悪女のレシピ〜略奪愛を添えて〜

ましろ

文字の大きさ
10 / 89
第一章

9.君を見つけた

しおりを挟む

「君はご両親を本当に愛しているのか?」

 それはとても意外な言葉でした。
 この年頃の子供なら両親を愛しているのは当然だと考えると思っていたのに。

「欠片も愛されていないのに私だけが愛するの?それは何のために?」

 この方には本音で話した方がいい気がします。だって彼自身が建前なく話してくれているから。

「……では、どうして命懸けの治療なんかしたんだ」
「だって与えられないのなら奪うしかないでしょう?そのためには多少の危険は仕方がないと思っただけです」

 あ、しまったわ。本音を言い過ぎてナタリーがまた涙目になっているし、マルクがすっごく怒っています。

「君が望むものとは何だい」

 こんなことを聞かれたのは初めてかも。世の中にはいろんな大人がいるのね。

「……私にはエマという乳母がいました。私はずっと彼女が母親だと思っていたくらい大好きでした。
 でも、3歳になった頃にもう必要がない年齢だからと本館に異動になってしまったんです。
 とっても悲しくて……でも、いい子にしてたらいつか会えるからと言われました。
 お母様達もいつも言っていました。いい子で待っていてねと。
 でも、6歳になってようやく知ったんです。ミュリエルが生まれたからエマは奪われたんだって。
 いい子というのは大人にとって都合のいい子。ただそれだけの意味しかなくて、素直に待っていたら馬鹿を見るのだと理解しました」

 ああ、ナタリーがまたボロ泣きだわ。マルクが慌ててハンカチを渡しています。

「それで?」
「もうこれ以上奪われたくないと思いました。本来持っているべきものも取り返したい。だから体を張って頑張りました。それだけです」
「……取り返したいのは家族か?」
「それは要りませんね。いえ、まだ未成年なので保護者としては必要ですけど、間違っても愛して欲しいとかは思いません。
 ただ、この別館の使用人達を奪われたくないし、令嬢としてあって然るべき他家との交流の場や、今後の学園などでの学びの機会を与えられるのかも不安でした。
 もしかしたら、このまま存在を消されるかもしれないとすら考えました。
 だからできるだけ大きな事件を起こして伯爵家の外の人に私を見つけて欲しかったんです」

 これが私の望んだことです。私はここにいるのだと皆に知らしめたかった。

「……そうか。頑張ったな、ちゃんと君を見つけたよ。ブランシュ」

 エルフェ様の大きな手が私の頭を撫でました。
 こんなことをされたのは初めてです。……それとも記憶に無いだけで、幼い頃は……いえ、ありませんね。

「……叱らないのですか?」
「まあ、それはそこの二人に任せるよ」

 あ~~、ナタリーは泣いてるしマルクは怒ってる?悲しんでる?どっちかな。どっちもかな。

「君が大切にしている人達なら、彼らだって君のことが大切なはずだ。これからは無茶をする前にその大切な人達の顔を思い浮かべてご覧。そうしたらきっとあんな無茶はできなくなるから」
「……はい、ごめんなさい」

 エルフェ様の言葉は不思議とすんなり心に入って来ます。教育学部の主任だから教え諭すのが上手いのかな。

「まず、君達のご両親だが、聞いていた話と少し違うからね。二人の件は一旦持ち帰りかな」

 私が生まれてからずっと別館暮らしなのを言ってなかったのね。

「双子達だが、彼らは一年間、魔法塔内の寄宿学校に入れることになった」

 え、何それ羨ましいわ。

「残念ながら精神面に不安があるという意見が多かったんだ。
 パスカル君は魔法を使っている君に触れて妨害しようとしたそうだね?」
「はい。もう少しでコントロールが乱れるところでした」 
「マイルズ君にも確認したが、妹を守るためだったから仕方がないと言うんだ。何が悪かったのかをまるで理解していない」

 あら、一応私も妹のはずなのですけど?
 チビだの何だのと言われたのを思い出して少し腹が立ちました。

「魔法を使う上で大切なことが理解できていないのは大変危険なんだ。彼らは魔力が強いから余計にね。だから、そういった危機管理と一般常識などを徹底指導することになった。
 あとは家族と離れることで自分達が当たり前だと思っていたことがそうではなかったのだと気付いて欲しいというのもある。
 とりあえず一年後に試験を受けさせて、合格点に満たなければまた延長だな」

 やっぱりあれは危険行為だったのね。もしあと少し強く揺らされていたらミュリエルは死んでいたかもしれなかったもの。

「ミュリエル嬢はまだ幼いので親から離すべきではないという意見も多くてね。しばらくは魔法塔から指導員を派遣することになった」
「……たった一人のためにそこまで?」
「何を言ってるんだ。君を入れて二人だろう?」
「わたしも?」

 私も指導していただけるの?というか、もしかして監視対象なのかしら。

「あんな無謀なことをする君を放置するわけないだろう。本当なら魔法塔預かりにしようと思っていたんだぞ」
「そうなのですか?」
「だが、魔法塔は基本的に使用人は連れていけないんだ。君は彼女達と離れたくないのだろう?」

 それは嫌よ。奪われたくないから頑張ったのに!

「……絶対に嫌です」
「うん、分かってるよ。後はまあ私の家の養子にするという話もあったのだけどね」
「えっ!?」
「でも奪ってやる宣言を聞いてしまったし」

 ゔっ、改めて言われると恥ずかしいです。

「でもなぜですか?一度お会いしただけですのに」
「君は自分がどれだけ優秀なのか分かっていないみたいだな。
 まず、治癒魔法を使える人間は少ない。君のご両親は治療を行わなかったのではなく、行えなかったんだ」
「……そうなのですか?」
「皆が当たり前に使えるなら医師は必要無くなるだろう」

 言われてみればそうかも?

「そして、ミュリエル嬢の症状はかなり悪かった。以前、彼女を診た魔法塔の職員は、たとえ自分が血縁者であってもリンク治療を行うのは難しいと言っていたんだ。
 それをやり遂げた君の魔力のコントロールはとんでもなく凄いということだよ」

 うわっ、エルフェ様に褒められちゃったわ。

「…でも、それじゃあやっぱりミュリエルは」
「うん、彼女は5~6歳くらいまでしか生きられないだろうと言われていたよ」

 ……そう。だからあんなに必死だったの?
 それなら最初からそう言ってくれたらよかった。そうしたら、もしかしたら私だって許せたかも……。
 どうかな。今となってはよく分かりません。

 ただ、彼らを家族として大切に思う日は来ないだろうなと、そう思うだけです。





しおりを挟む
感想 242

あなたにおすすめの小説

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

〈完結〉前世と今世、合わせて2度目の白い結婚ですもの。場馴れしておりますわ。

ごろごろみかん。
ファンタジー
「これは白い結婚だ」 夫となったばかりの彼がそう言った瞬間、私は前世の記憶を取り戻した──。 元華族の令嬢、高階花恋は前世で白い結婚を言い渡され、失意のうちに死んでしまった。それを、思い出したのだ。前世の記憶を持つ今のカレンは、強かだ。 "カーター家の出戻り娘カレンは、貴族でありながら離婚歴がある。よっぽど性格に難がある、厄介な女に違いない" 「……なーんて言われているのは知っているけど、もういいわ!だって、私のこれからの人生には関係ないもの」 白魔術師カレンとして、お仕事頑張って、愛猫とハッピーライフを楽しみます! ☆恋愛→ファンタジーに変更しました

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

私の生前がだいぶ不幸でカミサマにそれを話したら、何故かそれが役に立ったらしい

あとさん♪
ファンタジー
その瞬間を、何故かよく覚えている。 誰かに押されて、誰?と思って振り向いた。私の背を押したのはクラスメイトだった。私の背を押したままの、手を突き出した恰好で嘲笑っていた。 それが私の最後の記憶。 ※わかっている、これはご都合主義! ※設定はゆるんゆるん ※実在しない ※全五話

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...