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第二章
21.不在
しおりを挟むしとしとと雨が降り続く。
まるで私の心のようだわ、なんてポエマーなことを考えてしまって少し恥ずかしくなった。
でも……
「エルフェ先生はまだ戻られないのかしら」
ベルティーユの言葉に気持ちが沈む。
兄様が双子達と共に王都に向かってから、すでに半月が過ぎました。予定では1週間で戻れるはずだったのに、何かあったのではないかと心配になる。
でも、レイモン様からは、ちょっと王都での揉めごとに巻き込まれているだけで無事だから安心するようにと言われてしまい、ただひたすらに待つだけの日々。
「……話したいことがたくさんあるのに」
揉めごとって何かしら?本当に無事なのかな。
……もう会えないとか、言わないよね?
「先生も手紙くらいくれたらいいのに」
そうなのよ。兄様なら私達に心配を掛けないように、手紙くらい送ってくれるのでは?と思うのに、それすらも無いことに不安が増してしまう。
雨で外には出られないので、自然と子ども達は自習室に集まって、シルヴァン兄様の不在について話し始めました。
「父上が怪しいんだよね」
「怪しいって?」
「絶対に何かを隠してるよ。それが不快」
リシャール兄様はなぜかレイモン様に手厳しい。
「じゃあ、お母様に聞いたら?」
「父上が秘密にしていることを言うはずがない」
「でも、シルヴァン兄様のことをどうしてレイモン様が?お二人は以前からお知り合いなの?」
この家での兄様の立ち位置が良く分からないわ。
確かにお祖父様やレイモン様達とは親しげだったし、コンスタンス様もお知り合いのようでした。
でも、兄様とは年が近いわけでもなく、繋がりが見えないのです。
「我が家は王族派だから、その繋がりかなと思ってたけど、魔法塔は本来中立派なんだ。だから絶対とは言えないけれど、先生の家も中立派の可能性が高い」
公爵家が王族派ならノディエ家も同じよね?
「そもそも、どうして君の養子縁組先が先生だったのだろう」
それは私も不思議に思っていました。途中からはシルヴァン兄様でよかったとしか考えていなかったのだけど。
「ねえ、ブランシュは何をしたのかな?」
「……秘密です。私、安い女ではありませんの」
だって言っては駄目だと言われてます。
ここだけの秘密。という言葉は触れ回ってくれと同義だから信じては駄目だとも教えられているのです。
「ふーん?そこまで秘密にしなくてはいけない話で先生が関わっているなら魔法関連だよね。それで?ミュリエルは魔力過多症だったんだっけ?」
シルヴァン兄様。リシャール兄様には隠せそうに無いのですけど!
それでもニッコリと笑うだけに留めておきます。
「ちょっと。二人で笑顔の応酬は止めてよ、怖いから」
「ベル?笑顔は怖いものではないよ?」
「でもリシャール兄様はこわいよ?」
「ミュリエル、正直はいつでも美徳だとは限らないから」
「ほら、こわい~~っ!」
ミュリエルは敢えて墓穴を掘りに行くのが得意です。将来が心配だわ。
「どうしようか。このまま大人しく待つか、それとも……お祖母様に相談してみるかい?」
「えっ?!兄様、本気っ?!」
「俺はパスっ!お祖母様、怖いもん!」
「私も苦手だわ……」
ここまで怖がられるお祖母様ってどんな方なのかしら。
「リシャール兄様は怖くないの?」
「え?悪いことをしてないのにどうして怖がる必要があるの?」
……これは悩むわ。リシャール兄様が異質なのか、本当は怖い方では無いのか。
「私がお会いするのは可能なのかしら」
でもシルヴァン兄様のことが心配なの。
もし、私なんかでも役に立つならば手を尽くしたいと思う。
「大丈夫だと思うよ。手紙を出してみる?」
「……うん。今まで挨拶すらしてないことも失礼だったわよね?」
「どうかな。本来は上の者から声を掛けるのがマナーではあるし。でも、孫娘なのだから会いたいと言っても失礼にはならないよ」
そうよね?血縁なのは間違いないし、このまま待っているだけよりは何か動いていたい。
「ミュリエルはどうする?」
「え?!……あの、お祖母様、母様と似てるかな?」
最近分かったこと。ミュリエルはお母様を見捨てたことに罪悪感を抱いているということ。
だから、お母様のことに過剰に反応してしまうみたい。
「じゃあ、似ているかどうか見て来てあげるわ」
「……ありがとう、姉様」
ふふっ、最近はミュリエルのことを可愛いと思えるようになって来ました。……そんなことも、兄様とたくさん話したいのに。
「手紙は私の鳥を使って送ろう。父上達は良く分からないから」
「分かった。あの、便箋ってあるかしら」
「あっ、私のを使って!綺麗なのを買って頂いたばかりなの」
「いいの?」
「もちろん!」
ベルティーユに便箋を譲ってもらい、お祖母様に宛てて手紙を書きました。
内容は至ってシンプルに。
『お祖母様にお会いしたいです』
一番大切なことを書き終えて読み返す。
よく考えたら、手紙を書くのは初めてです。
「リシャール兄様、これで大丈夫でしょうか」
内容を確認してもらってから封をする。
「じゃあ、送るね」
「お願いします」
魔法鳥は魔力を与えて望む場所に手紙を運んでくれる鳥さんです。リシャール兄様の鳥はルリビタキかしら。
綺麗な青い小鳥が封筒を掴むと、
「……なんだか小さな子に無理をさせているみたいな気分になるわ」
「大丈夫、ちゃんと運べるから。これくらいの雨なら問題ないよ」
リシャール兄様の言う通り、鳥さんはよろける事なく飛び立って行きました。
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