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第二章
35.戻ってきた日常
しおりを挟む「おはよう、ブランシュ」
「おはようございます、シルヴァン兄様」
やっと大切な日常が戻って来ました。
「ね、姉様おはようございます!」
「おはよう、ミュリエル」
珍しく私よりも先に食堂に来ていたミュリエルが、ちょっと緊張しながら挨拶してくれました。
「エルフェ先生も、おはようございます」
「おはよう、ミュリエルさん」
どうやら緊張の理由は兄様みたいです。
でもどうして──、
「エルフェ先生ごめんなさい!私、先生がお留守のときに魔力を暴走させてしまいました!
……魔法塔に連れて行かれちゃいますか?」
なんと、ミュリエルが自分から罪の告白をしています。絶対にひた隠しにすると思っていたのに。
「隠さずにちゃんと言えてえらかったね」
兄様も少しだけ驚いた顔を見せましたが、すぐに優しい笑顔に変わりました。
「今回は私やレイモン様達大人が悪かったんだ。
突然のことで怖かっただろう?暴走する前に止めてあげられなくて申し訳なかった」
確かに、ミュリエルの件はお祖母様も監督不行届だと言っておられました。
「ううん。えと、すごく怖かったのは本当で、魔力が暴走しちゃってすごく驚いて……自分のことが怖くて。そのあと初めて思いっきり叱られて。あんなに痛いのも初めてで」
でしょうね。スカートを捲りあげてお尻を思いっきり叩かれる令嬢は中々いないと思うもの。
「いっぱい泣いて、たくさんごめんなさいって言って……でもね?姉様にごめんなさいって言えて、……うまく言えないけど、よかったって思ったんです」
「そうか、ちゃんと本当の気持ちでごめんなさいって言えたんだね」
ミュリエルがそんなふうに感じていたのだと初めて聞くことができました。
「人を叩くという行為は必ずしも良いことではなくて、でも、傷付けられる痛みを知ることができたことはミュリエルさんには必要だったんだろなとも思う」
「…はい」
「でも、叩くだけじゃなくて、言葉でも人を傷付けることはできるから。これからは怒りに任せて悪い言葉を吐き出さないように、腹が立ったときはまず大きく深呼吸をしてみようか」
「しんこきゅう」
「そう。大きく息を吸って、吐いて。自分の中のイライラした気持ちを追い出しちゃうんだ」
「それで無くなるの?」
「完全には無くならないけど、少しは落ち着くと思うよ。これは魔力の暴走を防ぐことにも繋がるから頑張ってみよう」
「わかりました」
確かに呼吸って大事だと思います。緊張した時とかも呼吸をまず整えようとするもの。
「そうしたら、まず、何にそんなにも腹が立ったのかを考えるんだ。そしてちゃんと伝える努力をしてみよう」
「……言ってもいいの?」
「もちろん。ただし、言葉をぶつけるんじゃなくて、分かってもらえるように伝えるんだよ?
人によって傷つくことは違うから、自分はこういうことが嫌なんだと分かってもらえるように努力するんだ」
「…がんばります」
「うん。一緒にがんばろう。もし、上手く言葉にならなかったらそう言ってくれたらいいよ。
何となく嫌な気持ちになった、とか、そんなことでもいいからね?」
「はい!えっと、今は何だかポカポカします!」
ミュリエルのこんな姿を見られるようになるなんて。そしてそれを、微笑ましいと思えるようになったことが何だか嬉しいかも。
「おはようございます、エルフェ先生は朝から両手に花ですね」
「おはよう。リシャール君はもう少し子どもらしい会話をしようか?」
ふふっ、何だか久しぶりに和やかな気分です。
やっぱり兄様がいると落ち着くわ。
「そういえば、殿下達は昼前には帰られるんだよね?」
ロラン。せっかくの楽しい時間に思い出させないで。
「そうじゃないかな。私達は最後のお見送りをするだけだと思うよ」
リシャール兄様の言葉を聞いてホッとしてしまいます。
「王子様よりリシャール兄様のほうが王子様みたいだったね」
「ミュリエル、そういうことをお外で言ってはダメよ?」
「はーい」
忘れていたわ。ミュリエルは王子様に会いたい子だった。でも、ヴィルジール王子殿下はお好みではなかったみたい。その方が平和に生きられると思うのでよかったわ。
でも心配ね。リシャール兄様のせいで、ミュリエルの男性基準がぐんっと高くなっている気がします。
「今日は授業もないんだよな?」
「暇よね」
「図書館に行く?」
「え~っ、それなら剣の稽古がいい!」
「ロランしか楽しくないじゃないか」
意見が纏まらないでいると、
「エルフェ先生、お空はいつ飛べますか?」
ミュリエルが瞳をきらきらさせて尋ねました。
「「「あ」」」
「いや、待って待って。さすがに殿下達が帰ってからじゃないと駄目です」
「え~?じゃあ、お部屋の中でちょっとだけは?」
意外なことに、ミュリエルが一番楽しみにしていたみたい。
「う~ん、じゃあ本当に少しだけ」
すると、ふわりとミュリエルの体が浮きました。
「えっ!?あ、足がつかない!」
高さは30cmくらい浮いただけですが、それはとっても不思議な光景で。
「俺も!次は俺もお願いします!」
「私も~!!」
こうして、シルヴァン兄様との久しぶりの朝食は賑やかなものになったのです。
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