ご愛妾様は今日も無口。

ましろ

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44.心の傷と体の傷

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「この度は誠に申し訳ありませんでした」

入ってくるなり深々と謝罪をされ血の気が引いた。
お気持ちはありがたいのですが、王女様に頭を下げられると、私は更に土下座しなければならないのではと焦ってしまいます。

「あの、困ります。王女殿下からの謝罪は受けられません!貴方様は何もしていないではありませんか」

だって初対面ですよ?名乗ってすらいませんよ?

「いえ、私も王家の一員です。何も知らなかったでは済まされないのです」

まだ14歳なのに、なんて高潔な方なのだろう。

「……では、まずお話をしませんか?」

だって初対面の挨拶すら無く謝罪だなんて。
王女様は陛下からしかお話を聞いていないのだろうし、あの方は少々自虐的だから。


「先程は申し訳ありません。私はナディアと申します」
「私はセレスティーヌと申します」

少し恥ずかしそうに俯く美少女は大変眼福だ。
髪などのお色は王妃様譲りだけど、目元は陛下に似ているわね。
それにしても、自己紹介の時にどちらの姓を名乗ってよいのか悩んでしまう。結婚はしているけど、書類上だけの仮初めでしかないし。

「あの?」
「あ、申し訳ありません!少し緊張してしまって」

しまったわ。王女様の前で他ごとを考えるなんて。

「まあ!私など二つも年下ですから、遠慮無くお話して下さいな」
「ありがとうございます」

無理ですけどね。お気持ちだけ頂戴します。

「先程お話と仰って下さいましたが」
「あ、勝手な提案で申し訳ありません。でも、陛下からのお話だと、たぶん全てをご自分が悪いと説明されたのではないかと思ってしまって」
「え、その通りですよね?」

王女様がサックリと突っ込んだわ。お父様が大好きでも、変に庇ったりはなさらないのね。

「そうでもないのです。何故なら私も陛下を傷付けましたから。どちらかというと、私が先に攻撃してしまったのですわ」

あら、驚いたお顔は年相応に見えるわ。

「……そんなお話は初めて聞きました。それに父は何処も怪我などしていなかったと思います」

そうでしょうね。私の付けた傷は見えないもの。

「私が傷付けたのは『心』ですわ。私は、陛下に初めて生まれた『心』を壊してしまった。そんなものは偽物だと詰り、言葉のナイフで貫いたのです。
それがなければ、陛下はあのような行為には走らなかったでしょう。
傷付けられたら相手も傷付けていいとは思っていません。駄目なものは駄目です。
それでも、目には見えないけれど、私がとても大きな傷を負わせてしまったのも事実なのです」

トリスタンに陛下が言った言葉が、私がどれだけあの人を傷付けたのかを教えてくれた。

本心など無駄だ

それは本気の言葉を私が全否定したからだろう。たった一度拒否されたくらいで、と、人が聞いたら笑うかもしれない。
でも、あの人にとってそれは、何十年も掛けてやっと手に入れる事が出来た、たったひとつだけの宝物だったのだ。

「そうだったのですね……。あの、教えて下さりありがとうございます。知れてよかった」
「いいえ、私も聞いてもらえてよかったです」

だって、振られた腹いせに襲う、ただの強姦魔だと思われていたら流石に居た堪れない。そこまでの屑ではなかったと伝えねば、私が後悔する。
ただ、かなりの情緒不安定ではあると思う。あの時、彼は全てを壊して消えてしまいたかったのだろう。
私を犯した罪で死罪になるのを望んでいたのではないだろうか?
だってそれなら、あのブラスでも止める事が出来ないもの。……いや、どうかな。牢から連れ去りそうだな。
あの男は陛下の幸せな姿がみたいのだから。だから、王女様のことが嬉しかったのだろう。

「一応は和解済みなんです。やったことは絶対に許しませんけどね」
「はい、許さないで下さい」

二人で目を合わせて少し笑った。
王女様も緊張していたのね。罪は消えないけれど、和解したと聞いてホッとしたのだろう。

「セレスティーヌ様は今後は如何されるご予定ですか?」

いきなり急所にクリティカルヒットした質問に私の動きが不自然に止まってしまった。

え、それを聞いてしまうの?!

決まってないのよー、トリスタンと話すのが怖くて逃げてるのよー、どうしようっ!

彼は忙しい中、わざわざ会いに来てくれたのに、会いたくないと追い返してしまった……

「あ、あら?聞いてはいけないことでしたか?」

くっ、14歳に心配かける私って!

「……今後の身の振り方を悩んでおりまして」

もういい。素直に話してしまおう。だって藁にも縋りたい心境なのよ。
訥々と、今の状況を話す。だって、ここには相談できる人がいないもの。
話せるのはトリスタンだけだったのに、悩みの種がそのトリスタン。そうなると誰にも話せなくて、昨日はブラスに相談しそうになったくらいだ。敏感に察したアイツは陛下との田舎暮らしを提案しやがったけど。

「……何ということなの。大変な事案だわ!全部愛妾になったせいですわ!」 
 
思った以上に王女様が青褪めた。あら?ただ、愚痴を聞いてほしいだけだったのに?

「王女様?」
「ごめんなさい!母が愛妾にしてしまったから!」
「え?王妃様のせいでは」
「せいなのです!本当はそれも謝罪したかったけど、とりあえず休憩を挟もうと思っただけでっ!!」

ん?どういうこと?

「……でも、分かりました。必要なのは謝罪ではありませんね。もっと違うことをしなければ」

グッと眉間に皺を寄せ考え込む。
あの、せっかくの綺麗なお顔に跡が残りそうでよ?勿体無いですよ?

「そうだわ。セレスティーヌ様、私のお友達……、いえ、それでは弱いわね。
そう!専属侍女になっていただけませんか?」




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