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第一章
9.君を見つけた
しおりを挟む「君はご両親を本当に愛しているのか?」
それはとても意外な言葉でした。
この年頃の子供なら両親を愛しているのは当然だと考えると思っていたのに。
「欠片も愛されていないのに私だけが愛するの?それは何のために?」
この方には本音で話した方がいい気がします。だって彼自身が建前なく話してくれているから。
「……では、どうして命懸けの治療なんかしたんだ」
「だって与えられないのなら奪うしかないでしょう?そのためには多少の危険は仕方がないと思っただけです」
あ、しまったわ。本音を言い過ぎてナタリーがまた涙目になっているし、マルクがすっごく怒っています。
「君が望むものとは何だい」
こんなことを聞かれたのは初めてかも。世の中にはいろんな大人がいるのね。
「……私にはエマという乳母がいました。私はずっと彼女が母親だと思っていたくらい大好きでした。
でも、3歳になった頃にもう必要がない年齢だからと本館に異動になってしまったんです。
とっても悲しくて……でも、いい子にしてたらいつか会えるからと言われました。
お母様達もいつも言っていました。いい子で待っていてねと。
でも、6歳になってようやく知ったんです。ミュリエルが生まれたからエマは奪われたんだって。
いい子というのは大人にとって都合のいい子。ただそれだけの意味しかなくて、素直に待っていたら馬鹿を見るのだと理解しました」
ああ、ナタリーがまたボロ泣きだわ。マルクが慌ててハンカチを渡しています。
「それで?」
「もうこれ以上奪われたくないと思いました。本来持っているべきものも取り返したい。だから体を張って頑張りました。それだけです」
「……取り返したいのは家族か?」
「それは要りませんね。いえ、まだ未成年なので保護者としては必要ですけど、間違っても愛して欲しいとかは思いません。
ただ、この別館の使用人達を奪われたくないし、令嬢としてあって然るべき他家との交流の場や、今後の学園などでの学びの機会を与えられるのかも不安でした。
もしかしたら、このまま存在を消されるかもしれないとすら考えました。
だからできるだけ大きな事件を起こして伯爵家の外の人に私を見つけて欲しかったんです」
これが私の望んだことです。私はここにいるのだと皆に知らしめたかった。
「……そうか。頑張ったな、ちゃんと君を見つけたよ。ブランシュ」
エルフェ様の大きな手が私の頭を撫でました。
こんなことをされたのは初めてです。……それとも記憶に無いだけで、幼い頃は……いえ、ありませんね。
「……叱らないのですか?」
「まあ、それはそこの二人に任せるよ」
あ~~、ナタリーは泣いてるしマルクは怒ってる?悲しんでる?どっちかな。どっちもかな。
「君が大切にしている人達なら、彼らだって君のことが大切なはずだ。これからは無茶をする前にその大切な人達の顔を思い浮かべてご覧。そうしたらきっとあんな無茶はできなくなるから」
「……はい、ごめんなさい」
エルフェ様の言葉は不思議とすんなり心に入って来ます。教育学部の主任だから教え諭すのが上手いのかな。
「まず、君達のご両親だが、聞いていた話と少し違うからね。二人の件は一旦持ち帰りかな」
私が生まれてからずっと別館暮らしなのを言ってなかったのね。
「双子達だが、彼らは一年間、魔法塔内の寄宿学校に入れることになった」
え、何それ羨ましいわ。
「残念ながら精神面に不安があるという意見が多かったんだ。
パスカル君は魔法を使っている君に触れて妨害しようとしたそうだね?」
「はい。もう少しでコントロールが乱れるところでした」
「マイルズ君にも確認したが、妹を守るためだったから仕方がないと言うんだ。何が悪かったのかをまるで理解していない」
あら、一応私も妹のはずなのですけど?
チビだの何だのと言われたのを思い出して少し腹が立ちました。
「魔法を使う上で大切なことが理解できていないのは大変危険なんだ。彼らは魔力が強いから余計にね。だから、そういった危機管理と一般常識などを徹底指導することになった。
あとは家族と離れることで自分達が当たり前だと思っていたことがそうではなかったのだと気付いて欲しいというのもある。
とりあえず一年後に試験を受けさせて、合格点に満たなければまた延長だな」
やっぱりあれは危険行為だったのね。もしあと少し強く揺らされていたらミュリエルは死んでいたかもしれなかったもの。
「ミュリエル嬢はまだ幼いので親から離すべきではないという意見も多くてね。しばらくは魔法塔から指導員を派遣することになった」
「……たった一人のためにそこまで?」
「何を言ってるんだ。君を入れて二人だろう?」
「わたしも?」
私も指導していただけるの?というか、もしかして監視対象なのかしら。
「あんな無謀なことをする君を放置するわけないだろう。本当なら魔法塔預かりにしようと思っていたんだぞ」
「そうなのですか?」
「だが、魔法塔は基本的に使用人は連れていけないんだ。君は彼女達と離れたくないのだろう?」
それは嫌よ。奪われたくないから頑張ったのに!
「……絶対に嫌です」
「うん、分かってるよ。後はまあ私の家の養子にするという話もあったのだけどね」
「えっ!?」
「でも奪ってやる宣言を聞いてしまったし」
ゔっ、改めて言われると恥ずかしいです。
「でもなぜですか?一度お会いしただけですのに」
「君は自分がどれだけ優秀なのか分かっていないみたいだな。
まず、治癒魔法を使える人間は少ない。君のご両親は治療を行わなかったのではなく、行えなかったんだ」
「……そうなのですか?」
「皆が当たり前に使えるなら医師は必要無くなるだろう」
言われてみればそうかも?
「そして、ミュリエル嬢の症状はかなり悪かった。以前、彼女を診た魔法塔の職員は、たとえ自分が血縁者であってもリンク治療を行うのは難しいと言っていたんだ。
それをやり遂げた君の魔力のコントロールはとんでもなく凄いということだよ」
うわっ、エルフェ様に褒められちゃったわ。
「…でも、それじゃあやっぱりミュリエルは」
「うん、彼女は5~6歳くらいまでしか生きられないだろうと言われていたよ」
……そう。だからあんなに必死だったの?
それなら最初からそう言ってくれたらよかった。そうしたら、もしかしたら私だって許せたかも……。
どうかな。今となってはよく分かりません。
ただ、彼らを家族として大切に思う日は来ないだろうなと、そう思うだけです。
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