ご愛妾様は今日も無口。

ましろ

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39.それは誰の幸せか(トップに注意事項有り)

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注意!読む人を選びます。王妃様が大好きで、幸せ気分のまま終わりたい方はこちらのお話しは飛ばしてください。
何でもどんとこい!な強者だけ先にお進みくださいませ。
注意はしましたので、こちらのお話の苦情は受け付けません。
それでもよろしければ、お楽しみいただけると幸いです。



✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻




初めてアロイスに会ったとき驚いた。
こんなにも平民である自分を気にしない貴族は初めてだったから。いや、貴族ではない。まさかの王族なのに。

特待生として学園に入った俺を、誰も対等には見なかった。
平民に成績を抜かれることがプライドを傷付けたせいもあるのだろう。更に俺は身長も高く、運動神経もよかった。座学だけでなく、剣術でも上位だったのだ。
分かりやすく平民のくせに、と馬鹿にする者。平民なのに凄いね、と褒めているようで貶してくる者。自分は君が平民だからと気にはしない、と、さも自分が素晴らしい人間だとアピールする為の材料にしようとする者。そんな俺に巻き込まれたくないと、同じ平民すら遠巻きにする。

「くだらない」

そう一言で終わらせるから、揉め事は頻繁に起きていた。まあ、その程度のことを躱す手ぐらい持っていたけれど。
情報は武器だ。こんなガキばかりの学園では簡単に情報くらい手に入れられる。それらを使って小煩い蠅退治をしながら学園生活を送っていた。




「君は凄いね。その情報収集能力と度胸、それを利用する手腕。どこで身につけたの?」

……誰だこの王子顔は。キラッキラの髪に小奇麗な顔。気を付けないと攫われそうだな。

「誰」
「アロイスという。友達になってくれると嬉しいのだけど」

そんな挨拶と共に嬉しそうに手を出してきた。

「必要ない」
「えー」

バッサリ断ってもへらへら笑っている。
それでも何やかんやと勝手に話しかけてくるのを適当に流していると、慌てて走ってくる男がいた。

「アロイス!勝手に動き回るな!」
「ブルーノは早いね。まだ口説き落とせてないのに」

口説く。俺のことか?

「その男は平民です」
「だから?凄く優秀な男だ」
「絶対に怒られるやつですよ」
「血で何が出来るんだ。馬鹿らしい」

どうやら何処かのおぼっちゃまの様だ。
ん?金髪碧眼のアロイス……

「まさか王太子殿下?」
「ブルーノのせいでバレたじゃないか」
「いや、自国の王子の顔くらい知っておけよ」
「はいはい、とりあえず目立つから話しかけるな」

こんな派手な奴らと関わりたくはない。
でも、血で何が出来るんだ、と王族が言うのか。
それだけが少し心に響いた。



それで終わると思っていたのに、気が付けば俺は奴の友人枠に収まっていた。解せん。

「お前が無駄に面倒見がいいせいだろう」
「いや、だってアイツは可笑しいだろう。放っておくと何処かで死んでいそうだ」
「あの卒の無いアロイスにそんなことを言うのはお前くらいだぞ」

そうか?だってアイツはいつだって壁を作っている。笑顔という壁で自分を守ってるじゃないか。
誰にも壁が壊せないなら、それは孤独と変わらない。

「どうして何時も笑って全てを拒むんだ」

ある日、二人きりになったタイミングで聞いてしまった。

「……凄いね。誰にも言われた事なんて無かったのに」
「あ?節穴かよ」

誰も知らないものに気付けた。それは少しの優越感と、真実を知らされて、より一層アロイスを守りたいという感情が生まれた瞬間だった。

「私は感情が分からないんだ。どういうものかは分かる。でも、自分の中には無いし、本当の意味で共感は出来ない。だから、経験則で対応している。要するにいつでも演技している嘘吐きなんだ」
「そうか、分かった」
「……それだけ?」
「あ?他に何を言えと」
「え、気持ち悪いとか狡いとか」
「……誰に言われた」
「いや、それは問題じゃなくて」
「婚約者か」
「違うよ」
「弟か」
「怒ったら駄目だよ。子供だったんだから」

観念したのかアッサリと認めた。

「馬鹿な糞ガキなだけだな。それを言ったらそいつだってお前の感じている事を理解出来ないんだ。お互い様だろうよ」
「………ブラスは凄いね」

そう言ったアロイスは感情が無いようには見えなかった。ただ、本当はあるけれど、何処かに隠れていて、出し方が分からないだけなのでは?
だけど、これは言う必要が無いだろう。確認する事が出来ないのだから。

「婚約者には伝えなくていいのか」
「どうしようか迷ったんだけど、どうやら愛はいらないみたいなんだ。凄く割り切っているというか。世継ぎの為なら側妃を娶るのは当然だって満面の笑みで答えてたからね」

ああ、貴族令嬢として正しく育ったタイプか。
凄いな、世継ぎの為なら夫が他の女に子を産ませることに嫌悪感を持たないものなのか。



結局、ブルーノですらアロイスのことに気が付きはしなかった。

学園を卒業し、俺はアロイスの直属の諜報部に入った。
確かに俺にピッタリの仕事だ。表に出ることが無いから、アロイスとも学生の頃と話し方も変わらない、それはとても働きやすく、やり甲斐のある仕事だった。
気になる事は色々あるけれど。

「なあ、お前達は本当に夫婦なのか?」
「結婚式を見ただろう」
「……まったく愛がないな」
「政略結婚にそこまで求めたら大変だよ。彼女は王妃としてとても頑張ってくれている。私との閨ごとだって拒否しない。あんなに立派な王妃はいないよ」

閨ごとね。
子の出来やすい日を選んで行われる、愛とは別の作業だよな。

さすが、日を選んでいる為か、子が出来るのは早かった。そして、生まれたのは望み通り王子だった。

順風満帆の人生に見える。

「なぁ、お前は幸せか?」
「酷いね、分からない私に聞くのかい?」

だって幸せに見えない。
どうして誰も気が付かないのだろう。
だんだん壊れていっているのに。
でも、きっと伝えても分かってもらえない。こいつの擬態はどんどん上達している。俺が今更言ったところで頭がおかしいか、なんなら不敬罪で処罰されることだろう。
このままでは──



「セレスティーヌと話がしたいんだ」

アロイスが恋に落ちた。なんて喜ばしいことだろう!
なんて長い、孤独な時間だったんだ。こいつが壊れる前に、哀れに思った神がくれた贈り物だとすら思った。

俺は焦り過ぎた。まさか、あんな事になるとは思わなかった!

そこからは皆が間違えた。

間違えて、間違えて。それでもやっと解放されると思ったのに。

「……は?」
「離婚はしないって。5年はビニシオを育てて、それから私とやり直すらしい。ちゃんと愛せって。それが罰だからって」

アロイスは呆然としている。だって、やっと……

「……どうやったら愛せるかな。そんな……出来るならとっくにやっているのに」

そう呟きながら顔を両手で覆ってしまう。

なんて馬鹿な女なんだ。お前の計画に、アロイスの気持ちは入らないのか。自分だけが幸せになりたいのか!

やっと。38年かけて、たった一つの恋心を手に入れて……自分で壊してしまって。
確かに俺達は死ぬ程馬鹿だったけれど、コイツにとっては一生に一度の思いだと、なぜ分からない?

確かに以前よりは感情を持ってるよ。だから?愛せと言われれば愛せるはずだと。夫婦ならばそれが可能だと今更言うのか。型にはめれば自ずとそうなると?

「凄いな、お前の王妃は。なんて前向きで、そして愚かなんだ」

アロイスの幸せを願ってくれと言うのは、そんなにも難しいことなのか。

「大丈夫、頑張らなきゃ、だってこれはアンヌからの罰だ、5年、5年あればきっと、セレスティーヌを忘れて、きっと……きっと………」
「アロイス、忘れるな。セレスティーヌを忘れるな!」
「でも、」
「人の心はそんなに簡単なものじゃない。お前のそれはお前だけのものだ。誰にも取り上げられやしない」

傲慢なる王妃よ。その愛される自信はどこから来るんだ?
セレスティーヌへの愛を見て、今更羨ましくなったのか。

「俺が側にいる。もし、どうしても耐えられないなら、俺が全部終わらせてやるから。だから今は休め」

罰だと言われたら、アロイスは実行しようと努力するだろう。だが、分かっているのか?努力でセレスティーヌに向けた様な愛が手に入るとは限らないと。
5年後か。それまでにあいつの心が癒やされるといい。
そして、王妃を愛せれば良し。もし無理なら……今度こそこいつを連れて逃げよう。国王で無くなれば方法はいくらでもある。

「何から準備するかな」

これは俺の得意分野だ。



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