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「マリア・クエルバル伯爵令嬢。どうか私と結婚して頂けませんか」
「……ルイス様?私はすでに貴方の婚約者で、半年後には結婚する予定のはずですが?」
突然のルイス様からのプロポーズに驚きながらも、口からは冷静に事実を告げているのだから淑女教育とは恐ろしいと思います。
「カレンとは別れました」
「…だから今度は私に愛せと?だいたいどうして別れたのですか。真実の愛だったのではなかったかしら」
つい冷たい態度を取ってしまう私は本当に可愛げがないとは思いますが、ここで喜んで!と言うのはあまりにも頭が悪過ぎる。
「私は侯爵家に生まれたことを誇りに思っているし、領地のことも一生守っていくべき大切なものだと思っている。
だからその為に勉学に励むのは当然だし、それを嫌だと感じることもなかったんだ」
それはこれまで何度かお会いしてお話をする中でも感じられたことです。
ルイス様は恋さえ絡まなければとても優秀で、そしてそれは努力の上に成り立ったものだと分かりました。
日々怠ることなく学び、いずれ爵位を継ぐために努力しているのだと。
それは嫡男だからという惰性でそう生きているのではなく、彼自身がその立場をしっかりと受け止め、ご自分の意志でその未来に進む努力をしているのだと、密かに尊敬しておりました。
彼が唯一背いたことは、家の為により良い妻を得るのではなく、愛情以外は何も生み出さない恋心を選んだことだけなのでしょう。
「……私は彼女が無欲なのを知っていた。
だが、私の大切なものを共に守りたいという欲も無いのだと気付かなかった。
私達二人は、求めている未来が違った。だから別れるしかなかったんだ」
最愛様は本当にただ貴方を愛しただけだったのね。二人で居られるための努力は何もせず、でもただ側にいたいと。
欲がないって聞こえはいいけど、そうすると向上心も低くなりがちだから、遅かれ早かれ別れることになったのでしょうね。
「そこまでは理解出来ました。でも、どうして私にプロポーズを?」
「私は君に惹かれている」
「……私のどんなところに?」
「君は私の持ち掛けた侮辱的な結婚を、嘆く事なく、声を荒らげることもなく、矛盾点を突き付けながらも家の為ならばと堂々と受けて見せた。
婚約してからは良き伴侶になるべく努力を怠らず、貴族の義務を足枷だとは思わず、誇りを持って生きる姿が美しいと思った」
「つまり、ご自分の価値観と合っているから妻として相応しいと仰るのかしら」
「私は貴族としての貴方を敬愛しているよ。でも、それだけではなく、一人の女性としてのマリアを愛していきたいと思ったんだ」
ただの女としての私を?
「……貴方、私を抱けるの?」
「私は君と添い遂げる覚悟を決めた。
だからもし、このプロポーズを受けてくれるのなら、もちろん初夜を迎えたら君を抱きたいと思っているし、二度と手放す気はないよ」
それはロマンティックさとはかけ離れた無骨な求婚で。
「彼女を最期に抱いたのはいつ?1年後に突然赤子を抱いて現れたりしない?」
その返事がこれなのだから、私も大概です。
「結婚していないのに抱くはずが無いだろう」
「え!?本気で言っているのですか!?」
「まったく触れていないと言えば嘘になるが、性行為が出来なければ愛は成り立たないのか?」
「……私を抱くって言ったじゃない」
「夫婦なら子供を授かっても問題無いのだから抱いてもいいだろう」
ルイス様は結婚前から愛人を持つと宣言する破廉恥男だと思っていたのに、どうやら中身は自制心の塊のようだ。
「…私の、歯に衣着せぬ発言も笑って聞いてくれる鷹揚さは好ましいわ」
「そうか」
「領地の提案をした時、本当は少し怖かったのよ。
女が口出しをするなとか、もう妻になったつもりなのかと罵られるかもって」
「君の中で私がかなり悪人なのは分かった」
「そうじゃなくて。女性だからと侮らず、ちゃんと話を聞いてくれて嬉しかったの」
だって、あの時彼は私にありがとうと言って笑ってくれた。
あの笑顔を見て、ああ、この人と結婚出来るのだと本当に嬉しく思ったのです。
それでも、当時は最愛様がいらっしゃったから素直にそのことを口にすることは出来ませんでした。
「そうなのか?それくらい当然だろう」
女性を下に見る男性がどれ程多いのか、今度しっかりとお教えしようかしら?
「私ね、学生時代に貴方に憧れていたわ」
「え!?」
「まあ、白い結婚の話を聞いてそんな淡い思い出は一気に冷めたけど」
「それは…本当に申し訳ない」
「でも、私もそんなふうに一途に愛されてみたいと思ったのよ」
だって貴族だって人間だもの。愛されたいと思う気持ちまで捨ててはいないわ。
「もちろん義務を果たすのは大切です。でも、それだけの繋がりではやっぱり寂しいわ。
だからこれからは義務だけでなく、ちゃんと妻になる者として愛し、大切にする努力をして下さい。私も、夫になる貴方をずっと愛せるように頑張るから」
「……ありがとう、マリア」
私達の関係はただの恋ではない。
家同士の繋がりや金銭だって絡んでいるのだから、真実の愛だなんて口が裂けても言えません。
正しくこれは契約結婚なのです。
それでも、愛を育むことは出来るから。
互いの義務を怠らず、そこから生まれた愛ならば。それは私達なりの、真実の愛になるのかもしれません。
【end】
「……ルイス様?私はすでに貴方の婚約者で、半年後には結婚する予定のはずですが?」
突然のルイス様からのプロポーズに驚きながらも、口からは冷静に事実を告げているのだから淑女教育とは恐ろしいと思います。
「カレンとは別れました」
「…だから今度は私に愛せと?だいたいどうして別れたのですか。真実の愛だったのではなかったかしら」
つい冷たい態度を取ってしまう私は本当に可愛げがないとは思いますが、ここで喜んで!と言うのはあまりにも頭が悪過ぎる。
「私は侯爵家に生まれたことを誇りに思っているし、領地のことも一生守っていくべき大切なものだと思っている。
だからその為に勉学に励むのは当然だし、それを嫌だと感じることもなかったんだ」
それはこれまで何度かお会いしてお話をする中でも感じられたことです。
ルイス様は恋さえ絡まなければとても優秀で、そしてそれは努力の上に成り立ったものだと分かりました。
日々怠ることなく学び、いずれ爵位を継ぐために努力しているのだと。
それは嫡男だからという惰性でそう生きているのではなく、彼自身がその立場をしっかりと受け止め、ご自分の意志でその未来に進む努力をしているのだと、密かに尊敬しておりました。
彼が唯一背いたことは、家の為により良い妻を得るのではなく、愛情以外は何も生み出さない恋心を選んだことだけなのでしょう。
「……私は彼女が無欲なのを知っていた。
だが、私の大切なものを共に守りたいという欲も無いのだと気付かなかった。
私達二人は、求めている未来が違った。だから別れるしかなかったんだ」
最愛様は本当にただ貴方を愛しただけだったのね。二人で居られるための努力は何もせず、でもただ側にいたいと。
欲がないって聞こえはいいけど、そうすると向上心も低くなりがちだから、遅かれ早かれ別れることになったのでしょうね。
「そこまでは理解出来ました。でも、どうして私にプロポーズを?」
「私は君に惹かれている」
「……私のどんなところに?」
「君は私の持ち掛けた侮辱的な結婚を、嘆く事なく、声を荒らげることもなく、矛盾点を突き付けながらも家の為ならばと堂々と受けて見せた。
婚約してからは良き伴侶になるべく努力を怠らず、貴族の義務を足枷だとは思わず、誇りを持って生きる姿が美しいと思った」
「つまり、ご自分の価値観と合っているから妻として相応しいと仰るのかしら」
「私は貴族としての貴方を敬愛しているよ。でも、それだけではなく、一人の女性としてのマリアを愛していきたいと思ったんだ」
ただの女としての私を?
「……貴方、私を抱けるの?」
「私は君と添い遂げる覚悟を決めた。
だからもし、このプロポーズを受けてくれるのなら、もちろん初夜を迎えたら君を抱きたいと思っているし、二度と手放す気はないよ」
それはロマンティックさとはかけ離れた無骨な求婚で。
「彼女を最期に抱いたのはいつ?1年後に突然赤子を抱いて現れたりしない?」
その返事がこれなのだから、私も大概です。
「結婚していないのに抱くはずが無いだろう」
「え!?本気で言っているのですか!?」
「まったく触れていないと言えば嘘になるが、性行為が出来なければ愛は成り立たないのか?」
「……私を抱くって言ったじゃない」
「夫婦なら子供を授かっても問題無いのだから抱いてもいいだろう」
ルイス様は結婚前から愛人を持つと宣言する破廉恥男だと思っていたのに、どうやら中身は自制心の塊のようだ。
「…私の、歯に衣着せぬ発言も笑って聞いてくれる鷹揚さは好ましいわ」
「そうか」
「領地の提案をした時、本当は少し怖かったのよ。
女が口出しをするなとか、もう妻になったつもりなのかと罵られるかもって」
「君の中で私がかなり悪人なのは分かった」
「そうじゃなくて。女性だからと侮らず、ちゃんと話を聞いてくれて嬉しかったの」
だって、あの時彼は私にありがとうと言って笑ってくれた。
あの笑顔を見て、ああ、この人と結婚出来るのだと本当に嬉しく思ったのです。
それでも、当時は最愛様がいらっしゃったから素直にそのことを口にすることは出来ませんでした。
「そうなのか?それくらい当然だろう」
女性を下に見る男性がどれ程多いのか、今度しっかりとお教えしようかしら?
「私ね、学生時代に貴方に憧れていたわ」
「え!?」
「まあ、白い結婚の話を聞いてそんな淡い思い出は一気に冷めたけど」
「それは…本当に申し訳ない」
「でも、私もそんなふうに一途に愛されてみたいと思ったのよ」
だって貴族だって人間だもの。愛されたいと思う気持ちまで捨ててはいないわ。
「もちろん義務を果たすのは大切です。でも、それだけの繋がりではやっぱり寂しいわ。
だからこれからは義務だけでなく、ちゃんと妻になる者として愛し、大切にする努力をして下さい。私も、夫になる貴方をずっと愛せるように頑張るから」
「……ありがとう、マリア」
私達の関係はただの恋ではない。
家同士の繋がりや金銭だって絡んでいるのだから、真実の愛だなんて口が裂けても言えません。
正しくこれは契約結婚なのです。
それでも、愛を育むことは出来るから。
互いの義務を怠らず、そこから生まれた愛ならば。それは私達なりの、真実の愛になるのかもしれません。
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