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12.狼の飼い方 (初遠征)
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どうしよう……
今日もエミディオ様が私を強く抱きしめる。
その手に性的な動きはない。ただ、私がいるかどうかを確かめ、私の形をたどり、自分に引き寄せるだけ。
私の髪に顔を埋め、匂いを嗅ぐのはやめてほしいです!
最初はモニカさんと勘違いしているのかと思って、思わず拳を握りしめた。
殴ろうと思ったその時、
「……アリーチェ……」
彼が呟いた。目を覚ましたのかと思ったが寝言のようだ。そして……人間違いはしていないらしい。
思わずホッとする。
彼も私がいることに安心したのか、寝息が穏やかになる。
確かにね。くっついてると温かいし、抱きしめられると嬉しくもある。
問題は、17歳の娘を抱き枕にして眠る父は如何なものか。ということだ。やらないわよね、普通は。
どうしようか。
好きだな、と思う。けど……
家族愛。でも、どんどん娘から逸脱しているように思う。では、その先は何だろう。
よく分からないわ。
こうやって私に甘える姿は嫌ではない。むしろ……嬉しく思っている。今まで泰然と佇んでいた狼が私だけに懐いているような……なるほど、これか!
私を守る強い狼。色合いも似ているわ。
目付きも狼だと思えば納得する。
思わず頭を撫でてみる。思ったよりも柔らかい髪が気持ちいい。彼が私を撫でたがる理由が分かった。しばらく撫でているといい感じに眠くなってくる。
……なるほど、これが癒やし……
アニマルセラピー……だ……
あれから数日が経った。
エミディオ様もだいぶ元気が戻った気がする。
この人は自分が傷ついている時でも私の体調を気にする困ったさんだ。だから、私にご飯を食べさせる為なら自分も食べるし、私を睡眠不足にしない為なら一緒に眠りにつく。領民の為なら仕事も頑張るし、助けを求められると王宮にも向かう。
……心配になるほど、自分を後回しにする。
だから私が甘やかす事に決めました!
「エミディオ様、こっちのカフスにしましょう。その方が私とお揃いっぽいわ」
「そうか?ではそれにしよう」
「はい、手」
すると、まるでワンちゃんがお手をするように素直に手を出してくる。最近すっかり躾のいき届いた飼い狼だわ。
目が合うとエミディオ様が優しく微笑む。
うわ、眉間にシワも凶悪だったけど、笑顔も存外凶悪だ……顔がいい。こんなに格好良かったっけ。
お母様も美女だもの。本来なら彼はもっとモテていたのでは?
「どうした?」
彼がこうやって、どうした?と聞いてくるのが案外好きだわ。お人好しめ。
「いえ、私の旦那様は素敵だなと思って」
「君もね。とても綺麗だ。絶対ひとりでフラフラしないように」
「あなたのお友達のパーティーでしょう?」
「アイツは顔が広いし、娘自慢でかなり盛大に人を集めている。アイツにとって親しい者が私達にとって味方だとは限らないからな」
「なるほど?どっちにしても私は知り合いなんてほとんどいないもの。あなたにくっついてるわ」
「ああ、そうしてくれ」
今日も過保護モード発動中。
ガヴィーノ様は本当に追い出された。と言っても平民落ちとかではない。伯爵家が所有するタウンハウスに移されただけだ。
罵詈雑言をがなり立てていたが、エミディオ様が無表情で近付くと……思い切りぶん殴った。人が吹っ飛ぶのを初めて見たわ。
鼻血を出して蹲っている彼を無造作に馬車に放り込み、「アリーチェの前に姿を見せたら埋める」とお別れの言葉を伝え送り出した。
ヤバイわ。私は愛されているようだ。うちの狼さんは最高に強かった。
そんな感じで私の守りは固い。彼がいれば、誰が近づいて来ても倒してくれそうだ。
つい隣に座るエミディオ様の頭を撫でてしまう。サラサラした髪の毛がクセになる。
「エミディオ様も私を放って遊びに行かないで下さいね。私の味方はあなただけなんだから」
妻になって初めて二人で大勢の人に会うのだ。どんな反応をされるのか少し不安なんだから。
「心配ならずっと手を繋いでいればいい」
「ん、そうするわ」
馬車が止まった。どうやら子爵邸に到着したようだ。
「……ねぇ、本当に子爵なの?」
「ん?そうだよ」
同じ子爵でここまで差があるなんてっ!
思わず涙が出そうよ。
伯爵家も最初は立派過ぎて驚いたけど、同じくらい凄くない?
「だから言っただろう。ひとりでフラフラしないようにと。連れ去られても分かりづらいからな」
「……絶対に離れないから」
「ああ、それじゃあ行こうか」
館の中は本当に大勢の人がいた。
これははぐれたら大変なやつ!娘の誕生日にここまでするの?王族なの?
私の疑問は顔に出ていたらしい。
「王族に縁のある公爵家の三男だ。
王宮で仕事をしているから、管理が楽な子爵になっただけで、思考回路と行動は裕福なおぼっちゃまだ」
公爵家……王族に縁……凄い人と友達なのね。
「エミディオ!来てたんだな」
「グイド。今日はおめでとう」
「ありがとう!後でマリベルにも会ってやってくれ。で、そちらが?」
「ああ、妻のアリーチェだ」
妻!初めてそう紹介されてしまった!
「はじめまして。グイド・セフェリノだ。エミディオとは学生の頃からの付き合いなんだ。これから仲良くしてくれると嬉しいな」
よかった。優しそうな人だ。
「はじめまして、アリーチェと申します。
私は知り合いがあまりいないので、そのように言っていただけるとありがたいですわ」
「よかった。後で妻と娘を紹介するよ。今日は楽しんでいってくれ。じゃあ、また後でな」
「ああ」
これだけ人がいると挨拶でまわるのも大変そう。
「大丈夫か?」
「もちろん。優しそうな方でよかったわ」
「そうだな。人柄は保証する。
何か飲むか?」
「そうね」
「アリーチェか?」
え、
今日もエミディオ様が私を強く抱きしめる。
その手に性的な動きはない。ただ、私がいるかどうかを確かめ、私の形をたどり、自分に引き寄せるだけ。
私の髪に顔を埋め、匂いを嗅ぐのはやめてほしいです!
最初はモニカさんと勘違いしているのかと思って、思わず拳を握りしめた。
殴ろうと思ったその時、
「……アリーチェ……」
彼が呟いた。目を覚ましたのかと思ったが寝言のようだ。そして……人間違いはしていないらしい。
思わずホッとする。
彼も私がいることに安心したのか、寝息が穏やかになる。
確かにね。くっついてると温かいし、抱きしめられると嬉しくもある。
問題は、17歳の娘を抱き枕にして眠る父は如何なものか。ということだ。やらないわよね、普通は。
どうしようか。
好きだな、と思う。けど……
家族愛。でも、どんどん娘から逸脱しているように思う。では、その先は何だろう。
よく分からないわ。
こうやって私に甘える姿は嫌ではない。むしろ……嬉しく思っている。今まで泰然と佇んでいた狼が私だけに懐いているような……なるほど、これか!
私を守る強い狼。色合いも似ているわ。
目付きも狼だと思えば納得する。
思わず頭を撫でてみる。思ったよりも柔らかい髪が気持ちいい。彼が私を撫でたがる理由が分かった。しばらく撫でているといい感じに眠くなってくる。
……なるほど、これが癒やし……
アニマルセラピー……だ……
あれから数日が経った。
エミディオ様もだいぶ元気が戻った気がする。
この人は自分が傷ついている時でも私の体調を気にする困ったさんだ。だから、私にご飯を食べさせる為なら自分も食べるし、私を睡眠不足にしない為なら一緒に眠りにつく。領民の為なら仕事も頑張るし、助けを求められると王宮にも向かう。
……心配になるほど、自分を後回しにする。
だから私が甘やかす事に決めました!
「エミディオ様、こっちのカフスにしましょう。その方が私とお揃いっぽいわ」
「そうか?ではそれにしよう」
「はい、手」
すると、まるでワンちゃんがお手をするように素直に手を出してくる。最近すっかり躾のいき届いた飼い狼だわ。
目が合うとエミディオ様が優しく微笑む。
うわ、眉間にシワも凶悪だったけど、笑顔も存外凶悪だ……顔がいい。こんなに格好良かったっけ。
お母様も美女だもの。本来なら彼はもっとモテていたのでは?
「どうした?」
彼がこうやって、どうした?と聞いてくるのが案外好きだわ。お人好しめ。
「いえ、私の旦那様は素敵だなと思って」
「君もね。とても綺麗だ。絶対ひとりでフラフラしないように」
「あなたのお友達のパーティーでしょう?」
「アイツは顔が広いし、娘自慢でかなり盛大に人を集めている。アイツにとって親しい者が私達にとって味方だとは限らないからな」
「なるほど?どっちにしても私は知り合いなんてほとんどいないもの。あなたにくっついてるわ」
「ああ、そうしてくれ」
今日も過保護モード発動中。
ガヴィーノ様は本当に追い出された。と言っても平民落ちとかではない。伯爵家が所有するタウンハウスに移されただけだ。
罵詈雑言をがなり立てていたが、エミディオ様が無表情で近付くと……思い切りぶん殴った。人が吹っ飛ぶのを初めて見たわ。
鼻血を出して蹲っている彼を無造作に馬車に放り込み、「アリーチェの前に姿を見せたら埋める」とお別れの言葉を伝え送り出した。
ヤバイわ。私は愛されているようだ。うちの狼さんは最高に強かった。
そんな感じで私の守りは固い。彼がいれば、誰が近づいて来ても倒してくれそうだ。
つい隣に座るエミディオ様の頭を撫でてしまう。サラサラした髪の毛がクセになる。
「エミディオ様も私を放って遊びに行かないで下さいね。私の味方はあなただけなんだから」
妻になって初めて二人で大勢の人に会うのだ。どんな反応をされるのか少し不安なんだから。
「心配ならずっと手を繋いでいればいい」
「ん、そうするわ」
馬車が止まった。どうやら子爵邸に到着したようだ。
「……ねぇ、本当に子爵なの?」
「ん?そうだよ」
同じ子爵でここまで差があるなんてっ!
思わず涙が出そうよ。
伯爵家も最初は立派過ぎて驚いたけど、同じくらい凄くない?
「だから言っただろう。ひとりでフラフラしないようにと。連れ去られても分かりづらいからな」
「……絶対に離れないから」
「ああ、それじゃあ行こうか」
館の中は本当に大勢の人がいた。
これははぐれたら大変なやつ!娘の誕生日にここまでするの?王族なの?
私の疑問は顔に出ていたらしい。
「王族に縁のある公爵家の三男だ。
王宮で仕事をしているから、管理が楽な子爵になっただけで、思考回路と行動は裕福なおぼっちゃまだ」
公爵家……王族に縁……凄い人と友達なのね。
「エミディオ!来てたんだな」
「グイド。今日はおめでとう」
「ありがとう!後でマリベルにも会ってやってくれ。で、そちらが?」
「ああ、妻のアリーチェだ」
妻!初めてそう紹介されてしまった!
「はじめまして。グイド・セフェリノだ。エミディオとは学生の頃からの付き合いなんだ。これから仲良くしてくれると嬉しいな」
よかった。優しそうな人だ。
「はじめまして、アリーチェと申します。
私は知り合いがあまりいないので、そのように言っていただけるとありがたいですわ」
「よかった。後で妻と娘を紹介するよ。今日は楽しんでいってくれ。じゃあ、また後でな」
「ああ」
これだけ人がいると挨拶でまわるのも大変そう。
「大丈夫か?」
「もちろん。優しそうな方でよかったわ」
「そうだな。人柄は保証する。
何か飲むか?」
「そうね」
「アリーチェか?」
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