25 / 58
25.置き去りにしたもの
しおりを挟む
どうして陛下を見つめているんだ。
あんなに酷い目にあったじゃないか。
あの時、助けて、と手を伸ばしたじゃないか!
嫉妬で腹の中が焼き切れそうだ。
知らなかった、こんな自分がいただなんて。
ゆっくりと息をする。落ち着け、落ち着け……
ああ、ずっと俺は驕っていたのかな。
彼女が陛下に靡くはずがないと高を括っていた。
だって彼女の泣き顔を見たから。彼女の肌に残る陛下が付けた暴力の痕を見たから。
違うのか?たとえ無理矢理であっても、愛さえあれば許される、愛の証に変わるのか?
手首に付いた痣は執着の証で、無理矢理の行為は抑えられない恋情ゆえ。でも、それは許されるべきことじゃないと信じていた。
それでも、彼女が陛下を許すことが出来て愛し合えるのならば、それが二人にとっては幸せなことなのだろうか。
「……陛下、あちらを」
意を決して陛下に声を掛ける。
「それは、今必要なことでは無い」
しかし、陛下は振り向く事なく別の場所に向かって進んで行く。本当はとうに視線に気が付いていたのだろう。
陛下は正しい。ここはただの楽しいパーティー会場ではない。接待の場であり、大切な意見の交換場でもある。ちょっとした言葉遊びのようで重要な会話であったり、情勢の読み合いであったり。
『正しい国王』でいてくれるのに。それでも、と願う俺は本当に馬鹿だと思う。
「申し訳ありません」
「もういい。他の者と代わりなさい」
ああ、こうやって切り捨てられていくのか。
「……はい」
隊長に合図を送る。代わりに来た護衛と交代して隊長の元に報告に行く。
「この阿呆が。今日が大切な日だと知っていただろう」
「すみません」
「女で人生を狂わす気か。相手にも迷惑だから今すぐやめろ。出来ないなら離婚させるからなっ!」
「本当に申し訳ありません!」
最低だ、こんなことになるなんてっ!
「しかし……お前を外すとは思わなかった」
「いえ、最近調子に乗り過ぎていたんで」
「そこからすでに異例だったんだよ。学生の頃だって陛下が側に置いた人間でプライベートな話まで許したのは俺とブラスくらいだ」
「え、団長って仲良かったんですかっ?!あと、ブラスって誰ですか」
だって団長はいつだって陛下に冷たかったじゃないか。王として駄目なら切り捨てるくらいの口振りで。
「俺と陛下とブラスは同い年、学園で一緒に過ごしてきた仲だ。ブラスは諜報部隊長だよ。
俺は近衛として『国王』としての対外的な立場を守る。ブラスは『アロイス』個人を守るために動いてる。分かったか、ひよっ子め」
猿とかヒヨコとか動物ばっかだ。人から遠ざかっていないか?
「最近のあいつは危う過ぎる。お前みたいなお人好しが近くにいて丁度よかったのに馬鹿が過ぎたか?
ついでに今日のこと全部報告しろ」
どうしよう、新情報が一杯だ。
まさか近衛騎士団長と諜報部隊長の二人が陛下の長年の友だなんて!友達がゼロだと思ってすみません。
「ハイメス公爵は小物感満載という感じで、陛下の脅しに蒼白になっていました。王太子殿下も相手にしていませんでした」
「……そうか。妙だな」
「優秀な兄への劣等感は感じましたが、倒したいというより、認められたい方かと」
「何かしらの悪事は考えていたけれど、殺す気はないか。では、誰が?」
「陛下は元側妃様とプレヴァン国の誰か、たぶん女性で第二王子と第三王子に関わる人物と繋がっていると思われているようです」
「だよな、前ベレニス妃。あれは分かっているんだ。だけど……何かがおかしい。プレヴァンはどうせ第二妃だろう。だけど、今更なんだ。なのに、どうして今回は勢力が増している……いや、攻撃パターンが変わったんだ?」
攻撃の仕方が変わる。それはこのままでは無理だと悟り、変えようとした。もしくは……
「プレヴァンに情報を流したのは本当に陛下ですか?」
「!!」
そうだ、そこからだ。だってあの人だぞ。暇潰しだと言いながらも睡眠時間も削って国を守ってきた矛盾だらけの男。さっきだってあんなに無礼な公爵を脅すだけで見逃していた。そんな人が他国に情報を流すのか?公爵にする仕打ちは王子二人では無く、王女が王位を継ぐことなのでは?!
「……やられた。まさかアイツが陛下を裏切るのか」
「アイツって」
「ブラス。諜報部隊長だ」
あんなに酷い目にあったじゃないか。
あの時、助けて、と手を伸ばしたじゃないか!
嫉妬で腹の中が焼き切れそうだ。
知らなかった、こんな自分がいただなんて。
ゆっくりと息をする。落ち着け、落ち着け……
ああ、ずっと俺は驕っていたのかな。
彼女が陛下に靡くはずがないと高を括っていた。
だって彼女の泣き顔を見たから。彼女の肌に残る陛下が付けた暴力の痕を見たから。
違うのか?たとえ無理矢理であっても、愛さえあれば許される、愛の証に変わるのか?
手首に付いた痣は執着の証で、無理矢理の行為は抑えられない恋情ゆえ。でも、それは許されるべきことじゃないと信じていた。
それでも、彼女が陛下を許すことが出来て愛し合えるのならば、それが二人にとっては幸せなことなのだろうか。
「……陛下、あちらを」
意を決して陛下に声を掛ける。
「それは、今必要なことでは無い」
しかし、陛下は振り向く事なく別の場所に向かって進んで行く。本当はとうに視線に気が付いていたのだろう。
陛下は正しい。ここはただの楽しいパーティー会場ではない。接待の場であり、大切な意見の交換場でもある。ちょっとした言葉遊びのようで重要な会話であったり、情勢の読み合いであったり。
『正しい国王』でいてくれるのに。それでも、と願う俺は本当に馬鹿だと思う。
「申し訳ありません」
「もういい。他の者と代わりなさい」
ああ、こうやって切り捨てられていくのか。
「……はい」
隊長に合図を送る。代わりに来た護衛と交代して隊長の元に報告に行く。
「この阿呆が。今日が大切な日だと知っていただろう」
「すみません」
「女で人生を狂わす気か。相手にも迷惑だから今すぐやめろ。出来ないなら離婚させるからなっ!」
「本当に申し訳ありません!」
最低だ、こんなことになるなんてっ!
「しかし……お前を外すとは思わなかった」
「いえ、最近調子に乗り過ぎていたんで」
「そこからすでに異例だったんだよ。学生の頃だって陛下が側に置いた人間でプライベートな話まで許したのは俺とブラスくらいだ」
「え、団長って仲良かったんですかっ?!あと、ブラスって誰ですか」
だって団長はいつだって陛下に冷たかったじゃないか。王として駄目なら切り捨てるくらいの口振りで。
「俺と陛下とブラスは同い年、学園で一緒に過ごしてきた仲だ。ブラスは諜報部隊長だよ。
俺は近衛として『国王』としての対外的な立場を守る。ブラスは『アロイス』個人を守るために動いてる。分かったか、ひよっ子め」
猿とかヒヨコとか動物ばっかだ。人から遠ざかっていないか?
「最近のあいつは危う過ぎる。お前みたいなお人好しが近くにいて丁度よかったのに馬鹿が過ぎたか?
ついでに今日のこと全部報告しろ」
どうしよう、新情報が一杯だ。
まさか近衛騎士団長と諜報部隊長の二人が陛下の長年の友だなんて!友達がゼロだと思ってすみません。
「ハイメス公爵は小物感満載という感じで、陛下の脅しに蒼白になっていました。王太子殿下も相手にしていませんでした」
「……そうか。妙だな」
「優秀な兄への劣等感は感じましたが、倒したいというより、認められたい方かと」
「何かしらの悪事は考えていたけれど、殺す気はないか。では、誰が?」
「陛下は元側妃様とプレヴァン国の誰か、たぶん女性で第二王子と第三王子に関わる人物と繋がっていると思われているようです」
「だよな、前ベレニス妃。あれは分かっているんだ。だけど……何かがおかしい。プレヴァンはどうせ第二妃だろう。だけど、今更なんだ。なのに、どうして今回は勢力が増している……いや、攻撃パターンが変わったんだ?」
攻撃の仕方が変わる。それはこのままでは無理だと悟り、変えようとした。もしくは……
「プレヴァンに情報を流したのは本当に陛下ですか?」
「!!」
そうだ、そこからだ。だってあの人だぞ。暇潰しだと言いながらも睡眠時間も削って国を守ってきた矛盾だらけの男。さっきだってあんなに無礼な公爵を脅すだけで見逃していた。そんな人が他国に情報を流すのか?公爵にする仕打ちは王子二人では無く、王女が王位を継ぐことなのでは?!
「……やられた。まさかアイツが陛下を裏切るのか」
「アイツって」
「ブラス。諜報部隊長だ」
1,117
あなたにおすすめの小説
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
愛されなかった公爵令嬢のやり直し
ましゅぺちーの
恋愛
オルレリアン王国の公爵令嬢セシリアは、誰からも愛されていなかった。
母は幼い頃に亡くなり、父である公爵には無視され、王宮の使用人達には憐れみの眼差しを向けられる。
婚約者であった王太子と結婚するが夫となった王太子には冷遇されていた。
そんなある日、セシリアは王太子が寵愛する愛妾を害したと疑われてしまう。
どうせ処刑されるならと、セシリアは王宮のバルコニーから身を投げる。
死ぬ寸前のセシリアは思う。
「一度でいいから誰かに愛されたかった。」と。
目が覚めた時、セシリアは12歳の頃に時間が巻き戻っていた。
セシリアは決意する。
「自分の幸せは自分でつかみ取る!」
幸せになるために奔走するセシリア。
だがそれと同時に父である公爵の、婚約者である王太子の、王太子の愛妾であった男爵令嬢の、驚くべき真実が次々と明らかになっていく。
小説家になろう様にも投稿しています。
タイトル変更しました!大幅改稿のため、一部非公開にしております。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ
・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。
アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。
『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』
そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。
傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。
アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。
捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。
--注意--
こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。
一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。
二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪
※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。
※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる