悪女のレシピ〜略奪愛を添えて〜

ましろ

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第二章

34.正しさとは(2)

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ねえ、お母様。本当は寂しかったのですか?

今ならもっとあなたに優しくできたでしょうか。

お母様が私にしたことを許す日は来ないけど。何度だって責めると思うし、酷い人だとなじると思う。

それでも、愛されない苦しみも分かるから。

『辛かったね』って、『酷いよね』って、抱きしめてあげることはできたかもしれないのに。


「教えてください、コンスタンス様。
お母様はそんなにも愚かでしたか?まだ16歳だったのですもの。もちろん完璧ではなかったと思います。
それでも、ずっと信頼し愛していた方に裏切られて捨てられるほど非道な行いをしていたのですか?」
「……そうじゃなくて、」
「それに。王太子殿下はどうして相手にばかり求めるのです?」
「…より良い相手を求めるのは当然でしょう?王族に失敗は許されないのですよ?」

何でこんなにも王族が好きなのかな。だったら自分が嫁げばいいのに。
あ。これってお祖母様も言っていた台詞だわ。

「嘘を吐いているあたりですでに失敗していますよ。
最初から言えば良かったんです。『お前より好条件の女が見つかったら婚約破棄するからな』って。『必要なのは愛ではなく、どれだけ有利な条件かだけなのだ』と。そういう意味での『候補』なんだぞって。
そうしたらきっとお母様だって恋心なんて芽生えなかったと思います」

どうかな?それでも好きだと思うのかな。恋を知らない私には未知の世界です。

「まあ、過去のことをいくら言っても変えられませんし、裏切ったのはコンスタンス様ではないからこれ以上は止めましょう。
──あ、でもやっぱり1つだけ聞いてもいいですか?」
「……何かしら」

せっかくの機会です。ずっと気になっていたことを聞かなくては。
自分の家でのことではないので中々聞きづらかったけど、コンスタンス様も私の事情に踏み込んで来たのだから今なら聞いてもいいですよね。

「コンスタンス様は王家と公爵家。どちらが大切なのですか?」

本当に気になっていたのです。お祖父様もですが、お二人ともそんなにも王家が大好きなら、今度はリシャール兄様達のことも喜んで渡してしまいそうなのですもの。
レナエル王女殿下と婚約とか、王女殿下の代わりに他国に嫁がせるとか。あ、あとはロランを英雄2号にするとか?

「……何を言って……」

あら、残念。即答はしてくださらないのですね。
これはお祖母様とリシャール兄様にしっかりと報告しなくては。

「どれほどの仲良しさんかは存じ上げませんが、あんまり信じ過ぎるとパクッと食べられちゃいますよ?」

即答できない危険性に気付いてくださるといいけど。




◇◇◇




結局、コンスタンス様との話し合いはあのまま終わってしまいました。
それは良いのですが、何となく色んなことがグルグルとしてしまって、まったく眠気がやってきてくれません。

「2、3、5、7、11、13、17、19、23、29、31、37、41、43、47、53、59、61、67、71、73、79、83、89、 97、……」

確か、眠くなるには数を数えるのでしたよね?
ナタリーに聞いた方法ですが、何を数えるのかを聞き忘れたので、とりあえず素数を数えることにしました。

「……5449、5471、5477、…ダメね、まったく眠くならないわ」

素数ではないのかしら。では何を数えるの?
他に数えられるもの……円周率?でも何のために?

諦めてベッドから下りる。

あ、満月だわ。

窓に目を向けると、綺麗な真円の月が浮かんでいました。

「……月に手を伸ばす、か」

コンスタンス様は恋をしたお母様を愚かだと言っていました。
私も、レナエル王女殿下のことはお馬鹿で迷惑だと思ったけれど。それに、あの方は失恋しても心を壊すことは無いでしょうし。

でも、誰かを好きだと思うことは大切だと思うのに。
『好き』と『恋』は違うのかしら。

明日には殿下達は帰られるから、そうしたらシルヴァン兄様からお母様のお話が聞けるはずです。
勝手に人の過去を暴くのは良くないという思いもあるけれど、それでもやっぱり自分のルーツを知りたいとも思う。

「……お母様は今……」

私が罠に嵌めた、私が切り捨てた人。
いまさらあなたを知る機会を得たことは幸福なのでしょうか。

「……私も、月を掴もうとしているのかな」

窓に向かってそっと手を伸ばす。すると、自分の手に光は遮られて影ができてしまうだけ。

お母様は今も月に向かって嘆いているのかしら。

私達は、どうしても愛を求めてしまう愚か者なのかもしれません。





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