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40.再構築とは
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わたしは家族が大好き。
ずっと皆で仲良く、そう思っていた。
あの時までは。
「……お父様が愛妾を迎える事になりました」
お母様がとても辛そうな顔で信じられない事を口にした。
愛妾って、どうして?
だって、お父様とお母様はとても仲が良かったじゃない。それなのにどうして?あの、賢王と称えられているお父様が……もしかして、物語みたいに悪い女性に魅了の魔法を掛けられてしまったの?
そんな、ありえないことを考えてしまうくらいに信じられなかった。
あれから、ビニシオ兄様はお父様を倒すと息巻いていた。……家族なのに。
大好きだったお父様とはまったく会えなくなってしまった。
お食事の場に現れなくなった。
お部屋にも来て下さらない。
もう、私達のことが嫌いになってしまったの?
「は?どうして陛下に会いたいんだよ」
「……どうして陛下って呼ぶの?」
「愛妾なんか作って母上を苦しめてる。もう、僕達の父上じゃなくなったからだよ」
本当に?もう、お父様と呼んではいけないの?
皆が怒っている。私は……寂しかった。
「国王陛下がお倒れになった」
ビニシオ兄様が言った。
「どういうこと?病気?」
「……毒だ」
毒……それは、死ぬかもしれないということ?
「悪いことするから罰が当たったんだ!」
「おい、落ち着け」
弟のジョスランが泣きそうな顔で言った。
誰かを愛するということは、罰が当たるものなの?そんなにも恐ろしいこと?
それから何日もたった。お父様はずっと眠っているらしい。
このまま目覚めなかったらどうしよう。
どうして私から会いに行かなかったの?もっとちゃんとお話をすればよかった!
だって全部誰かから聞いたお話なの。私はお父様から何も聞けていない。どれが、何が本当なのか分からないまま失うなんて嫌だっ!
お父様はもう何も見えなくなってしまったのだって。まだ体調がすぐれないらしく、なかなか会わせてもらえない。
お祖父様の2番目の奥様が捕まった。国王を暗殺しようとした罪で毒杯を賜ったらしい。
それを嬉しそうに話す人達がいた。
死を喜ばれるって……怖いわ。
「陛下も退位されるのでしょう?」
「王妃様も様を見ろと思っていらっしゃるのでは?」
「そうよね、あんなに素敵な奥様がいるのに裏切ったのですもの」
「罰が当たったのよ」
クスクス、クスクス
噂話は恐ろしい。ほんの少し前までは立派な国王だと言っていたのに、力を失った途端、悪意に満ちた言葉が紡がれる。
今まで何十年もかけて築き上げたものが、一つの過ちで崩れ落ちて行く。
「お前達、顔は覚えたから」
「王女様っ?!」
何か言っているけど無視。もう、この状況が嫌で仕方がない。
「お父様に会わせて」
「王妃様に確認致します」
「合わせてくれるまで食事は要らないわ。私を痩せ衰えさせたくなければ急ぐ様に言って」
「えっ!」
返事は待たずにドアを閉める。
どうして私は蚊帳の外なの。子供だから?私だって家族なのに!
「ナディア、どうしたの?食事をしていないと聞いたわ」
「違うわ。お父様に会わせてくれるまで食べないと言ったのよ。何時になったら会わせてくださるの?」
「お父様はまだ体調が」
「お母様が毎日会いに行っているのを知ってますけど」
驚いたお母様が頬を染める。
何故そこで照れるの?おかしいでしょう。
「あの、ね?色々あったけれど、お父様ともう一度やり直したいと思っているの」
ああ、そういう照れですか。
でも、やり直すって?
「お父様は退位されるのですよね。では、お母様も療養に付き添われるのですか?」
それはお二人には必要な時間かもしれないけれど、あまりに突然過ぎて寂しいわ。
「いえ、流石にビニシオ達だけに国を任せるのは心配でしょう?だから、しばらくは別行動かしら」
「はい?」
「だってビニシオはまだしも、ミレイアは王太子妃教育は終わったけれど、王妃教育は途中でしょう?こちらの都合で急ぐことになってしまうから、色々サポートしないと」
お母様の言っている意味は分かる。そうしていただかないと国としては困るのだろう。でも、じゃあお父様は?
「……どれくらいの期間を想定しているのですか?」
1ヶ月……いえ、半年?でも、目が見えなくなったばかりのお父様は生活すら大変でしょうし……
「一応、5年のつもりで考えているわ」
「はい?」
え…、今、5年って言った?その間、お父様は?使用人はいるでしょうけど、そういう問題では無いわよね?さっき、やり直すって言わなかったかしら。まさか、5年も放置してからやり直すの?本気で?!
「え、馬鹿ですか?」
「ナディア、母親に向かって」
いやいやいや、だって本当の事よっ!
「そんなに期間を開けたら、5年もの間甲斐甲斐しく世話をしてくれた使用人Aと恋に落ちてしまっても文句は言えませんよ?」
そういう心配はないのだろうか。既に一度愛妾を持っているのに。それともこの短期間にお母様とも燃え上がる恋に落ちたの?でもそれならやり直したいとは言わないわよね。これから関係を築くおつもりなのよね?
「えっ?!」
あら?本当に考えていなかったみたい。
「お母様はご自分の性格をご存知ですか?猪突猛進です。ブレーキが足りないと時々お父様に窘められていたではありませんか。でも、そのブレーキのお父様がいないのですよ?5年しかない!と、お父様の御見舞になんてまったく行かず、お仕事に邁進するお母様という未来しか見えないのですが?」
お母様の行動力とバイタリティは素晴らしい。夢に向かって突き進む姿は格好良いと思っているわ。自慢のお母様だもの。
でもね、緊急ブレーキの無い列車はとっても危険だとも思うのよ。
「そもそもお父様は何と言っていたのですか?」
「あの人は……そんなのは駄目だと……趣味が悪い、信じられないと……」
「私もそう思います。だって、お母様が何をやりたいのか理解不能ですから」
え、私の理解力が足りないの?
ずっと皆で仲良く、そう思っていた。
あの時までは。
「……お父様が愛妾を迎える事になりました」
お母様がとても辛そうな顔で信じられない事を口にした。
愛妾って、どうして?
だって、お父様とお母様はとても仲が良かったじゃない。それなのにどうして?あの、賢王と称えられているお父様が……もしかして、物語みたいに悪い女性に魅了の魔法を掛けられてしまったの?
そんな、ありえないことを考えてしまうくらいに信じられなかった。
あれから、ビニシオ兄様はお父様を倒すと息巻いていた。……家族なのに。
大好きだったお父様とはまったく会えなくなってしまった。
お食事の場に現れなくなった。
お部屋にも来て下さらない。
もう、私達のことが嫌いになってしまったの?
「は?どうして陛下に会いたいんだよ」
「……どうして陛下って呼ぶの?」
「愛妾なんか作って母上を苦しめてる。もう、僕達の父上じゃなくなったからだよ」
本当に?もう、お父様と呼んではいけないの?
皆が怒っている。私は……寂しかった。
「国王陛下がお倒れになった」
ビニシオ兄様が言った。
「どういうこと?病気?」
「……毒だ」
毒……それは、死ぬかもしれないということ?
「悪いことするから罰が当たったんだ!」
「おい、落ち着け」
弟のジョスランが泣きそうな顔で言った。
誰かを愛するということは、罰が当たるものなの?そんなにも恐ろしいこと?
それから何日もたった。お父様はずっと眠っているらしい。
このまま目覚めなかったらどうしよう。
どうして私から会いに行かなかったの?もっとちゃんとお話をすればよかった!
だって全部誰かから聞いたお話なの。私はお父様から何も聞けていない。どれが、何が本当なのか分からないまま失うなんて嫌だっ!
お父様はもう何も見えなくなってしまったのだって。まだ体調がすぐれないらしく、なかなか会わせてもらえない。
お祖父様の2番目の奥様が捕まった。国王を暗殺しようとした罪で毒杯を賜ったらしい。
それを嬉しそうに話す人達がいた。
死を喜ばれるって……怖いわ。
「陛下も退位されるのでしょう?」
「王妃様も様を見ろと思っていらっしゃるのでは?」
「そうよね、あんなに素敵な奥様がいるのに裏切ったのですもの」
「罰が当たったのよ」
クスクス、クスクス
噂話は恐ろしい。ほんの少し前までは立派な国王だと言っていたのに、力を失った途端、悪意に満ちた言葉が紡がれる。
今まで何十年もかけて築き上げたものが、一つの過ちで崩れ落ちて行く。
「お前達、顔は覚えたから」
「王女様っ?!」
何か言っているけど無視。もう、この状況が嫌で仕方がない。
「お父様に会わせて」
「王妃様に確認致します」
「合わせてくれるまで食事は要らないわ。私を痩せ衰えさせたくなければ急ぐ様に言って」
「えっ!」
返事は待たずにドアを閉める。
どうして私は蚊帳の外なの。子供だから?私だって家族なのに!
「ナディア、どうしたの?食事をしていないと聞いたわ」
「違うわ。お父様に会わせてくれるまで食べないと言ったのよ。何時になったら会わせてくださるの?」
「お父様はまだ体調が」
「お母様が毎日会いに行っているのを知ってますけど」
驚いたお母様が頬を染める。
何故そこで照れるの?おかしいでしょう。
「あの、ね?色々あったけれど、お父様ともう一度やり直したいと思っているの」
ああ、そういう照れですか。
でも、やり直すって?
「お父様は退位されるのですよね。では、お母様も療養に付き添われるのですか?」
それはお二人には必要な時間かもしれないけれど、あまりに突然過ぎて寂しいわ。
「いえ、流石にビニシオ達だけに国を任せるのは心配でしょう?だから、しばらくは別行動かしら」
「はい?」
「だってビニシオはまだしも、ミレイアは王太子妃教育は終わったけれど、王妃教育は途中でしょう?こちらの都合で急ぐことになってしまうから、色々サポートしないと」
お母様の言っている意味は分かる。そうしていただかないと国としては困るのだろう。でも、じゃあお父様は?
「……どれくらいの期間を想定しているのですか?」
1ヶ月……いえ、半年?でも、目が見えなくなったばかりのお父様は生活すら大変でしょうし……
「一応、5年のつもりで考えているわ」
「はい?」
え…、今、5年って言った?その間、お父様は?使用人はいるでしょうけど、そういう問題では無いわよね?さっき、やり直すって言わなかったかしら。まさか、5年も放置してからやり直すの?本気で?!
「え、馬鹿ですか?」
「ナディア、母親に向かって」
いやいやいや、だって本当の事よっ!
「そんなに期間を開けたら、5年もの間甲斐甲斐しく世話をしてくれた使用人Aと恋に落ちてしまっても文句は言えませんよ?」
そういう心配はないのだろうか。既に一度愛妾を持っているのに。それともこの短期間にお母様とも燃え上がる恋に落ちたの?でもそれならやり直したいとは言わないわよね。これから関係を築くおつもりなのよね?
「えっ?!」
あら?本当に考えていなかったみたい。
「お母様はご自分の性格をご存知ですか?猪突猛進です。ブレーキが足りないと時々お父様に窘められていたではありませんか。でも、そのブレーキのお父様がいないのですよ?5年しかない!と、お父様の御見舞になんてまったく行かず、お仕事に邁進するお母様という未来しか見えないのですが?」
お母様の行動力とバイタリティは素晴らしい。夢に向かって突き進む姿は格好良いと思っているわ。自慢のお母様だもの。
でもね、緊急ブレーキの無い列車はとっても危険だとも思うのよ。
「そもそもお父様は何と言っていたのですか?」
「あの人は……そんなのは駄目だと……趣味が悪い、信じられないと……」
「私もそう思います。だって、お母様が何をやりたいのか理解不能ですから」
え、私の理解力が足りないの?
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