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ギレッセンに留学して1ヶ月。やっとこちらでの生活にも慣れてきた。
この学園は実力主義だ。貴族だからと大きく優遇されることは無い。それどころか、成績が優秀ならば平民でも生徒会に加入できる。ようするに、平民の指示を貴族が受け入れるのだ。学園は小さな社交界だと教わってきた私にはかなり衝撃的だった。
そして、物言いがストレート。曖昧な表現や、貴族的な会話は倦厭される。はい、か、いいえ、ハッキリと答えることを求められる。
国によってこんなにも考え方が違うなんて驚きだわ。でも、慣れてしまえば案外楽しいのよね。私には合っているかも。
「ロッテ!よかったら帰りに町に行かない?」
ちゃんと友達もできたわ!それも損得を考えない普通の友達。嬉しくて仕方がない。
「ごめんなさい、今日は約束があるのよ」
でも残念。今日はハルト様と約束してるのよね。再会してからゆっくりと彼との交流が続いている。学年が違う為、頻繁に会うわけではないけど繋がりが切れることはない。何とも言えない微妙な距離感だけど案外楽しい。だって私達二人だけの世界じゃないもの。新しい国、学園、友人。広がる世界の中で、それでも繋がりが消えないなら。
「その顔はハルト様ね!いいなぁ、格好いい同郷の男性!私も欲しいよぉ!」
「アンナったら、はしたないわよ」
アンナはこう見えて成績優秀者だ。平民だけど裕福な商家の生まれで跡継ぎ。そう、女性でも家を継げるのよ。凄いわ。
「出た、ロッテのはしたない!もぉ可愛いんだから~。だって羨ましいのは仕方がないでしょう?顔良し頭良し性格良しの三拍子揃ったハルト先輩よ?逆に駄目な所を教えてほしいわ」
羨ましいという言葉に少し抵抗がある。彼女に悪感情はなく、正直にいいなと口に出しただけ。ただ私がマルティナ様の片鱗を探してしまうだけ。
「ハルト様は人気があるのね」
当たり障りの無い言葉で誤魔化す。でも彼の駄目なところ?……モテすぎることだわ。
「そうね。人気あるよ?お触り禁止なストイックさも人気の一つかも。女の子を嫌らしい目で見ないじゃない?」
それは美徳じゃなくて心の傷なだけ、とは言えない。言えないけどあっけらかんと言われると腹が立つ。
「ごめんごめん、怒らないでよ。あなた達って不思議ね。お互いを大切にしていて、でも近づき過ぎないようにしてる。謎な関係だわ」
「そうね。どうしようか、どうなろうか模索中なの」
「まぁいいけど。みんなの王子様と孤高の花。なかなかいいんじゃない?」
なんだそれは。まぁ嫌味じゃないならいいか。
今日は図書室で待ち合わせてる。なんだか懐かしいわ。先輩は元気かしら。
あ、もう来てる。
静謐な空間。ページを捲る音とペンを走らせる音だけが微かに響く。ハルト様は窓から差す穏やかな日差しを背に受け、静かに本を読んでいる。
本当に絵になる人だこと。
実力主義の国でも人気者だとは。こんな同級生がいたら劣等感を持ってしまっても仕方がないかもしれない。
「ロッテ?来たなら声を掛けてくれればいいのに」
「ごめんなさい、ちょっと考え事をしてしまったわ」
隣の席に座って小声で話をする。
「考え事?」
「先輩……アーベル子爵令息を覚えてる?」
「もちろん。私の事を敵対視していた彼だね」
やっぱりバレてたのね。本人は隠していたつもりみたいだけど、無意識に睨み付けてたもの。
「あら、不快でした?」
「いや、不思議だっただけ。彼に何かをした覚えがなかったから、なぜこんなにも嫌わているのかなって。
でも、少~し面白くはなかったから、彼の前ではいつも以上に王子らしく振る舞っていたかな」
ニッコリ笑って意地悪なことを言う。
「まぁ、なぜそんなことを?」
「私も人間だからね。嫌な態度を取り続けられると楽しくはないよ。だったら自分で楽になれる方法を見つけないと」
確かにそうね。何もしていないのに大嫌いを前面に出されて嬉しいはずがない。
「友人になれたらよかったが、彼は絶対に受け入れてくれないのが分かっていたから」
そうね。友達なんて無理だろうな。
「だから自分の為にも出来うる限り完璧な王子でいようと思ったんだ」
「なぜそうなるのですか?」
ちょっと意味が分からない。嫌われてるから完璧を目指す?余計に嫌われてるけど。
「劣っている姿を見せて文句を言われると私の汚点になるけど、隙の無い私への文句はただの八つ当たりだろう。
どうやっても妬まれるなら自分の評価を下げない方向を選んだだけだよ」
正論過ぎるわ。そして先輩はどう頑張っても崩れない完璧王子を見て、更に劣等感を拗らせていったのね。ご愁傷さまとしか言えないわ。
「そんなことがあったなんて知らなかったわ」
「言わなかったから」
そうね。でもどうして?別に婚約者ならなんでも話すべきだなんて言わないけど、それならなぜ今になって言うのかしら。
不思議に思っていると、
「だって格好悪いだろう。妬まれてるのを気にして格好付けてたなんて」
「えっ」
そんな理由?やだ、なんだか可愛いわ。
完璧な王子の仮面を外すとこんな感じなの?
「でもロッテには格好悪い所なんてたくさん見られてるし、駄目な所も私だしね。それにもうすぐ王子でもなくなる。これからはそんなに完璧を目指す必要もないと思ったんだよ」
「決まったのですか?」
「うん。卒業したら一度帰国する。継承権放棄と臣籍降下の手続きをしてくるよ」
一度、ということは、またこちらに来るということ?卒業したあとになぜ──
「手続きが終わり次第こちらに戻ってくるよ。もともとやりたいことがあって留学したんだ」
この学園は実力主義だ。貴族だからと大きく優遇されることは無い。それどころか、成績が優秀ならば平民でも生徒会に加入できる。ようするに、平民の指示を貴族が受け入れるのだ。学園は小さな社交界だと教わってきた私にはかなり衝撃的だった。
そして、物言いがストレート。曖昧な表現や、貴族的な会話は倦厭される。はい、か、いいえ、ハッキリと答えることを求められる。
国によってこんなにも考え方が違うなんて驚きだわ。でも、慣れてしまえば案外楽しいのよね。私には合っているかも。
「ロッテ!よかったら帰りに町に行かない?」
ちゃんと友達もできたわ!それも損得を考えない普通の友達。嬉しくて仕方がない。
「ごめんなさい、今日は約束があるのよ」
でも残念。今日はハルト様と約束してるのよね。再会してからゆっくりと彼との交流が続いている。学年が違う為、頻繁に会うわけではないけど繋がりが切れることはない。何とも言えない微妙な距離感だけど案外楽しい。だって私達二人だけの世界じゃないもの。新しい国、学園、友人。広がる世界の中で、それでも繋がりが消えないなら。
「その顔はハルト様ね!いいなぁ、格好いい同郷の男性!私も欲しいよぉ!」
「アンナったら、はしたないわよ」
アンナはこう見えて成績優秀者だ。平民だけど裕福な商家の生まれで跡継ぎ。そう、女性でも家を継げるのよ。凄いわ。
「出た、ロッテのはしたない!もぉ可愛いんだから~。だって羨ましいのは仕方がないでしょう?顔良し頭良し性格良しの三拍子揃ったハルト先輩よ?逆に駄目な所を教えてほしいわ」
羨ましいという言葉に少し抵抗がある。彼女に悪感情はなく、正直にいいなと口に出しただけ。ただ私がマルティナ様の片鱗を探してしまうだけ。
「ハルト様は人気があるのね」
当たり障りの無い言葉で誤魔化す。でも彼の駄目なところ?……モテすぎることだわ。
「そうね。人気あるよ?お触り禁止なストイックさも人気の一つかも。女の子を嫌らしい目で見ないじゃない?」
それは美徳じゃなくて心の傷なだけ、とは言えない。言えないけどあっけらかんと言われると腹が立つ。
「ごめんごめん、怒らないでよ。あなた達って不思議ね。お互いを大切にしていて、でも近づき過ぎないようにしてる。謎な関係だわ」
「そうね。どうしようか、どうなろうか模索中なの」
「まぁいいけど。みんなの王子様と孤高の花。なかなかいいんじゃない?」
なんだそれは。まぁ嫌味じゃないならいいか。
今日は図書室で待ち合わせてる。なんだか懐かしいわ。先輩は元気かしら。
あ、もう来てる。
静謐な空間。ページを捲る音とペンを走らせる音だけが微かに響く。ハルト様は窓から差す穏やかな日差しを背に受け、静かに本を読んでいる。
本当に絵になる人だこと。
実力主義の国でも人気者だとは。こんな同級生がいたら劣等感を持ってしまっても仕方がないかもしれない。
「ロッテ?来たなら声を掛けてくれればいいのに」
「ごめんなさい、ちょっと考え事をしてしまったわ」
隣の席に座って小声で話をする。
「考え事?」
「先輩……アーベル子爵令息を覚えてる?」
「もちろん。私の事を敵対視していた彼だね」
やっぱりバレてたのね。本人は隠していたつもりみたいだけど、無意識に睨み付けてたもの。
「あら、不快でした?」
「いや、不思議だっただけ。彼に何かをした覚えがなかったから、なぜこんなにも嫌わているのかなって。
でも、少~し面白くはなかったから、彼の前ではいつも以上に王子らしく振る舞っていたかな」
ニッコリ笑って意地悪なことを言う。
「まぁ、なぜそんなことを?」
「私も人間だからね。嫌な態度を取り続けられると楽しくはないよ。だったら自分で楽になれる方法を見つけないと」
確かにそうね。何もしていないのに大嫌いを前面に出されて嬉しいはずがない。
「友人になれたらよかったが、彼は絶対に受け入れてくれないのが分かっていたから」
そうね。友達なんて無理だろうな。
「だから自分の為にも出来うる限り完璧な王子でいようと思ったんだ」
「なぜそうなるのですか?」
ちょっと意味が分からない。嫌われてるから完璧を目指す?余計に嫌われてるけど。
「劣っている姿を見せて文句を言われると私の汚点になるけど、隙の無い私への文句はただの八つ当たりだろう。
どうやっても妬まれるなら自分の評価を下げない方向を選んだだけだよ」
正論過ぎるわ。そして先輩はどう頑張っても崩れない完璧王子を見て、更に劣等感を拗らせていったのね。ご愁傷さまとしか言えないわ。
「そんなことがあったなんて知らなかったわ」
「言わなかったから」
そうね。でもどうして?別に婚約者ならなんでも話すべきだなんて言わないけど、それならなぜ今になって言うのかしら。
不思議に思っていると、
「だって格好悪いだろう。妬まれてるのを気にして格好付けてたなんて」
「えっ」
そんな理由?やだ、なんだか可愛いわ。
完璧な王子の仮面を外すとこんな感じなの?
「でもロッテには格好悪い所なんてたくさん見られてるし、駄目な所も私だしね。それにもうすぐ王子でもなくなる。これからはそんなに完璧を目指す必要もないと思ったんだよ」
「決まったのですか?」
「うん。卒業したら一度帰国する。継承権放棄と臣籍降下の手続きをしてくるよ」
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