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19.囚われのお姫様 (決勝トーナメント2)

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「お前がアリーチェだな?」


何よ、こいつら。馬車を止められ乗り込んできた男達。御者の首元にはナイフが当てられている。


「そうよ、だから何?馬鹿なお父様にでも雇われた?寿命を縮めたいのね、御愁傷様」


とりあえず、素直に言う事を聞く必要は無い。


「はっ!気の強いお嬢さんだ。だがこれが見えてるのか?お前は自分の為に他人を殺す覚悟があるか?」


くそっ、殴りたい!


「……あるわけ無いでしょうっ!」


そこからは早かった。私達の手足を縛り馬車は進みだした。御者とノーラと私。全員無事なのはありがたい。


「……ねえ、どこに向かっているの」
「教えると思うか?話に聞いていた通り気が強いな。このままお前を犯して従わせる事もできる。どうする?」 


……犯す?お前が?!

絶対に嫌。私はエミディオ様以外の男なんて絶対にいらないわ!


「……拐うということは私を殺せないのでしょう?それなら、もし私に触れたら死んでやるわ。残念、報酬も貰えずタダ働きね」


死ぬ方法なんていくらでもある。
私にそんな勇気が無いと思ってるの?

でもギリギリまで生きるけどね。まだ告白すらしていない。こんな状況で死ねる訳がないわ!


「おうおう、威勢のいい嬢ちゃんだな。これでもう少し胸がデカけりゃ最高なのになぁっ!」


そう言って舐めるような視線で私の胸元を見た。


「旦那はその可愛い胸を揉んでくれないのか?俺が育ててやろうか?あ?」


殴る。絶対殴る。誰が止めようとも殴るっ!


怒りのあまり恐怖心なんて消え去った。




どうやって殴るかを考えていたら、思ったよりも早くに馬車が止まった。

……どこよ、ここ。
少しこじんまりした館ね。大声出したら……駄目ね。下手に刺激するとノーラ達が傷付けられるかもしれない。
きっとエミディオ様が助けに来てくれる。
少しでも時間を稼がなきゃ……


「ねぇ、あなたの名前は?」
「なんだ?惚れたか?」


馬鹿の手先はやはり馬鹿だ。


「……あなたの事は絶対に殴るって決めているの。うっかり殴り殺すといけないから、今のうちに墓石に刻む名前を聞いておこうと思って」
「ハハッ!ここまで肝の据わった嬢ちゃんは初めて見たっ!本当に俺の女になるか?」
「あなたの女?死んでも嫌。もっと相応しい男になって出直して来なさい」
「残念!さぁて、仕方がないからお前の兄ちゃんにプレゼントするか。おら、入れ!」


部屋に入ると、待っていたのは予想通り。いえ、予想より一人多いわね。父と義兄に加え義姉までいるとは思わなかった。ようするにここは彼女の嫁ぎ先の持ち家か。
……エミディオ、見つけてくれるかしら……


「遅かったな、アリーチェ」
「……こんな手荒な招待ですもの。支度に手間取ってしまいましたわ。マナーがあまりにもなっていなくて驚きました。やっぱり馬鹿のやることは違いますね」


あら。腹が立ち過ぎてお口が。


「お前は本当に生意気だなっ!」


馬鹿義兄が手を振り上げた。殴りたければ殴ればいい。暴行の証拠になる。


「やめろ!怪我させたらバレるだろう!
アリーチェ、この書類にサインしろ。大人しく書けば解放してやる」


いえ、とっくにバレてると思うけれど。

そう言って差し出された書類は三枚。

一つは、私がサンティ子爵家を許し、婚姻前に結んだ契約を破棄するというもの。
もう一つは……離婚届?
最後が、慰謝料の請求……ね。


「……最初から離婚させるつもりだったの?支度金をたんまり貰ったくせに、すぐに離婚させて慰謝料まで奪い取るつもりだったのね」


だから私に愛人がいることを説明しなかったんだ!
私の性格なら愛人や白い結婚を認めないと思ったのだろう。確かにそれは合ってる。結婚詐欺だって騒いだもの。
エミディオ様がお人好しじゃなかったら本当に離婚していたかもしれない。慰謝料は私が貰うけどね!
でも、待てど暮らせど離婚の話は聞こえてこない。
だから、偶然見つけたあの誕生日会でエリアスをけしかけて騒ぎを起こさせたかったんだ。
でも、ここでもエミディオ様に気付かれて計画は潰された。それどころかエリアスがすべてを話していれば三億支払わなくてはいけない。

だからって……


「計画がお粗末過ぎるでしょう……」


これが身内かと思うと恥ずかし過ぎる。
頭悪過ぎて信じられないわ。


「まず、私が結んだ契約でもないのにこんな書類を作っても無かったことにはなりません。
それに、もし離婚したとしても、慰謝料は全額私が貰います。それで平民になってあなた達から逃げますよ。
これ以上利用されたくありませんから」


もしかして私が家族を愛しているとでも思っているのだろうか。あんな扱いをしておいて?


「今まで育てて貰った恩を返すのは当たり前だろう!」
「言うほどのことはして貰ってませんよ。お母様が亡くなってから私がどれだけ働いてきたと思ってるのよ。それでチャラでしょう!」


書類仕事に家事、どれだけのことをやって来たと思うの?私がいなくなって、少しはありがたみが分かったかと思ったのに!


「いいから大人しくサインしろ!使用人達がどうなってもいいのか?!」
「どうするつもり?ノーラは男爵令嬢よ。傷付けて困るのはあなた達じゃないの?」
「なっ!」


馬鹿だわ。貧乏子爵家は平民の使用人しかいなかったけど、まさか同じだと思っていたのね。


「うるさい!何でもいいからサインしろよ!」
「い・や・よ」
「ねぇ」


今までずっと静かだった義姉が突然声を発した。


「さっきの男に犯してもらいましょうよ」


なっ!


「うふっ、や~っと絶望に満ちた顔になったわね!そうそう、そういう顔が見たかったの。
貴方ったらいっつも生意気に睨みつけてくるか馬鹿にした視線ばかりなんだもの。つまらなくて。
これで犯されたら今度はどんな顔になるかしら?見たいわぁ!」


……気狂いがいた。




 
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