ご愛妾様は今日も無口。

ましろ

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16.勇気ある人

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「え」

まさかの王妃様と遭遇っ!
いや、未遂だ。まだ出会ってはいない。ただ、セレスティーヌの部屋のドアの前に王妃様の護衛が。

「あー、今取り込み中?」

こくり。

うん、分かってた。

これは今日は無理かな。まさかこんなに早くに王妃様がセレスティーヌに会いに来るとは思わなかった。

ガチャッ

うおっ、早くないか?

慌てて頭を下げるが、王妃様は何も言わずに帰ってしまった。
どうしようか少し迷ったけど、とりあえずノックをする。話が出来るかどうかは彼女次第ということで。

「トリスタン、お疲れ様。どうぞ入って」
「え、ここでいいよ」

だっていつもは戸口で話すだけだし。

「……人に聞かれたくない話なの」

ああ、さっきの……

「じゃあ、少しだけ」

また叱られるかもしれないけど、クビは無しだから大丈夫だろう。たぶん、こういう時は許される気がする。陛下はああ見えて線引きが上手い方だから。

「さっき王妃様がいらっしゃったの」
「うん。すれ違ったよ」
「何故かしら。謝罪されたわ」

あー、やっぱり。

「理由は聞いた?」
「ううん。許されるわけにはいかないからって。それでも、謝罪しないのは違うから謝らせてくれって言われた」

……何とも気になる謝罪の仕方ですね。
やっぱり動揺していたのかな。そんな風に謝られたら逆に罪悪感がわきそうだ。

「トリスタンは理由を知っているのね」
「え?!」
「だから冷静なんでしょう」
「…………セレスティーヌは名探偵だな」
「ふふっ、ご褒美に教えてくれる?」

なんて可愛いおねだり!まあ、もともと教えるつもりだったけど。だって半端な謝罪ってモヤモヤして嫌だよね。少しズルいと思うんだ。

「陛下が──」

さっきまでの陛下とのやり取りを話して聞かせた。告げ口みたいでアレだけど、謝罪に来たのなら彼女には知る権利がある。

「そう。そんなことがあったのね」

もちろん、ハイメス公爵やプレヴァン国のことは話しません。

「トリスタンはその話を聞いてどう思ったの?」
「俺?」

意外だ。俺の気持ちを聞かれるとは思わなかった。

「……俺は……今更だと思ったよ」
「うん」

だって、全ては突然始まって、無理矢理乗せられた暴走馬車はもう走り出している。今更戻ることも飛び降りる事も出来ないのだ。俺達に出来ることは崖に向かわないように必死にブレーキをかけ、少しでも幸せな地に辿り着けるようルートを変えようと藻掻くくらい。それでも絶対に諦めず頑張っているんだ。
今更たらればを言っても何も変わらない。それなのに今謝罪するのは王妃様が楽になる為だけだ。後悔しているなら、まずは愛妾制度の廃止に向けて動くべきだし、謝罪するならそれらがすべて終わってからだろう。

「それにセレスティーヌはもう前を向いているだろう?頑張って戦っている。それをいつまでも可哀想だと……哀れな女性だと言い続けるのは違うと思った。
君は可哀想な人じゃない。勇気ある女性だよ」

俺は間違っているだろうか。まだ傷が癒えきっていないであろう彼女にこんなことを言うのは不正解か?
俺がお気楽能天気過ぎるのだろうか。

「……勇気、あるかな」
「え、うん。すっごくある!格好いいとすら思ってるよ!」
「何それ………でも、嬉しい」
「!」
「私、負けたくないの。被害者のままでいたくない。可哀想にって憐れまれたくない!」
「セレスティーヌは凛としていて素敵だ」
「あら、カッコイイでもよかったのに」

本当にね、凛として格好良い。女性への褒め言葉では無いのかもしれないけれど。

「貴方が味方でよかった」
「どういたしまして」

本当はここで聞いてしまえばいいのだろうか。
俺のことどう思ってる?陛下から自由になれても夫婦でいてくれるのか?

たまたま当番でいただけ。たまたま未婚で婚約者もいなかっただけ。それだけの俺は彼女にとってどんな存在なのか。
……この大変な時に聞くべきじゃない、よな。

いつか聞ける日が来るだろうか。
少しずつ膨らんでいくこの想いを伝えられる日が来るだろうか。





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