悪女のレシピ〜略奪愛を添えて〜

ましろ

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第二章

22.招待状

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 お手紙を出した翌日、お祖母様から別邸への招待状が届きました。あまりにも早くて少し驚いています。

「ブランシュさん?なぜお義母様から招待状が届いたのかしら」

 コンスタンス夫人が怒っているみたい。
 本来ならば、夫人を通すべきだったことは分かっていますが、止められる気がしたので致し方ありません。

「私がお祖母様にお会いしたいとお手紙を出したからですわ」

 ニッコリと笑顔で答えてしまうことをお許しください。

「……どうして相談してくれなかったの?」
「では、シルヴァン兄様が今、どうしているのか教えてくださいますか?」

 私が知りたいのはそれだけです。ただ、兄様の今現在の状況を知りたい。でも、夫人達は何も教えてくださらないから、だから。

「無事だと言ったでしょう?」
「それでも心配なのです」

 シルヴァン兄様を心配することはそんなにも駄目なことなの?

「……あなたの。その執着に気付けなかった私の落ち度かしら」
「さあ、どうでしょう。でも、兄様は私の一等大切な宝物ですから」

 出会ってまだ日が浅くとも、今ではナタリーと同じくらい大切な人だわ。

「お義母様は優しい方ではないわよ」
「構いません。私は甘やかされたいわけではなくて、ただ、シルヴァン兄様に会いたいだけなのですから」

 たったこれだけの願いなのに、あなた達は邪魔をするのでしょう?
 夫人はきっと分かっていない。ずっと家族の情を知らなかった人間が、ようやく得ることができた兄という存在にどれほど心を奪われているのかを。

「私達の、彼は必ず戻ってくるという言葉は信用できないかしら」

 杞憂きゆうならばそれでよいのです。ブランシュは馬鹿だなあとシルヴァン兄様が笑ってくれたらそれだけで幸せだもの。
 でも、夫人は上手いな。切なげな笑みで私に罪悪感を抱かせようとするのね。 
 でも、ごめんなさい。夫人には感謝していますし、嫌いではありません。だけど、兄様には遠く及ばないの。

「それは兄様が何を犠牲にして戻って来るのですか?」

 ……ほら、答えてくれない。

 だってよく考えてみれば最初からおかしかった。
 どうして私とミュリエルのためにいてくれるはずの兄様が後任もいないまま、ここを離れなくてはいけなかったの?
 ナタリーとマルクのおかげで事なきを得たけれど、ミュリエルの魔力暴走は監視員不在のせいで起きたことです。
 兄様なら分かっていたはずなのに、そうせざるを得なかった理由があったのでしょう。
 たとえば、王都にいるどなたかの権力とか。

「私はシルヴァン兄様に救われました。だから今度は私が助ける番なのです」
「ただ、ご家族に会っているだけなら?」
「それならばご挨拶させていただくだけですわ」
「……では、恋人との逢瀬だったらどうするの?」

 恋人。……その線は考えていませんでした。でも、

「普通に考えて、ご家族や恋人との問題ならばレイモン様が隠す理由にはならないと思います」

 夫人の中で、9歳の子どもとはまだ物事の道理が分からない、上手く言い包められる生き物なのでしょう。でもね?

「私は物心がついてからずっと『いい子にしていたら』と待たされ続けてきましたの。ですので、もうこれ以上待つ気は無いのですよ」

 待って待って待ち続けて、どれだけいい子で待っても無駄だと理解したから略奪しようと考えたのです。
 だから、シルヴァン兄様のことだってこれ以上待ってなどあげないわ。
 たとえ9歳でも、私は歴とした悪女ですのよ?

「……これは私の負けかしら」
「ふふっ、私やリシャール兄様を子どもだからと侮り過ぎましたね」

 それに、夫人達には以前から不信感があるのです。
 お母様と王家のこと。そしてお祖母様のことも。あなた達は決して話そうとはしないではありませんか。

『公爵家は王族派だから』

 すべてはこの一言にあるように感じる。だから今、ここにいないお祖母様に会いたいと望むのです。

「私は一方だけの話を聞いて決めつけたくはありません。だから、お祖母様に会いに行ってきますね」

 コンスタンス夫人は私が絶対に退く気がないことが分かったのでしょう。どちらにしても、すでに招待状が届いているのですから阻止はできないのです。
 ため息を一つ吐いて、「馬車を準備しておきます」とだけ言って去っていきました。



 ◇◇◇



 そうして訪れたお祖母様の住んでいらっしゃる別邸は、何とも美しい館でした。

「これで別邸?伯爵家より立派ね」

 おかしいわね。うちって本当は貧乏だったのかしら。

「ブランシュ様ぁ。胃が痛いんですけど!」
「ごめんね?ナタリー」

 いつも通りナタリーとマルクに付き添ってもらってしまったけれど可哀想だったかな。

「ブランシュ様は悪くありません!私が小心者なだけです、弱音を吐いてすみません!」
「小心者はお仕えする家のお嬢様のお尻を叩いたりしない」
「ぎゃっ!マルクの意地悪っ!!」
「ふふ、確かにね。ナタリーは勇者だもの」

 だって、ナタリーが本気で叱ってくれたからミュリエルも変わってきたのだと思う。私だけでは絶対に無理だったわ。

「勇者……これでも女なのに勇者……」
「ガンバレ、勇者殿」
「馬鹿マルク!」
「ナタリー。お口が悪くてよ?」

 さて。二人のおかげで緊張が解れたわ。

「行きましょうか」





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