悪女のレシピ〜略奪愛を添えて〜

ましろ

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第二章

12.ないものねだり

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 お祖母様の情報はナタリー達によってもう少し詳細に知ることができました。

「どうやら本来なら爵位を名乗るのはデボラ様だったようです」
「そうなの?」
「はい。ですが、英雄であるモルガン様の地位を固め、各国へ知らしめたいという思いが王家側にあったようで」
「……では、王家からの口添えでお祖父様が爵位を継がれたのね」

 たしかに、家を持たない英雄では少々立場が弱い。
 国の剣であり盾でもあるお祖父様に公爵位を与えたかったのでしょう。

「あとですね、デボラ様のお祖母様は当時の第三王女だったそうです!だから、王族の血をひいているのだと聞きました。それを公爵様が薄めてしまったことを公爵夫人は大変ご不満なのだとメイド仲間から聞きました」

 なるほどね。だから髪色や瞳の色にこだわっているのかしら。

「とりあえず、私がお祖母様の興味をひくことが無いことだけはよく分かったわ」

 だって銀髪だし、顔立ちだってお母様には似ていないもの。不細工だとは思っていませんが、お祖母様のお眼鏡にかなうことはないでしょう。

「それにしても、ナタリーはまだしもマルクはどこから情報を仕入れてきたの?」

 公爵家に来てからは、侍従ではなく護衛として訓練に励んでいたはずなのに、よく情報収集する暇があったなと不思議に思っていると、

「公爵様に教えていただきました」
「え?!」

 お祖父様に直接お聞きしたの?!

「訓練の休憩中に、『奥様がお側にいないのはお寂しくはないですか』とお聞きしたら『私はアレに嫌われているからなぁ』といって、思い出話を語ってくださいました」

 ……情報収集とは。
 マルクがそれだけお祖父様に信用されているということ?

「向こうから話してくれるなんて狡いです!私はここのメイド達から聞き出すのに苦労したのにっ」

 ごめんね?情報収集とは本来そういうものなのよ。

「でも、そうなると公爵家の実権を握っているのはお祖母様ということよね?」
「それは間違いないかと。だから公爵様は身軽に騎士団長として行動できているのだと思われます」
「レイモン様達は?」
「あっ、それは、顔つなぎ程度の社交などはレイモン様ご夫妻が任されているそうですが、公爵家傘下との会議などは公爵夫人が今でも参加されているそうですよ?」

 ……お祖母様の力が強過ぎる。

「では、もしもミュリエルをお祖母様が育てたいと言えば叶ってしまうのかしら」
「すでに公爵家が後ろ盾になっていますので、その中で誰が教育するかは問題にならないのではないでしょうか」

 あの爆弾娘を、もしお祖母様が上手く導くことができたとしたら。

「難しいわね。お祖母様の手であの子が淑女になれるのならおんの字とも思えるけれど」
「どうでしょう?ミュリエルお嬢様はブランシュ様をうらやんでおいでですから」
「ね、不思議よね?愛されていた娘が放置されていた姉を妬んでいるのはどうしてかしら」

 他人から見たら、誰もがミュリエルの方が幸せだと言うでしょう。私みたいに別館に放置され、誰にも認識されていなかった私を羨む理由は何?

「ブランシュ様は健康ですから」
「……それだけ?」
「はい。人間は、まず健康でいなければ何も成し得ません。自由に動ける体があって、はじめて何かができるのだと、片腕を失った騎士が嘆いておりました」

 その言葉を理不尽だと思うのは私の心が狭いのでしょうか。
 確かに、私はある意味恵まれた境遇なのでしょう。
 餓える事なく、大切に仕えてくれる使用人もいる。家庭教師もつけてもらえて、望むだけ学ぶことも許されていたもの。
 ただ、家族が側にいない。ただ……誰も私を知らなかっただけ。

「誤解させたのなら申し訳ありません。
 どちらが恵まれているかなど、比べられるものではありません。その苦しみは体験した人間にしか分からないものですから」
「ううん。……私も、ミュリエルは幸せだったくせにと、そう思っていたわ。お互いないものねだりなのかもしれないわね」

 でも、互いに望むものは手に入ったはずなのに、どうしてまだあの子は私を意識するのかな。

「たぶん、ブランシュ様が綺麗だからですよ」
「ナタリー。褒めてくれるのは嬉しいけど何か違わない?」
「……なるほど。健康にはなれたけど、ブランシュ様のように美しく動くことができないから妬ましい、ということですか」
「そうです!歩く時も、ただ立っているだけであってもブランシュ様はお綺麗ですもの。だからまだ足りないって思っちゃうんだと思います」

 所作は一朝一夕で身につくものではありません。

「妬む暇があるなら、努力して欲しいわ」

 健康な体の使い方を間違ってるわよ。

「リシャール様にお話してみたらどうです?」
「どうして?」
「ミュリエル様をその気にさせるのがお上手ですよね」

 それは確かに。私もあれを目指すべき?
 ……いえ、あれは異性だから上手くいっている気がするのよね。

「ううん、いいわ。私はこれまで通り、自分のできることを頑張るわ。あの子の見本として羨ましいと思って貰えればそれでいいもの」
「まあ、そうですね。これ以上やるとリシャール様のことを好きになってしまうかもしれませんし」
「ナタリー?」
「はい!ごめんなさい!でも、リシャール様って物語に出てくる王子様みたいじゃないですか。だから有り得るかな~っと思っちゃったんですぅ!」

 ……まさか、王子様じゃなくて王子様みたいでもいいのだろうか。

「ミュリエルお嬢様の初恋ですよね」
「え?」
「時折頬を染めていらっしゃいますよ」

 ……何ということでしょう。恋心などには鈍そうなマルクが先に気付くだなんて。

「やっぱりそうですよね?私もそう思っていたんですよ!」

 ナタリーまで?……何でしょうか、この敗北感は。

「どんまいですよ、ブランシュ様。リシャール様の好感度はブランシュ様の方が上ですから!」
「……やめて。これ以上ミュリエルと揉めたくないわ」

 どうしよう。いらない幕が上ったような気がします。
 いいえ、何もない。だって私は舞台には上がっていないもの。

 ……今日の報告はこれかしら。

 何だか胃が痛い気がします。






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