悪女のレシピ〜略奪愛を添えて〜

ましろ

文字の大きさ
51 / 89
第二章

15.お別れ

しおりを挟む

 時間は待ってくれない。

 まだ双子とは仲良くなりきれないまま、予定していた2週間が終わってしまいました。

「兄様、行かないで……」

 ポロポロと涙を零し、双子に縋るミュリエル。
 双子達も泣きそうになりながら何度も謝っています。
 そんな三人を遠巻きに見ている私は『ほらやっぱり冷たい子だ』と、そう思われるのかしら。
 あれから、使用人達の物言いたげな視線は無くなりましたが、一度根付いた心象の悪さはすぐに払拭ふっしょくされるものではないでしょう。

「マイルズ君達がいない間は、私達がちゃんとのことを守るから安心して」

 うわ、リシャール様がちょっと怒ってる。
 妹は一人じゃないだろ?と言いたいらしい。
 いつも笑顔で優しい、は嘘だった。おおむね笑顔で優しいけれど、時々笑顔で怒ってる人だわ。

「そうだね。私もついてるから安心するといい」

 シルヴァン兄様まで参戦しないで。しばらく会えないのだから快く見送ってあげなくては。

 レイモン様達はそんな私達の遣り取りを笑って見ているだけで口出しはしません。
 大人が介入するほど深刻な問題ではないと判断なさっているのか、そのように周りに見せているのか。
 でも、子どもの喧嘩なんて言ってしまえばその程度のものなのだとも思えます。
 大人になればもっと大変なことはたくさんあるのでしょう。そう思えば、ミュリエルの癇癪程度は笑って見ていればいいのかな。

「マイルズ、パスカル。二人の無事を祈っているわ。がんばってね」

 これが今の私が送れる最上の言葉です。
 期日が近付くにつれ、不安がるミュリエルが二人の側から離れなくなってしまったので、あまり彼らとは話ができなくなってしまったけど。それでも、あなた達の不幸は望みません。

「「ありがとう。僕達もブランシュの幸福を祈るよ」」

 二人が私の幸せを願ってくれるだなんて。
 うん、十分仲は改善されたのかも。

「魔法塔の人達と早く仲良くなれるといいね」

 家族に向ける愛のある言葉とは言えないかもしれないけれど、嘘で飾っても仕方がありません。

「うん、そうなれるように努力するよ」
「ブランシュも元気で」
「ありがと。道中気を付けてね、いってらっしゃい」
「「行ってきます」」

 二人のことはシルヴァン兄様が王都まで送って行くことになりました。兄様も王都に用事があるそうです。

「何かあったら私を呼んでくれ」
「まあ、王都から空でも飛んで来てくださるの?」
「ふふ、それもいいね」

 本当に?魔法で空を飛ぶことは可能なのかしら?

「先生、空を飛べるの?!」
「俺も飛んでみたいですっ!」

 ベルティーユさんとロラン様まで目を輝かせながら聞いています。

「そうだね。留守の間、みんなで仲良くできていたら考えようか。判定はリシャール君に任せるよ」
「先生。私だって飛んでみたいですよ?」

 意外です。リシャール様でもそんなヤンチャなことがしたいのね。

「じゃあ、君には原理も教えてあげる」
「承知しました。お任せください」

 どうやら交渉成立です。ご褒美のためなら喧嘩をしようとは思わないでしょうし、ミュリエルのこともきっと止めてくれるでしょう。
 さすがはシルヴァン兄様だわ。

「じゃあ、行ってくるね」
「はい、気を付けていってらっしゃいませ」

 三人を乗せて、馬車が走り出しました。
 駄目ね、何だかもう寂しいかも。

「さあ、あなた達はそろそろ授業の時間よ?」

 少ししんみりしていた私達をコンスタンス夫人の声が日常へと引き戻しました。

「…そうね。行きましょう、ミュリエル」

 さすがに双子がいなくなったばかりのミュリエルを放置はできません。でもミュリエルは私に声を掛けられ、戸惑っています。

「ブランシュ、宿題の問3だけど分かった?」
「一応、全部できたわよ」
「先生が来る前に教えてください!」
「ほら、ミュリエルも行こ?」

 ロラン様やベルティーユさんも会話に入って来てくれたおかげで、ようやくミュリエルも動き出しました。
 空を飛ぶためかしら?それでもありがたいです。

 このまま、兄様が帰って来るまで何もないといいのだけど。

『あんまり心配ばかりしていると本当にそうなっちゃいますよ』

 ナタリーの言葉を思い出し、不安な心に蓋をする。

 大丈夫。私はもう一人じゃないもの。




しおりを挟む
感想 242

あなたにおすすめの小説

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

〈完結〉前世と今世、合わせて2度目の白い結婚ですもの。場馴れしておりますわ。

ごろごろみかん。
ファンタジー
「これは白い結婚だ」 夫となったばかりの彼がそう言った瞬間、私は前世の記憶を取り戻した──。 元華族の令嬢、高階花恋は前世で白い結婚を言い渡され、失意のうちに死んでしまった。それを、思い出したのだ。前世の記憶を持つ今のカレンは、強かだ。 "カーター家の出戻り娘カレンは、貴族でありながら離婚歴がある。よっぽど性格に難がある、厄介な女に違いない" 「……なーんて言われているのは知っているけど、もういいわ!だって、私のこれからの人生には関係ないもの」 白魔術師カレンとして、お仕事頑張って、愛猫とハッピーライフを楽しみます! ☆恋愛→ファンタジーに変更しました

公爵令嬢ルチアが幸せになる二つの方法

ごろごろみかん。
恋愛
公爵令嬢のルチアは、ある日知ってしまう。 婚約者のブライアンには、妻子がいた。彼は、ルチアの侍女に恋をしていたのだ。 ルチアは長年、婚約者に毒を飲ませられていた。近年の魔力低下は、そのせいだったのだ。 (私は、彼の幸せを邪魔する障害物に過ぎなかったのね) 魔力不足に陥った彼女の余命は、あと一年だという。 それを知った彼女は自身の幸せを探すことにした。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...