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45.蚊帳の外から
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専属侍女とは。
「そんな、無理です!」
たかだか男爵家の娘だった私が王女様の侍女だなんて!
「……私のことがお嫌いですか?」
ズルい、こんな私好みの美少女に潤んだ瞳で縋られると、思わず是と言ってしまいそう!
「セレスティーヌ様が不安になられる原因は、ご自分に自信がないからですわよね?」
王女様の言葉が痛い。だって本当の事だわ。自信なんて持てるはずもない。色んなレッテルが貼られた私はとてもみっともないと思えてしまう。
「それは、例えトリスタン卿が爵位を賜り、その夫人となっても変わらないでしょう。きつい言い方になりますが、また男性を上手く利用して、等と言われる可能性も高いと思います。
ですから、セレスティーヌ様は、ご自身の力を増やすべきです。その為に、私の王女という地位は役に立つと思います。存分にお使いになって?
貴方様は今、この時から私の一番の友人。職務は王女の専属侍女。如何ですか?」
……私のちから。でも、
「何故、そこまでして下さるのですか?私は王女様にとって望ましい者では無いはずです」
だって王妃様を傷付けて、間接的に陛下を退位にまで追いやってしまうのに。
「お父様の恩人ですもの。当然です」
「……恩人?」
「はい。貴方がいたからお父様は心を見つけられたのです。恩人に決まっています」
王女様の笑顔が眩しい。こんなの、私が受けていい恩恵では無いのに!!
「……違う……違います。私はっ!その様な存在では無くっ!ただ、何とか生き延びようと足掻く、矮小な存在で!」
言っていて悲しくなる。それでも嘘は駄目でしょう?
「知っていますか?愛妾とは国を傾けることが出来る恐ろしい存在なのですよ」
「……へ?」
間抜けな返事をした私を許してほしい。だって突然王女様がありえないお話をされるから!
「男とは愚かなものです。好いた女の気を引こうと、美しいドレスや宝石を貢ぎまくり、しまいには女に言われるまま、その親族友人に大事なポストを与え、国の運営にまで口を出させる」
……貴方本当に14歳?中に妙齢のご夫人が潜んでいるのでは?
「実際に二代前のエルゲラ国は、傾国の美女と言われた愛妾のせいで、大きく国を傾けました。その時の王は毒杯を賜り、愛妾は国民の前で鞭打ちをした後に打ち首になったそうです」
まさかの実話!ただ殺すのでは無く、鞭打ちを公開するなんて、余程国民に恨まれていたのだろう。
「ですから、セレスティーヌ様は凄いのですよ!国庫からの支払いがあんなに少ない愛妾は初めてだと議会でも驚きの声だったとか。それ以外には何も要求せず、国王にしなだれかかることもなく!
お父様はあんなに格好良いのに!惚れないなんて凄いです!」
ごめんなさい、惚れちゃいましたよ!隠してただけで!
王女様は本当にお父様がお好きなのね。お父様のお顔も大好きなのね?
「んん!すみません、少しお話しがズレました。
何が言いたいかというと、セレスティーヌ様は素敵だということです。
無理矢理与えられた立場に、嘆き悲しみ潰れることなく、優雅な暮らしに溺れることなく。毅然とした態度を貫き通した貴方を、私は尊敬しているのです」
……そんなことを言われるとは思わなかった。男に体を与えるような仕事に就いた私を尊敬するだなんて!
「あの、ありがとうござい、ます……うれしいですっ、…うぅ~…」
駄目、涙が止まらないっ。
まだ、諦めなくてもいいかな。幸せになりたいって思ってもいいかな?
こうやって認めてくれる人がいるなら、頑張ることが出来る。
「みっともない姿を見せて申し訳ありません。あの、本当に嬉しいです。お力をお貸しいただいてもよろしいですか?」
「もちろんですわ」
この日、私に友人が出来た。高貴で、賢くて、とても愛らしい女性だ。
「ナディア様は凄いわ。14歳とは思えません」
お名前で呼ぶのをお許しくださったけど、ドキドキするわ。
「ふふっ、そうですか?でも、それはセレスティーヌ様のお蔭です」
「まさか!」
「本当ですよ。こんなふうに行動したのは生まれて初めてなの。私はいつでも蚊帳の外でしたから」
少し寂しそうに呟かれた姿は、年相応の幼い少女に見える。
「私はまだ子供ですし、兄様達と違って王位につく可能性は低い。いずれ、道具として嫁に出される身です」
「……王女様でも?」
「そうですね。変わりませんよ、私も貴方も」
そうだろうか。陛下はそんな見方はしないと思うけど。あの不遜なブラスがいい見本では?
「陛下は女性だからと下に見る方では無いと思います。一番の友人も平民出身ですし、諜報部には女性の隊員もいると聞いていますよ」
「そうですね。でも、それは公の部隊では無く、父直属の私的部隊です。あの父ですら、身分や性別の壁を壊すのが難しいのです。慎重に少しずつ変えていこうとはされていましたけど」
なるほど。常識だったものを覆すことは、国王であっても難しいことなのね。
「でも、外からずっと見ていたから、おかしいところにも気づけたのかもしれません」
「そういうものですか?」
「ええ。だから、お父様に突撃したの。本当の事を教えて!って。お父様は私が子供だからと、追い出したりはしないと思ったから」
「仲良しなのですね」
「セレスティーヌ様には申し訳ありませんが、大好きです」
「私のことはいいですよ。好きって素敵な気持ちです。それに盲目にならなければ大丈夫ですよ」
「セレスティーヌ様も大好きです!」
くっ、可愛い!何この可愛い生き物は!
「ありがとうございます」
何とか表情を変えずに感謝の言葉を言えた。
「さて、次は告白ですね!」
「えっ?!」
「勢いは大事です。そして時間の置きすぎは危険ですよ!男性は案外とお馬鹿さんらしいので、塩対応をし過ぎると他に目を向けてしまいます。まずはがっつり心を掴まなければっ!」
貴方は何処で男心を学んでいるの?
「学園では男爵令嬢や子爵令嬢ともお友達です。彼女達は高位貴族の知らない知識を持っていて、とても刺激的で楽しいんですの」
私の疑問は口から出ていたみたい。
そう、お友達情報なのね。そういうところは陛下似ね。身分を気にせずお友達になれるのは素敵だわ。
「ドレスルームを見てもいいですか?勝負服を選びましょう!」
え、本当にこのまま告白させられるの?
「そんな、無理です!」
たかだか男爵家の娘だった私が王女様の侍女だなんて!
「……私のことがお嫌いですか?」
ズルい、こんな私好みの美少女に潤んだ瞳で縋られると、思わず是と言ってしまいそう!
「セレスティーヌ様が不安になられる原因は、ご自分に自信がないからですわよね?」
王女様の言葉が痛い。だって本当の事だわ。自信なんて持てるはずもない。色んなレッテルが貼られた私はとてもみっともないと思えてしまう。
「それは、例えトリスタン卿が爵位を賜り、その夫人となっても変わらないでしょう。きつい言い方になりますが、また男性を上手く利用して、等と言われる可能性も高いと思います。
ですから、セレスティーヌ様は、ご自身の力を増やすべきです。その為に、私の王女という地位は役に立つと思います。存分にお使いになって?
貴方様は今、この時から私の一番の友人。職務は王女の専属侍女。如何ですか?」
……私のちから。でも、
「何故、そこまでして下さるのですか?私は王女様にとって望ましい者では無いはずです」
だって王妃様を傷付けて、間接的に陛下を退位にまで追いやってしまうのに。
「お父様の恩人ですもの。当然です」
「……恩人?」
「はい。貴方がいたからお父様は心を見つけられたのです。恩人に決まっています」
王女様の笑顔が眩しい。こんなの、私が受けていい恩恵では無いのに!!
「……違う……違います。私はっ!その様な存在では無くっ!ただ、何とか生き延びようと足掻く、矮小な存在で!」
言っていて悲しくなる。それでも嘘は駄目でしょう?
「知っていますか?愛妾とは国を傾けることが出来る恐ろしい存在なのですよ」
「……へ?」
間抜けな返事をした私を許してほしい。だって突然王女様がありえないお話をされるから!
「男とは愚かなものです。好いた女の気を引こうと、美しいドレスや宝石を貢ぎまくり、しまいには女に言われるまま、その親族友人に大事なポストを与え、国の運営にまで口を出させる」
……貴方本当に14歳?中に妙齢のご夫人が潜んでいるのでは?
「実際に二代前のエルゲラ国は、傾国の美女と言われた愛妾のせいで、大きく国を傾けました。その時の王は毒杯を賜り、愛妾は国民の前で鞭打ちをした後に打ち首になったそうです」
まさかの実話!ただ殺すのでは無く、鞭打ちを公開するなんて、余程国民に恨まれていたのだろう。
「ですから、セレスティーヌ様は凄いのですよ!国庫からの支払いがあんなに少ない愛妾は初めてだと議会でも驚きの声だったとか。それ以外には何も要求せず、国王にしなだれかかることもなく!
お父様はあんなに格好良いのに!惚れないなんて凄いです!」
ごめんなさい、惚れちゃいましたよ!隠してただけで!
王女様は本当にお父様がお好きなのね。お父様のお顔も大好きなのね?
「んん!すみません、少しお話しがズレました。
何が言いたいかというと、セレスティーヌ様は素敵だということです。
無理矢理与えられた立場に、嘆き悲しみ潰れることなく、優雅な暮らしに溺れることなく。毅然とした態度を貫き通した貴方を、私は尊敬しているのです」
……そんなことを言われるとは思わなかった。男に体を与えるような仕事に就いた私を尊敬するだなんて!
「あの、ありがとうござい、ます……うれしいですっ、…うぅ~…」
駄目、涙が止まらないっ。
まだ、諦めなくてもいいかな。幸せになりたいって思ってもいいかな?
こうやって認めてくれる人がいるなら、頑張ることが出来る。
「みっともない姿を見せて申し訳ありません。あの、本当に嬉しいです。お力をお貸しいただいてもよろしいですか?」
「もちろんですわ」
この日、私に友人が出来た。高貴で、賢くて、とても愛らしい女性だ。
「ナディア様は凄いわ。14歳とは思えません」
お名前で呼ぶのをお許しくださったけど、ドキドキするわ。
「ふふっ、そうですか?でも、それはセレスティーヌ様のお蔭です」
「まさか!」
「本当ですよ。こんなふうに行動したのは生まれて初めてなの。私はいつでも蚊帳の外でしたから」
少し寂しそうに呟かれた姿は、年相応の幼い少女に見える。
「私はまだ子供ですし、兄様達と違って王位につく可能性は低い。いずれ、道具として嫁に出される身です」
「……王女様でも?」
「そうですね。変わりませんよ、私も貴方も」
そうだろうか。陛下はそんな見方はしないと思うけど。あの不遜なブラスがいい見本では?
「陛下は女性だからと下に見る方では無いと思います。一番の友人も平民出身ですし、諜報部には女性の隊員もいると聞いていますよ」
「そうですね。でも、それは公の部隊では無く、父直属の私的部隊です。あの父ですら、身分や性別の壁を壊すのが難しいのです。慎重に少しずつ変えていこうとはされていましたけど」
なるほど。常識だったものを覆すことは、国王であっても難しいことなのね。
「でも、外からずっと見ていたから、おかしいところにも気づけたのかもしれません」
「そういうものですか?」
「ええ。だから、お父様に突撃したの。本当の事を教えて!って。お父様は私が子供だからと、追い出したりはしないと思ったから」
「仲良しなのですね」
「セレスティーヌ様には申し訳ありませんが、大好きです」
「私のことはいいですよ。好きって素敵な気持ちです。それに盲目にならなければ大丈夫ですよ」
「セレスティーヌ様も大好きです!」
くっ、可愛い!何この可愛い生き物は!
「ありがとうございます」
何とか表情を変えずに感謝の言葉を言えた。
「さて、次は告白ですね!」
「えっ?!」
「勢いは大事です。そして時間の置きすぎは危険ですよ!男性は案外とお馬鹿さんらしいので、塩対応をし過ぎると他に目を向けてしまいます。まずはがっつり心を掴まなければっ!」
貴方は何処で男心を学んでいるの?
「学園では男爵令嬢や子爵令嬢ともお友達です。彼女達は高位貴族の知らない知識を持っていて、とても刺激的で楽しいんですの」
私の疑問は口から出ていたみたい。
そう、お友達情報なのね。そういうところは陛下似ね。身分を気にせずお友達になれるのは素敵だわ。
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え、本当にこのまま告白させられるの?
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