悪女のレシピ〜略奪愛を添えて〜

ましろ

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第二章

28.金銀の天使


 ダンドリュー公爵夫人がパーティーを開く。

 それは多くの貴族達を驚かせた。
 夫人が社交界から離れてすでに10年以上。そろそろ爵位をご子息に譲るのではないかとも噂されていたのだ。
 それなのに。

「ようこそダンドリュー家へ」

 客人を迎え入れながら微笑む姿は、かつての美しさと威厳を保ったまま、だが、孫達を紹介するときには優しく綻ぶような笑みを見せる。
 その孫達も皆美しく、将来が楽しみであったのだが。

 (人数が合わない)
 (コンスタンス夫人の子どもは3人じゃなかった?)

 そこには見たことのない金銀の天使がいた。
 銀色の髪の少女は愛らしい顔立ちだけでなく、その所作はとても美しく、淀みのない挨拶はまさに小さな淑女だ。
 そして、金色の髪の少女は、まだたどたどしいながらも笑顔がとても可愛らしく、挨拶が終わると隣にいる姉に、どう?と言わんばかりの笑顔を見せ、その微笑ましさに思わず客達の表情も緩んだ。

 (だが、ノディエ?)
 (まさか、オレリー様のご息女か)

 それまでの和やかさからザワリと空気が変わり、小声で二人の正体が囁かれ出すと金色の少女が俯いた。

「ミュリエル、上手に挨拶ができたね」
「…リシャール兄様、でも」
「ほら、あっちでお菓子を食べようよ。もう自由にしてもいいんだから」
「はいっ、ロラン兄様っ」
「ブランシュ姉様もいきましょう?」
「分かったわ、ベルティーユ」

 公爵家の子ども達と兄妹のように仲睦まじく去っていく姿を見て、さらに客達の困惑が拡がった。

「まだまだマナーが至らなくて申し訳ありません」
「いえ、その……あちらのご令嬢達はもしやオレリー様のご息女でしょうか?」
「ええ、そうですわ。最近我が家にきたのですが、レイモンの子ども達ともすっかりと仲良くなって。まるで本当の兄妹のようでしょう?」
「ま、まあ。そうなのですね!大変愛らしいご姉妹で」
「ありがとうございます。私ったら、つい自慢をしたくなってしまって、年甲斐もなくこのようなパーティーを開いてしまいましたのよ」

 どうやら姉妹は公爵夫人に気に入られているらしい。
 そう印象付けるのに十分だった。
 二人はこれで、問題児オレリーの娘ではなく、公爵家の大切な孫娘になったのだ。

 しかし、こうなってくると気になるのはどうしてデビュタント前の子どものためにわざわざパーティーを開いたのかということ。

「まさか、今度こそ王子殿下の婚約者に?」
「だが、まだ9歳と6歳らしいぞ」
「妹はまだしも姉の方ならば4歳差だ。許容範囲だろう」
「確かに。それにあの銀の髪はまるで妃殿下のようじゃないか。もしや、婚約の発表が?」
「これは王女殿下もうかうかしていられないな」
「だが、王女殿下は最近魔法塔の男に夢中だそうじゃないか」
「いや、それこそ年齢差が──」

 話題はいつの間にか双子の殿下達の婚約問題に変わっていった。
 そんな話題に盛り上がっているところに、何と殿下達が登場し、場は一段と盛り上がる。

「レナエル王女殿下、ヴィルジール王子殿下。お二方にお越し頂けるとは光栄ですわ」
「お招きくださりありがとうございます。父達はどうしても来ることができず、大変残念がっておりました」

 (おい、お二人の後ろに立っている男性は?)
 (彼が魔法塔の君でしょう。お綺麗な方ね)
 (一緒に来たということはまさか)

「シルヴァン兄様!」

 王女殿下の婚約者候補と思しき人物について会場がざわめき出したそのとき、突然、銀色の天使が駆け出した。

「ブランシュ!」

 男性が腕を広げると、少女がポスリと飛び付いた。

「兄様、遅いです」
「うん、ごめんね」

 フワリと抱き上げ、目線を合わせて会話する姿は、仲睦まじい兄妹のような、でも、それにしてはどこか甘いような、何とも言えない気分にさせられる。

 すると、少女の瞳からポロポロと涙がこぼれ落ちた。

「……もう、忘れられたのかと思いました」
「君を忘れるはずがないだろう?」
「だって、何日も何日も待ったのに帰ってこないのだもの」
「約束を守れなくて本当にごめん」

 どんな関係なのかさっぱり分からない二人の会話に、つい、会場中が注目してしまう。

「……兄様は王女殿下と結婚するの?」

 (!!!)

 (((それは私達も聞きたかったっ!)))

 思わず会場が一つになる。

「まさか。私には婚約者もいないし、結婚する予定なんか全く無いよ。前も言っただろう?お仕事を頑張っているから結婚しなくていいんだよ」
「本当に?」
「うん。ちゃんと国王陛下にもお断りしたから間違いないよ」

 (なんと!国王陛下に?!)

 思わず、不敬だと思いつつも会場中の視線が王女殿下に注がれた。殿下は険しい表情で二人を見つめている。

「……まだ私のそばにいてくれる?」
「もちろん。私は結婚しないし、君のことも私より強い男が現れるまで渡さないかな。君は私の大切な妹だからね。そうだ。今ここで誓おうか?」
「……何を?」
「『グラティアの名にかけて誓おう。我、シルヴァン・エルフェはブランシュ・ノディエの意に反する婚姻は、全魔力を行使してでも阻止するものとする』」

 それは魔法使いの誓い。言葉に魔力を乗せ、誓いを立てる。

 (今、グラティアと言ったか?!)
 (そんな、グラティアが全力で阻止するなんて絶対に無理じゃないか!)

 思わず再度殿下達の方を見ると、王女殿下は蒼白になっているし、王子殿下は少し呆れた顔で笑っている。

 二人の表情から、この男性がグラティアなのは間違いなく、今までの会話は真実であることが窺えた。

「ありがとう…おかえりなさい、シルヴァン兄様」
「ただいま、ブランシュ」

 (兄妹?これって本当に兄妹?)
 皆が疑問に思いながらも、幸せそうに笑い合う二人の姿に、どこからともなくパチパチと拍手が鳴り出し。気付けば、会場中に大きな拍手が鳴り響いたのだった。

 この出来事はしばらく王都でも話題になった。
 小さな淑女と魔法使いの不思議な関係。
 
 謎の多い二人だが、ただ一つ分かったことは、それぞれに求婚するのはかなり難しいだろうということ。
 
 そんな噂がまことしやかに広まったのだった。






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