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43.悪女の嘆き
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少しずつ荷物を整理する。
ここでの生活は短いと思っていたけれど、案外と物が多い。
全部、あの人に貰ったものだ。
少し複雑な気分。私は、もしかして悪女なのでは?と思ったりもする。
優秀だった国王陛下を堕落させた女。
そんな陰口が聞こえてきて血の気が引いた。
堕落って何?私から望んだことなんて一つもないのに。愛妾だって本当になりたくなかったのよ。断らせてくれなかったじゃないっ!
これからの生活が怖い。
トリスタンに思いを告げてもいいの?
私と結婚したままだと護衛として不利にならない?
愛妾なんて何も得なんか無い。だって貧乏だったのも知られている。お金で売られたって知られている。
「大好きだなって思ったのに」
わんこみたいな瞳が優しくて。陛下に裏切られた!って怒りながらも、それでも自分の見てきた陛下の良い面を忘れないでいるお人好し。きっと陛下も嬉しかったはずよ。
こんな人なら、私の事も汚れた部分じゃなく、ほんの少し前の私を見てくれるかなって思えた。愛妾の私じゃなくて、ただのセレスティーヌを。
でも、周りは違う。私はもう、ただのセレスティーヌじゃない。国王の愛妾だったセレスティーヌなんだ。
「傷物だって大々的に発表したようなものよ」
駄目だわ。ひとり言ばかりだ。
コンコンコン
珍しい。誰だろう。
「相手を確認しないでドアを開けるな」
せっかく扉を開けたら文句を言われた。
「ブラス?どうしたの?」
この男とはもう会わないと思っていたのに。
「なんだ、暗いな。アロイスを振って、わんころとイチャついてると思っていたのに」
わんころ……トリスタンかな。わたしもわんこだと思っていたけど、この人と被るのはちょっとイヤだ。
「誰のせいよ」
つい八つ当たりをしてしまう。だって私が愛妾になった原因その1だ。
「何か困っているのか?」
「………私は悪女なのですって」
「確かにな。ヒールで蹴りを入れる極悪人だ」
あら。そんなこともあったかしら。
「本当は顔面か股間を狙いたかったの」
「そんなじゃじゃ馬に王女からお誘いだ。話がしたいそうだ。明日の予定を空けておけ」
へっ?!王女様って、あの王女様?
「え、やだ、怖い」
何で?父親を誑かしたって文句を言われるの?でもそれ私は悪くないと思うの。陛下の友人その1が一度目、悪く言いたくはないけど王女のお母様である妻がニ度目、強引に陛下の所に送り込んだんですよ?私は気分的には、リボンで雁字搦めにされた抵抗出来ない生贄でしたよ?
「大丈夫だ。王女はまともだから」
「……まともなら、父親の愛人に会いたいって言わない……」
「謝罪と感謝だろ」
「謝罪はともかく感謝?父を慰めてくれてありがとうって?」
「やさぐれてるな」
「当たり前でしょう。やさぐれたくもなるわよ。傷物悪女よ?下手したら更にバツイチまでプラスされるかもしれないのに!」
陛下一筋のブラスに言っても何も響かないのは分かっていても、つい文句が口を衝く。
「アロイスと一緒に田舎暮らしするか?」
……悪魔め。どこまでもどこまでも主のことしか考えないんだから!
「貴方と私の考えは一生平行線のままよ。あの人が王妃様の夫になっている時点で、私との縁は発生しないの。納得出来なくてもいいから、そうなんだって覚えてちょうだい!」
「少しだけ目を瞑れば幸せになれるのに」
「なれないわよ。陛下だって、本当はそんな女性を望まないと思うわ」
「……お前は、ちゃんとあいつの考えが分かるのになあ。本当に勿体無い。
で、王女が会いたがってる。今日、アロイスの所に来て、全部を知った」
……うそ。まだ14歳だったわよね?
「それでも、父親として好きだとさ」
「あ……」
私は、王女様から父親を奪うことはなかった?
……それが怖かった。これでも出来うる限り必死で抗ったつもりだった。それでも、愛妾という立場から逃げることは出来なくて。
私という存在のせいで、ご家庭が壊れてしまったのではないかと、ずっと不安だった。
「自分も一緒にお前の傷を癒やす手伝いがしたいって、最後は大泣きだった。だから、会ってやってくれないか」
……なんてお優しい。償いたいではなく、癒やしたいという言葉が嬉しいわ。
「嬉しい。あの、でしたら、私もお会いしてみたいです」
「王女もアロイスの顔が大好きなようだ。気が合うだろう。よかったな」
………本当にこの男はっ!
「まさか言ってないわよね?」
「隠し事には気付かれたが、殺害予告の内容がそれだと理解してくれて、まぁ諦めた感じだ」
おわった……印象最悪だ……
「……捥げて死ねばいい」
「今度は呪いか。お前のおかげで初めての経験が増える一方だ」
「いい経験が出来てよかったですね」
明日は大人しくしよう。友人に言われたように、口数少なくふんわり微笑む。これで乗り切ろうっ!
ここでの生活は短いと思っていたけれど、案外と物が多い。
全部、あの人に貰ったものだ。
少し複雑な気分。私は、もしかして悪女なのでは?と思ったりもする。
優秀だった国王陛下を堕落させた女。
そんな陰口が聞こえてきて血の気が引いた。
堕落って何?私から望んだことなんて一つもないのに。愛妾だって本当になりたくなかったのよ。断らせてくれなかったじゃないっ!
これからの生活が怖い。
トリスタンに思いを告げてもいいの?
私と結婚したままだと護衛として不利にならない?
愛妾なんて何も得なんか無い。だって貧乏だったのも知られている。お金で売られたって知られている。
「大好きだなって思ったのに」
わんこみたいな瞳が優しくて。陛下に裏切られた!って怒りながらも、それでも自分の見てきた陛下の良い面を忘れないでいるお人好し。きっと陛下も嬉しかったはずよ。
こんな人なら、私の事も汚れた部分じゃなく、ほんの少し前の私を見てくれるかなって思えた。愛妾の私じゃなくて、ただのセレスティーヌを。
でも、周りは違う。私はもう、ただのセレスティーヌじゃない。国王の愛妾だったセレスティーヌなんだ。
「傷物だって大々的に発表したようなものよ」
駄目だわ。ひとり言ばかりだ。
コンコンコン
珍しい。誰だろう。
「相手を確認しないでドアを開けるな」
せっかく扉を開けたら文句を言われた。
「ブラス?どうしたの?」
この男とはもう会わないと思っていたのに。
「なんだ、暗いな。アロイスを振って、わんころとイチャついてると思っていたのに」
わんころ……トリスタンかな。わたしもわんこだと思っていたけど、この人と被るのはちょっとイヤだ。
「誰のせいよ」
つい八つ当たりをしてしまう。だって私が愛妾になった原因その1だ。
「何か困っているのか?」
「………私は悪女なのですって」
「確かにな。ヒールで蹴りを入れる極悪人だ」
あら。そんなこともあったかしら。
「本当は顔面か股間を狙いたかったの」
「そんなじゃじゃ馬に王女からお誘いだ。話がしたいそうだ。明日の予定を空けておけ」
へっ?!王女様って、あの王女様?
「え、やだ、怖い」
何で?父親を誑かしたって文句を言われるの?でもそれ私は悪くないと思うの。陛下の友人その1が一度目、悪く言いたくはないけど王女のお母様である妻がニ度目、強引に陛下の所に送り込んだんですよ?私は気分的には、リボンで雁字搦めにされた抵抗出来ない生贄でしたよ?
「大丈夫だ。王女はまともだから」
「……まともなら、父親の愛人に会いたいって言わない……」
「謝罪と感謝だろ」
「謝罪はともかく感謝?父を慰めてくれてありがとうって?」
「やさぐれてるな」
「当たり前でしょう。やさぐれたくもなるわよ。傷物悪女よ?下手したら更にバツイチまでプラスされるかもしれないのに!」
陛下一筋のブラスに言っても何も響かないのは分かっていても、つい文句が口を衝く。
「アロイスと一緒に田舎暮らしするか?」
……悪魔め。どこまでもどこまでも主のことしか考えないんだから!
「貴方と私の考えは一生平行線のままよ。あの人が王妃様の夫になっている時点で、私との縁は発生しないの。納得出来なくてもいいから、そうなんだって覚えてちょうだい!」
「少しだけ目を瞑れば幸せになれるのに」
「なれないわよ。陛下だって、本当はそんな女性を望まないと思うわ」
「……お前は、ちゃんとあいつの考えが分かるのになあ。本当に勿体無い。
で、王女が会いたがってる。今日、アロイスの所に来て、全部を知った」
……うそ。まだ14歳だったわよね?
「それでも、父親として好きだとさ」
「あ……」
私は、王女様から父親を奪うことはなかった?
……それが怖かった。これでも出来うる限り必死で抗ったつもりだった。それでも、愛妾という立場から逃げることは出来なくて。
私という存在のせいで、ご家庭が壊れてしまったのではないかと、ずっと不安だった。
「自分も一緒にお前の傷を癒やす手伝いがしたいって、最後は大泣きだった。だから、会ってやってくれないか」
……なんてお優しい。償いたいではなく、癒やしたいという言葉が嬉しいわ。
「嬉しい。あの、でしたら、私もお会いしてみたいです」
「王女もアロイスの顔が大好きなようだ。気が合うだろう。よかったな」
………本当にこの男はっ!
「まさか言ってないわよね?」
「隠し事には気付かれたが、殺害予告の内容がそれだと理解してくれて、まぁ諦めた感じだ」
おわった……印象最悪だ……
「……捥げて死ねばいい」
「今度は呪いか。お前のおかげで初めての経験が増える一方だ」
「いい経験が出来てよかったですね」
明日は大人しくしよう。友人に言われたように、口数少なくふんわり微笑む。これで乗り切ろうっ!
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