ご愛妾様は今日も無口。

ましろ

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14.対岸の火事

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セレスティーヌの参加を団長に報告した結果、パーティーの責任者でもある王妃陛下に相談することとなった。

「……何を考えているのかしら」
「どう考えても良いこととは思えませんね。それと、ハイメス公爵の動きが妙なんです」
「そうね、早過ぎるわ。まるでもっと前から計画していたみたい。でも……彼がそんなにも前から誰にも気付かれることなく他国との接点を持てたとは思えない」

今まで隙の無かった陛下のほんの少しの綻び。だが、それは他国を巻き込む程のものなのか?
何かがおかしい。まるで無理矢理作られた舞台の様な違和感。

「……どこかの狡猾な人間が、馬鹿の前に餌を放り込んだみたいね」
「まさか!」
「待って。……お願い、少し待ってくれる?」

王妃様がグッと目を閉じ俯いた。
しばらく沈黙が続いた後、大きくため息をつかれた。

「……あの人はこの国を潰したいのかしら」

は?!いやいや、ないでしょ。最近楽しそうですよ?あーでも、あの人なら楽しそうに国を潰しそうな気も……
でも。

「あの、発言をお許しいただけますでしょうか」
「……なに」

わー荒んでる。辛いんだろうなって分かるのに、コレを伝えていいのか?でも、このままだと王妃様が可哀想過ぎる。どんな情報でも無いよりはいい、と信じる!

「陛下が最近面白いと仰っていました」
「面白い?」
「はい。王妃様と王子殿下達が変わって来て楽しいと。ですから国を滅ぼしたりはなさらないかと思われます」
「………ふざけてるの?」

違うんです、俺が言ったんじゃないんです!!

「あの人は今どこにいるの!」
「……執務室にいらっしゃいます」

俺の答えを聞いた途端、それ走ってない?というくらいのスピードで王妃様が執務室に向かう。なんだかデジャヴ。王妃様は意外と猪突猛進だ。

「ちょっと!」

ノック無しで入室して、挨拶無しで放った言葉がちょっと。これは夫婦喧嘩なのか国政の話し合いなのか。俺も団長も思わず付いてきたけどよかったのか?

「やぁ、アンヌ。ずいぶんご立腹だね。また扇で殴るのかい?」 

……こんなにも『お前ぶっ殺す』オーラを放っている王妃様を揶揄わないで欲しい。

「私達が面白いってどういうこと?!」

凄くストレートな質問です。
すみません、陛下。俺が言っちゃいました!

「え?だって面白いよね」

流石です。欠片も響いていない。陛下が反省することってあるの? 

「……へぇ、そう。そんなに楽しい?夫が自分の子供と同じくらいの年頃の令嬢を強姦して愛妾にしたことに苦しむ私達はそんなに愉快なの?!」
「うん、そうだね。すごく楽しいよ」

…………………信じらんない。楽しいって言っちゃったよ?!

「アンヌは何に憤ってるの?私が愛妾を作ったこと?セレスティーヌが年若いこと?それとも本人の意に沿わなかったこと?」
「全部に決まっているでしょう!!セレスティーヌ嬢や子供達の気持ちは考えなかったの?!みんな傷付いているに決まっているでしょう!何故分からないの!!」

王妃様の批難をさも面白そうに眺めている陛下に寒気がする。だって、本当に楽しそうに見ているのだ。

「それならどうして愛妾制度を廃止しなかったんだ?」
「……なんですって?」
「アンヌが知らなかったはずがないよな。だが、君は愛妾制度を廃止しようとはしなかった。結婚してから20年だ。本当に許せない行為だと思っているなら廃止する機会など十分にあったのに無視してきた。
自分は子を孕んだから?それは側妃を防ぐだけだ。まさか私達が愛し合っているから?君は私をアロイスでは無く国王としか認識していないのに?
それなのに何故今頃騒ぐ?
夫がいるのに国王に体を許し、子が生まれても種が誰であろうと夫の子とする。一般的な夫婦としては考えられない条件だ。だが、君は廃止しなかった。
それどころか、セレスティーヌを犯したことを隠蔽して正式な愛妾として迎える様に仕向けたのもアンヌだろう。
それなのに、何故憤っているんだい?」

王妃様が何も言えなくなってしまった。
確かに愛妾制度は何代も前から許されているのだ。本当に厭わしいと思うなら廃止しておくべきだった。

「私が面白いと思っているのはね、今までは自分とは無関係だと思っていた事柄がいざ自分に振りかかった途端大慌てしているアンヌが面白いからだ。
君はずっと王太子妃、そして王妃になることを目標に生きてきたよね。そしてそれを成し遂げてきた。素晴らしい努力だ。賞賛するよ。
だけど私の妻?違うよね、君はずっと王太子の婚約者であり、王太子妃であり、王妃だった。だから、普通の妻なら許せない不貞の証である愛妾を黙認してきた。
それなのに今更自分は普通の女で妻で母だと訴える。これ程笑えることもないだろう?」




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