ご愛妾様は今日も無口。

ましろ

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24.カウントダウン

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もう少し、あと少しで願いが叶う

──カウントダウンが始まった



会場は宝石箱をひっくり返したようだ。
色とりどりのドレスを着た淑女達が華やかに微笑みながら、パートナーとダンスを踊る。

見つけた。セレスティーヌだ。

意外なことに、陛下が贈ったドレスは少し緑がかった青。澄んだ湖面のように美しいドレスは彼女のオレンジブラウンの髪に良く映えるが、ご自分のサファイアブルーの瞳に合わせなかったことに驚いた。もっと独占欲を顕にするかと思ったのに。
彼女をエスコートしているのは、陛下が用意した男性。もしかして諜報部なのだろうか?

あ、お義父上と踊られるのか。

懐かしい、彼女が踊る姿。つい、陛下を見てしまう。ああ、やっぱり見ている。あの時と同じだ。
あの時の俺はつい彼女に見惚れ、護衛の立場を思い出し、慌てて陛下に目を向けると……今と同じ顔をしていた。それは本当に少しだけ滲み出た感情。
立場が全く違う俺達なのに、二人して同じ女性に恋に落ちていた。だから気が付いた。
俺は淡い恋心を。陛下は──


「義兄上、久しぶりですね」
「おや、レアンドロじゃないか」

レアンドロ・ハイメス公爵。先代国王の側妃から生まれた陛下の異母弟。

こうやって並ぶとやっぱり似ているな。

年も一つしか変わららない陛下の。いっそのこと似ていない方が良かっただろうに。
光が当たると金色に見えなくもない明るい茶髪に、瞳はアンバー。顔立ちは陛下を少し薄くした感じ。陛下という兄さえいなければ、優秀だと認められたであろう頭脳。
いつも、何かが足りない及ばないと言われ続け、陛下の影に隠れてしまった不遇の男。

「ああ、

俺を見てニヤリと笑う。なんだ?

「最近面白い玩具を手に入れたらしいですね」

ああ、全部知っていて俺と彼女を、そして俺なんかの妻にして手に入れた陛下を、全員を馬鹿にしているのか。

「そうだね、国王の特権だ。羨ましいのかな」

うっわー。公爵の顔が引き攣ったよ?

「……義兄上がそんなモノに嵌まるとは思いませんでしたな。皇太子殿下、お辛いのではありませんか?」

……国王になれなかった理由がよく分かるな。

「叔父上はお優しいですね。ですが私ももう子供ではありませんから」

下卑た公爵の笑みなどまったく気にしていないかの様に、余裕のある態度で躱す。
望んだ反応では無かったのだろう。少しつまらなそうな顔になった。

「ハッ、良く出来た息子だ」
「だろう?、優秀な者ばかりなんだ」

副音声はお前のところと違って。ですね。

「そういえば、お前こそ新しい友人が増えたようだね」
「……何の事ですか」
「国内では中々友人が出来なかったから、母君が心配して新しいお友達を見つけてくれたのかな。もう40近い息子に対して過保護過ぎると思うけどね」
「……母上を馬鹿にするな」

団長が足りないと言っていた意味がよく分かるな。欲深く、自己顕示欲が強く、自制も効かない。
そんな公爵を楽しそうに眺めてから、彼の耳元に顔を寄せる。

「もうすぐ、誰もが君達を大馬鹿者だと認めるだろう。楽しみだ」

そう囁くと、ニッコリと優しく微笑んでから肩を軽く叩いて離れた。

うーん、これはどっちが悪役なのか。

公爵は器用にも顔を赤く、そして青くした。血圧が心配だな。一瞬怒りが、その後にようやく意味をさとったのだろう。

陛下はそれ以上は何も言わず、側を離れる。

「どうしてかな。どんどん馬鹿になっていくよね」
「父上の存在がそうさせているのですよ」
「ふーん、可哀想だね」

本当にそう思っているのか?でも、母は違えどたった二人の兄弟なのに。憎み憎まれる関係なのは確かに可哀想なことだ。そして、息子にここまで言われてしまうことも。

「ああ、お前は彼とも話しておいた方がいい」

もう先程の遣り取りを忘れたかの様に、次に挨拶する人物を教えていく。

「……分かりました」

王太子殿下は本当は陛下を傷付けたかったのかもしれない。そして、父親の本当の感情を知りたかったのでは?
そんな、賢いくせに甘え方を知らない所が、実は父親似なのではないかと、失礼なことを思った。

そうして、王太子殿下と共に各国の王族や大使と言葉を交わしていく。

ふと、視線を感じてそちらを見る。

セレスティーヌ?

セレスティーヌが、ジッとこちらを見ている。
でも、その視線の先は………陛下だ。

ずっと、陛下を見つめている。

心臓がバクバクする。なんで、どうして……





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