないから? けれどきみは、それでもいいと言ってくれたよね?」
オーレリアは答えないどころか、顔すらあげてくれない。
けれどその場にいる、両家の親たちは、その理由を理解していた。
──そう。
何もわかっていないのは、パットだけだった。
君は僕の番じゃないから
椎名さえら
恋愛
男女に番がいる、番同士は否応なしに惹かれ合う世界。
「君は僕の番じゃないから」
エリーゼは隣人のアーヴィンが子供の頃から好きだったが
エリーゼは彼の番ではなかったため、フラれてしまった。
すると
「君こそ俺の番だ!」と突然接近してくる
イケメンが登場してーーー!?
___________________________
動機。
暗い話を書くと反動で明るい話が書きたくなります
なので明るい話になります←
深く考えて読む話ではありません
※マーク編:3話+エピローグ
※超絶短編です
※さくっと読めるはず
※番の設定はゆるゆるです
※世界観としては割と近代チック
※ルーカス編思ったより明るくなかったごめんなさい
※マーク編は明るいです
大好きなあなたが「嫌い」と言うから「私もです」と微笑みました。
桗梛葉 (たなは)
恋愛
私はずっと、貴方のことが好きなのです。
でも貴方は私を嫌っています。
だから、私は命を懸けて今日も嘘を吐くのです。
貴方が心置きなく私を嫌っていられるように。
貴方を「嫌い」なのだと告げるのです。
氷の令嬢は愛を請わない - 捨て子の『義妹』に愛も家族も奪われたマリーローズの逆襲
恋せよ恋
恋愛
銀髪紫眼の美貌の侯爵令嬢、マリーローズ。
完璧な淑女に育った彼女だったが、母は捨て子ジュリエットを寵愛。
婚約者の公爵家嫡男アレックスも、友人も、次々に奪われる――。
家族に裏切られ、すべてを失った彼女が下した決断は、
家族を見かぎり、国を捨て、自らの人生を取り戻すこと。
理不尽な悲恋を力に変え、運命をひっくり返す令嬢の逆転劇!
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
完結 愛される自信を失ったのは私の罪
音爽(ネソウ)
恋愛
顔も知らないまま婚約した二人。貴族では当たり前の出会いだった。
それでも互いを尊重して歩み寄るのである。幸いにも両人とも一目で気に入ってしまう。
ところが「従妹」称する少女が現れて「私が婚約するはずだった返せ」と宣戦布告してきた。
社畜の私は異世界でも社畜精神が残ったままだった
木嶋うめ香
恋愛
貴族学園の小さな部屋で、私は一人書類仕事に追われていた。
今日も寮には帰れそうにない、机の上には大量の未処理の書類。
せめて空腹を紛らわそうと、ビスケットを鞄から取り出し水を汲んでこようとして立ち上がった途端、視界が暗くなり倒れた。
床に倒れた反動で、頭を床にぶつける。
その衝撃で思い出した、私は前世ブラック企業に勤めていた社畜で、二十三連勤サービス残業付きの末、体調を崩し亡くなったアラサー営業職だった。
他サイトでもアップしています。
愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる