ご愛妾様は今日も無口。

ましろ

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23.建国記念式典

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建国記念日当日。空は快晴、今日という日を祝っているかのようだ。

豪奢な衣装を身に纏った貴族達が溢れかえる。

外にも式典の挨拶で出てくる予定の陛下達を待つ人々の群れが出来ている。

こんなに愛されているんだよな。

ほんの少し国民への言葉があるだけ。その為だけに皆徒歩でここまで集まり、今か今かと待ち侘びている。
こんな眼差しを見ても、あの方は何も感じられないのだろうか。

……って、違う!俺は護衛だろうが。な~にをポエマーみたいに気持ち悪い考えを!陛下ファン倶楽部の一員かっつーのっ!!

いかんいかん、すっかり情緒不安定。キモッ。

しっかり護衛の仕事をしろよ、俺。これで何かあったらクビだよ、セレスティーヌを守れないだろう!

パンッ!と両手で頬を叩き気合いをいれる。ヨシっ!

「一人反省会は終わったか?」
「!!……何のことでしょうか……」

見られてた。そして見破られてる?!
今の俺、気持ち悪かったよね……

「お前を私の担当にした団長を裁かれたくなければ集中しろ」
「はい!申し訳ありません!」

国民の前でのスピーチ。屋外な上、民衆の歓声などで危機察知がどうしても遅れてしまう。いつも以上に集中しないと絶対に守れない。

「アンヌ、香水を変えたのか」
「あら、よく分かったわね。新作なのですって。甘過ぎなくて気に入っているのよ」

まるで本当に仲良し夫婦な会話だよな。

「どこのだ?」
「リベラ商会のはずよ。…なに。セレスティーヌには似合わないわよ。あの子はそれこそもう少し甘めの香りの方が良いのじゃなくて?」
「そうかい?まぁ、もう少し軽めの香りの方が合っているかな」

そうだな、香水!って感じのものより、もう少し仄かに香る程度の方が好み………違う。なんか香りを気にするって変態っぽいよね。
でも流石だよな。女性の些細な変化に気が付く男ですか。
王太子殿下が若干不機嫌になったわ。セレスティーヌの名前を出したのは王妃様……でも、そのまま会話を続けたのは陛下だね。ハハッ……


それでも、民衆の前にたった皆様は仲睦まじい家族を演じ、無事にスピーチも終わった。
狙撃とかも心配だったけれど、問題なく。

この後はそれぞれ部屋に戻ってパーティー用の衣装への着替えだろ。軽食が届くはずだからそちらのチェックも。後は──

渡り廊下を歩きながら次の行程を確認しながら歩いていると、ブンッと音が聞こえた。

虫?

突然何処からか虫が襲って来た。それも複数っ!

「きゃあっ!!」
「お下がりください!」

何故か王妃様の方に集まってしまうっ!

「痛っ」

王妃様の護衛も苦戦している。不規則な動きで飛び回る虫を剣で切るわけにもいかない。

「攻撃するな。騒がず静かに姿勢を低くしろ」

陛下が王妃様をマントで頭から包んで庇う。

「陛下、これを使います。建物まで走れますか」
「分かった、任せる」

危険を報せる発煙筒に火をつけて放る。
発生した煙に虫の動きが変わった。

「今です!」

煙を警戒し、虫が少し離れた隙に急いで建物まで走る。

「陛下、ご無事ですか?!」
「大丈夫だ。アンヌは刺されてないか」
「……はい、ありがとうございます……」
「医師を呼んで下さい。あと、団長に連絡を。刺された者は?」

王妃様の護衛と侍従2名が手を上げる。

「傷口を大至急水で洗ってっ!」

刺客を警戒していたけど、まさか虫に襲われるだなんて。それも何故王妃様にばかり向かっていったんだ?
あ……もしかして。

「香水?」
「えっ?!」
「随分と確実性の無い攻撃だな」

確かに必ず襲われるかどうかなんて難しいとは思うけれど。

「……ごめんなさい、私」
「いや、まだ分からないし、君は悪くない」

すっかり青褪めた王妃様を陛下が慰める。しまった。失言だった。

「ここに留まるのは危険です。移動は出来そうですか」
「問題無い。アンヌ、手を」

不安だろうに、泣き言を言わず自力で歩いて貰えるのは助かる。



怪我の無かった王妃様は急いで自室に戻られた。
大至急湯浴みをし、香水を落とす必要があるから。まだ、決まった訳ではないがそれがベストだろう。

「陛下も治療を受けてください」
「おや、目敏いね」
「刺された人は傷口を洗うように言いましたよね?!護衛対象が勝手に動くの止めてくださいよ!」

分かっている。王妃様を守る為に動いたのだし、不安にさせない様に隠していたことは。

「陛下に何かあれば、その方が王妃様が悲しまれます」
「大丈夫。私の護衛は口が固いはずだから」

いや、バレますって。本当に困った方だ。

すぐに医師と団長が来た。
傷口としては針が刺さっただけだ。腫れはするが上手く隠せるだろう。

「息苦しくは無いですか。口内に異常は」

医師が問診を繰り返す。毒性のある虫だったようだ。下手をするとショック症状が出るらしい。

「刺された部位に少し痒みがある程度だ」
「……本当によかったです。出来れば今日一日お休みいただきたいのですが」
「それは無理だな。大丈夫だ、この程度」

いや、アンタ3ヶ所も刺されてたよ?!

「たかが虫と侮らないで下さい。症状が後から出る事もあるのですよ?」

さすがに医師も怒っている。

「妻を守るのは夫の役目なのだろう?そうだよな、トリスタン」

それを聞いた医師が俺を睨む。確かに言ったさ、でも、俺とアンタだと立場が違うだろ!

「先生、申し訳ありませんが、パーティー中は控室で待機していただけますか」

団長がさっさと折れた。流石に陛下が欠席するわけにもいかないもんなぁ。

「……かしこまりました。準備致します」





「陛下、無茶な行動をされては困ります」

団長も怒っているようだ。

「悪かったよ」

信用出来ない謝罪だ。もっと叱ってやってくれ。

「王妃様付の護衛は交代させます。トリスタンはそのままいけるな?」
「はい、問題ありません」
「それから、王妃様と愛妾様の護衛を増やします」
「いや、増やすのはアンヌだけでいい。セレスティーヌには私の手の者を付けているから」
「承知しました。調査はいかが致しましょう」

相手は人間じゃなくて虫だからな。誰がどの様に運んだのか。香水の配合内容の確認と入手方法も。

「騒ぎを大きくしたくない。アンヌの香水の確保と、渡り廊下に先程の虫の死骸があると思うからそれを回収して。
今はそれだけでいい。警備体勢を崩さないでくれ」
「はい、至急そのように致します」
「まぁ、これは警告かな。本気で殺せるとは思っていないだろう」
「ですが、これで終わりだとは限りません」
「分かっている。次は勝手に動かないよ」

今までは警護しやすい方だと思っていたのに、まさか王妃様を庇うために無茶をするとは思わなかった。

「では、行こうか。予定が大幅に狂ってしまった」

本当に気を引き締めないと。
まだ、今日という日は終わらない。




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