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第二章
13.親近感
しおりを挟む『あんまり心配ばかりしていると本当にそうなっちゃいますよ』
これは幼い頃ナタリーに言われた言葉です。
その言葉を聞いてからは、あまり考え過ぎるのは控えるようになりました。
それでも、最近は思うようにならないことが増え、それに比例して、つい、こうなったらどうしよう?と不安が頭を過ることも増えたのは致し方ないことだと思うのです。
だからって───
「はい、とてもお上手ですわブランシュ様。ミュエル様、分かりましたか?このように──」
そう。今は淑女向けのマナーの授業中です。
たぶん、先生なりに気を遣ってくださったのでしょう。
ミュリエルが何度説明しても上手くできないのでお手本を、と私を指名したのです。
たぶん、年の近い、まだ関わりの浅いベルティーユ様に頼むと角が立つからと、姉妹であり、年が離れているので見本にしても劣等感を抱かずに済むであろう私を選んでくださった。
それはきっと正しい判断です。私達が仲良し姉妹であれば、の話ですが。
スンッと無表情な5歳児ミュリエルは泣き出さないだけマシだと思うべきなのでしょうか。
突然やる気を失った彼女に先生が戸惑っています。
「で、では、これはまた次回に練習しましょうね?」
「………」
「ミュリエル、先生はあなたに仰っているのよ」
気持ちは分かりましたが、私が慰めると余計に拗ねるでしょうし、この程度のことであからさまに不機嫌になるのを許す気もありません。
先生への返事を促せば、キッとこちらを睨み付けてくるので、そこは淑女の微笑みで対抗します。
「まあ、どうしたの?お返事の仕方が分からないのかしら」
「……分かりました。ご指導ありがとうございました」
「い、いえ。ブランシュ様、ありがとうございます」
ん~~、そこでお礼は言ってほしくありませんでした。でも、先生は間違っていないのです。
「ミュリエル、お散歩に行きましょ。先生、ありがとうございました」
「あ、はい。ありがとうございました」
どうやらベルティーユさんがミュリエルを宥めてくれるようです。先生はその様子を眺めながら何かを察したようで、
「教師として至らず申し訳ございません」
「こちらこそ妹が申し訳ございませんでした」
と、互いに頭を下げ合いました。
そんなことが他の授業でもたびたび起きてしまい、それでも先生達も何とか方針を決め、授業は滞ることなく進むようになったころ、今度は使用人達の視線が気になるようになりました。
何となく私に不満があるような、物言いたげな眼差しを感じるのです。
「ブランシュさん、少しいいか」
ある日の昼食後、リシャール様に呼び止められました。
『ミュリエルお嬢様の初恋ですよね』
脳内でマルクの言葉が響きましたが断るわけにもいかず、
「もちろん」
と返事をするしかありません。
「ちょっと食後の散歩に付き合って」
「食べ過ぎちゃいましたか?」
少し戯けて言ってみせると、リシャール様の笑みが深まりました。どうやらこれで正解だったみたいです。
彼は相手のレベルを見てそれに合わせて会話をしていると感じる時があります。ただ優しいだけではない、そんな姿。でも、それは不快ではありません。
「うん、そうみたいだ」
少し悪戯っ子のような顔で笑うと、ずいぶん雰囲気が変わります。
「私もです。ここのお食事は美味し過ぎて、そのうち太ってしまいそう」
「ブランシュさんで太るなら、ロランはすでに子豚になってるはずだよ」
「ふふっ、言い付けますよ?」
「それは困ったな。チョコレートで手を打たないか」
「私も子豚にするおつもり?」
互いに腹の中を探りながら、まるで仲良しの友人のように笑い合いながら庭に出ました。
「ブランシュさんは言葉の裏も読んでくれるから話しやすいよ」
「私は裏表のない方が好きですけど?」
「ハハッ、中々言うね」
リシャール様との会話は小気味良い。
私と同じ子供で、でもロラン様ほど素直過ぎず、ミュリエルのように幼くない。
なにかしら。親近感、が一番近いのかも。
「私、これでも悪女ですので」
「フフッ、君が悪女か。それなら狡賢い私と気が合うはずだな」
せっかくツンと澄まして言ったのに笑われてしまいました。ちょっと悔しい。
「ここならいいかな。ブランシュさん、すまない。最近使用人の態度が悪いだろう?」
なるほど、要件はこれですか。
「いえ、謝られるほどでは。ただ何故なのかが分からなくて困惑していただけですよ」
「それなんだけど。あれは故意ではないと思うけど、故意なら怖いなという話でね。……いや、故意じゃないほうが怖いのかも」
「?」
それは何のお話でしょうか?
「ミュリエルさ。どうやら君は彼女のせいで悪者になっているらしい」
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