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15.破滅的な恋
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執務室に何とも言えない空気が漂う。
あまりにも陛下の言ったことが正論で、正論であることが許しがたいから。
「トリスタン。その二人をあまり信用しない方がいい」
更に俺にまで不信の種をまくのかよ!
「彼等は国が一番な人間達だ。お前やセレスティーヌの心情など二の次だぞ。
知っていたか?大半の貴族がセレスティーヌを愛妾にしたことを納得している。喜んですらいる。
私はこれでも、先代、先々代の王よりも多くの政策を施し、国民の生活を豊かにしてきた。各国との同盟や交渉により、戦争の回避や貿易面でも利益を上げてきた。
それでもね、まだ足りないと言うのだよ。貴方ならもっと出来るでしょう、とね。
皆ね、最近の私に不満があったようだ。それがセレスティーヌを得た事によってまた活動的な王になったと喜んでいる。
だからね、私を罪に問う者はいないし、お前達が可哀想だから手放せとも言わない。二人の人間の不自由で国が潤うなら安いものなんだ。
世の中そんなものだよ。……可哀想にね」
なぜこの人はこんなにも綺麗な笑みを浮かべながら、そんな話をするのだろう。国の生贄なのはセレスティーヌ?それとも………
「陛下にお尋ねします。ハイメス公爵とプレヴァン国はどの様にいたしましょう」
団長は王妃様の様子や今までの話など無かったかのように冷静に問いかける。……そうだよな。だからこそ団長という立場にいられる。すぐに情に流される俺とは全然違う。
「ハイメスは駄目だな。プレヴァンの協力を匂わせた途端欲をかいた。アレと母親はこれを機に潰す。家自体は残せ。第二子のレイモンに継がせたいな。長男はベレニスの思想に染まっていて手遅れだ」
「かしこまりました。内々に済ませますか?」
「そうだな。出来れば静かに終わらせたいところだが……プレヴァンの件がある。建国記念のパーティーで多少の騒ぎが起きるだろう。警備はそれを見越して動け」
「……まさかビニシオを出席させるのは!」
「だから言っている。それを見越した警備をしろと。アレも次期王だ。そろそろそういったことも覚えさせる頃合いだ」
本当にすべて陛下の計画だった。
ハイメス公爵とプレヴァン王国。更に王子殿下の教育。すべてを一度で──
「……貴方は本当に魔王のようだわ。自分の子供すら駒なのね」
「それは違うな。子供すらではない。すべてがそうだよ。それが私に望まれたことだ。今までもこれからもずっとね。そして愛妾であるセレスティーヌは少し飽きた私に与えられたカンフル剤。もしくは国に捧げられた生贄だよ。ね、分かったかい。トリスタン?」
なぜ今、俺を呼ぶんだ。俺にそれを理解しろって?納得して諦めろってことなのか?
「………陛下のお立場がどれだけ大変なのかは理解しました。セレスティーヌが俺だけの妻になる日がすっごく遠いかもしれないのも分かりました。
それでも、俺は陛下が正しくない事を知っています。貴方は間違えた。だから一生セレスティーヌの心は手に入れられない。それだけは事実だと思っています」
「お前の、そういう忖度出来ない馬鹿な所は気に入っているよ」
だからっ!どうしてそこで嬉しそうに笑うんだ!
俺はセレスティーヌの為にもこの人を憎み続けたいのに、嫌い続けたいのに。
「これで話は終わったな」
そう言われたらもう出て行くしかない。
ごめん、セレスティーヌ。君を解放する道がどうしても見つけられない。陛下の執着が消えれば。そんなあやふやな道しか。
それすらも先程の話で怪しくなる。
なぜ、国王に愛妾が必要なのか。後継者を産む以外に作られた国王の為だけの立場。それは………国を支えることに疲れた王を癒やすための、そして更に働かせるための生贄なのだ。
♢♢♢♢♢
どうしよう。セレスティーヌの所に行くかどうか。今日はまだ一言も話をしていない。でも、さっきの今で何を話せばいい?
陛下の、セレスティーヌへの執着は愛なのだろうか。愛なのにあんなに酷い目にあわせた理由が分からない。あの時、手を出さなければ何処かに嫁いでしまうから?
陛下には権力がある。それでも、自由に動くことを許されない枷もある。
「それでも、もっと優しくしていれば」
そうしたら心は手に入れられたか?
………無いな。だって陛下には妻も子供もいる。それらを無視して愛されることをセレスティーヌが喜ぶはずがない。
詰んでるなー
破滅的な恋。とでも言えばいいのか?最初から無理だと分かっていてそれでも………いや、そこは諦めて!
駄目だ。正解が無い。だって間違っているのを分かっていて始めているから。
誰かが諦めるか壊れるか……絆されるか。
だめ、絆されないで!
やっぱり会いに行こう。あの人がどれだけ大変でも、辛くても、それとこれは別だ。
まとめちゃ駄目、絶対!
あの人がやったことは暴力で、愛とは認めない。だから俺は諦めないし、セレスティーヌは必ず自由になるんだ。
あまりにも陛下の言ったことが正論で、正論であることが許しがたいから。
「トリスタン。その二人をあまり信用しない方がいい」
更に俺にまで不信の種をまくのかよ!
「彼等は国が一番な人間達だ。お前やセレスティーヌの心情など二の次だぞ。
知っていたか?大半の貴族がセレスティーヌを愛妾にしたことを納得している。喜んですらいる。
私はこれでも、先代、先々代の王よりも多くの政策を施し、国民の生活を豊かにしてきた。各国との同盟や交渉により、戦争の回避や貿易面でも利益を上げてきた。
それでもね、まだ足りないと言うのだよ。貴方ならもっと出来るでしょう、とね。
皆ね、最近の私に不満があったようだ。それがセレスティーヌを得た事によってまた活動的な王になったと喜んでいる。
だからね、私を罪に問う者はいないし、お前達が可哀想だから手放せとも言わない。二人の人間の不自由で国が潤うなら安いものなんだ。
世の中そんなものだよ。……可哀想にね」
なぜこの人はこんなにも綺麗な笑みを浮かべながら、そんな話をするのだろう。国の生贄なのはセレスティーヌ?それとも………
「陛下にお尋ねします。ハイメス公爵とプレヴァン国はどの様にいたしましょう」
団長は王妃様の様子や今までの話など無かったかのように冷静に問いかける。……そうだよな。だからこそ団長という立場にいられる。すぐに情に流される俺とは全然違う。
「ハイメスは駄目だな。プレヴァンの協力を匂わせた途端欲をかいた。アレと母親はこれを機に潰す。家自体は残せ。第二子のレイモンに継がせたいな。長男はベレニスの思想に染まっていて手遅れだ」
「かしこまりました。内々に済ませますか?」
「そうだな。出来れば静かに終わらせたいところだが……プレヴァンの件がある。建国記念のパーティーで多少の騒ぎが起きるだろう。警備はそれを見越して動け」
「……まさかビニシオを出席させるのは!」
「だから言っている。それを見越した警備をしろと。アレも次期王だ。そろそろそういったことも覚えさせる頃合いだ」
本当にすべて陛下の計画だった。
ハイメス公爵とプレヴァン王国。更に王子殿下の教育。すべてを一度で──
「……貴方は本当に魔王のようだわ。自分の子供すら駒なのね」
「それは違うな。子供すらではない。すべてがそうだよ。それが私に望まれたことだ。今までもこれからもずっとね。そして愛妾であるセレスティーヌは少し飽きた私に与えられたカンフル剤。もしくは国に捧げられた生贄だよ。ね、分かったかい。トリスタン?」
なぜ今、俺を呼ぶんだ。俺にそれを理解しろって?納得して諦めろってことなのか?
「………陛下のお立場がどれだけ大変なのかは理解しました。セレスティーヌが俺だけの妻になる日がすっごく遠いかもしれないのも分かりました。
それでも、俺は陛下が正しくない事を知っています。貴方は間違えた。だから一生セレスティーヌの心は手に入れられない。それだけは事実だと思っています」
「お前の、そういう忖度出来ない馬鹿な所は気に入っているよ」
だからっ!どうしてそこで嬉しそうに笑うんだ!
俺はセレスティーヌの為にもこの人を憎み続けたいのに、嫌い続けたいのに。
「これで話は終わったな」
そう言われたらもう出て行くしかない。
ごめん、セレスティーヌ。君を解放する道がどうしても見つけられない。陛下の執着が消えれば。そんなあやふやな道しか。
それすらも先程の話で怪しくなる。
なぜ、国王に愛妾が必要なのか。後継者を産む以外に作られた国王の為だけの立場。それは………国を支えることに疲れた王を癒やすための、そして更に働かせるための生贄なのだ。
♢♢♢♢♢
どうしよう。セレスティーヌの所に行くかどうか。今日はまだ一言も話をしていない。でも、さっきの今で何を話せばいい?
陛下の、セレスティーヌへの執着は愛なのだろうか。愛なのにあんなに酷い目にあわせた理由が分からない。あの時、手を出さなければ何処かに嫁いでしまうから?
陛下には権力がある。それでも、自由に動くことを許されない枷もある。
「それでも、もっと優しくしていれば」
そうしたら心は手に入れられたか?
………無いな。だって陛下には妻も子供もいる。それらを無視して愛されることをセレスティーヌが喜ぶはずがない。
詰んでるなー
破滅的な恋。とでも言えばいいのか?最初から無理だと分かっていてそれでも………いや、そこは諦めて!
駄目だ。正解が無い。だって間違っているのを分かっていて始めているから。
誰かが諦めるか壊れるか……絆されるか。
だめ、絆されないで!
やっぱり会いに行こう。あの人がどれだけ大変でも、辛くても、それとこれは別だ。
まとめちゃ駄目、絶対!
あの人がやったことは暴力で、愛とは認めない。だから俺は諦めないし、セレスティーヌは必ず自由になるんだ。
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