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第二章
15.お別れ
しおりを挟む時間は待ってくれない。
まだ双子とは仲良くなりきれないまま、予定していた2週間が終わってしまいました。
「兄様、行かないで……」
ポロポロと涙を零し、双子に縋るミュリエル。
双子達も泣きそうになりながら何度も謝っています。
そんな三人を遠巻きに見ている私は『ほらやっぱり冷たい子だ』と、そう思われるのかしら。
あれから、使用人達の物言いたげな視線は無くなりましたが、一度根付いた心象の悪さはすぐに払拭されるものではないでしょう。
「マイルズ君達がいない間は、私達がちゃんと二人のことを守るから安心して」
うわ、リシャール様がちょっと怒ってる。
妹は一人じゃないだろ?と言いたいらしい。
いつも笑顔で優しい、は嘘だった。概ね笑顔で優しいけれど、時々笑顔で怒ってる人だわ。
「そうだね。私もついてるから安心するといい」
シルヴァン兄様まで参戦しないで。しばらく会えないのだから快く見送ってあげなくては。
レイモン様達はそんな私達の遣り取りを笑って見ているだけで口出しはしません。
大人が介入するほど深刻な問題ではないと判断なさっているのか、そのように周りに見せているのか。
でも、子どもの喧嘩なんて言ってしまえばその程度のものなのだとも思えます。
大人になればもっと大変なことはたくさんあるのでしょう。そう思えば、ミュリエルの癇癪程度は笑って見ていればいいのかな。
「マイルズ、パスカル。二人の無事を祈っているわ。がんばってね」
これが今の私が送れる最上の言葉です。
期日が近付くにつれ、不安がるミュリエルが二人の側から離れなくなってしまったので、あまり彼らとは話ができなくなってしまったけど。それでも、あなた達の不幸は望みません。
「「ありがとう。僕達もブランシュの幸福を祈るよ」」
二人が私の幸せを願ってくれるだなんて。
うん、十分仲は改善されたのかも。
「魔法塔の人達と早く仲良くなれるといいね」
家族に向ける愛のある言葉とは言えないかもしれないけれど、嘘で飾っても仕方がありません。
「うん、そうなれるように努力するよ」
「ブランシュも元気で」
「ありがと。道中気を付けてね、いってらっしゃい」
「「行ってきます」」
二人のことはシルヴァン兄様が王都まで送って行くことになりました。兄様も王都に用事があるそうです。
「何かあったら私を呼んでくれ」
「まあ、王都から空でも飛んで来てくださるの?」
「ふふ、それもいいね」
本当に?魔法で空を飛ぶことは可能なのかしら?
「先生、空を飛べるの?!」
「俺も飛んでみたいですっ!」
ベルティーユさんとロラン様まで目を輝かせながら聞いています。
「そうだね。留守の間、みんなで仲良くできていたら考えようか。判定はリシャール君に任せるよ」
「先生。私だって飛んでみたいですよ?」
意外です。リシャール様でもそんなヤンチャなことがしたいのね。
「じゃあ、君には原理も教えてあげる」
「承知しました。お任せください」
どうやら交渉成立です。ご褒美のためなら喧嘩をしようとは思わないでしょうし、ミュリエルのこともきっと止めてくれるでしょう。
さすがはシルヴァン兄様だわ。
「じゃあ、行ってくるね」
「はい、気を付けていってらっしゃいませ」
三人を乗せて、馬車が走り出しました。
駄目ね、何だかもう寂しいかも。
「さあ、あなた達はそろそろ授業の時間よ?」
少ししんみりしていた私達をコンスタンス夫人の声が日常へと引き戻しました。
「…そうね。行きましょう、ミュリエル」
さすがに双子がいなくなったばかりのミュリエルを放置はできません。でもミュリエルは私に声を掛けられ、戸惑っています。
「ブランシュ、宿題の問3だけど分かった?」
「一応、全部できたわよ」
「先生が来る前に教えてください!」
「ほら、ミュリエルも行こ?」
ロラン様やベルティーユさんも会話に入って来てくれたおかげで、ようやくミュリエルも動き出しました。
空を飛ぶためかしら?それでもありがたいです。
このまま、兄様が帰って来るまで何もないといいのだけど。
『あんまり心配ばかりしていると本当にそうなっちゃいますよ』
ナタリーの言葉を思い出し、不安な心に蓋をする。
大丈夫。私はもう一人じゃないもの。
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