ご愛妾様は今日も無口。

ましろ

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42.それでも大好き

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「お父様、大好きよ」

ごめんなさい。お父様が傷付けてしまったご令嬢様。例え犯罪を犯したとしても、私の大切なお父様なの。

「私も手伝うわ。そのご令嬢の為に何が出来るかは分からないけど、少しでも傷を癒やすお手伝いが出来るように頑張る。ね?」
「………どうして」

どうしてだなんて、なぜ分からないのかしら。それが、感情が分からないということ?

「お父様の心の声は、たぶんとっても小さいのね。でもちゃんとあると思うの。だって、今だってお父様ったら泣きそうだわ」

泣くなんて、心がある証拠でしょう?
もう、つられて私まで涙が出そう。

「……セレスティーヌに出会ってから、少しずつ分かる事が増えてきたんだ」
「そう。セレスティーヌ様というのね。綺麗な名前だわ。お父様の心を見つけてくれた恩人だわ。本当に見つかって良かった」
「全然良くない……あんな目に合わせて……それでも、手放せなくて…!ナディアのことだって悲しませてるっ!!」

こんなお父様を初めて見る。

「これは想像でしかないけれど」

何とかお父様の心に響かせたい。

「お父様は砂漠の旅人なの」

セレスティーヌ様みたいにはいかないと思うけど

「ずっとずっと一人で旅を続けてね?」

小さなお星様くらいでいいから

「やっとオアシスを見つけたの」

私のことに気付いてくれないかな

「喉がカラカラでやっとお水が飲める!そう思ったのに、そのオアシスは偽物だって言われちゃったの」

ねえ、見える?

「悲しかったよね」

見つけてよ

「苦しかったよね」

……お願い

「だから、セレスティーヌ様を傷付けちゃったのね」 

私はここにいるよ?

「それはね、絶対に駄目なことだけど、でもね、全部壊しちゃいたいくらい悲しかったのよね?」

………寂しいよ

「つらかったね」

………

「でもね、気付いて?私がいるよ。喉の渇きはね、癒せないかもしれないけどね?それでも、私が側にいるよ?
お母様だって兄様達だってジョスランだって!

………ねえ。私達じゃ、足りない?」

お父様がいないのは寂しい。皆がバラバラなのは悲しい。ねぇ、どうして?

「……寂しいよっ、どこにも行かないでっ!ずっと此処にいてよぉっ!!」

どうして、どうして離れていこうとするのっ!!

「ち、がう、違う!だって、私は犯罪者でっ!ナディアの父だなんて言えないっ」
「私のお父様よっ!国王でも犯罪者でも何でもいいのっ!!どんなだって私のお父様でしょうっ?!」

手探りで私に触れる。嫌よ、もっとちゃんと抱きしめてよ!
お父様の胸に飛び込む。こんな風に抱きしめられるのは何年振りだろう。

「……どうして?なぜ許せるんだ……」
「大好きだからよ、お父様」

それからは、お父様に抱き締められながら大泣きして、お父様まで泣いてしまって。
チラリと見えたブラスまで目に涙を浮かべていた。

誤魔化しても無駄だから!






「王女」
「……何よ」
「いい加減アロイスから離れろ」
「ヤダ」
「薬の時間だ。何か食べないと薬が飲めない」
「まだ悪いの?」

慌てて顔を上げると、ブラスに鼻で笑われた。

「ブッサイクな面だな」
「!!」

だから顔を上げたくなかったのにっ!

「ナディアは可愛いよ、ね?」

お父様は天然タラシだと思うの。こんなお顔を見ていたら、絶対にお婿さんは見つからない気がする。

「王女はじゃじゃ馬娘と気が合いそうだ」
「じゃじゃ馬?」
「ブラスはセレスティーヌのことをそう呼んでいるんだ」

あれ。か弱いご令嬢では?

「アイツは俺の脛をヒールで2度も蹴り飛ばしたじゃじゃ馬だ。ついでに殺害予告もされたぞ」

ん?変ね、イメージと違うわ。

「そうだね、仲良くなれそうだね。………ごめん、私のせいで無理だと思うけど」

んー、何か変。ジッとブラスを見る。

「何か隠しているでしょう」
「これを話すと殺される」

あ、殺害予告はこれ?

「会ってみたいわ。……無理かしら」
「離宮に行ってみるか?俺が連れて行ってやるよ」

どうしたの?凄く優しくて怖いわ。

「アロイスの礼だ」

ああ、ブレないわね。でも。

「お父様が嫌なら行かないわ」
「いや、彼女は私の娘だからと意地悪などしないし、嫌悪もしないよ。ブラス、任せていいかい?」

すごくドキドキする。本当に会いにいってもいいのかな。

「連絡は入れておく。明日でもいいか?」

そんなに早くていいの?

「ええ、大丈夫よ。お願いね」

お父様達と分かれて部屋に戻る。
何だか疲れた。




「姉上、泣いたのか」
「ジョスラン」

人の部屋の前で何をしているの?

「どうして陛下になんか会いに行くんだよ」
「会いたかったからよ。当たり前でしょう?」
「……俺達を裏切った奴なのに!」
「どうして直接話していないのに分かるの?ジョスランは何時から魔法使いになったのかしら」
「でも!」
「私ね、家族が大好きなの」

弟にこんな話をするのは少し恥ずかしいけれど。

「お父様もお母様もお兄様達も、もちろん貴方も。だから頑張ってみんなで幸せになりたいのよ」

駄目だわ。2戦目は無理。眠い疲れた。

「だから明日も頑張ろー、おやすみ」
「えっ」

また明日話そうね





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