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22.密約
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少しの間同席したが、家族の団欒を邪魔したくないからと、途中で抜けさせてもらった。
俺がいると本音で話せないかもしれないし。
……いや、言い訳だ。ただ俺が居づらかっただけ。逃げ出した自分が情けなかった。
「随分早い戻りだな」
「……陛下こそ会いに行かなくてよかったんですか?」
「お前は私のスケジュールを知らないのかい?」
知ってるよ、もちろん。
昼食会とその後はよりにもよってプレヴァン国王との会談だ。その後も予定は分刻み。セレスティーヌやご家族に会う暇なんてない。
「それに、どうせセレスティーヌは笑わない」
決まりきっていると言わんばかりの台詞。
「……どうしてですか。陛下の優しさに絆されてるかもしれませんよ」
「お前じゃあるまいし。セレスティーヌは憎みこそすれ、絆されるはずも無い」
俺じゃあるまいしってどういうことだよ!
「だってお前は私のことが結構好きだろう?」
心を読んだみたいに言わないで。だってって何。言ってみたいわ、そんな台詞っ!!
「もちろんお慕いしておりますよ、国王陛下。貴方様のお優しさには、ただただ敬服するばかりです」
これは本当。だって俺には出来なかったんだ。今回は権力のゴリ押しじゃなかったのに。
俺はセレスティーヌしか見てなかった。彼女が大切にしている家族への心配りなんて考えもしなかった大間抜けなんだ。
陛下は高価な贈り物をしたわけじゃない。贈ったものはちょっとしたお菓子や装飾品、玩具。陛下が用意するくらいだから質はいいだろうけど、そうじゃない。その贈り物には相手を思いやる心があった。
「陛下は格好良過ぎて狡いです」
「………そういうことを恥ずかしげも無く言えるお前は大物なのか、大層な馬鹿なのか。
まぁいい。お前が落ち込む必要など無い。どうせセレスティーヌは外堀を埋められたと怒っているだろうからな」
「そんなことは無いかと」
「では笑ったか?」
だからどうしてそこでアンタが笑うんだ。
善意を否定されると信じてる。確信してる。
「セレスティーヌの気持ちは分かりません。でも、エル達は喜んでいたし、俺も悔しいけど陛下は凄いって思いました」
「さすがにお前がお人好し過ぎて心配になるよ」
この話はそこで終わり。陛下はいつもの優秀な国王陛下に戻られた。俺も護衛としての任務に戻る。
その後の昼食会は無事に終わり、プレヴァン国王陛下との会談の準備に入る。
プレヴァン国王は御年63歳。かなりの高齢だ。
彼が王位を譲らないのには理由がある。後継者問題だ。
本来、継ぐはずであった第一王子が原因不明の病に倒れ、長患いの末亡くなったのが10年ほど前。当時は毒なども疑われていたが、結局は判明しないままだったと聞く。そして、第一王女の事故死。そちらも事故か他殺かと疑われたが、これも証拠は出ず。そして信じられないことにまだ幼かった第四王子が王宮の池で溺死。助けに入った侍女も共に亡くなった。
残った王族は第二王子と第三王子。そして第二王女。第二王子は側妃、第三王子と王女は正妃の子だ。それぞれの派閥争いが続いていると聞く。
王族怖い。王位ってそんなに魅力的なの?兄弟で殺し合うほどに?
あー、陛下も毒殺されそうだったんだっけ。
それっていつ頃の話なのだろう。あなたは何歳の頃に殺されそうになりましたか?なんて、怖くて聞けない。
「そろそろ後継者は決まりましたか?」
「フッ、アロイス王は相変わらず生意気だな。其方程優秀な後継者が欲しかったわ」
「そうですね。王子二人は一長一短ですから」
「言ってくれるのう。…………其方ならばどちらを選ぶ?」
やだー、王様二人の会話って不穏!自分の後継者を他国の王に聞かないで!
「私なら第二王女を選びます」
「はっ!女が王だと?」
「貴方だってそれを望んでいる。だから私に聞いたのでしょう。違いますか?」
そこで会話が途切れる。女性が王位を継ぐ国は少ない。反発があるのは必至だろう。
「……そうなった時、其方は」
「そうですね。女王になられた暁には、友好国として協定を結びましょう」
「私とは結ばなかったのに?」
「貴方には必要なかったので」
「本当に可愛くない男だわ。だが………感謝する。私ももう若くない。いつまでもアレを守ることは出来ん」
「おや、レネ王の泣き言が聞けるとは思いませんでした。ですが、残念ながら私ももう若くありませんよ。早く王配を見つけて下さい。手頃なのがいるではありませんか」
陛下の言った人物に思い至ったのだろう。なんとなく不機嫌な顔になる。しかし、お二人がこんなに気安く会話される仲だとは知らなかった。
「まぁ、詫びが含まれていると思って下さい」
「………では?」
「そろそろ狐狩りでもいかがですか?」
「ふん、あまり毛艶が良くなさそうだが」
「そうですね、でも王女へのプレゼントになされば宜しいかと。きっと喜ばれますよ」
狐。それは裏切り者や奸計が得意なモノの比喩。
この場合の狐とは誰だ?
「さて、どちらかな」
「狐同士仲睦まじいようですね」
狐同士。ということは一人ではなく2人以上の複数人。
お詫びということはこの国が関わっているということ。
それは──
「……なぜ今なんだ。もしかして其方はもっと前から」
「買い被りですよ」
「……そうか。そうだな……」
まるで言葉遊びのように繰り広げられた会話も終わる。その後は当たり障りのない話に変わった。
そうして、会談は終了した。
不穏な空気を残したまま。
プレヴァン国王の言葉が頭から離れない。
『なぜ、今』
それは、陛下が複数のことを同時になさろうとしているから?
あの方の政治的考えはきっと正しいのだろう。
それなのに……どうしてこんなに不安になるんだ?
俺がいると本音で話せないかもしれないし。
……いや、言い訳だ。ただ俺が居づらかっただけ。逃げ出した自分が情けなかった。
「随分早い戻りだな」
「……陛下こそ会いに行かなくてよかったんですか?」
「お前は私のスケジュールを知らないのかい?」
知ってるよ、もちろん。
昼食会とその後はよりにもよってプレヴァン国王との会談だ。その後も予定は分刻み。セレスティーヌやご家族に会う暇なんてない。
「それに、どうせセレスティーヌは笑わない」
決まりきっていると言わんばかりの台詞。
「……どうしてですか。陛下の優しさに絆されてるかもしれませんよ」
「お前じゃあるまいし。セレスティーヌは憎みこそすれ、絆されるはずも無い」
俺じゃあるまいしってどういうことだよ!
「だってお前は私のことが結構好きだろう?」
心を読んだみたいに言わないで。だってって何。言ってみたいわ、そんな台詞っ!!
「もちろんお慕いしておりますよ、国王陛下。貴方様のお優しさには、ただただ敬服するばかりです」
これは本当。だって俺には出来なかったんだ。今回は権力のゴリ押しじゃなかったのに。
俺はセレスティーヌしか見てなかった。彼女が大切にしている家族への心配りなんて考えもしなかった大間抜けなんだ。
陛下は高価な贈り物をしたわけじゃない。贈ったものはちょっとしたお菓子や装飾品、玩具。陛下が用意するくらいだから質はいいだろうけど、そうじゃない。その贈り物には相手を思いやる心があった。
「陛下は格好良過ぎて狡いです」
「………そういうことを恥ずかしげも無く言えるお前は大物なのか、大層な馬鹿なのか。
まぁいい。お前が落ち込む必要など無い。どうせセレスティーヌは外堀を埋められたと怒っているだろうからな」
「そんなことは無いかと」
「では笑ったか?」
だからどうしてそこでアンタが笑うんだ。
善意を否定されると信じてる。確信してる。
「セレスティーヌの気持ちは分かりません。でも、エル達は喜んでいたし、俺も悔しいけど陛下は凄いって思いました」
「さすがにお前がお人好し過ぎて心配になるよ」
この話はそこで終わり。陛下はいつもの優秀な国王陛下に戻られた。俺も護衛としての任務に戻る。
その後の昼食会は無事に終わり、プレヴァン国王陛下との会談の準備に入る。
プレヴァン国王は御年63歳。かなりの高齢だ。
彼が王位を譲らないのには理由がある。後継者問題だ。
本来、継ぐはずであった第一王子が原因不明の病に倒れ、長患いの末亡くなったのが10年ほど前。当時は毒なども疑われていたが、結局は判明しないままだったと聞く。そして、第一王女の事故死。そちらも事故か他殺かと疑われたが、これも証拠は出ず。そして信じられないことにまだ幼かった第四王子が王宮の池で溺死。助けに入った侍女も共に亡くなった。
残った王族は第二王子と第三王子。そして第二王女。第二王子は側妃、第三王子と王女は正妃の子だ。それぞれの派閥争いが続いていると聞く。
王族怖い。王位ってそんなに魅力的なの?兄弟で殺し合うほどに?
あー、陛下も毒殺されそうだったんだっけ。
それっていつ頃の話なのだろう。あなたは何歳の頃に殺されそうになりましたか?なんて、怖くて聞けない。
「そろそろ後継者は決まりましたか?」
「フッ、アロイス王は相変わらず生意気だな。其方程優秀な後継者が欲しかったわ」
「そうですね。王子二人は一長一短ですから」
「言ってくれるのう。…………其方ならばどちらを選ぶ?」
やだー、王様二人の会話って不穏!自分の後継者を他国の王に聞かないで!
「私なら第二王女を選びます」
「はっ!女が王だと?」
「貴方だってそれを望んでいる。だから私に聞いたのでしょう。違いますか?」
そこで会話が途切れる。女性が王位を継ぐ国は少ない。反発があるのは必至だろう。
「……そうなった時、其方は」
「そうですね。女王になられた暁には、友好国として協定を結びましょう」
「私とは結ばなかったのに?」
「貴方には必要なかったので」
「本当に可愛くない男だわ。だが………感謝する。私ももう若くない。いつまでもアレを守ることは出来ん」
「おや、レネ王の泣き言が聞けるとは思いませんでした。ですが、残念ながら私ももう若くありませんよ。早く王配を見つけて下さい。手頃なのがいるではありませんか」
陛下の言った人物に思い至ったのだろう。なんとなく不機嫌な顔になる。しかし、お二人がこんなに気安く会話される仲だとは知らなかった。
「まぁ、詫びが含まれていると思って下さい」
「………では?」
「そろそろ狐狩りでもいかがですか?」
「ふん、あまり毛艶が良くなさそうだが」
「そうですね、でも王女へのプレゼントになされば宜しいかと。きっと喜ばれますよ」
狐。それは裏切り者や奸計が得意なモノの比喩。
この場合の狐とは誰だ?
「さて、どちらかな」
「狐同士仲睦まじいようですね」
狐同士。ということは一人ではなく2人以上の複数人。
お詫びということはこの国が関わっているということ。
それは──
「……なぜ今なんだ。もしかして其方はもっと前から」
「買い被りですよ」
「……そうか。そうだな……」
まるで言葉遊びのように繰り広げられた会話も終わる。その後は当たり障りのない話に変わった。
そうして、会談は終了した。
不穏な空気を残したまま。
プレヴァン国王の言葉が頭から離れない。
『なぜ、今』
それは、陛下が複数のことを同時になさろうとしているから?
あの方の政治的考えはきっと正しいのだろう。
それなのに……どうしてこんなに不安になるんだ?
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